どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第六話

 

 

「さぁてと。準備は出来たし、ボクはそろそろアレンと遊びに行ってくるよ」

 

「おい傘、止めなくていいのか?」

 

「……仕方ないレロ。既にこのナマモノと接触した時点でどうしようもないレロ」

 

 ロードは賭けの商品である俺のコートを羽織りながら立ち上がり、レロを片手にぶら下げて床を突く。

 するとそれを起点とし円が描かれ、そこに黒い穴がポッカリと開く。ロードはそれを一瞥して、俺に向けて手を翳し横に振る。すると、再び現れたロープにギッチリと椅子に縛られる。どうやらロードは、俺をここから出さないつもりらしい。

 

「邪魔しないでねラック。AKUMAの魂の見えるエクソシストなんて珍しいんだからさぁ。それに、可愛いお人形もいるし」

 

「……一応言っておくが、俺はエクソシストだ。アイツらに何かあれば容赦しないぞ?」

 

「あはは! 無理してるねラック! その顔は面白いよ。もっと、興味が出てきた、アイツらを傷つけたときラックはどんな顔をするのかなぁ?」

 

 そういうロードの目は、純粋な好奇心から来ているものもあれば、ノア独特の考え方からくる狂喜が見て取れる。……なんか火を付けちゃったっぽいんだけど大丈夫だろうかアレンたち。 

 

「さ、決まり決まり! ラックはそこでゆっくり見てなよ。大丈夫、ラックの表情は何時でも確認しておくからさ!」

 

「待っ!?」

 

 俺が静止の声を上げる前に、ロードはバイバイと手を振って穴へと足を踏み入れた。よく見れば、俺がいる空間の床が透けてみえる、更にその奥を見れば幾つもの不思議空間がアチコチに存在している。

 

「……ホント、マズイなぁこれは」

 

 呟けば、希望であった出口であるロードの通っていった穴が塞がってしまった。

 つまり出口は、ない。

 

「取り敢えず、縛りだけでも解いておかないとなッ!」

 

 コートの袖を何度か揺すり、隠しナイフを掴み取る。念のためイノセンス化しておいて手首を動かし切り刻む。これで両手は自由になった。後は足のロープを切って自由の身だ。

 その後、座りっぱなしで固まった体を簡単にほぐしてから脱出の方法を考える。

 

「っりゃ!」

 

 試しに先ず蹴りを入れてみる。

 するとガン! という音と、俺の足に激痛が走っただけでなんの変化もない。

 

「っつ~~! 固いな、これ!」

 

 続いて腰の剣を取り外し、イノセンス化して振るう。

 しかし、これもあまり効果をなさない。やはり、純粋なイノセンスでもない擬似化状態では手も足も出ないのだろうか。そんな考えを振り切るように、何度も何度も剣を振るい続ける。

 

「くそ、ヒビ入れるのが限界か……これ以上やっても間に合わないし……」

 

 乱れた呼吸を整えながら、眼前の空間で起こっている戦いに目を向ける。

 一つの箱の中にはロード、そしてレベル2のAKUMAが数体おりそれとアレンが一人で戦っている状態だ。リナリーはなにやら豪華な服に着替えさせられてロードの傍で目を虚ろにしてなすがままにされている。要は人形扱いだ。

 確か、ここ戦いの終盤にアレンに対しての精神攻撃が行われるはず。すなわち、救うべき対象の抹殺。AKUMAはエクソシストにより破壊されれば魂の束縛は解け開放されながら逝ける。だが、そうでない場合は最悪だ。今回行われるのは、ロードによる自爆命令でAKUMA一体が自爆しダークマターごと魂が消滅すると言う事態。

 その光景をアレンは見てしまうし、救えなかったことを痛感させられる。

 

「流石に、放っておけんだろ」

 

 見えない俺ですらこうなのに、見えてしまうアレンの心情は計り知れない。それを糧に進めるのかもしれないが、救いたい。

 

「でも、ここからでないとどうしようもない……使うしか、ないのか?」

 

 心臓の辺りに手を置く。

 確かにコレを使えば必ず出られる。

 だが、同時に世界に馴染みゆく。恐らく、あの夢だってそれが原因だ。馴染めば馴染むほど、過去の『名前』なんて必要なくなる。すでに俺は自分の名前を失いつつあるし、もしかしたらあの友人たちの名も忘れるかもしれない。

 

「……選べってか。こういう時、どうするんだっけな」

 

 ――迷ったとき? 私好みに当たって逝けばいいのよ! あ? 逝けの漢字が可笑しい? 気のせいよ!

 

 ――迷ったとき? は、俺は俺の好きなようにするだけだ。お前はどうしたい、馬鹿弟子一号。

 

「……うわぁー、どっちにも同じ様な考え持つ人がいたよ。……ん、それじゃあ俺も――」

 

 好きなようにやる。

 今は兎に角、アレを助けたいから剣を抜く。

 

「――イノセンス、発動『無毀なる湖光(アロンダイト)』!」

 

 心臓の鼓動が消える。

 普通ならば死ぬのだろうが、イノセンスに犯されてきたこの身。法則やらはあまり関係ない。心臓は無いが、動ける。要は心臓の取り外しが可能になったと言うところだ。無論、剣壊されたら俺の心臓も壊れるけど。実にスプラッタ。

 噴出する黒い光り。

 本当にイノセンスかと疑うような黒い気配。

 ズブリと抜け出てきたソレは、圧倒的な存在感を辺り一面にまき散らし、放出される黒い光りが収まればその赤黒い刀身を露出させる。

 聖剣であったが、魔剣の属性を得てしまったランスロット本来の武器。

 かのエクスカリバーと同様起源を同じとする神造兵装。

 

「ぅ……あー、やっぱり完全開放は無理か。シンクロ率が足りないんだよな」

 

 まぁその御陰で完全封印ともならないのだから良しとしたいが。

 この剣大っぴらに使ってたら更に目を付けられる。何せイノセンスの筈なのにこの気配。神気とかどこ行ったのって感じだ。ルベリエとかがコレを見たら、

 

『エクソシストを偽った、ノアの内通者ではないかね?』

 

 とか言って投獄とかありそうで怖い。

 そうやって考えると、ノア側に見られたほうが幾分かましだ。

 

「しかし、この空間の壁を斬り裂くくらいなら完全じゃなくてもいけるだろ?」

 

 パラメーターのアップはないし補正もない。

 しかし、神造兵装たる『無毀なる湖光(アロンダイト)』ならば武器の力だけで十分だと持ち手である俺は確信している。

 

「どこぞの腹ペコ王みたいに一掃とか出来ないが、常時発動型なんで――――斬り裂けるまで斬り続ける」

 

 そして俺は、力の限り『無毀なる湖光(アロンダイト)』を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 それより少し前、ミランダの発動したイノセンスによって怪我を一時的に回復したアレンとリナリーがロード達との戦闘を再開させる。

 ミランダの発動させたイノセンスは奇妙な空間を作り出し、その中に入ったものの時間をある一定の時まで吸い出す。そのある一定の時と言うのは恐らく無傷であった時。

 その空間の中には入れば、怪我を負っていた時の時間は吸い出されその前の状態に戻る。

 

「へぇ、変わった力持ってるんだねあのイノセンス」

 

 それをロードは面白そうに眺める。

 アレンとリナリーはイノセンスの空間から出て撃退せんと武器を構えた。そんな時、リナリーは見慣れぬ少女に疑問を抱く。丁度、ロードがアレンに自分の正体をバラシたときリナリーの意識はなかったのだから仕方がない。

 

「……アレンくん、あの子、なに? 劇場でチケットを買いに来てた子よね? ……アクマなの?」

 

 リナリーの視線を受けて、アレンは逡巡する。

 アレは敵であるアクマではなく、人間であると言うべきか否か。

 結局少し考えたあと、混乱を呼びかねない情報ではあるもののやはり伝えておくべきかとアレンは告げる。

 

「……いえ、あれは人間です」

 

 ピクリとリナリーの肩が揺れる。

 また、その視線も揺れる。 

 しかしリナリーはそれをすぐに消し、「そう」と呟いてから正面から相対する。

 その反応を見ていたロードはつまらなそうにリナリーから視線を外してアレンに向き直る。そして、どういう原理か何もない空間に文字を書き始める。

 

「ALLEN。アレン・ウォーカー、魂の見える奴」

 

「!」

 

「実はボク、千年公から少しだけ聞いてるから知ってるんだぁ。アクマを救うために戦うエクソシスト! 大好きな親にも呪われてる」

 

「それがなんです?」

 

「いや別にぃ? たださ、アクマを破壊する理由が普通のエクソシストと違うエクソシストって面白いんだよぉ。アレンもそうだし、ラック、ああソッチだとラスロだっけ? ラスロだってそうだ」

 

「っ!? どういうことですか? 何故君はラスロを知っている!」

 

 するとロードは楽しそうに笑い、現在着ているコートの他にもう一着の団員コートを取り出した。よく見ればそれこそが自分のコートであると大きさから気づく。

 目を見開いて驚愕するアレンとリナリー。男物の教団コートが二着ある理由。

 

「ロード! ラスロをどうしたの!?」

 

「何もしてないよぉ? アハハ! 本当の事が知りたければ、もうちょっとボクを楽しませてよ」

 

 そう言ったロードは近くにいたレベル2のアクマに指をさし命令を下す。

 

「そこのお前、自爆しろ」

 

『エ!?』

 

「「!?」」

 

 ロードの命令に驚愕するのは、命令されたアクマだけでなくアレンとリナリーも同様だった。 

 今まで無かった事態。自爆という行為が何を引き起こすのかを全く知らないアレンとリナリーのその反応は当然のもの。

 

「傘ぁ、十秒、カウント開始」

 

 ロードは傍にいたレロの頭を小突いてカウントさせる。

 

「じゅ、十レロ、九レロ、八レロ……」

 

『ロ、ロードさま? いくらなんでも、そ、それはあんまりじゃ……』

 

 しかしロードは聞く耳を持たない。

 楽しそうに笑いながら、歪みを抑えきれない口を隠す。

 

「ご、五レロ……」

 

「ロード、お前一体なにを!」

 

「ああ、そっか。アレンは知らないんだねぇ? じゃあ教えてあげるよ、イノセンスで破壊されなかったアクマの結末ってやつを。たとえば、自爆! そういう場合って――――――」 

 

 ロードは焦らすように言葉を溜め、真剣な表情のアレンを見て楽しむ。

 ああ、どんな顔をする、反応をすると期待が高まる。

 そして、ロードは口にする。

 

「――魂ごと消滅するんだよぉ!? あはははははは! そしたら救済できないねーー!!」」

 

「――――――――」

 

 その事実に、アレン達は硬直し、思考に空白が出来上がる。

 そんな時にも、無慈悲に時は過ぎていく。

 

「二、レロ」

 

「ッ! やめろ!!」

 

 我を取り戻したアレンは、違う理由から再び我を忘れて自爆寸前のアクマを破壊しようと駆け出した。

 

「だめ、アレンくん!! 間に合わないわ!」

 

 それを止めようとしたリナリーの手は呆気なく宙をきる。

 既にアレンはアクマの近く。

 しかし、それでも間に合わない。

 咄嗟にイノセンスを発動し、その速度をもってして駆け抜ける。

 しかし、それも僅かに遅かった。

 

「一、レロ」

 

 その瞬間、アクマは輝き、ロードは完全に顔を歪ませた。

 

『ア、アアァ、アアアアアアァァァァァアアア!?』

 

 臨界。

 アクマのボディが軋みを上げ、アレンにはその内蔵された魂までもが一層苦しんでいるのが見えてしまう。イノセンスである左手の銃で撃ち抜こうとするが、発射が間に合わないと悟る。

 ――やめろ。

 ――やめ、ろ。

 ――やめろやめろやめろ!!

 

「アレンくん、逃げて!!」

 

 リナリーが追いつき、アレンを掴む。

 それでもアレンはアクマから目が離せない。否、苦しみ嘆くその魂から目が離せない。

 

「やめろ――――――!!!!」

 

「あはははははははははは!!」

 

 

 

 

 そしてアクマの体は光りに包まれ――爆ぜなかった。

 

 

 

 崩れ落ちるアクマ。光りは収まり、そこにアクマがいる。

 ただし、頭から二つに斬られた状態で。

 

「…………なに、が?」

 

 そしてアレンは見た。 

 アクマに内蔵されていた魂が解放されていく瞬間を。

 同じように呆然としていたロードだったが、いち早く見つけたある男の存在によって我に返った。

 

「は、ははは、ははははははは!! 凄い、凄いよラスロ(・・・)! どうやってあそこから出てきたのさぁ!」

 

 その瞬間、アクマは爆発した。

 まるでまっぷたつにされていたのに、今気づいたかのように。

 そしてそこから一人の男が歩いてくる。

 煙にてしっかりと確認は出来ないが、片手に剣を持っている男だった。ただし、普通じゃない。イノセンスであると分かるのに、本当に神の兵器かと思うほど禍々しい気配を放っている。良くない意味で、圧倒的な存在感。

 しかし、すぐにその存在感は消え失せる。 

 男は唐突に剣をしまい、口を開いた。

 

「それは企業秘密だな。それよりロード、俺は言ったぞ? コイツらに何かあったら容赦しないって」

 

 それはロードの持つコートの持ち主。

 巻き戻しの街で姿を消し、安否不明になっていたラスロ・ディーユだった。

 

「ん、どしたアレン。そんな顔師匠に見られれば殴られるぞ?」

 

「無事、だったんですね……」

 

「そりゃあな。師匠との生活の方がもっと命の危機を感じたね。って、おろ、リナリーがイメチェン?」

 

「え、えと、知らないうちにロードに着せられてたの」

 

 そうかそうかと笑うラスロ。

 アレンとリナリーの二人は今一現実味がないのか呆然としたままだ。

 

「まぁ無事なようで何よりだ。……さて、ロード?」

 

「なぁに、ラスロ? もしかしてまたボクと遊んでくれる?」

 

「いや、お断りだ。ってか、呼び名『ラスロ』になったのな。呼びにくかった?」

 

「別にぃ? ただ、こうしたほうが面白いと思って! ボクだけが知ってるって優越感?」

 

「その性悪の笑顔やめろ。それより、提案がある。……さっきは容赦しないって言ったが、このまま素直に帰ってくれれば許してやるよ?」

 

 ロードは目を細めてラスロを見据える。

 何を考えているのかは、ラスロにも分からないが悪いようにはならないとそんな気がしていた。

 

「……しょうがないなぁ。それじゃあボクは帰るとするよ。また遊んでもらいたいしねぇ。でも、コイツは置いてくよぉ?」

 

 そう言って残ったアクマを指さした。

 

「構わない。それくらいならどうにでもなる。別に傘も置いていってもいいぞ? まぁ……主にこの二人がやるけどな」

 

 え、とラスロを凝視するアレンとリナリー。

 ラスロは意に解した様子もなく、GO! とアクマを指さした。

 手伝え、そう二人が言おうとしたとき偶然気づいた。

 ラスロが突き出す腕が、僅かに震えていることに。また、よく見れば脂汗を浮かべラスロ自身相当疲弊している。それを見た二人は、言葉を飲み込んで一気に踏み込む。

 アレンが銃撃を放ち、それをアクマがよけたところをリナリーが一蹴して止めをさす。

 

「あーあ、やっぱりこの程度のアクマじゃこれが限界かぁ。ま、いいや。今日は十分まんぞくしたしぃ?」

 

 ロードはプラプラとレロを腕にぶら下げながら、特有の能力でハート型の扉を呼び出した。

 

「それじゃあね、ラスロにアレン。次はもっと色々用意してくるから。また遊ぼぉ、エクソシスト、今度は千年公のシナリオの中でさ」

 

 ロードはそう言い残し扉の中へと消える。

 バタンとその扉は閉まり、次には扉も消失した。

 そして、それはこの空間にも訪れる。

 

「なっ、崩れていく!?」

 

「そうだな。まぁいつものことだ。大丈夫、落ちても問題はない」

 

 いいきるラスロに、ふと疑問を覚える。

 なぜ言い切れるのか、いつものことって?

 しかし、今は問うことのできる状態じゃなく、アレンはリナリーがミランダと共に落ちていくのを確認しながら、ほんの少し兄弟子を睨む。

 

「そう睨むな。悪いが、これに関しては何も言えない。師匠に口止めされてるんだ。……別に教えてもいいけど、大したことじゃないうえに師匠にバレれば借金追加だぞ? 額は何時もの三倍だ」

 

 聞いてしまったアレンは、追求を諦めた。

 借金、これはアレンのトラウマの元。

 戦意を削ぐには効果的であると、ラスロは自身の経験からも知っていた。

 

 借金に関して、二人して思うことは一つ。

 

 ――弟子に借金おしつけるなエセ神父。

 

 先程の緊張感など跡形もなく消え失せていた。

 

 

 

 


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