とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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えーと、皆さん色々と考察みたいな事をしてくださっているみたいですが、この小説にそこまで深い設定は存在しないので悪しからず。意味の無い設定も存在します。あったとしても殆どが後付け設定です。




四話

「テメェら、何やってんだ?」

 

今、木原は機嫌が悪かった。今日届くはずの実験体が、予定時刻になっても来ないからだ。

そして痺れを切らした木原は、部下を迎えに出したにも関わらず研究施設から出て自ら探しに行こうとした。

 

だが、どうしたことだろう。いざ研究施設を出てみれば、目的の実験体が居るではないか。実験体を連れてきた部下の二人に目を向ければ、あろうことか大事な実験体に手を出そうとしていた。その光景を目にした木原は、非常に面倒くさそうな顔をした。

 

「オラ、小僧何やってんだ?さっさと行くぞ、俺がお前の担当なんでな」

 

木原の言葉を聞いた実験体の青年は、何事も無かったかのような平然とした足取りで木原の横を通りすぎて施設に歩いていく。その際、木原に軽く会釈と目配せをして……。

 

(ケジメを付けさせろってか?そんな事、テメェに言われなくてもわかってるよ)

 

「た、隊長。遅れて申し訳ありません……!」

「あ?」

 

部下の二人は、予定の時刻を過ぎてしまった事を謝罪する。その表情は酷く怯えており、顔中に脂汗をかいていた。

 

「まったく、お使いもまともに出来ねぇとは流石に想定外だわ」

「す、すみません!対象の周りに一般人が大量におり、それで」

「言い訳なんざ聞いてねぇんだよ!」

 

額に青筋を浮かべて怒声を放った木原は、部下の一人の首を掴み、吊し上げた。

 

「いいか!テメェ等の失態は三つだ。

一つ目は、俺を待たせたこと。

二つ目は、俺の実験体に手を出したこと。

三つ目はな……俺の機嫌を損ねたことだぁ!」

「ゆ、許してくだ……さい…」

「だーかーら、言い訳も!謝罪も!沢山なんだよぉ!」

 

ゴキッ!

 

木原は、怒りにまかせて掴み上げていた部下の首をへし折った。物言わぬ死体に成り果てた部下を無造作に捨てると、もう一人の部下に目を向ける。彼は、その惨状を目の当たりにして一歩、二歩と後ずさった。

 

「……た…助けてくれぇー!!」

「おいコラ!どこ行くんだ、まだ終わってねぇぞ!」

 

恐怖のあまりに逃げ出した部下を呼び止めるも聞き耳に持たず、彼は停めてあった車に飛び乗った。こんな時に限ってエンジンの掛かりは悪く、何度もエンジン音が鳴り響く。

 

「はぁ~。止まれって言ったのによぉ、たくっ面倒くせぇ」

 

悪態をつきながら、木原はある物をポケットから取り出した。それは、小さくコンパクトな携帯端末であった。その携帯端末を今にも走り出しそうな車に向ける。ピッという機械音が聞こえたと思うと、逃げ出した部下が乗り込んだ車が爆発した。

 

「本当なら捕まえて、新薬の実験台にでもしてやろうかと思ったが、俺は忙しいんでな。これで勘弁しといてやるよ」

「隊長!どうしました?」

 

爆発音が轟いたことで以上を察知した職員の一人が木原に駆け寄った。

 

「別になんでもねぇよ、ゴミの掃除をしただけだ。

おい、コレの後始末しとけよ。警備員(アンチスキル)に嗅ぎ付けられたら面倒だ」

「了解しました!」

 

最後に敬礼をした職員は、すぐさま他の者達を無線で呼び隠蔽作業に入った。

それを見送った木原は、面倒事を済ませたことに一息つき、研究施設に歩を進めた。そこに待つ、最高の実験に思いを馳せながら。

 

『総合能力開発研究所』

またの名を

『猟犬部隊第三基地』

 

 

 

 

 

研究室の寝台で、ヘッドギアを装備した青年を見下ろす木原と、その側で様子を見ている眼鏡の研究員。

 

「どうだ、眠ったか?」

『はい、意識はありません。完全に気絶しています』

「そうか」

 

窓ガラス越しに聞こえる、研究員の言葉に答えながら木原は、操作パネルを弄った。

 

(お望み通り、やってやったぜ。坊主)

 

寝台の上で静かに寝息をたてる青年が、実験を始める前に訴えかけてきたことがあった。ヘッドギアを装着した青年が、機材の操作を行う操作室にいる木原にアイコンタクトを送ってきたのだ。その瞳には、強い渇望の色が木原には見てとれた。その心意気が気に入り実験の説明もせずに迅速に作業に入ったのだ。

 

『ですが、大丈夫なんですか?』

「あ、何がだ?」

『彼の意識を飛ばすためにとわいえ、脳に通常時の数倍の電力を直接流して……脳が焼ききれて無ければいいのですが』

「お前は、そこのガキと殺ったことがねぇからそんな事が言えんだよ。そいつは普通じゃねぇ、ちょっと強めな位で丁度いいだろう」

 

木原は、今でも鮮明に思い出す。青年を殴り付けたときの感触は、鋼鉄よりも固くまるで巨大な岩石を殴り付けたような、あの手応えを。故に、確実に意識を飛ばすため強めの電流を流したのだ。

 

「さ~て、お楽しみの時間といこうか!まずは小手調べだ」

 

今回行う実験は、普段身体検査(システムスキャン)でやるような事は、最後にすることになっている。なら最初にする実験とは何か?それは、対象者の脳に微弱な電気を流し強制的に能力を発動させ、そうすることで実現可能な事象を確認すると言った物だ。

この実験は、過去に対象者の脳に多大な負荷を掛け、深刻な障害を残した為に禁止されていたのだが、青年の頑丈な体なら耐えられると判断した木原が独断で実行しているのである。

 

操作パネルを動かし電流を流した木原は、先程までのふざけた態度とは打って変わり真剣な表情で青年を見つめる。そして青年のヘッドギアに電流が流れ、その体が微かに動いたが、ただそれだけだった。

 

(電力が弱かったか?いや、十分だったはずだ。なら場所を変えて繰り返すか)

 

最初は失敗し、何の反応も無かった。それを繰り返すこと数回、漸く反応があった。青年の体の一部が衣服をすり抜けたのである。

 

「ここか………」

『木原博士……?』

「黙ってろ、もうすぐ面白いもんが見れるぞ」

 

再度電流を流す、今度こそ青年の能力は完全に発動した。

その結果、木原には見覚えのある異世界に青年と眼鏡の研究員も共に転移した。

 

「な、何だこれ?」

「ハハハハッ。夢にまで見たぜ、この光景をもう一度目にする日を!」

 

研究員は、茫然自失といった風に立ち竦んでいるのに対し木原は、満面の笑みで辺りを散策しだした。

 

そこに広がる異世界の風景は、前に一度見たときと寸分違わず同じで、夕焼けの空に歯車、荒野に突き刺さる剣群。何処にも変わりはない。

木原は、徐に突き刺さる剣の一つに手を伸ばし引き抜いた。

 

「こいつぁ……」

 

その剣は西洋の直剣で、柄に美しい細工の施された物だった。だが、その剣が異常だったのは刀身の方であった。目映い黄金に光輝く刀身を見て、木原はどういった物か思案する。

 

(見たことも触ったこともねぇ材質だ、それにこの刀身はビームでも出てんのか?その程度なら学園都市にも腐るほどあるが、こりゃ普通じゃねぇな)

 

木原は、もう一度辺りを見渡す。そこらじゅうに広がる剣一本一本が彼の知識欲を異常なまでに刺激した。

 

「分かっちゃいたが堪んねぇなぁ!涎が出できたぜ……」

 

取り敢えずそこら辺に刺さってる剣を持って行けるだけ持って行こうとした時。今まで静かにしていた研究員の男性が声を荒らげた。

 

「き、木原博士ぇ!」

「なんだよ、今いいとこ何だ邪魔すんなよ」

「対象の様子に異変が!」

「なに?」

 

狼狽える研究員とは違い、冷静な木原は、青年の様子を観察する。青年の体が小刻みに痙攣を起こしていた。その異常事態に木原が対処しようとするも、もう既に遅くイレギュラーが起きてしまった。彼等を奇妙な浮遊感が襲ったのである。

 

「な、何なんだぁ!?」

 

彼等は、真っ暗な空間に浮いていた。その空間に光は無く、上も下も右も左も存在しない無の世界が広がっていた。

 

あまりの事にパニックになる研究員を余所に、このような空間に放り出されたにしては、落ち着いている木原は黙って青年を見つめていた。だが、その内心は歓喜にうち震えていた。

 

(お前、まだこんなもんを隠し持ってたのか……。いいねぇ、いいねぇ、最高じゃねぇかよ!

お前、まだなんか隠してんだろ?いいから見せてみろよ、お前の全部!)

 

狂った研究意欲を持つ木原数多は、この危機的状況にあってなお、青年にコレ以上の物を求めた。青年に意識は無い。だが木原には確信があった、彼ならば己の求める最高の結果を見せてくれると、それこそオカルト(・・・・)とさえ思えてしまうようなとんでもない物を見せてくれると。

 

果たして、結果は木原の思い通りになった。意識の無い青年が意思を汲み取ったのか分からないが、それは起こった。

何も無い空間に光が現れたのだ。その光は段々と近づいてきて異様な光景を映し出した。

 

「ハハハハハハハッ!滅茶苦茶じゃねぇーか、何だこりゃあよぉ!?とんでもねぇ万国ビックリショーじゃねぇかー!!!」

 

そこに映るのは、何メートルもある巨人に食われる人々と、その巨人をワイヤーのような物を飛ばして宙を舞いうなじを切り裂く戦士達の姿。

 

もはや、発狂死寸前の木原を更に追い詰めるが如く、新たな光球が次々と飛来する。それらもまた、まったく異なる光景を映し出していた

 

それは、夜空に月が浮かび辺り一面の砂漠景色のなか、仮面のような顔で胸に穴が空いた怪物が犇めく、神秘的な世界。

 

それは、荒廃したビル群の中で邪悪な人の顔をした獅子のような生物と、ルーズな格好をした人間が身の丈程もある巨大な武器を振り回し戦う、世紀末な世界。

 

それは、火を吹き空を飛ぶ幻想の生き物、ドラゴンを四人の狩人達が各々の武器で狩猟を繰り返す、野生な世界。

 

それは、狸、猫、亀、猿、馬、蛞蝓、虫、牛、狐の巨大な生き物達が話をする、不可思議な世界

 

見える光景全てが現実離れたした物であった。

だが、光景が見えたのがそれだけだっただけで、光球はまだ多く存在していた。その全てに同じだけの未知が存在していると思うだけで、木原はトリップする思いだった。

 

一頻り光球の波が過ぎたあと、流石にこれで仕舞いかと思いきや、最後の光球が飛んできた。しかし、その光球はさっきまでの物とは違い真っ直ぐに木原達に飛んでいき彼等を飲み込んだ。

 

「こ、今度は一体何が起こるんだ……?」

 

これまでの光景を見て、すっかり憔悴しきった研究員の男性は今度は何が起こるのかと身構えるが、それは徒労に終わった。なぜなら次にやって来た世界は、現実世界でも見かけた海外の町並みだったからだ。

 

「何だよ、折角いい感じに楽しくなってきたってのに、拍子抜けじゃねぇか」

「いやいや!もう充分わかったじゃないですか、木原博士実験を終わりましょう!」

「終わるわきゃねぇーだろ。いいから、どっか可笑しなもんがねぇかテメェも探せ」

「そ、そんな~」

 

懇願もすげなく断られた研究員の男性は、仕方なく震えながらも周囲を探索する。だが、道路の大通りに出現した関係上辺りをよく見渡せるのもあり、それは尚更異変が無いことを確認出来ただけだった。

大通りに何も無いことを確認したら、今度は路地裏を覗いてみる。

するとそこには、二人の人影が確認出来た。一人は俯せに寝転がり、もう一人は側で蹲っていた。それを見た研究員の男性は、不審に思いながらも話しかけた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「…………」

 

一方、今回の実験に使った助手を探索に行かした木原はというと、周囲を注意深く観察していた。

 

夜なため見にくいが、海外の物だと思われる建築物が見てとれる。窓が所々割れており、何者かと争った形跡がそこかしこに点在していた。

 

「人が争った形跡があるってのに、肝心の人の気配が一切ない。ここは、一体何の世界なんだ?」

 

先刻までの興奮しきった様子とは一転、冷めきった表情で、それでも何かないかと、観察を続けると一つの表札を発見した。それは煤けて、多少読みにくかったが英語でこう書かれていた。

 

「ラクーンシティ?」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

表札の文字を読んでいると、突如悲鳴が木霊する。

悲鳴の音源を見ると、血塗れの助手が襲いかかられていた。突然の惨劇に少し驚いた木原だが、漸く事態が動いたことにやっとか、と溜息を吐いた。

 

「……た、たす…け…て……」

「……食ってやがるのか?」

 

研究員の男性が食われるさまを何食わぬ顔で見ていた木原は、襲っている男の違和感に気づいた。

食い殺された助手には、もう興味が無いのか、立ち上がり千鳥足で此方に向かってくる。その男の瞳は、瞳孔が開き体のそこかしこに食いちぎられた後が残っている。とても生きた人間には見えなかった。

取り敢えず木原は、その男の足をローキックで砕く。

 

「………あ、うぁ……」

「はっ、関係なしかよ」

 

砕いた足で尚も手を伸ばして向かってくる男に対して、今度は肩を砕く。それでも尚迫ってくるので今度は背骨を砕いた。這いつくばりながら、首だけを動かしてまだ食らいつこうとする。そして最終的にその男の頭を踏み潰すことで漸くその動きを止めた。

 

「なるほどな、脳からの信号が無くなって漸く止まるのか。………なんだ?」

 

対処法を順番に試していると、街のあちこちから何処に隠れていたのか大量の人間が歩いてくる。彼等も、先程踏み潰した男と同じ状態で、一様にフラフラとした足取りだった。

 

「団体様のご到着~てか!?」

 

(コイツら、ゾンビか何かかよ?どうりで人の気配が一切感じられねぇ訳だ、死んでたら気配もクソもねぇからな。だが、死体が独りでに動いてるだけならたいして面白くもねぇ、もっと色々ねぇのかよ?これじゃあ安っぽいC級映画だぜ)

 

木原は、彼等の状態と痛みを感じず、ただひたすらに喰らいつこうとするのは、脳の機能が麻痺していて一番単純で強い欲望、食欲を満たそうとしているのだと見抜いた。

でも、ゾンビなどというものには、毛ほども興味は湧かなかった。それというのも、その気になりさえすればゾンビぐらいいくらでも学園都市で再現出来るからだ。

 

故にこれ以上の物はもう無いのだろうと判断した木原が、青年を起こそうとしようとした時に聞こえた声は、彼の興味を誘い行動を中断させた。

 

━━━スタァァァァァァズ……!

 

「クッ……そうだ、そうだ!そう言うのを待ってたんだよ、やりゃ出来んじゃねぇか!」

 

ゾンビ共の後ろから巨大な人影が見える。そこから聞こえるくぐもった怨嗟の声が大きくなって近づいてくる。

 

━━━スタァァァァァァァァァァズ……!

 

そして、とうとうその全容が把握出来た。黒色のロングコートを着込んだ生物は、歯茎が剥き出しで片方の目が縫い付けてあるなど、人形(ひとがた)であっても人と思える外見をしていなかった。

 

「随分とブサイクな野郎だな、おい!」

 

━━━スタァァァァァァァァァァァアッズ!!!

 

「ハハ、怒ったって…か………おいおい、そりゃ反則だろ」

 

無数のゾンビと謎のクリーチャーに囲まれても余裕を保っていた木原に、ここにきて初めて冷や汗が流れた。謎のクリーチャーがガトリングガンを木原に向けて構えたからである。ゆっくりと回転し始め、その弾丸の暴雨が前方のゾンビを巻き込みながら解き放たれた。木原は大きく横に飛んで弾丸を避ける。クリーチャーは、引き金を引いたまま横凪ぎするように前方を凪ぎ払った。

 

「……クソが」

 

(コイツぁ、流石に分が悪いか……)

 

ガトリングガンによる掃射を何とか凌いだ木原は、状況の不利を悟り撤退することを決めた。そうとなれば行動は速く、今だに眠りから目覚めない青年に近づき頭につけられたヘッドギアに手を伸ばした。

 

「ほら、眠り姫ちゃん。お眠の時間は終わりだ、さっさと起きな」

 

青年を最初に気絶させた時と同じように電流を流した。青年の体が大きく脈打った後に背後にまで迫っていたクリーチャーの存在が歪み、次は世界が歪んだ。

そして一瞬の浮遊感を感じた次の瞬間には元いた研究室に戻っていた。

 

「………ん」

「よぉ」

 

青年が目を覚ます。興奮覚めやまぬ木原は、青年の顔を覗きながらこの実験によって決まった決定事項を笑いながら言い放った。

 

「おい、クソガキ。喜べ、テメェは俺の実験動物(モルモット)決定だぁ!」

 

今回の実験は、木原にとってとても有意義な物となったであろう。青年の能力によって見せられた未知なる世界の数々、それらは一体どんな理論と数式によって成り立っているのか。はたまたオカルトのような摩訶不思議な力によって成り立つファンタジーなのか。木原は、これまで見たことも聞いたことも想像すらしていなかった未知なる世界が目の前の存在に凝縮していると思うと、今にも踊りだしてしまいそうになった。

 

だが、まだ我慢だ。ゆっくりと、されど着実に解析し分析し解明するのだと。その時に感じる、達成感はきっと至上の物となるだろう、と己を律した。

 

青年は、無機質な瞳でただじっと目の前の科学者を眺める。その様子は、科学者が自分に何をしたのか察しているようにも見えた。

しかし、白衣の下に黄金に輝く剣と何者かの肉片が隠されていることには、流石に気づく事は無かった……。

 

 

 

 

 


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