とある勘違いの次元移動   作:優柔不断

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テンポよく話を進めたいので、少し飛び飛びになっていますが許してください。
早いとこやりたい話もあるので。



十三話

佐天涙子は、柵川中学に在席する女子中学生だ。

彼女は、いたって普通の何一つ特筆することの無い存在だった。

幼少の頃、超能力者になると大見得切って学園都市にやって来たものの、自分に与えられたのはlevel0。無能力者の烙印だった。

 

だが、彼女が特別何か不自由に感じることは無かった。

虐められることもなく、友達にも恵まれ、学業にも励み、不満はない。

それでも、自分に対する劣等感と高位の能力者への嫉妬と言う暗い感情を払拭することが出来ずにいる。

 

学園都市に来るとき、弟に超能力者になると羨ましがられ、憧れられているという事実に気を良くしていた頃を今でも鮮明に思い出す。

なのに何だ、今の体たらくは。

彼女も人並みに努力したが、一向に上がることの無いlevel。自分の才能の無さに涙することもあった。

そして、いつしか彼女は努力することを止め、友達との楽しい日々だけを享受するようになった。

朝学校に行き、放課後は友達と遊ぶ。それを何日も何ヵ月も何年も繰り返し、ただただ惰性に日々が過ぎていく。当初の目的も忘れ彼女は、そんな日常に満足してしまっていた。

 

そんなある日のことだ。友人が知り合いにlevel5の超能力者を紹介してもらうとのことで、それに興味本意でついていった日。出会ったlevel5である御坂美琴は、自分が想像していたような人物ではなく、自分と何ら変わらない少女だった。

可愛いキャラクターが好きで、甘いスイーツを美味しいと思い、友人との関係を大切にしていた。

 

何だ、自分と何も変わらないじゃないか。━━━━と、思った矢先の出来事である。

 

近くの銀行が襲われたのだ。風紀委員である友人が事件解決に奔走するなか自分にも何か出来ないかと右往左往していると、犯人の一人が子供を人質に取ろうとした。彼女は咄嗟に助けに入り、何とか子供を守ることが出来たが、その時に怪我を負ってしまう。

そして、佐天は目の当たりにすることになる。無能力者と超能力者とでは筆舌に尽くし難い、絶対的な壁というものを………。

 

佐天が傷つけられたことに激昂した美琴が、犯人の乗る車を彼女の代名詞である超電磁砲で吹き飛ばしたのである。

だが、そこに更にだめ押しと言わんばかりに、もう一人のlevel5が現れた。

いつの間にか拘束から逃れた犯人が一般人の少女を人質にとった時に彼が、上乃慧巌が犯人を制圧したのだ。

 

佐天は見てしまった。美琴の強さを上乃の力を。超能力を扱うものだけが持つ輝きを。そして━━━━━上乃の面貌を………。

 

一度溢れだした物は、もう押さえることが出来ない。

彼女のようになりたいと……彼の近くに居たいと……。

憧れと恋心が複雑に絡み合い、佐天の心を締め付ける。だが、自分にはそれを実現するだけの能力が無い。ならばどうすればいいのか、彼女は考えた。けれども一向に糸口が見えない。こうしている内に彼が何処かに行ってしまうかもしれないと、ありもしない妄想が佐天を焦燥させる。

そんな時に、ある噂が彼女の元に舞い込んだ。それは正に、今彼女が求めている物に他ならなかった。

 

幻想御手(レベルアッパー)』と言う、levelを上げることが出来る代物があるのだと。佐天は、藁にもすがる思いでそれを探した。超能力者とは言わない、せめて1つでもlevelが上がれば……無能力者でなければ希望が持てる。

そして遂に彼女は、幻想御手を手に入れ使用した(・・・・)

 

それは、あの人達とは比べることすら烏滸がましい、ちんけな力であった。しかし、それでも、長年無能力者であった佐天にとって夢を見ているかのような気持ちにさせた。

 

「私は、能力者になったんだ………!」

 

自分の中の劣等感が消え、消えることの無かったコンプレックスが解消されていく感覚が佐天を満たし、充足感が彼女に自信をもたらした。

 

そして上乃に会いに行こうと思った。まだ、こんな自分では相手にされないかもしれない。それでも成長した自分を見てもらいたい、そんな思いを胸に家を出る。

向かうのは一番の親友がいるであろう風紀委員の支部。彼は一度そこで事情聴取を受けている。そこでなら彼の住所が分かるかもしれないし、無理なときは頼れる親友が力になってくれるだろう。

少しの打算を考えながら街を歩く。いつも通りの風景だ何一つ変わらないのに、今はそれら一つ一つが色づいて見える。

これも全て幻想御手のお蔭だ。だからだろう、幻想御手と言う言葉を、彼女は聞き逃さなかった。

 

「幻想御手、売ってくれるんじゃなかったのかっ!?」

 

その声は人目につきにくい、廃ビルに囲まれた場所だった。そこに気弱そうな男性と三人のいかにもといった装いの不良がいた。

物陰に隠れて様子を伺う佐天は、彼らの様子を観察する。

どうやら三人組は幻想御手を売ると言って騙し、気弱そうな男性から更に金を巻き上げようとしていた。しかし、男性はそれを渋った為に三人組は幻想御手によって上がった能力の実験台にしようとする。

 

(これ、不味いよね。と、取り敢えず警備員に連絡ッて、充電切れ!?)

 

都合悪く、携帯の充電が切れてしまい警備員に通報することが出来ない。

これでは仕方がない、彼女には何も出来るはずも無く今までなら黙ってここを去っただろう。

しかし、今の彼女は違った。

 

「や、止めなさいよ!」

「あぁん?」

 

その場を去るのでは無く、佐天は三人組の乱暴を止めに入ってしまう。

 

(わ、私はもう前の私じゃない!)

 

幻想御手によってlevelが上がったことにより佐天は、端的に言うと調子に乗ってしまったのである。

止めに入った佐天に、三人組のリーダー格であると思われる金髪にタンクトップの男が近寄る。

身構える佐天は、能力を発動しようとした━━━━だが、使えなかった。

 

ドガッ!

 

「え?キャッ!?」

「今、何つった?」

 

金髪の男が佐天の頭のすぐ横を蹴り抜く。それは後ろの壁が凹む程の威力で佐天は突然の事に何が起こったのか理解できなかった。

そして、金髪の男は間髪入れずに混乱している佐天の髪を掴み上げる。その行為は、ただの女子中学生である佐天を恐怖させるには充分だった。恐怖に震える佐天は、能力を使うのを止めてしまう。

 

「ガキの癖に生意気言うじゃねーか。だがな、何の力も無い奴(・・・・・・・)にゴチャゴチャ言う資格は()ぇんだよ」

(何の……力…も……)

 

その言葉は、幻想御手を使って自信をつけた佐天の心を容易くへし折った。

確かにその行いは素晴らしいのかもしれない、称賛にされるべきものなのかもしれない。だが、彼女の行いは無謀と言う他無かった。

この状況に際して、逆に冷静になった佐天自身がそれを認めてしまう。

 

(そう、だよね……少しlevelが上がったぐらいで、私に……何が出来るって言うんだろ)

 

自虐的になる佐天。少し前までの自惚れていた自分を恥じ、そして悔いた。今の自分が憧れの相手である彼の前に出ようなんて……。もう佐天には、抵抗する気力は一欠片も残っていなかった。

 

「風紀委員ですの!」

「し、白井さん………」

 

佐天は、このまま成す術なく痛め付けられるかに思えたが、それは治安維持組織の1つである風紀委員の呼び声で止まる。

声のする方を見てみれば、そこにいたのは親友と同じ風紀委員であり同僚の、白井黒子が立っていた。

 

「暴行障害の現行犯で拘束します」

「はっ!誰かと思えば、ガキが一匹増えただけじゃねぇか」

 

黒子は、淡々と彼らの罪状を述べた。

最初は風紀委員の登場に驚いた三人組だったが、風紀委員が黒子一人と見ると先程の調子を取り戻し、押さえつけとようと黒子に手を伸ばす。

 

「お気をつけあそばせ、只でさえ無駄足が続いたあげく、漸く見つけた取引現場で友達が暴行されていたのですから」

「はぁ? 何言ってやがんだ」

 

黒子の肩を掴む不良の男。黒子はその男の胸にそっと手を添えた。

 

「ッグァ!」

 

肩を掴んでいた男は、上下逆さまになり、頭から地面に激突した。

黒子が空間転移(テレポート)を使って、男を上下反対に転移させたのだ。

 

仲間の一人がやられたことに怒った不良は、念動力のような能力を使い近くにあった廃材を黒子に向けて飛ばす。黒子はそれを転移を使い易々と避け、そのまま男の懐に入り込んだ。

突然の接近に驚いた男が怯るむと、黒子は顔面目掛けて学用鞄を振り抜いた。

 

「ガァ!」

 

たった一撃で失神してしまった男を確認した黒子は、最後の一人。佐天の髪を掴んでいるリーダー格である金髪の男を睨み付けた。

金髪の男も仲間の二人を瞬く間に片付けてしまった黒子を見て、戦闘体勢に入る。

しかし浮かべている表情は笑みであり、自分が負ける心配など毛ほどもしていないことが伺えた。

 

「面白れぇ能力だなぁ。空間転移って奴か?初めて見たぜ」

「他人事のようにおっしゃいますが、次は貴方の番ですのよ」

「クククッ。幻想御手を使ってlevelが上がった今、そこらの雑魚と一緒にすんじゃねぇーよ」

「たかが貰い物の力(・・・・・)で良くもまぁ、そこまで増長出来るものですわね」

 

両手を広げて突進して来る男。黒子は捕まえられる直前に男の後方に転移して避ける。

そして反撃しようと振り向くが、そこには誰もいなかった。

 

「え、消えた?━━━━………ッ!」

 

完全に後ろを取った筈の黒子は、逆に後ろから攻撃を食らう。混乱するが男が繰り出した蹴りを咄嗟に鞄で防ぎダメージを最小限に抑えた。

 

(そんな、私の方が回り込むように飛んだ筈なのに!?)

 

この一瞬の攻防で相手が一筋縄ではいかないと判断した黒子は、太股に巻いてあるホルスターから鉄の針を取り出した。

あまり相手に怪我を負わせる訳にはいかないが、速やかに制圧するために針を男の体に直接転移させようとする。

相手と自分の位置を把握して、万が一にも人体の重要な器官を傷つけないように慎重に飛ばす。

 

「外した!?」

 

完璧な演算の元に飛ばした針は、全く検討外れの所に現れた。

男は取り出したナイフを振るい切りつけようとするが、黒子は冷静に対処し、後ろに下がって距離を取る。

なぜ、予想と違う場所に針が飛んだのか、違う位置に転移してしまうのかわからない黒子は、敵の動きを観察する。

男は刃物を持っていて、此方はまともに攻撃が当たらず、空間転移による回避する危ぶまれる状況では危ない賭けとしか言いようがないが、それしかないと決行する。

 

再び迫る金髪の男、黒子の頭目掛けて蹴りを放つ。黒子は敵の動きを予想し鞄で頭部を守る。

 

「グッ!」

 

だがそれもまた、予想とは違い、頭部ではなく横腹にヒットした。

あまりの威力に吹き飛んだ黒子は、廃ビルの窓に衝突し、その勢いで突き破ってしまう。

 

「うっ、グゥゥ……!」

「いい感触だったぜ。あばらの二、三本はいったか?ハハハハッ!」

「し、白井さん!?」

 

痛みに蹲る黒子を嘲笑う金髪の男。その様子は長年抑圧されてきた不満を解消できて心底楽しそうである。

 

(やはり、予想とは違うところにッ。……不味いですわね、肋骨が折れてあまり動けそうにありませんわ。下手に動くと内臓に刺さるかも……)

 

あまりの痛みに動けない黒子。相手の出方を伺うだけのつもりが重傷を負わされて、冷や汗がたらりと頬を伝う。

首だけ後ろを向くと、厭らしく笑みを浮かべた男が手にナイフを遊ばせながら廃ビルの中まで歩み寄ってくる。

今まで項垂れているだけだった佐天も、黒子がやられそうになると思わず名前を叫んでしまう。だが、この状況を彼女がどうにかすることは出来ない。ただひたすらに、己の無力に苛まれていた。

 

黒子は、どうすれば現状を打破出来るのか必死に頭を巡らせると、目の前に突如フードを目深に被った男が現れた。

 

「あん?何だテメエ?」

 

突然の乱入者に首を傾げる金髪の男。黒子と金髪の男の間に割って入ったフードの男は、後ろで倒れている黒子に振り向くとそのフードを取った。

 

「貴方は、上乃さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、貴方がここに?」

「………」

 

上乃の登場に目を見開いた黒子は、彼にこの場にいる理由を問うた。しかし、返事は帰ってくること無く、上乃は無言で金髪の男に向きなおった。

 

「なんだ?今度はテメエが相手になるってか?色男さんよぉ」

「い、いけません!上乃さん、これは風紀委員の仕事。一般人である貴方の手を借りるわけには」

「………そんな怪我で何が出来る」

「そ、それは……」

 

上乃の言うとおり、もうまともに戦えないことは黒子自身がよく分かっている。

だが、いくらlevel5と言えども彼はただの学生なのだ、そんな上乃の手を煩わせてしまうことに歯噛みした。

 

「心配するこたねぇよ。コイツをやった後は、じっくり続きをしてやるからよぉ。なぁ、おい!」

 

上乃に切りかかる金髪の男。だが能力によって体をすり抜け、上乃は、すり抜けた男に向かってカウンターで裏拳を放つ。だがそれは空振りに終わり、男はいつの間に移動したのか廃ビルの外に出ていた。

上乃は、避けられた事に対して一切動揺すること無く、次の攻撃に移る。

空間が歪み、そこから西洋の剣が頭を覗かせる。見覚えのある現象に黒子は、それが銀行強盗の犯人を吹き飛ばした攻撃であることを思い出した。

現出した剣を何の躊躇(ためら)いもなく男に向けて射出し、それは着弾と共に粉塵か周囲に舞い散った。

上乃は、一瞬やりすぎたか?と思ったが、それは煙の向こうから聞こえる男の声から只の杞憂(きゆう)であると悟った。

 

「おいおい、随分と物騒な能力だな。当たってたら死んでたんじゃねぇか」

 

煙が晴れると、そこには抉れたコンクリートから離れた所で、傷1つ無い男が立っていた。

奇妙な出来事に頭を傾げる上乃。なぜ避けられたのか理解できずにいると、後ろで倒れている黒子から男の能力について教えられた。

 

「上乃さん、落ち着いてください。あの男の能力は只の目眩まし、自分の周囲の光をねじ曲げることで位置をずらしているだけです」

「はっ!漸く気づいたか」

 

光を曲げることにより、誤った位置情報を相手に誤認させるのが男の能力。

その力で黒子の攻撃は当たらず、逆に防いだ筈の攻撃が防げずに当たるなどの芸当が出来たのだ。

しかしこの能力自体は、さほど強力な物ではない。

だが、こと格闘戦や、相手の位置情報が重要になる空間転移能力者相手ならば、頗る強力な武器となる。

 

「オレ達はよぉ、幻想御手が手に入れるまでは、テメエ等風紀委員にビクビクしてたんだ。だからな、デケェ力が手に入ったらギタギタにしてやりてぇと思ってたんだぜ!

ハハハッ、俺の能力、偏光能力(トリックアート)が分かったところで何が出来んだよ!」

 

(確かに、わたくしと同じ空間転移能力者である上乃さんとの相性は最悪。いくらlevel5と言えども位置情報が分からなければ、転移のしようがない)

 

改めて相手の能力の厄介さを理解した黒子は、心配するように上乃の背を見つめる。

敵の能力を知った今なら相手が何れだけ面倒なのか理解している筈、なのに彼は身動ぎ1つしようとしない。

 

確かに相性が悪いのだろう。遠距離からの攻撃も当たらなければ意味を成さない。

━━━━しかし、そんな事は上乃には関係なかった。

上乃は、ゆっくりと金髪の男に近寄って行く。

 

「そろそろ……ケリつけようやぁ!」

 

真っ正面から振るわれるナイフを見据える。それは先程と同じように上乃の体をすり抜ける━━━━かに思えた。

 

「な、何!?」

 

正面から振るわれた刃は上乃の体をすり抜けるのではく、光が歪むようにして消えた。

偏光能力を使った残像だったのだ。そして本命である攻撃をがら空きの背中に放ったにも関わらず、それは上乃の右手にあっさりと止められていた。

その驚愕すべき現実に金髪の男と黒子は、目を見開いた。

 

「ば、馬鹿な……!?く、クソッ離しやがれぇ!」

 

分からない筈の自分の居場所が特定され、尚且つ死角からの攻撃を受け止められた男は慌てて上乃の腕を引き離そうとする。

しかし、どんなに抵抗してもビクともせず離れない。

どんどん焦る男だが、上乃はあっさりと自分から手を離した。

 

「……?」

 

男が疑問に思うのも束の間、上乃の姿が消えた。

その能力が先程見た風紀委員のガキと同じであると理解した男は周囲を見渡す。

何処にも見当たらないが、ふと自分の足元を見ると、己の影以外にもう1つ、影が重なっていた。

男は慌てて廃ビルの屋上を見る。

そこには、蹲る佐天と黒子そしてこちらを見下ろしている上乃がいた。

 

「………お前、風紀委員にビクビクしていたと言ったな」

「だ、だったら何だってんだ!」

 

上乃から発せられる声は、とても屋上から言っているとは思えないほど鮮明で、そして全身に鳥肌が立つような不気味さがあった。

 

「………なら教えてやる。本当の恐怖って奴を」

 

 

 

 




いくら女子中学生でもあんなにぶっ飛ぶ程の蹴り食らって立って歩けるとは思えなかったので、主人公とバトンタッチしてもらいました。

それと別に私は佐天さんの事が嫌いではないので悪しからず。

次回
金髪の男が地獄を見ます。

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