いやー楽しみだ。
ですが何故か、別の作品のモチベが上がって悩んでます。
まぁ、とりあえずいつも通り、お待たせしました。
夕焼けが美しい逢魔時。昨夜、上乃とインデックスが訪れた病室で眠っていた上条は、漸くその目を覚ましていた。
「……ッここは……病室?」
まるで鉛のように重たい体を起こした上条は、頭に手を当てて周囲を見渡しながら、何故自分が病院にいるのか思い出そうとした。
「そうだ、インデックスはどうなった……!?」
「上条ちゃん気がついたんですね!」
先日、インデックスを狙う魔術師に襲われて気絶してしまったのだと思い出した上条は、件のインデックスが今どうしているのか探そうと慌てて飛び起きようとする。
だが、彼がその事に気づくと同じく、彼の担任の先生である月読小萌が花を差した花瓶を手に病室に訪れた。
「もぉーあまり不安にさせないでくださいよ。先生すっごく心配したんですからね!」
「こ、小萌先生」
水を入れ換えた花瓶を棚に置いた小萌先生は、腰に手を当てて如何にも怒ってますよ、と言う風に頬を膨らませて上条を叱った。
しかし動揺した上条は、叱りつける彼女の言葉を無視してインデックスがどうなったのか、小萌先生に掴みかかるようにして聞いた。
「小萌先生、インデックスは……アイツは今何処に居るんですか!?」
「ちょっと……!か、上条ちゃん落ち着いて。まだ安静にしてないと駄目ですよ!」
「それじゃあ遅いんだ!俺がアイツを守ってやらないと……」
「インデックスちゃんなら、上条ちゃんのお友達が預かってくれてるから大丈夫ですよ」
「え……それ本当ですか?」
インデックスを自分の友達が預かっているという事を小萌先生から聞いた上条は、安堵もよりも先に誰がそんな事をやったのかと言う疑問が浮かび上がった。
「一体誰が、うちのクラスの奴ですか?」
「フードを被っていて顔は見えませんでしたけど、先生は初めて見る子でしたから、おそらくうちのクラスでも学校の生徒さんでも無いと思いますよ。あっそう言えば伝言を頼まれてたんでした!
えっと確か「無事なうちに来い」でしたでしょうか?それと、これがその子の住所なのですよ」
「……無事なうちに来い……」
手渡された謎の人物の住所が書かれたメモを上条は怪訝そうに見つめた。
それは、一体どういう意味なのだろうか?
もしそいつが本当に俺の友達だったとして、妙に引っ掛かる言い方だ。
まるで、インデックスが誰かに狙われていることを知っているような……。
上条は、寝起きで冴えない頭を懸命に働かし謎の人物の特定を急いだ。
だが、考えれば考えるほど、その人物に対して新たな疑問が浮かび上がってくるだけだった。
魔術師に狙われていたインデックスをどうやって助けたのか?
魔術師について何か知っているのか?
そして何よりも、何故インデックスと自分の関係を知っているのか?
いくら考えても、答えは出てきそうに無かった。
上条が何やら考え込んでいる様子を見た小萌先生は、何やら事情があるのだろうと察して、一言「安静にしておいてくださいね」と言い残して病室を去った。
上の空の上条は、空返事をするだけだったが直ぐにその思考は現実に引き戻される。
小萌先生が出ていって直ぐ、病室のドアが開き二人の訪問者が無断で踏み入ってきたのだ。
その二人を見た上条は驚愕し、ベットから立ち上がった。
「テメェ等は!?」
「ふん、どうやら漸く気がついたようだな能力者」
侵入してきた者達は、インデックスを追って学園都市までやってきた魔術師のステイルと神裂だった。
「テメェ等、一体何しに来やがった?」
「我々も別に好きで来た訳じゃない、用件が終わればさっさと帰るさ。だから単刀直入に聞く、禁書目録の居場所に心当たりがあるなら答えろ。彼女は今何処にいる?」
その言葉を聞いた上条は、先ほど聞いたインデックスを保護したという人物の情報が真実であると確信した。
そして目の前の魔術師達がいまだにインデックスの所在を掴めていないと言うことは、その人物がただ者では無いと言うことも……。
「仮に俺がインデックスの居場所を知っていたとして、それを教えると思うのか?」
「今質問しているのは僕だ。いいから貴様は聞かれたことに答えていればいいんだ!さぁ言え、もうあまり時間が無い」
「時間が無い……?どういう意味だよ?」
「……なるほど、眠っていた貴方は知らないのですね」
要領を得ない上条の様子から、もう一人の魔術師、神裂が事情を察し、現在の状況を説明する。
「先日話しましたね。記憶を一年周期に消去しなければ彼女は死んでしまうと。その日が今日です」
「な、なに!?」
「貴方は、三日も眠り続けていたのですよ」
上条は愕然とした。三日も眠り続けていたことよりも、インデックスが記憶を消さなければ死んでしまう日が今日だと言うことに。
何故なら彼は、まだその打開策を何一つ思い付けていないし、それを考える時間も無いからだ。
「貴方が本当に彼女を救いたいと思うのであれば、正直に答えてください。彼女は今、何処にいるのですか?」
「……」
「……行くぞ神裂。貴重な時間を無駄にした。残りの候補をしらみ潰しに探すぞ」
俯き黙りこんだ上条に見切りをつけたステイルは早足にその場を去ろうと神裂に声をかけた。
神裂も後ろ髪を引かれる思いだったが、優先すべきはインデックスだと思い、立ち去ろうとする。
しかし、二人が病室の扉に手を掛けようとした瞬間、先程までの動揺した声から一変。
力強い声色で、上条が呼び止めた。
「待てよ!インデックスの居場所なら心当たりがある」
「……ほう……どうやら無駄足でも無かったようだな」
振り返ったステイルは、目を細めながら興味深そうに話の続きを促した。
「それで、彼女は一体何処にいる?」
「そこを教えてもいい。だけど条件がある」
「なに?」
「俺も一緒に行く」
上条の提示した条件を聞いたステイルは、それを鼻で笑った。体の至るところに包帯を巻き付けた怪我人がついてきた所で何が出来るのだと、言外に告げるように。
しかし、上条の意思は固い。力強い瞳でステイルと神裂を見つめ、己の決意の程を伝える。
「……分かりました。貴方の同行を認めましょう」
「神裂!?」
「黙っていてくださいステイル。彼と無駄な押し問答をしている時間はありません」
「なら力づくで吐かせればッ!」
「彼はそう簡単に折れません。私はそれを身を持って経験積みです。だから彼と共に行きます」
病室の窓から見える、暗くなった景色を見ながら口惜しそうに呟いた。
「今は、何よりも時間が惜しい」
∞
「ここが、そうなんだな?」
「あぁ、間違いねぇ」
上条、ステイル、神裂の三人は、速やかに行動を開始した。
日が沈み、タイムリミットが迫りくる焦りから足を早める一同は一時間程で目的の場所までたどり着いた。
見上げる高層マンションの上階にインデックスはいる。
その事実を噛み締める一同は、そのマンションに踏入、エレベーターに乗り込んだ。
三人の間に会話は無く、各々がこれから待ち受ける事態に対して準備を行っていた。
神裂は、手に持つ七天七刀を胸に抱き精神統一を行った。
だが、相棒のステイルは余裕の無い表情でルーンの描かれたカードを力強く握りしめている。
その只ならぬ様子を見かねた上条は、どうしたのかとステイルに聞いた。
「あのさ、お前何か恨みでもあるのか?」
「恨みだって?何を馬鹿な事を言っているんだ。そんなのあるに決まっているだろう。彼女の生命をこうして危険に晒されているんだからね……ただ……」
その続きをステイルは、吐き捨てるように独自する。
「二度だ……ヤツは二度も僕の目の前から彼女を連れ去った。そして僕は、それを何も出来ずにただ見ていることだけしかできなかった……!
三度目は無い、次にヤツにあったときは彼女に触れようとするその薄汚い指先から毛の一本に至るまで、灰も残さずこの世から燃やし尽くしてやる!」
まるで己自身に言い聞かせるように、吐き捨てた言葉からステイルがインデックスのことを心から大切にしているのだと言うことを上条は感じ取った。
今の言葉だけで、最初の頃インデックスに対して言っていた言葉が嘘で、今の言葉が本心だということは明白だと、上条は笑みを溢す。
(なんだよ、テメェもただインデックスを守りたいだけなんじゃねぇか。
待ってろインデックス、今行くぞ)
長いエレベーターも終わり、一同はインデックスのいる部屋の前までやってきて、再度目標に対する情報と作戦を確認した。
「もう一度言っておくぞ、あの男は触れただけで対象と共に転移することができる。奴が彼女に少しでも触れて逃げられたらその時点で、彼女の命は無いと思っていい」
「そこで私が対象を認識した瞬間、最速で七閃を放ちインデックスと引き離す。でしたね」
「ああ、問題ない」
「あのさぁ、ちょっといいか?」
作戦の確認も終わり、いざ突入しようとする二人に上条が待ったかける。
「インデックスを連れ去った奴と戦う気でいるみたいだけど、まともに話してもいないのに何で敵だって決めつけてんだよ?」
「はぁ……いい加減にしろ、君のその綺麗事はうんざりだ。くれぐれも邪魔をしないでくれよ」
「あーもうわかりましたよ、俺だって時間が無いことは分かってるからな」
上条は、胸に引っ掛かる思いがあるもののそれを後回しにした。もし本当にソイツが敵だったとしたら問題ない。
でも味方だった場合は土下座でもなんでもしてやると、ため息をついた。
「行くぞ」
ドアの前に立ったステイルが呼び掛けると、上条と神裂は頷く。
そしてステイルが、鍵のかかったドアを炎で吹き飛ばした。
部屋の中に吹き飛んだドアが盛大な音をたてて、リビングに突っ込んだのと同時にこの中で最も足の早い神裂が突入した。
リビングには……いない。書斎には……いない
台所には……いない。浴室には……いない。
大きなマンションだけあり無駄に多い部屋を一瞬で確認していく神裂は、残りの一部屋、寝室の扉を開けた。
「ッ!?」
そしてそこに、彼女はいた。
ベットの上に横たわるインデックスと、突然の襲撃に椅子から立ち上がった例のフードを被った男。
神裂は作戦通り、問答無用で七閃を解き放つ。
「七閃!」
極小のワイヤーから繰り出される高速の攻撃。それを巧みに操る七閃でインデックスの眠るベットのごと彼女を引き離し、残りのワイヤーを男に向けて放つ。
だがそれは、男の体をすり抜けたことで不発に終わった。
「ッ何故……!?」
「神裂、見つけたか!?」
「インデックス!」
男の得体のしれなさに油断無く構える神裂の後ろから、遅れてステイルと上条がやってくる。
二人はベットの上で眠るインデックスを発見するとひとまず安心した。
そして次に彼女を誘拐した犯人の男をステイルは睨み付け、上条は本日何度目にもなる驚愕に目を見開いた。
「貴様、漸く見つけたぞ……!」
怨敵を見つけたステイルは、手に持つカードを握りしめ今すぐにでも炎を放とうとする。
神裂もそれに引っ張られるように七天七刀を油断無く構えた。
そして上条もまた、二人と同様に腰を落として戦闘の構えを見せた。その姿は、完全に男の事を敵と認識していた。
「気を付けろよ、アイツは普通じゃねぇ」
「あの男を知っているのですか?」
「いや、全くと言っていいほど知らねぇ。ただ、そう簡単に忘れられるような奴じゃなかった」
思い出すのは数日前。御坂美琴が一般人に喧嘩を吹っ掛けてるのを見て、止めに入った時の事だ。
あの時、美琴と喧嘩をしていたのが目の前の男だった。
あの時と変わらないフード姿。顔が見えなくても分かる。あの時、空間の裂け目から感じた、この世の物とは思えない邪悪な気配。
たったそれだけの事だが、言い変えれば、たったそれだけの事で上条は目の前の男を敵と判断するには十分と判断したのだ。
「お前、インデックスに何をするつもりだ?」
油断無く、問い詰めるように男に上条は問うた。
しかし、男に返答は無い。
「……ッ」
男は無造作に、顔を覆い隠すフードを取り、その素顔を露にした。
「
男の顔を確認した神裂は、そのあまりの美貌に少し驚いたが、そこから発せられる魅了の魔術から、不快に眉をひそめた。
そしてステイルもまた、神裂から聞こえた魅了という言葉から嫌悪感を露にする。
「なるほど、どうやって彼女を従わせていたのか疑問だったが漸く解消されたよ。━━━このクズが、今すぐ消し炭にしてやる!」
侮蔑を込めて言い放ったステイルは、その手から特大の火炎を解き放とうとする。
「待ってくださいステイル。様子が変です」
ステイルの迂闊な行動を諌めた神裂は、場の空気が変わったことを機敏に感じ取った。
目の前の魔貌の男から視線を外し、部屋の様子を見渡す。
七閃を放ったことで、滅茶苦茶になった部屋に特に変わった様子は無い。しかし、一つだけ違っていた。
「あ…れは……!?」
言葉が途切れる程に同様する神裂を気にしたステイルと上条は、彼女が見ている方向を同じように視線を向ける。
それは寝室のベランダに続く窓だった。
だが、そこから覗く景色は高層マンションから見える綺麗な夜景などではなく、何処までも続く荒野と、墓標のように突き立つ剣の群れ。茜色の空に浮かぶ歯車。
常軌を逸した光景が広がっていた。
「何だこれは、どうなっている……ッしまった!?」
三人が呆けている一瞬の隙を突き、魔貌の男はインデックスをベットごと連れて転移した。
敵を目の前にして、こんな隙を晒したことに拳を壁に叩きつけたステイルは、急いで寝室のベランダから外に飛び出す。
ベランダの先には地面があり、降り立つと彼等から少し離れた所にインデックスと魔貌の男はいた。
完全にしてやられたステイルは、状況を把握しようと改めて周囲を見渡す。
そして少なくとも、これが超能力によるものではなく、魔術だと言うことは理解した。
何故なら、この場にある無数の剣一つ一つが尋常ではない魔力を秘めていたからだ。
だが、一体どうやったのか全くもって仕組みは分からなかった。
いかなる術式を用いたのか、どうやらあの男は、マンションの自分達がいた階層だけをこの場に転送したのだ。
「行きますッ……!」
横に降り立った神裂がそう宣言する。
事ここに至って話し合いで解決するなど、最早彼女も考えてはいない。
出来るだけ迅速に、対象を制圧し儀式を開始する。
「はぁッ!」
聖人特有の強力な身体能力を存分に発揮し、踏み込んだ神裂は、七天七刀を鞘に納めたまま殴りかかった。
ガキンッ!
「……ッ!」
しかし、神裂の渾身の一撃は突如開いた次元の裂け目から繰り出された斬撃によって打ち払われた。
初撃を防がれた神裂は距離を取るようにその場から飛び退く。
魔貌の男は、目の前に展開された次元の裂け目をじっと見つめ、そこから出てくる者を静かに待った。
『随分な歓迎だね』
━━━━━ゾッ!!
次元の裂け目から声が聞こえた。
その威厳に満ちた声を聞いた瞬間、神裂はその場に膝をつきそうになるような圧力を感じ、身の毛がよだつ。
そして声の主が、その姿を表す。
その者は初老の男だった。青い衣服を身に纏い、腰に下げたサーベルを右手に持っている。
そして何よりも目を引く、左目につけた眼帯と威厳を感じさせる口髭、老いを感じさせぬ覇気を身に纏ったその者が強者であると、神裂は感じ取った。
「まったく、呼ばれたから来てみれば、いきなり斬りかかってくるとはな」
初老の男が神裂に向けて話しかけるも、今の神裂にそれに返事を返すだけの余裕は無かった。相手の一挙手一投足に細心の注意を払う。
警戒して動かない神裂に見切りをつけた初老の男は、今度は背後にいる魔貌の男に振り返り問いかけた。
「はぁ、只でさえ君が無口だと言うのに、これでは話の一つも出来ぬではないか」
やれやれと首を左右に振った初老の男は、仕方ないと現在の状況を自分なりに考察して、こう結論付けた。
「では、とりあえず私は━━━あの小娘を
「七閃ッッ!」
殺す、そう言われると同時にその身を襲った特大の殺気から反射的に神裂は、七閃を繰り出した。
されど、その七閃による攻撃を初老の男は右手に持つサーベルで全て打ち払い、その場から一歩も動くこと無く防いで見せた。
「なるほど。その大層な刀で注意を引き、極小のワイヤーでその隙を突く技か、実にくだらん小細工だな」
「な、七閃を…見切られた……初見で……!?」
初老の男は、一瞬のうちに七度も人を殺すことができると言われる七閃の高速攻撃を初見で防ぎきり、尚且つその仕組みまで看破した。
その事に神裂は戦慄する。
切り裂かれたワイヤーの一本を手に持った初老の男は、心底くだらないと言わんばかりに、ため息をつく。
そして次の瞬間、数々の死戦を越えてきた神裂でさえ、感じたことの無い殺気が、彼から放たれた。
「そして、何よりくだらぬのは、今の攻撃が全て急所を外してあったことだよ。
いやはや、戦場で手加減などされたのは長い人生の中でも初めての経験だ」
言動は物腰柔らかでも、その隻眼の瞳は神裂を八つ裂きにせんとばかりに射ぬく。
「あまり舐めるなよ、人間!」
一度はやってみたかった、この組み合わせ。