とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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十七話

上乃とピカチュウの登場で九死に一生を得た美琴は、疲弊した体に鞭を打ち、幻想猛獣(AIMバースト)と戦闘を続けていた。

しかし、先程まで一人で戦っていたのとわ違い、今は頼れる仲間が共に戦ってくれている。

 

「ピーピカ、ヂュー!」

 

原子力研究所を転移させた事で出来たクレーターから這い出てきた幻想猛獣をピカチュウは、お得意の電撃を放ちその巨体の一部を焼き焦がす。

 

「ギィィィィィ!」

 

だが、幻想猛獣もやられっぱなしではない。

今や、度重なる損傷によって際限無く膨れ上がったその体躯は、体の一部が消し飛んだ所で然して影響も無い。

返礼として、巨大な火球をピカチュウに向けて放つ。

それをピカチュウは、軽やかな身のこなしで回避し、避けきれない物は、悉く電撃で散らしていく。

火による攻撃に効果が薄いと見た幻想猛獣は、今度は体から生える無数の触手でピカチュウを捕らえようとする。

同じように回避し、避けれない物は電撃で散らしていくピカチュウ。だが、火球とは違い電撃で攻撃しても即座に再生する触手は、次第にピカチュウの逃げ道を塞いでく。

苦しい表情を浮かべるピカチュウだが、しかし戦っているのは彼一匹だけではない。

 

「アンタの相手は、その子だけじゃ無い!」

 

地中の砂鉄を磁場で操った美琴は、ピカチュウを襲う触手を根本から全て切断した。

電気によって振動する砂鉄は、チェーンソーの要領で物体を切断する。

それを美琴は、幻想猛獣を包み込むようにして展開して切り裂いていく。

再生が追い付かないほどのスピードで傷が増えていく幻想猛獣だが、砂鉄による攻撃を電磁フィールドを展開することで防いだ。

元から繊細な演算の元で操っていた砂鉄は、外部からの干渉によって散り散りなってしまうが、美琴は直ぐさまそれを制御しなおそうとする。

だが、それよりも先に砂鉄の壁を越えて、大質量の氷柱が美琴を襲う。

目前まで迫る氷柱だが、美琴は慌てることもなく不敵に笑った。

 

「防御任せたわよ」

「ピッカァ!」

 

電光石火で飛び込んできたピカチュウが氷柱を銀色に輝く尻尾で横殴りし、粉々に砕く。

一度は敵対した仲の美琴とピカチュウだが、この短期間で互いにフォローしながら立ち回れる程になっていた。

これは、元から相性が良かったのか、それとも互いに電気を操る者同士、通じ会う物があったのかも知れない。

 

「今度はコッチの番よ!」

 

持ち直した美琴は、再び砂鉄を操り幻想猛獣が放つ攻撃を防ぐと、砂鉄によるトンネルを作り出した。

 

「ピカピカピカピカピカァ!」

 

その出来上がった砂鉄のトンネルをピカチュウは、その小さな体からは想像出来ない程の跳躍力で一気に飛び上がった。

これによって、妨害を受けずに幻想猛獣の懐まで近づく事が出来たピカチュウは、尻尾の先に電気で構成された球体を作り出す。

 

「イッケー!!」

「ピカァー!!」

「ッッ!…ギィィ…ィ…ア…ア…」

 

作り出されたエレキボールが幻想猛獣の顔面に炸裂する。

顔の半分が消し飛んだ幻想猛獣は、掠れ声で苦悶の声を漏らした。

 

(尻尾の鋼鉄化、高速移動、見た目からは想像出来ない筋力と跳躍力に私と同levelの電撃。おまけに知能も半端じゃ無い……ほんと、一体何をどうすればこんな生き物が生まれるのよ?)

 

美琴は隣に無事に着地したピカチュウに呆れたような目を向ける。

それに気づいたピカチュウは、不思議そうに首を傾げた?

 

「ピカ?」

「な、何でもないわよ。気にしないで」

 

緊迫した状況だと言うのに、ピカチュウの可愛らしい仕草に照れる美琴。

今はそんな事に疑問を抱いてる場合では無いと、気を引き締める。

 

「ギアアアアアァァララ」

「あーもう、ほんっとうにキリがないわねぇ!?

こんな忙しい時に、アンタのご主人様は何処で油売ってんのよ?」

「ピ、ピカァ……」

 

頭を消し飛ばしたと言うのにもう復活した幻想猛獣にうんざりした様子の美琴は、上乃が何処にいるのかピカチュウに聞いてみるも困ったように視線を逸らした。

最初に原子力研究所を転移させて以降、音沙汰の無い上乃に美琴は苛立ちを募らせる。

 

(アイツ、また自分は見てるだけのつもり?)

 

前回、上乃と戦った時も彼はピカチュウに代わりに戦闘を任せて自分は高みの見物を決め込んでいた。

ならば今回も前と同じように自分からは手を出してこない可能性があった。

だが、前回はピカチュウだけで美琴と渡り合うことが出来たが今回は違う。

相手はどれだけ傷を負っても直ぐに再生する不死身の怪物。

美琴とピカチュウだけでは厳しいものがある。だとすれば、あの男が何もしないとは美琴に思えなかった。

少なくとも、この事件に介入してきたということは、上乃にも何か理由があるのだと察しがつく。

悔しいが、自分では現状を打破することは出来ないと分かっている美琴は、上乃が打つ次の一手を待つしかなかった。

 

しかし、その瞬間は想像以上に早く訪れた。

美琴達と幻想猛獣の間に見覚えのある現象、次元の裂け目が現れたのだ。

 

「これは……?」

 

次元の裂け目が開かれた事によって両者が一旦手を止め様子を伺う。

そこから漂ってくる全身を刃で突き刺すような異様な気配。

その感覚を美琴は覚えていた。いや、忘れられなかった。

その裂け目から出てきた物は、恐怖その物だった。

 

「な、何よ……コイツは……!?」

 

それは、この世界ではあり得ない大きさをした四足歩行の生物だった。黒く、刺々しく、命を奪う事に特化した虎のような生き物。

その大きさも、大型のトラックを越える程の巨体でありそれだけでも威圧感は相当の物だ。

だが、それだけでは無い。

美琴をして、動けなくなるほどに驚愕したのは、その生物の顔だった。

 

それは━━━━━人の顔だった。

 

邪悪な人面を持つ虎の化物。

かの生物は、別世界において暴虐の限りを尽くす生命体の一つの姿。

万物を喰らい、千変万化するその生き物。

いや、細胞(・・・)は、日本の八百万の神に例えられ、こう呼ばれた。

━━━━アラガミと。

 

そしてこの個体は、こう呼称されていた『ディアウス・ピター』

 

「Goooo……」

「アレ、アンタの知り合い……て、訳じゃなさそうね」

「ピカァァァァ」

 

毛を逆立てて威嚇するピカチュウ。

その反応に、アレが味方である可能性が低いと思った美琴も何時でも迎撃できるように構える。

 

確かに、ディアウス・ピターとピカチュウは、上乃が呼び出したという共通点こそ同じだが、そもそもが別世界の生命体。

上乃の命令には従っても、互いが攻撃しあわないとは限らないのだ。

 

だが幸いな事に今回ディアウス・ピターの目に映っているのは、目の前の己を見下ろす幻想猛獣だけだった。

 

「GOOoooo」

「ギィィィァァ?」

 

睨み合いを続ける一体と人柱。低く唸り声を上げるディアウス・ピターは動く気配を見せない。

一方、幻想猛獣の方は、痺れを切らしたのか数本の触手をディアウス・ピターに向けて、恐る恐ると言った風に伸ばす。迫る触手にアクションも起こさないディアウス・ピターだが、遂に触手が触れようとした時、その身を動かした。

 

「ッ!?」

 

それは、一瞬の出来事だった。

目の前にいた筈のディアウス・ピターがいつの間にか自分の背後にいて、そして己の体の一部が抉れるようにして消えていた。

背後のディアウス・ピターに目を向ければ、ソイツは口の端に幻想猛獣の一片をはみ出させて咀嚼していた。

 

そう、ディアウス・ピターは、たった一瞬で幻想猛獣に接近してその体を食らったのだ。

 

「━━━━GAAAAAAAOOOOOOOO!!!」

 

雄叫びを上げるディアウス・ピターは、体を反転させて幻想猛獣に向き直る。

その口から鋭利な牙を覗かせながら、俊敏な動きで襲いかかった。

 

「ギィィアアアアアア!!」

 

このままでは喰われてしまうと思った幻想猛獣も黙ってはいない。

持ちうる全てを使って、ディアウス・ピターを殺そうと攻撃を放つ。

しかし、その攻撃を素早い身のこなしで避けたディアウス・ピターは、その爪牙を持って幻想猛獣を切り裂き、食い千切り、蹂躙する。

 

際限無く膨れ上がった体のせいで、機動力の無い幻想猛獣は、周囲を旋回するようにして襲いかかるディアウス・ピターに常に後手に回ってしまう。

氷柱を放ってもその鉤爪で全て砕かれ、火球はディアウス・ピターの展開する電磁フィールドの前に霧散してきえる。

ならばと、風力使い(エアロシューター)で突風を起こし吹き飛ばそうとしても、それを物ともせずに弾丸となったディアウス・ピターがその身を引き裂く。

いくら再生されると言ってもじわじわと体を貪り喰われていく感覚に悲鳴を上げる幻想猛獣は、何とかして引き剥がそうとするが、その全てを突破される。

 

だがそれも無理もない、別世界においてアラガミは人類を滅亡一歩手前まで追い込んだ天災とも言える存在。

それは即ち、人類の叡智を持ってしても打倒することが出来なかった事を言う。

人の手を離れたといはいえ、人が作ったネットワークから生まれ出でた幻想猛獣ではアラガミたるディアウス・ピターを倒せないのも道理と言えるもの。

だけど、このまま黙って喰われる続けるだけではない。

幻想猛獣は、奥の手である転移能力を使ってディアウス・ピターの真上に転移した。

 

先程使用した連続転移によって、自身の転移には多大な負荷がかかることは分かっていた。

だが、それでもとこのまま喰われ続けるのを嫌った幻想猛獣はそれを実行する。

繋がった脳が悲鳴を上げるのを感じながら、その大質量を持ってしてディアウス・ピターを押し潰した。

 

「GA!?」

 

初めて目にする転移という能力に不意を突かれたディアウス・ピターは、そのまま幻想猛獣の下敷きになってしまう。

その余波で発生した小規模の地震と砂埃に、静観していた美琴とピカチュウは顔を顰める。

 

「ちょっと、やられちゃったんじゃないの?」

 

圧倒的強さを見せつけたディアウス・ピターだが、あれだけの大きさの幻想猛獣の下敷きになってしまっては一溜まりも無いと、美琴は懸念を溢す。

確かにいくらアラガミのディアウス・ピターと言えども単純な物理攻撃による打撃は効果があるだろう。

アラガミを構成する細胞が再生するという機能を持っているとしても、これには然しものディアウス・ピターも唯ではすむまい。

 

「ギィィァァァァ」

 

幻想猛獣は、脅威が去ったことに安堵するかのように、耳障りな声を漏らす。

しかし、それは長くは続かない。

幻想猛獣の下から強大な赤雷が迸り、その巨体がバラバラに引き裂かれたからだ。

 

「ギィィィィィアアアアアアア!?」

 

バラバラになった体が赤雷によって吹き飛び、文字通り木っ端微塵に吹き飛んだ幻想猛獣は、その顔に驚愕を露にする。

 

押し潰した筈のディアウス・ピターは、その身を変化させて飛び出してきたのだ。

背中から刃のような翼が生えたその姿に、今までの青白い電気よりもより荒々しさの増した赤雷を撒き散らしながら、ディアウス・ピターは雄叫びを上げる。

 

「GAAAAAAAOOOOOOOO!!」

 

災厄は、止まらない。

 

 

 

 

 




人じゃないモンスターの声は、出来るだけ分かりやすいように変えていこうと思います。

モンハンなら「ガアアアァァァァ」
アラガミなら「GAAAAAAAOOOOOOOO」
BLEACHの虚なら「■■■■■■■」

のような感じで。
直ぐにバリエーションが切れそうなのが心配ですが……。

それと、活動報告の方にこの作品のパワーバランスについて書いておいたので、『アラガミがこんなに弱い訳無い!瞬殺出来て当然だろ!?』と思う方や『コイツにはコレをぶつけたら楽勝だろ、何でしないの?』と思う人は、そちらの方を読んでから感想の方、よろしくお願いします。

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