詰め込んだらこうなっちゃったんです。
それと、あけおめことよろです
「何だ……あの生き物は……?」
上乃慧巌。新しく現れたlevel5にして空間移動能力の極みに達したと謳われる青年。
一説には、別の世界にすら移動することが可能とまで噂される
当初、それを聞いた時は眉唾物だと思っていたが、こうして目にすると……なるほど、確かにそうなのかもしれないな。
「GAAAAAAAOOOOOOOOOOO!!」
幻想猛獣と御坂君が争う渦中に作り出されたワープホールのような切れ目から出てきた異形の生命体。
あんな生き物は見たことも聞いた事もない。
学園都市で密かに作られた生物兵器という線も捨てきれんが、私にはあの生き物がとてもじゃないがこの世の物とは思えない。
上乃君が別世界の生き物を呼び出したのだと思えば、不思議と納得がいった。
科学者としては失格かもしれないが、何の根拠も無くそう思えてしまう。
「アレが、キミの切り札なのかな?」
「……」
力無く座り込む私の側を離れずに、腕を掴む彼に問う。
何の返答もされないが、答えるまでも無い、と言うことか。
「なるほどな。あれほどの力を有していれば幻想猛獣を抑え込むことが出来るかもしれない。
だが、それも
確かにあの生物は、幻想猛獣を圧倒している。
しかし、どんなに傷を負っても再生して死ぬことのない幻想猛獣に負けはない。
今は負けていても、持久戦になれば勝ち目は無い。
そして不死である幻想猛獣を倒す術も、もはや存在しない。
あの生物が、同じく不死身であるというなら話は変わってくるがな。
まぁ、そんな事ある訳がないか……。
「手詰まりだ、私達がどう足掻いたところでアレを止める事は出来ないのさ」
そう、私達には何の手段も残されてはいない。
だと言うのに、何故だ?何故、君はそんな目をしている。
力強く光に満ちた目で、何故私を見つめる?
何故…なんだ…君にはこの状況を覆し得る手段があるとでも言うのか。
~~~~~~~~~~~~♪
「これは……!?」
私が彼の瞳に疑問を浮かべていると、学園都市の各所に設置されているスピーカーから聞き覚えのあるメロディーが流れてきた。
この音色は、まさかワクチンプログラム!?
だが、そんな馬鹿な。あれは彼女の攻撃で焼け焦げて使い物にならなくなってしまった。
いや、それどころかそのプログラムは、今もこうして私の手元にある。
ならば、これはいったい?
驚愕の事態に動揺する私は、今までずっと掴んで離さなかった彼が手を離し電話を手に取った事に気づかなかった。
『━━━━━━』
「………分かった」
「な、何だ、私にか?」
幾何かの言葉を交わした後、彼は徐に携帯を私に手渡した。
震える手で携帯を受け取り耳に当てると、何時かの聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『
「君は、あの時の……」
その人物は、先日上乃君と共に居た少女のものだった。
確か名前は、布束……だったか。
「一体私に何の用件かな?」
『いえ、自分の作ったプログラムをこんなあっさりと解読された気分はどうなのか気になっただけよ』
「ッ!まさか君が
『ええ、彼の頼みでね。急ピッチだったけど、珍しく彼が私を頼ってくれたのですもの、先輩として後輩の頼みは断れないでしょ?』
何ということだ、まさか本当にただの学生があのプログラムを解析してワクチンプログラムを作りだしたというのか……!
『それで、
「フフッ、感服したよ。いや、これは参った。
認識を改める必要があるな、大人の科学者でもない専門学生に紐解かれるとは……。正直、自信を無くすよ」
『そう。でも、だからってそんな所で座り込んでいる訳では無いのでしょう?』
「……見ているのかい?」
『彼の貸してくれた機材が良かった物でね。まさか、
何ともまぁ、規格外な。
衛星一つ貸し出すとは、余程の狂人かそれとも過保護なだけか。
どちらせよ、手に負えんな。
『木山春生、片手間ではあったけど貴方の事も調べさせてもらったわ』
「ほう、では何が分かったのかな?」
『AIM拡散力場制御実験』
「…………」
『どうしてか知らないけど、ここの機材には過去に中止になった研究のデータとかが大量に保存されててね、その中の一つに貴方の名前があったわ』
「………そうか、ならわざわざ私が説明する必要は無さそうだな……」
『ええ、詳細なデータまでは残っていなかったけど概要は把握出来たから、後は想像がつくわ。
上乃君が貴方の味方をしている理由も、ね』
「彼が、私の味方?」
『そうよ、持ち主である彼がこの事を知らない訳が無いし、そう思えば彼の行動にも納得がいくし……少しは許してあげる』
そんな、彼が今まで私の側を離れなかったのは、私を逃がさない為ではなかったのか?
今尚、横にいて私を見つめている彼を見つめ返す。
そうすると、自分の中で燻っていた感情に火が点くような気がした!
より正確に言うなら、下腹部から途方もない熱g
『
ネットワークから切り離された今、あの怪物に以前のような再生力は無い。
もう一度言うわよ、立ちなさい木山春生
(さっさと離れろ、年増!)』
そう言い切ったあと通話は切れた。
全く、どうしようも無いな、私は……。
「子供を騙し、利用し失敗したのに……その子供に止められて、悟され……こうして寄り添ってもらうなんて、情けなくて今すぐ消えたい程だよ」
ああ、瞳の奥から堪えきれない涙が零れ落ちる。
私には泣く資格など無いと言うのに、何度拭っても涙が止まらない。
「……泣くな」
大人気なく涙を流す私の目元を彼が拭う。
横を向けば、そこには少しだけ頬の緩んだ上乃君が私に笑いかけるようにして話しかけた。
「……その涙は、後に取っておけ」
…………ああ、そうだな。
私には、こんな所で止まる訳にはいかない。あの子達の為にも、ここまでしてくれたこの子達の為にも!
「頼む、上乃君。私を彼処まで連れていってくれ!」
∞
ディアウス・ピターは、肩から生えた刃翼を使ってより一層激しさを増した攻撃で幻想猛獣を痛め付け、幻想猛獣は、負った損傷を瞬く間に再生させることで対抗した。
終わりが無いかのように、延々と同じ攻防が繰り返される。
だが、その変化は突然訪れた。
最初にそれに気づいたのは、二体の怪物の戦闘を固唾を呑んで見守っていた美琴だった。
突如、設置されていたスピーカーから奇妙な曲が流れ出したと思えば、その瞬間から幻想猛獣の傷が再生しなくなったのだ。
「……傷が治らなくなった……これってこの曲と何か関係が?」
曲が聞こえだした途端に幻想猛獣の傷が再生しなくなった事に関連があると思い思考するが、そんな事を考えている暇など無い。
幻想猛獣の回復能力が失われたと言うことは、今まで拮抗していた状況が動くと言うこと意味した。
「GAAAAAAAOOOOOOOO!」
千日手となり攻めあぐねていたディアウス・ピターは、目前の敵の弱体化した隙を逃さずに、怒濤のように攻め立てる。
「キィィィィ!?」
幻想猛獣も何とか迎撃を試みるが、先程までとは違い切り裂かれた触手は再生せず、物量で押す戦法が使えない。
手も足も出ずに、自らの体が切り裂かれていく様を止めることが出来ないでいた。
そして遂に、全ての触手を無くした幻想猛獣の巨体に、遮る物の無くなったディアウス・ピターは、その牙で食らい付いた。
ぐちゃぐちゃと生々しい咀嚼音が聞こえる。
貪り食らおうとするディアウス・ピターは、自らよりも何倍も大きな生命体を喰らい尽くさんとその体に四肢を使ってしがみつく。
対する幻想猛獣は、抵抗するでも無く、悲鳴を上げるでも無く、まるで包み込むかのようにディアウス・ピターを覆った。
「GAOO!?」
幻想猛獣は、包み込んだディアウス・ピターを空中に転移させた。
今までは速すぎるディアウス・ピターの動きに演算が追いつかず飛ばす事が出来なかったが、自らの腹の上で止まっているならば転移させることは容易。
一時的に距離を取ることに成功する。
だが、それだけで終わる筈が無かった。
空中に投げ出されたディアウス・ピターは、体勢を立て直し上手く地面に着地する。
そして、再び幻想猛獣に突撃しようとするが、己の回りに大量の何かがあることに気がついた。
それは、大量の
その量は空き缶一つどころの騒ぎではない、幻想猛獣が知覚しうる限りのアルミを短期間で集めるだけ集めて、ディアウス・ピターの足元に転移させておいたのだ。
アラガミに火は通用しない。氷も電気も風も……ならば、単純な破壊力。
爆発ならば通用するのではないのかと、幻想猛獣は考えたのだ。
もはや避けることは叶わない、雲にも届きそうな巨大なキノコ雲が発生した。
「ヤバッ!」
「ピッカア!」
「ナイスよ!」
そして、美琴がひっくり返った地盤内の砂鉄を操り爆風から飛ばされないように抑える。
「ウウッッ!」
爆風に爆音、それらを耐えしのぐ美琴とピカチュウはじっとそれらが止まるのを待った。
何とか凌ぎきった美琴とピカチュウは、地盤から顔を覗かせて様子を伺う。
そこには、爆心地で黒焦げになっているディアウス・ピターと腹の部分が抉られてはいるが健在の幻想猛獣がいた。
「流石にあんなの食らったら無事じゃないか」
黒焦げになったディアウス・ピターを見つめてポツリとそう溢す。
おぞましい怪物ではあったが、幻想猛獣に果敢に挑んでいく様に頼もしさを感じ始めていた美琴は残念そうだった。
「随分と派手に戦っているな」
「ッ!?あ、アンタ、何でこんな所に来てんのよ!」
「私も、覚悟を決めたと言うことさ」
上乃に肩を貸されながらやって来た木山は、今までの生気を感じさせない無気力な目付きとは打って変わり、覚悟を決めた力強い物へと変化していた。
彼女を見て驚いた美琴であったが、木山の変化に気づくと、そう、と何処か嬉しそうに笑った。
「もう気づいているだろうが、先程流れたワクチンプログラムによって、ネットワークは破壊され傷の再生はもう行われないだろう」
「だったら何で止まらないのよ」
「アレは、AIM拡散力場が生んだ二万人もの思念の塊。普通の生物の常識は通用しない」
「なら、どうしろってのよ」
「核だ、力場を固定している核のような物が何処かにあるはず。それさえ破壊してしまえば……」
「止まるって訳ね。なら、しらみ潰しに」
「いや、そんな悠長な事も言ってられんようだ」
冷や汗をたらりと流した木山は、引きつった笑みを浮かべながら幻想猛獣を見やる。
ディアウス・ピターを倒したと思っている幻想猛獣は、暫く動きを見せなかったがその活動を再開していた。
なんと幻想猛獣は、ディアウス・ピターに喰らわせた粒子加速による爆発を再び起こそうと大量のアルミ製品を転移で集めていた。
先程の爆発は、ディアウス・ピターに喰われる火急の事態だった為、短期間で集めただけの物だったが、今度はじっくりと集めることが出来る。
その量が先程以上の物となれば、学園都市にも少なく無い被害が及ぶかもしれない。
さすれば迅速に、幻想猛獣の巨体の何処にあるかも分からない核とやらを破壊する必要がある。
しかも一撃で仕留められなければ、現在集まっている大量の
「ちょっと、シャレにならないって」
どうする、
よしんば、超電磁砲を撃つことが出来たとしても、幻想猛獣の巨体の何処にあるかも分からない核を正確に撃ち抜くことなど不可能だと、美琴は焦燥する。
「ピカ」
「えっ?」
どうやればこの状況を打開できるか模索する美琴にずっと側で共に戦ってきたピカチュウは、美琴の背中に飛び乗った。
肩から美琴の顔を覗き込むようにして、ピカチュウは目一杯力強く電流を美琴に流す。
「!」
「ピカァ?」
発電能力者である美琴にそんな物は通じない。しかし、ピカチュウには攻撃というのではなく、気付けのような意味でそれを行った。
まるで、目は覚めたか、と言わんばかりに不敵な笑みをピカチュウは浮かべる。
「あんた……そうよね、悩んでても始まらない。
とことん、やってやろうじゃない!」
「ピッカチュ!」
美琴とその肩から飛び降りたピカチュウは、双方とも己の最大の電力を絞り出す。
「これは……スゴい力だ。私の時はまだ手加減していたのか」
目も眩むような大閃光を発する一人と一匹を目に驚きの声を上げる木山。
これならばもしかしたら何とかなる、と希望を抱く。
手段は整った、なら後は万が一に備える必要がある。
木山は、己に肩を貸す上乃を見ながら信頼の目を向けた。
「君がいれば、万が一の事があっても彼女達を逃がしてやる事が出来るな」
「………」
「さぁ、ぶちかますわよ!」
残りの力、その全てぶつける準備の整った美琴は攻撃の体勢に入った。
だが、その美琴の前に横にいた筈のピカチュウが電磁浮遊でもするかのように、大量の電気を放出しながら飛び込んだ。
「ちょっ!?何やっての!」
「ピーピカーピー!」
「はぁ?このまま撃てって、ああもうどうなって知らないわよ!」
半身を引き、右腕を振りかぶる美琴。
残りの力、その全てを右腕に乗せて眼前にいるピカチュウの足の裏めがけて叩きつけた。
「これが私の全力、だぁぁぁ!!」
「ピカピカヂュー!!」
文字通り、美琴の全力の超電磁砲の弾丸となったピカチュウは極大の雷光を纏い、音速で幻想猛獣目掛けて突撃する。
その破壊力は、十分に幻想猛獣を消し飛ばすだけの威力を誇っていた。
ただ、ここで黙ってアルミを集めていただけの幻想猛獣が動いた。
音速で放たれたピカチュウを見て避けてからでは遅い。
発射されるほんの数秒早く動いていた、幻想猛獣は三度目となる自身の転移を使って逃れようとした。
少し離れた地点、されど確実に当たらない場所に逃げた幻想猛獣は集めたアルミを爆破させようとする。
しかし、ここにはもう一人転移能力者がいる。
上乃は転移して逃れた幻想猛獣を再び転移させて射線上に引き戻した。
この僅か0.1秒にも満たない攻防の末、幻想猛獣の終わりが決定された。
飛んできたピカチュウが直撃した瞬間、幻想猛獣の核ごと上半身に当たる部分が消し飛んだ。
だが、それだけではピカチュウの勢いは止められない。
そのままピカチュウは、雲を突き抜け、オゾン層を飛び出し、偶然にも衛星軌道上に有った
「凄まじいな、これほどとは……」
一直線に何もかも突き抜けていった超電磁砲を目にして、御坂美琴を一時とはいえ敵に回したことを木山は心底愚かだったと自虐した。
「強いな……子供というのは……」
「ちょっと!まさかあの子死んでないわよね、ね!ね!!」
「…………」
空の彼方に消えていたったピカチュウを案じて、上乃の首をこれでもかと締め上げる美琴。
息が止まって、何時もの無表情+青白い顔で死人の様になってしまっている上乃。
「何か言いなさいよぉー!」
「……し、死ぬ」
何とも締まらない雰囲気の中、こうして
∞
危なかった、せっかく
長い激闘の末、未知の怪物との戦いに勝利した俺は暗くなった学園都市を徒歩で帰っていた。
いやまぁ、勝利したって言うと俺が勝ったみたいに聞こえるけど、実際俺あんまり活躍してなかったけどね。
助っ人呼んだり、とかその程度だけどさ。
でも、能力を使いすぎた影響で頭痛が酷いし、ホントこの街に来てから毎日が厄日だよ。
終わった後も短髪ちゃんは、ピカチュウが生きてるかどうかしつこく聞いてくるし。
何度も言ってるでしょ、ピンピンしてるって!
むしろ全力で戦えたから呼び出した時よりも元気そうだったよ、ポケモンの闘争本能舐めんな!
あぁそれと、舐めるなと言えばディアウス・ピター。
あれは舐めてたね、まさかあんなに恐ろしいとは……怖くてとてもじゃないけど近寄れなかった。
前にラケル博士が、『言うこと聞きますよ~』的な事を言ってたの思い出したから呼んでみたけど、あれは命令を聞く聞かない以前の問題だな。
見ただけで怖くて動けなくなる。
あんだけの爆発の直撃を受けて黒焦げになったと思ったら、知らないうちに起きあがって傷一つ無かったしね。
けど、起きあがったのが全部終わった後だっから、ちょっと気まずそうにしてたような……そ~とゲートを開けて上げるとそそくさと帰っていったし、何か哀愁が漂ってたな。
でも、そんなのはもう過ぎた事だ。大事なのやっぱり木山さんの事だよな。
あの後、おとなしく
その為にわざわざあんな危険な事までして、逃がさないようにずっと腕を掴んでたのに。
俺の同情を引いて逃げる為に涙まで流す演技っぷりは、流石に女だなと思ったよ。勿論騙されなかったけどね。
その涙は後に取っておけ(法廷で泣いた方が裁判員の同情を引けますよ)ってアドバイスしておいた。
そう言えば、布束さんが木山さんに電話で何か話してたけど何を言ってたんだろ?
『彼が、私の味方?』とか言ってたけど何の話だ?
…………もしかして、布束さんは俺のしでかした事に勘づいてたんじゃあ……。
俺のお願いを聞いてくれたのも、それを把握した上で弱味を握ろうとしたからなんじゃあ……?
いや、でもまさかそんなぁ、ねぇ?
………………。
もし本当にそうだとすると、木山さんが言ってた俺が味方うんぬんは、俺が犯行を手助けしたことを言ってたのでは!?
去り際の『君とはまた会う気がする』って獄中で再会する的な!?
まずい、まずい、まずい、ひっじょーにまずい!
もしそんな事を法廷で証言でもされたら今日の苦労が水の泡だ!
いや、それどころか刑務所行き……最悪すぎる。
なんて事をしてくれてんだ布束さん!?貴方には助けられましたけど、結局は助かってないじゃないですかチキショー!
だめだ、どうする今から会いに行って口止めするか?
でも、こんな時間に行っても面会出来ないだろうし……クソッどうしろってんだ!?
そうだ、明日……明日会いに行ってそれから何とかしよう。
とにかく今日は疲れた。
頭を悩ませる案件が解決したと思ったら、結局のところ全然解決出来てなかった事に気づき重い足取りが更に重くなった。
バギッ ボゴッバコンッドカン!
な、何だ、この格ゲーのような打撃音は?
意気消沈と帰路に着いていると、表通りの方から痛々しい打撃音が響いてきた。
それが妙に気になった俺は、おそらく厄介ごとだろうと当たりを付けつつも様子を見ようと近づいていった。
そういや、夜とはいえ人を一人も見ないのっておかしくない?
そんな事も思いつつ、路地裏から覗き込むと
「るっせんだよ、ド素人がぁ!」
見覚えのある奇抜な格好のお姉さんが、これまた見覚えのあるウニ君に馬乗りになって滅多打ちにしていた。
あ、えーと、道路のまんなかで随分と激しいプレイをしてますね……。
いやいやいや!違うだろ、これは……そうだ!何かのイベントに違いない、原作の。
正直、これ以上はスタミナが持ちそうに無いが、俺の今後の事を考えると無視しない方がいいよな。
となれば、ここはもう少し様子を伺うべきか。
その後、目を覆いたくなる程ボコボコにされるウニ君だが熱い言葉によってお姉さんの心揺さぶっていくなどの感動的なシーンまで進んだ。
ここまでの過程で俺は、とある魔術の禁書目録の主人公があのウニ君であると直感した。
いやだって、言ってることがメチャクチャ綺麗事で熱いんだもん。それに会話の中でインデックスちゃんの名前も頻繁に出てくるし、正確な内容までは理解できなかったけどさ。
「……ッ!貴方が何を言ったところで私達の決心は変わりません。今頃、ステイルがあの子を確保していることでしょう」
「なっ、インデックスが!?」
「貴方には、暫く眠っていてもらいます」
「く、クソッ!」
なるほど、ウニ君は足止めを食らってヒロインを助けに行けないか。
これは、チャンスでは?
これがもし原作通りの展開だとするならば、これから何かしらの要因で結局はインデックスちゃんは助けられるだろう。
ならば、その過程で俺が貢献することで主人公と仲を深める事が出来るかもしれない。
こりゃ、とんだラッキーだぜ、早くインデックスちゃんを見つけないとな!
ボコられ中のウニ君を置いといて、俺は疲れた体に鞭を打ち、インデックスちゃんを探すために近場の一番高いビルの屋上に転移した。
「……ッ!」
痛てぇ!能力の使いすぎで頭が割れそうだ。
でも、ここからならインデックスちゃんの特徴的な服装なら直ぐに発見できる。
そして、常人なら双眼鏡でもないと見えない程遠くにそれらしき影を肉眼で見つけた俺は直ぐ様そこに転移した。
「え……け、ケイガン!?」
「ッ!何者だ!?」
突如現れた俺に驚くインデックスちゃんと、彼女に対峙するように立っている黒い神父服を着た赤髪の男。
おそらくアイツがさっきの話にあったステイルという奴か。
懐に手を突っ込んで何か出そうとしてるけど、悪いな此方にはもう戦う余裕はないんでさっさと退散させてもらうよ!
俺は側にいるインデックスの手を引き、頭痛を我慢して転移しようとすると、それを他ならぬインデックスちゃんに止められた。
「ま、待ってケイガン!とうまが大変なんだよ」
はぁ、とうま?あーウニ君の事か、大丈夫だって彼主人公だし死なないって。
それよりもほら早く!
「……大丈夫だ」
「でも!」
「……インデックス」
言い子だから聞き分けてって、ほらあのエセ神父カード降りぶってるよ!今にも攻撃してきそうだよ!
とにかく俺は、もう一度真剣にインデックスちゃんの目を見て、確りと口にした。
「……大丈夫だから」
「ほぇ、ケイ……ガン……」
あれ、何か様子がおかしいな?
でもおとなしくなったし、さっさと逃げますか!
「ま、待てッ!」
エセ神父の制止の声を振り切り俺は、呆けた様子のインデックスちゃんを連れて自宅に帰還した。
簡易報告
美琴&ピカチュウ:疑似Z技発動
上乃:安定の勘違い+やらかし(インデックスをテイクアウト)
おまけ・幻想御手事件の裏の顛末
隊員A「隊長大変です、Bが警備員のネットワークにハッキングしてたらアニキ(上乃)が何かしらの事件の容疑者にピックアップされてます!」
木原「なに?」
隊員B「どうするんすか、隊長!?」
木原「騒ぐんじゃねぇよバカ共。アイツが捕まるのは困るからな、適当な一般人とすり替えとけ」
隊員A&B「了解」
木原「まったく、手間のかかるクソガキだぜ」