とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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投稿が遅れてしまって申し訳ない!

まぁ待たされ分、早く本編を読みたいと思っている愛読者の皆さんは、作者の言い訳なんかいいから続きを読みたいと思ってくれてそうなので、このぐらいにしときます。

え?だったら最初ッから書くなって?
だって久々の投稿で書き方忘れちゃってたし、ちょっと怖かったんですよ。
すんません。





十六話

幻想御手(レベルアッパー)事件の首謀者である木山春生は、幻想御手の使用者が急激に増える予期せぬ事態に頬を緩めていた。

 

先日起こった、アイドルのコンサートでの幻想御手が流された事件。アレのお蔭で当初予定していた数を越える学生をシステムに繋ぐ事が出来た。

目的達成を前に高揚する頭とは裏腹に、胸の奥が罪の無い学生を己の我儘の為に巻き込んでしまったことにズキリと痛んだ。

 

だが、今さら止める訳にはいかない。

実際に、もう後戻りが出来る段階は疾うに過ぎている。研究室に無断で誰かが入ってくるような事があれば、パソコンに残る、幻想御手に関するデータ等を全て消去する仕掛けがある、それが起動した。

つまり、自分が犯人だと言うことが発覚してしまったのだろう。

 

あのコンサートは、計画を早めるだけでなく己の犯行を見つける手がかりを警備員に掴ませる切っ掛けにもなってしまったのだ。

もしかしたら、アレを仕掛けた人物は初めからコレが狙いだったのかもしれない。

本当に幻想御手の副作用を知った上であんなことを実行したのだとすれば余程の狂人だ。

だが、道徳を無視すれば効果的なやり方だった事は否めない。

 

アレほどの規模の惨事でなければ、ここまで学園都市の上層部が、この事件に重い腰を上げることは無かっただろうし、幻想御手も目覚めない事を除けば、体に後遺症が残る心配もない。

ワクチンプログラムを使えば、直ぐに目覚めるだろう。

なんと狡猾で冷徹で無慈悲な手口なのだ……。

その人物には己の考えは全て読まれているのかもしれない。

その上で、自分を泳がせている。

将棋の駒を動かすように、一手一手、此方の手を読み己は手を下さず他者を誘導して私を捕まえようとしている。

 

「私は、随分と厄介な者を敵に回してしまったようだ……」

 

自分の手足が恐怖で怯む、これからの自分の行動さえも既に予測されているのではないか?と。

だが自分には、何を犠牲にしてでも果たさなければならない、使命があるのだ。

 

言い知れぬ恐怖を感じる木山は、それを拭いさるようにアクセルを踏み込む。

車で高速道路を移動する木山は、悲願の為に目的地へと急ぐ。

 

しかし、己の予測がまるで正しいかのように、高速道路を封鎖した警備員(アンチスキル)が往く手を阻んでいた。

 

「木山春生だな。幻想御手散布の被疑者として拘束する、直ちに降車せよ!」

「警備員か。まったく、一体何処までお見通しなのやら……」

 

やれやれ、と言わんばかりにハンドルに凭れ掛かった木山は、うんざりしたように呟いた。

数秒、どう切り抜けるか考えると、警備員に言われた通りに車から降りる。

 

「両腕を頭の後ろで組んで、その場で俯せになれ」

「…………」

「……もう一度言うぞ、両腕を頭の後ろで組んで、その場で俯せになれ!」

 

警備員の女性が警告するも、木山はまるで聞こえていないかのように、その場で佇んで動かない。

 

「まったく、嫌になるよ。今までやってきた事が全て、何者かの掌で踊らされていただけだと思うとね」

 

警備員が再度、警告するも木山は反応を示さない。

それを無視して誰かに語りかけるように彼女は独白(どくはく)する。

痺れを切らした警備員が木山に向かって突撃しようとする間際、木山は警備員に向けて不適に微笑んだ。

 

「試してみようか……一体何処まで予想出来ているのか」

 

木山の左目が赤く染まったのと同時に、警備員の悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 

木山は、幻想御手のもう一つの副作用、いや副産物である多才能力(マルチスキル)を使って警備員を蹴散らした。

多才能力、または多重能力(デュアルスキル)とも呼ばれる木山が披露した異なる能力の発動は、学園都市の研究では脳に負担が掛かりすぎるため実現不可能とされた代物だ。

 

だが木山は、幻想御手という複数の脳を一つのネットワークとして扱うシステムのお蔭で脳に掛かる負担を分担、そして並列演算による能力の複数使用を実現した。

これにより木山は、幻想御手に繋がれた被害者達の能力を無制限に発動することが出来る。

木山が多重能力ではなく多才能力と言ったのも頷ける。

これは、学園都市が研究していた多重能力よりも更に強力な物だ。

 

多才能力を使い、邪魔する警備員を蹴散らした木山は先に進もうとすると、今度は友人が被害に合い、怒り心頭の美琴が木山の前に立ちはだかった。

 

「木山春生!!」

「君か、御坂美琴」

「観念しなさい、もう逃がさないわよ」

「それは出来ない相談だ。あともう少しの所まできているのでね、今さら止めるつもりは無いよ」

「ふざけないで!こんな大勢の人間を巻き込んで一体何をしようってのよ!?」

「君に話しても仕方がない事さ」

 

横転したトラックや横たわる警備員を見て、怒声を上げる美琴に木山は気にも止めないように淡々と言葉を返す。

その様子が、余計に美琴の神経を逆撫でした。

 

「そう、じゃあ何言っても無駄って訳ね」

「何だ、この期に及んで話し合いで解決出来るとでも思っていたのかね」

「別に、私もそこまでバカじゃないわ」

「では、何故?」

「アンタをボコボコにしても、これで言い訳出来るでしょ。私の友達に手を出した付けは、キッチリ払って貰うわよ!」

 

言葉尻に電撃を放つ美琴。だがそれは、木山に当たる前に周囲に飛び散り当たる事はなかった。

 

「そうか。だが、君に一万以上の脳を統べる私を止められるかな?」

「当たり前でしょ!」

 

学園都市最強のlevel5である美琴と複数の能力を同時に使う木山の戦いは、終始木山が優勢だった。

怒りに駆られていても、相手を殺さないように手加減している美琴は木山相手に全力を出せずにいるからだ。

しかし、木山の方は美琴のように殺傷力が高い発電能力だけでなく、あらゆる能力を使って美琴を追い詰める。

 

二人の戦闘は激しさを増し、遂には高速道路が一部崩落した。

下に落ちても尚戦い続ける二人。だが、ここで状況が動いた。

美琴の足元に転移させたアルミ缶を重力加速(シンクロトロン)で爆発させて、倒したと思い油断して近づいた木山に美琴がしがみついたのだ。

そして、今まで散らされていた電撃をゼロ距離で食らった木山は叫び声を上げて膝をついてしまう。

 

だが、勝利した筈の美琴は、喜ぶでも勝ち誇るでもなく呆然としていた。

 

「…何…今のは……」

「グハァ……み、見られたのか?」

 

美琴と木山、二人の間で起こったのは、美琴の放った電撃が偶然にも木山の脳の電気信号と繋がり、木山の過去が見えたのだ。

それは、一連の幻想御手事件の真の目的であり、木山を突き動かしていた原動力にしてトラウマだった。

 

動揺する美琴に真実を告げる木山は、電撃を受けたよたつく足で懸命に立ち上がる。その姿と思いに、美琴はたじろいでしまう。

 

「この街の全てを敵に回しても、止めるわけにはいかないんだぁ!!」

 

強烈な強迫観念に突き動かされる木山は、ボロボロの体になっても止まろうとしなかった。

しかし、戦おうとする木山は、突然頭を抱えて苦しみだした。

 

「ッ!グゥ…ガァ…アア……これは、ネットワークの……暴走……?」

 

倒れこむ木山。駆けつけようとする美琴だが、その足は木山の身に起きた奇妙な現象を前に止まってしまう。

 

頭から胎児のようなナニかが生えてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

幻想猛獣(AIMバースト)

 

木山が美琴の電撃を受けて、幻想御手のネットワークが暴走し生まれ落ちた、AIM拡散力場の化物である。

 

「アンタの相手は私よ!」

「ギァァヤヤヤヤヤ!」

 

故にその体をいくら傷つけようと、周囲のAIM拡散力場を吸収し再生、そして肥大化を繰り返す。

今やその姿は、美琴の電撃を受け最初の子供程度の大きさではなく、マンション並みの大きさまで膨れ上がっていた。

 

「あーもー!何で止まんないのよ!?」

 

美琴は、そうと分かっていても絶えず電撃で攻撃し続ける。

それに対して、幻想猛獣は巨大な氷柱を作り出し、それを美琴に向けて発射した。

咄嗟に反応して電撃を放つも、あまりの巨大さに撃ち落とし切れず、その場を飛び退くようにして回避する。

 

「くッ!多才能力は健在って訳ね」

 

額から滴る汗を手で拭い、幻想猛獣を睨み付ける美琴。そして後ろを振り返り、世の中の定番というかお約束と言うかそう言うものに激しく怒りをぶつけたくなった。

 

「何で原子力の施設に行くのよ。怪獣映画かっつーの!?」

「ギァァァァ!」

 

特大の電撃を放ち、幻想猛獣の体が消し飛ばすがそれも直ぐに再生してしまう。

幻想猛獣の再生力が、美琴の攻撃を完全に上回ってしまっているのだ。

だがそれも無理もない、この怪物は幻想御手に繋がられた者達の能力の集合体。その数は木山が想定して一万人を大きく越えてその倍、2万(・・・)人もの学生達の脳を相手しているのだから。

 

美琴は、効果が薄いと理解していながらも、懸命に応戦を続ける。

そして幻想猛獣も、対抗するように様々な能力を使って美琴に反撃した。

 

念動使い(サイコキネシス)

 

水流操作(ハイドロハンド)

 

発火能力(パイロキネシス)

 

電撃使い(エレクトロマスター)

 

風力使い(エアロシューター)

 

その一つ一つが2万もの脳による演算処理が行われる、凡そlevel4クラスの能力強度で放たれた。

さしもの美琴でも全てを捌き切るのは不可能、徐々に後退を余儀なくされる。

 

「こうなったら!」

 

押され始めた事で形振りかまってられなくなった美琴は、ポケットからコインを取り出し、十八番にして切り札である超電磁砲(レールガン)を放った。

 

「ギァァァァヤヤアアアアアア!!」

 

超電磁砲は、幻想猛獣の放つ全ての能力を打ち払いその体を貫いた。しかし、超電磁砲の攻撃は幻想猛獣の体積に対して余りに攻撃の範囲が狭すぎた。

攻撃を打ち消せても、足を止めることが出来ない。

 

「まだまだぁ!」

 

しかし、美琴は畳み掛けるように次のコインを構えて超電磁砲を放つ。

弾数制限のある超電磁砲の連射。長続きしないことは分かっているが、目前まで迫ってしまった原子力研究所を前に美琴は、この選択を選ばざるを得なかった。

 

次々と放たれる、防御不能の攻撃に成す術の無い幻想猛獣。いくら2万の脳を持っていたとしても、美琴という突出した個を真っ正面から打ち破る能力は有していなかったのだ。

そう、真正面からは……。

 

「……なッ、消えた!?」

 

超電磁砲を撃ち込んでいる最中突如、幻想猛獣がその姿を消した。

あの巨体で何処かに隠れれる訳がないし、まして透明になったという訳でもない。

ならば、残る可能性は一つしかない。

 

空間転移(テレポート)!ウソでしょ、あの巨体でなんて!?」

 

美琴からして右側に、消えた筈の幻想猛獣が姿を表す。

一瞬の出来事だったが、最近何かと空間転移の能力者と絡む事が有ったために即座に反応出来た美琴は、舌打ちしながらも冷静に超電磁砲を撃ち出す。

しかしそれさえも、転移によって回避される。

 

「連続転移まで!」

 

本来なら空間転移にはその者のlevelに応じた重量制限が存在する。幻想猛獣のような何トンもの重量を転移することなど本来なら不可能、まして連続での転移など相当な負荷の筈。

それは2万の脳を有していても変わらず、幻想猛獣は苦しみの悲鳴を上げる。

 

原子力施設の上空から(・・・・・・・・・・・)

 

「ヤバい!!」

「ギィィヤヤヤアアアアアァァァァ!!!」

 

血相を変える美琴だが、分かったところで美琴には幻想猛獣程の質量を受け止めることも、跡形も無く消し飛ばす手段も持っていない。

 

(終わった)

 

そう、心の中で悟ってしまう。

そして、上空から降ってきた幻想猛獣が原子力研究所の上に落ちる。

思わず目を瞑った美琴は、幻想猛獣の着弾に伴う衝撃に地面に伏せるようにして耐えた。

 

ドゴォォォォォォォォォォォォ!!!

 

強烈な地震と突風、土煙が舞い上がり周囲を覆い尽くす。

 

「ど、どうなったの……?」

 

じっと耐える美琴は、目の前に広がっているであろう、凄惨な光景を想像して固唾を呑む。

目を開けて見ると、そこに有ったのは粉々に押し潰された原子力研究所、ではなかった。

 

「え?」

 

慌てて駆け寄る美琴は、原子力研究所があった場所が綺麗な正方形にくり貫かれていることに気がついた。

その正方形のクレーターの中心には健在の幻想猛獣がキョロキョロとしながら当たりを見渡している。

美琴も、研究所を探して当たりを見渡すとそれは直ぐに見つかった。

数キロ離れていてもわかるほどに目立つ、正方形の地面の上に立つ原子力研究所。

この現象、こんな事が出来る奴は一人しかいないと、直ぐに美琴には想像がついた。

 

幻想猛獣のような多数の脳を使わずに、単独でアレほどの大きさの建造物を転移させられる能力者など、この学園都市に唯一人。

 

何時も何考えてるのか分からない無表情で、ちょっとだけ顔がカッコよくて、動物虐待を平気でするクズ野郎。

 

「アアアァァォォアア!!」

「しまッ!?」

 

思考の海に沈んでいた美琴の隙を突き、幻想猛獣は巨大な氷柱を発射した。

意表を突いた攻撃に反応が遅れる美琴、氷柱が美琴を貫こうという瞬間。

巨大な氷柱が横殴りされたようにして粉々に砕け散った。

 

「あ、アンタは……!?」

 

美琴の窮地を救ったその人物は、背中を向けながら此方に顔を向けてドヤ顔で親指を立てる、先程想像した人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピッカア!」

 

ではなく、野生のピカチュウだった。

 

 

 

 

 

 

「は、はは……何だアレは。まったく、まさかあんな化物が生まれるとは、学会に出せば表彰ものだ」

 

幻想猛獣が生まれた事で気を失っていた木山は、目を覚ますとそんな言葉を漏らした。

 

level5の第三位と対等に殺りあえる怪物を産み出したのだから、それもあながち間違いではないが、木山にその気がないのは見るからに明らかだった。

生気を感じさせない瞳で、往く末を見守る木山は幻想猛獣が原子力研究所の上に転移した瞬間に、計画の終わりと、自らの命が最悪の形で終わるのだと諦めた。

 

なり響く轟音。しかし、自らを襲う筈の死という運命だけは、やって来ることは無かった。

 

「……木山先生」

「……ん?」

 

目を瞑り、死を待つ木山は、自分を呼ぶ声を聞き目を開く。

 

「……これは、走馬灯という奴か?てっきりあの子達の顔が浮かぶと思っていたが、まさか君を思い浮かべるとはな……。私も女だったということか」

「…………」

 

木山の前に立っていたのは、この騒動を解決する為に駆けつけた上乃だった。

木山の寝惚けた発言を聞き、自分が幻ではないと認識させるために彼女の手を取る。

 

「どうやら、本物らしいな」

「…………」

 

漸く現実を把握した木山は、周囲を見渡し上乃が原子力研究所をその地盤ごと転移させて幻想猛獣から守ったのだと把握した。

 

「出鱈目な力だな。しかし、流石の君も不死身の怪物は殺せまい」

「…………」

「あの怪物、そうだな幻想猛獣とでも名付けようか。

あれはAIM拡散力場を触媒に一万人以上の子供達の思念が形になった怪物だ。斬ろうが焼こうが、決して死なない化物だよ。

……あの超電磁砲と一緒に戦っている黄色い生き物は君の物かい?大した物だが、それでもアレは止められない」

 

遠くで幻想猛獣と戦いを繰り広げる、美琴とピカチュウ。確かに彼等は幻想猛獣を押してはいるが、木山の言うとおり決定打となる物が足りていなかった。

更に木山は、白衣のポケットから黒焦げの何かを取り出した。

 

「アレを唯一止められるかも知れなかったこの幻想御手のワクチンプログラムも、超電磁砲との戦闘で壊れてしまった。復元は不可能、もう打つ手は残っていない」

 

どうだ?とそれでも止めることが出来ると思っているのか、と言外に木山は上乃に聞いてきた。

 

「…………」

 

上乃は何も答えない。代わりに、木山の手を掴む腕に力を入れた。

 

「諦めるなとでも言うのか?」

「…………」

「なら、私に見せてみろ」

 

もう、何もかも擲ってしまった木山は、投げやりにそう返す。

それに対して、上乃は何時も通り返答は言葉ではなく行動で示した。

 

戦いを続ける一人と一匹と一体の間に次元の裂け目が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 とある勘違いの次元移動

『災厄降り立つ』


次はもっと早く更新出来るよう努力します。

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