とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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二話

どうしよう…………ホントにどうしよう。

 

学園都市から推薦の手紙を貰って数ヶ月、一月の末頃にまで時間が過ぎてしまった。

 

アレから何回も断りの電話をいれたのだが、全て試験だけでも受けてくださいの一点張りで話が通じない。学園都市に行くのが嫌なんです、と直接言っても、じゃあ現地で試験しましょうとか、全く的はずれな結論を言ってくる始末。

 

結局俺は、説得することを諦めた。

夜逃げする選択肢もあるにはあるが、あの学園都市なら最悪、衛星カメラとかで追跡でもしてきそうだから現実的じゃあない。こうなったら試験で赤点でもとって、不合格になるしかない。

 

そして試験当日、俺の憂鬱な気持ちとは裏腹に時間は刻一刻と過ぎていく。後数時間で試験官の人が到着する。不合格になる以外の選択肢はないが、それでも試験だ。急に緊張してきた、気晴らしに外に散歩でも行こうかな。

 

はぁ~、本当に鬱だ。近くの公園のブランコを漕ぎながら空を見上げて嘆息を吐く。今の俺は自分で言うのもなんだが、かなりイライラしているのだろう。だって眉間にスッゲー皺寄ってるのが自分でも分かるし、心なしか目も死んでるような気がする。

だがそんな不機嫌そうな顔でも、この顔なら非常に絵になることだろう。何せ輝く貌だからな!死因にすらなるほどのイケメン具合は、本当に伊達じゃない。こうやってただブランコを漕いでるだけで、若奥様達の黄色いこ、え…………。

聞こえないな……。アレ?おかしいな何時もならここら辺で、「芸能人の方ですか!サインください!」くらい言われそうなもんなんだが。てか、ずっと空見上げていたから気づかなかったけど、この公園、若奥様どころか子供一人いないってどゆこと?今日は休日で学校も何も無いはずなんだか……。

 

はぁ、こんな事考えてるほど時間無いな。もうすぐ試験官の人が到着する時間だ。俺は、ブランコから降りると公園の入り口に向かって歩き始めた。

すると、入り口付近の茂みから突然、白衣を着たおっさんが飛び出してきた。

つか、怖ァ!何アレ、顔の左半分にメチャクチャ厳つい刺青はいってんだけど!そんな顔で良く外に出歩けますねぇ。

てか、アンタ誰?

 

誰なのか質問したら、凄く聞き覚えのある声で自己紹介してくれた。木原数多さんと言うらしい。

あの……失礼なんですが、サラリーマンやってたり、戦争大好きだったりしません?

あっ、嘘です!嘘です!調子のってすんません!だからそんな野獣のような笑顔向けないでくれません、アンタ刺青のせいもあって迫力ハンパないんでぇ!

 

と、内心でビビりまくりながらも、輝く貌(ポーカーフェイス)を一切崩す事無く会話を続ける。確かに無口なキャラは、表情が乏しいけど愛想笑いすら出来ないのはかなり不便だよな。

 

「俺が今回、お前の試験を担当する試験官だ。そんじゃまぁ、細かけぇ事は抜きにして早速始めますかねぇ」

 

え、貴方が試験官なの?貴方みたいなのが教員って学園都市ってどうなってんの?いや、アニメの世界だからそんなに不思議じゃあ無いのか?

 

と、そんな事を疑問に思っていると、木原さんがポケットに右手をツッコンである物を取り出した。

それは、黒光りし、ゲームやアニメの中ではよく見ることはあっても、現代日本ではそうそうお目にかかれない拳銃が握られていた。

そして間髪入れずにそれは、俺の眉間目掛けて発砲され、バァーン!という発砲音と、薬莢が地面に落ちる音が辺りに響いた。

 

発車された弾丸は、寸分たがわず俺の眉間を通過(・・)した。

 

…………………………嘘、本物?

 

え、いや待って。嘘だろ、モノホンの拳銃?しかもそれを今俺に向かって撃ちました?

 

こ、コイツイカれてやがる!?

 

ふ、ふざけんなぁー!!俺の能力がすり抜ける能力だったから良かったものの、そうじゃなかったら即死コース真っ直ぐらじゃねーか!

 

「舐めてるのか?」

 

おい、俺の口なに言ってんのぉぉ!?いや、確かにある意味そうかもしれないけど、このタイミングでその言葉のチョイスは悪意がありすぎだろ!

ホラ見てみろよ!木原さんも、「まぁ、この程度で死ぬわきゃねぇわな」とか言ってんじゃん!

違うんです!違うんです!木原さん、これポーカーフェイス気取ってますけど、俺ジェットコースターとかに乗ったら叫んだりするんじゃなくて、ひたすら硬直するタイプなだけなんです!これビックリしてるだけ、OK?

 

「OK、OKわかったわ」

 

ヤッター!通じたァ!

 

木原さんは、片手を上げてニヒルに微笑んでくれた。今までこの口のせいでまともに言い逃れ出来たこと無いけど、この大一番で話が通じるなんて、神様ありがとう!

 

「テメェら、ローテーションして撃ち続けろ」

 

通じてなかった!

木原さんが腕上げたのってハンドサインとかだったの!?公園の茂みから大量の武装した人達が俺に向けてアサルトライフル構えてるんですが……。

 

ホワァァァァ!ホントに撃ってきたぁぁぁ!

すり抜けて当たらないとは言え、怖いもんは怖いからやめてくださいってマジで。

怖くて動けねぇよ、発砲音も煩すぎだしアンタら近所迷惑でしょうが!

てか、おい!また顔面に弾丸飛んできたぞ!この体、動体視力もずば抜けて良いから弾丸も目視で確認できるけど、むしろ見えてる分余計に恐怖なんだからな!は、早く終わってくれ~……。

 

 

 

 

お、終わった……結局10分近く弾丸の雨に晒されるとわ。俺が一体何をしたって言うんだよ……。

 

地獄の時間が終わって安堵していると今度は木原さんが直接殴りかかってきた。

まだ続くのかよ…………でも、銃で撃たれてるときは、恐怖が勝って何も考えられなかったが、拳で殴られるという日頃の喧嘩で慣れた行為に変わった瞬間、俺の中で沸々と怒りが沸いてきた。

 

アンタねぇ、いい加減にしろよ!

 

拳の連打を繰り返し放ってくる、木原さんの攻撃を見切った俺はその手を掴もうとした瞬間、顔に衝撃が走った。

いや、衝撃というか、何かが顔に当たった気がした。

もしかして木原さんに殴られたのか?今まで喧嘩では、ずっとすり抜けてきたから、殴られたのは初めてだけど、この体頑丈すぎだろ。軽くデコピンされた程度にしか感じなかったぞ……。

 

俺がこの世界に来てから初めての事態に驚愕していると、木原さんは相変わらず獰猛な笑みを浮かべながらパンチを繰り出してくる。その攻撃は、先程と違い何時も通り体をすり抜ける。もしかして、さっき殴られたのって俺が木原さんに触ろうとしたからなのだろうか?

う~ん、わからん。とりあえず、もう一回やってみるか。

俺は、先程と全く同じようにして木原さんの腕を掴もうとすると、思った通り木原さんの拳が俺の顎に直撃していた。そしてデコピンをされた程度にしか感じない。

 

なるほど、木原さんは上手いことカウンターを決めてきたってことか。まぁこの手の能力ならそういうのが鉄板だよね。でもね木原さん、この体を舐めちゃいけないぜ。この体は、弾丸を確りと視認することができ、拳でコンクリート粉砕し、一瞬で何百メートルも走破で出来るほどの驚異的な身体能力を有しているのだ。

最初、すり抜けるのに気づかなかった時は、これが俺の能力なんだと錯覚したほどにな。

 

つまりだ!俺は例えカウンターされようと、カウンターされる前にアンタを沈めることが出来るってことんなだよ!

この溜まりに溜まった鬱憤晴らさせてらう!

 

先程までの焼き増しのように、全く同じ動作で木原さんの腕に掴みかかると、これもまた同じように顎に拳が飛んでくる。だがそれよりも早くその拳をもう一方の手で掴んで防ぎ、もう片方の腕も捕らえた。

 

どうだ木原さん、これで手も足も出まい!

 

やっとこさ捕まえた事に笑みを浮かべていると(表の顔は無表情のまま)危機的状況にいるはずの木原さんも相も変わらず笑みを浮かべていた。

…………なんか嫌な予感がする。そう思った瞬間、ここ数分でずいぶんと聞きなれた発砲音が随分と遠くの方で聞こえた。反射的にそちらに目を向けると、既に回避不可能な距離に弾丸が迫っていた。

 

流石に眼球は、ヤバくね?

 

頭に走馬灯なような物が流れた気がした瞬間、またしても驚くべき出来事が起こった。世界が一変したのである。

 

夕暮れの空に歯車が浮かび、辺り一面の荒野に所狭しと剣が突き刺さった世界が広がっていたのだ。

 

……なんかスゴい見覚えがあるんだけど、確かに心は硝子だけど、剣で出来てるわけもなくば血潮も鉄じゃ無いのに、何で固有結界が広がってるわけ?

 

どゆことよ、ここ『とある』の世界じゃなかったの?

 

ほら、木原さんもポカーンとして……いや何か狂ったように笑い始めたわ、怖いんですけど。

 

あっ、元の世界に戻った。

 

周囲見渡してみると、何か戸惑ってる武装した人達と馬鹿笑いしてる木原さん。えっと、どうしたらいいんでしょうか。もう帰っていいのかな?

 

馬鹿笑いしている木原さんに、恐る恐るといった感じで話しかける戦闘員Aっぽい人。その人が話しかけると急に真顔になった木原さんが回りの人達に呼び掛けて、そそくさと帰っていった。

 

え、終わり?で、てもこれで試験は不合格だろ、たぶん。いや、最初っから最後まで一体何を試験されたかは、わかんないけど恐らく不合格だろう、たぶん!

 

……………………帰って風呂に入ろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺の住む孤児院のポストに合格通知が届いた。

 

なんでさ……。

 

 

 

 

 

ワゴン車の車内で顔に刺青がはいった男、木原数多が携帯で誰かと会話していた。

 

「本当に俺の興味を引くような対象なんだろうな?」

『それは保証しよう、彼は特別だからね』

 

電話から聞こえてくる老人にも若者にも聞こえる声に、胡散臭そうな表情を浮かべながら聞いている。

 

「まぁ、一度受けた仕事だから最後まで全うしますがね。実験しがいのあるモルモットじゃなけりゃ、殺しちまっていいんでしょ?」

『ああ、それで構わない。君なりのやり方で彼をテストしてくれればそれで十分だ。その後の研究も全て君に任せるよ』

「へいへい、了解っと」

 

電話を切った木原数多は、無造作に携帯を投げ捨てて頭の後ろに手を回した。

思い出すのは数日前、学園都市の最高責任者から直々の仕事の依頼があった。それは学園都市の能力開発を受けていない能力者、いわゆる原石と呼ばれる人物が発見されたため、その回収を依頼されたのだ。

 

そのような依頼は、木原数多率いる暗殺組織猟犬部隊が請け負うような仕事ではない。せいぜい下部組織がやるに十分な仕事である。

だがそうはならず、此方に依頼がきたということは、その対象が余程の危険人物だということだろう。予め貰っている資料によれば、性別は男、年齢は今年で16歳、物体をすり抜ける能力を有しており、近辺の不良を束ねるリーダーをやっているそうだ。

それを聞いた時は、能力を使って調子に乗ってるただのクソガキじゃねぇかと、呆れたものだ。

 

「準備、完了しました」

 

木原が思考に耽っていると部下から準備が完了したとの報告が届いた。

重い腰を上げた木原は、いかにもかったるいと言わんばかりに首に手を回しコキコキと骨を鳴らす。

 

「わざわざ学園都市の外にまで出張してきたんだ、期待はずれだったらどうしてやろうか?

いや、どうもしねぇか。サクッ!と殺してさっさと帰りますかね」

 

前もって人払いをしておいた無人の道路を歩くと、対象のいる公園までやって来た。とりあえず物陰に隠れて対象を観察する。

 

(おーおー、随分な色男ですこと)

 

対象は、事前の情報通り容姿が一致している。今回のターゲットであることに間違いない事を確認した木原は、物陰から出ようとした時、その行動を中止した。

 

対象の青年が深いため息を吐いた後、自分の部下が隠れ潜んでいる茂みに目を向けたからである。一人、二人、三人と、まるで確認作業でもしているかのようにピンポイントで人員の配置を看破していく。そして最後に木原自身に目を向けた。

ありえない、木原はそう感じた。プロの殺し屋である彼等の位置を日向を生きる物達が見抜けることは、そうそう無い。さすればヤツも俺達と同じ闇を知る住人なのかと思った。そして何より

 

(何て目で睨んできやがる)

 

その目は、とても常人が浮かべることが出来ないほどの凄みが滲み出ていた。耳に着けた通信機越しに部下達の情けない悲鳴が届く。殺しのプロである暗殺部隊の戦闘員が怖じ気づく程の眼力をただの子供が出来るわけがない。木原は、クライアントの情報に多少の信憑性が出てきたことに自然と笑みを浮かべた。

 

痺れを切らした青年が立ち上がり此方に歩いてきたのを確認して木原は、もう隠れる意味もないと分かり、青年の前に姿を表す。

 

「よぉ!初めましてだなぁ。俺は木原数多ってもんだ。よろしくな」

「…………」

 

木原は、不敵な笑みを浮かべながら適当に自己紹介をした。それを青年は無表情に無感動に観察している。

その琥珀色の瞳は、全てを見透かすように木原を捉えていた。

 

「…………お前、構成員だな。殺しの」

「へぇ……」

 

木原は、己の仕事を一目で見抜いた青年に対して、ますます興味を深めていく。それに伴い、口許は裂けるように笑みを浮かべた。

 

「一目でそこまで見抜くたぁ、随分な洞察力だな。はっ、そこまで分かってんなら話は早ぇ。

俺が今回、お前の試験を担当する試験官だ。そんじゃまぁ、細けぇことは抜きにして、早速始めますかねぇ」

 

木原は、その言葉を引き金に白衣のポケットから拳銃を取りだし青年に突きつけた。

 

「とりあえず、死んどけや」

 

相手の返答を待たずして、すぐさま発砲。弾丸は寸分の狂いなく狙い通り青年の眉間に吸い込まれた。そしてこれまた狙い通り、弾丸は青年の眉間を通り抜けていった。

 

(情報通り、すり抜ける能力だな)

 

木原は、事前に届いた青年の資料通り、すり抜ける能力であることを確認する。そして僅かに驚いた。

 

(一体どういう神経してんだ、このガキ……)

 

人間には条件反射というものがある。例えわかっていたとしても、危機が迫ると本人の意思の有無に関わらず体が反応してしまうことである。

だが青年は銃を突きつけられ、発砲されながらも微動だにするどころか、瞬き一つしていない。それが木原にはますます面白く感じた。

 

「…………舐めているのか?」

 

舐めているのか?青年から発せられた言葉。ただの一言だが、確かにそうだろう。拳銃一つで殺せると思えるなど先程までの青年の異常な行動を見ていれば不可能であることなぞ察しがつく。コレには木原も思わず肩を竦めた。

 

「まぁこの程度で死ぬわきゃねぇわな。

OK、OKわかったわ」

 

ならさっさと本番に移行するか、と木原は手を上げて部下たちにサインを送る。そのサインを受けた部下達は一斉に物陰から飛び出し青年に銃を突きつけた。

 

(軽ーい性能テストといきますか。まずは、持久力から)

「テメェら、ローテーションして打ち続けろ」

 

その言葉を皮切りに、無数の弾丸が青年に殺到する。だがそれさえも青年は、眼中にないと言わんばかりに静かに佇んでいた。

一人が銃弾を撃ちきりリロードしている間に、違うものが射撃を始め、同じように撃ちきりリロードして、また違うものが射撃を開始する。そうすることで、間断なく射撃を青年に浴びせ、一体どれ程の時間透過していられるのかを木原は計ろうとしているのだ。

 

射撃を始めて10分が経過すると、漸く木原の合図のもと射撃は中断された。

 

(持久力に関しては中々だな。これ以上続ければ先に此方の弾薬が尽きちまう)

「取り敢えずは、及第点だ坊主。でもこれだけじゃあ合格の判は、押してやれねぇなぁ」

 

そう言うと、木原はおもむろに拳を構えた。

 

「今度は俺が直々にテストしてやるよ!」

 

助走をつけた鋭い一撃が青年のボディを通過する。そのまま当たらずに通過し続けているにも関わらずラッシュを繰り出していく。そして、ここで漸く青年にも動きがあった。木原が拳を引いたタイミングで捕らえようと腕を伸ばしたのだ。だがそれは全て木原の読み通りだった。

 

「掛かったな!」

 

青年が腕を伸ばした瞬間、強烈なカウンターが青年の顎にクリーンヒットした。だがその瞬間、驚愕に目を見開いたのは青年ではなく木原の方だった。

 

ガキン!

 

(何だ、この感触……とても人体の固さじゃねぇ。まるで鋼鉄ぶっ叩いたような感触と音、コイツはすり抜ける能力なんじゃねぇのか?)

 

一旦距離をとった木原は、青年の様子を観察する。

青年は、顎を擦り無表情ながらも不思議そうに首を傾げていた。とても顎を強打されたようには見えない程にピンピンしている。

 

(一体どういうカラクリだこれは?確実に脳を揺らした筈なのにあの野郎、毛ほども効いちゃいねぇ。

…………もう一度試してみるか)

 

木原は、先程と同じようにして拳を叩き込むと、青年もまた同じようにして木原を捕らえようとした。

そこでまた先程と同じ要領でカウンターを決めると、ガキン!とまたしても同じ手応えが返ってくる。

 

(なるほどな、どんなカラクリかはまだわからねぇが。兎に角、例え急所に打撃を打ち込もうがこりゃイマイチ効果ねぇな)

 

木原は、青年に攻撃を続けながらも、その能力について冷静に分析していく。その顔は、本人の知ってか知らずか今まで以上に獰猛な笑みを浮かべていた。

 

(いいねぇ!こりゃ研究しがいがありそうじゃねぇか!だが、まだだ。こんなもんじゃたりねぇ、もっと見せてみろお前の能力をよぉ。えぇ!クソガキがぁ!)

 

数度目のカウンター、だがそれは木原がカウンターを放つよりも早くに拳を押さえ込んだ青年が、木原を完全に押さえ込んだことで決まることはなかった。

これで終わりか?まるで、そう言っているかのような瞳で木原を見つめる青年を木原は、ニヒルな笑みで返した。

 

「……撃て」

 

小さいが、されど確かな言葉で紡がれた指示は、数㎞離れたところからずっと狙い続けていたスナイパーに届いた。

発射された弾丸は、真っ直ぐに青年に向かって飛んで行く。

既に立場は、逆転していた。木原を掴んで押さえこんでいた筈の青年が反対に、木原が自分から掴ませることで実体化させ、弾丸が当たるように仕向けたのである。

そして着弾地点は青年の眼球。いくら強固な骨格をしていようが目玉なら関係ない。青年は、僅かに目を見開き。木原は、そんな青年を嘲笑った。

 

ああ、これで終わりか……そう思われた瞬間、世界が変貌した。

 

「な、何だこれは……!?」

 

あと一瞬で弾丸が青年を撃ち抜こうとした瞬間、世界が全く見覚えの無い、現実離れした光景に変わった。これには、流石の木原も驚愕の感情を隠しきることが出来ずに呆気にとられた。だが驚きに撃ち震える表情とは別に、その優秀な頭脳はこの現状を解析、解明しようとフル回転していた。

 

(今の感覚は、テレポートと同じ現象。だがテレポートは、そこまで遠くの距離を一気に移動出来ねぇ。ましてこの風景、現実の何処にもあるわけがねぇ)

 

空に浮かぶ歯車、広野に突き刺さる無数の剣。そしてそこにそこに佇む青年。

 

(ああっクソッわからねぇ!わからねぇなぁ、チクショウが!……ククッ……ハ……ハハッ、ヤッベーなコイツは、ヤバ過ぎて…………笑いがとまらねぇぜぇ!!)

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

木原は、狂ったように笑い手で顔を押さえた。

そして木原が笑い続けるなか、世界は元に戻っていく。

先程遭遇した未知の現象、それは学園都市が誇る優秀な科学者である木原数多の頭脳を以てしても、一朝一夕では解明出来なかった。だが、それが何よりも木原の心を揺り動かした、新しい特上の研究材料の登場に、木原は自分の感情を抑えられなくなっていた。

 

「た、隊長。そろそろ時間が………」

「ハハハハハハッあ。……ああ、そうかお楽しみは終わりか。よし、テメェら!さっさと撤収しろ!」

 

瞬時に頭を切り替えた木原は、先程の狂喜に染まった状態から、最初の冷徹な殺人者の姿に戻っていた。

そして早足に公園を後にしようとするが、一瞬だけ青年の方に視線を向けた。

 

その瞳には、この世のあらゆる狂気が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公、木ィ~原クゥ~ンにロックオンされる。

あと、主人公の能力ですが近々簡単にですが説明しようと思うので期待せずに待っててね。設定がガバガバだからさ……

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