どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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よく見ればランキングに入っていたり。
誠に感謝です。


第四話

 

 

 

「ラスロ、無事だったのは喜ばしいが連れてくるなよ!」

 

「無茶言うなよ!? アイツの光線背後から浴びかけた俺の身にもなれ!」

 

「そ、それより一体アレはなんなんですか!? 追いかけてきますよ!?」

 

 並走して走るのは俺、リーバー班長、アレン、それとファインダー部隊のトマ。現在疲弊しているリーバー班長に変わって俺がリナリーを背負っている。本当ならアレンに任せたいのだが、余裕がないのが現状である。走り、避け、走り避け隠れを繰り返し一息ついたところで、何があったのかをアレンとトマに伝えると、

 

(ア、あほくさっ!)

 

 口に出していないが、表情から簡単に読み取れた。

 都合の良いことに、コムリンを破壊できる奴がここにいるし強行を図ってもいいのかもしれない。……俺だって壊そうとしたのだが、生憎武器は任務で使い切ったし、武器庫も維持していない(・・・・・・・・・・)ので部屋に置きっぱなし。そもそも教団本部でこんなことになるなんて思ってなかったので補充を後回しにしていた。

 

「ったく、やっぱりバチがあたったのかなぁ~。……悪いな、お前らが命はってるのに楽したいとか考えて、さ。まぁなんにせよ、おかえりアレン」

 

「え、あ……ただいま」

 

「はは、アレンは素直でいいな。どっかの誰かさんと違って」

 

「それって俺? 俺のこと言ってる?」

 

 というかチャンスだ。アレンにリナリーを引き渡そう。

 そして立ち上がろうとした瞬間、俺の体は無意識のうちに左に飛んでいた。自分でも意味が分からなかったのだが、それはすぐに正しかったのだと理解する。なぜならば、俺がいた場所の壁が吹き飛んだから。そこから現れるコムリンは、しっかりとそのセンサーカメラに俺を、否、俺とアレンにリナリーを捉えていた。

 

『おおーい! 無事かー!』

 

 それとほぼ変わらず同時に、昇降機が上から降りてくる。乗組員は科学班。

 

「リナリー、リナリーは何処に!?」

 

「落ち着いてください室長!」

 

「班長無事でしたか! 早くコッチに!」

 

 見た限り無事らしい。……頭が天パになってるのはご愛嬌か。

 すると、昇降機の中から巨大な砲身が出現しコムリンに狙いを定めた。どうやら搭載されていた火器らしい。あれならきっとコムリンだって破壊できる。そう喜んだ。

 

「やれジョニー!」

 

「了解、インテリなめるなよぉ!!」

 

 そして遂に、コムリンに向けて攻撃が放たれる――という瞬間に裏切り者が出た。

 

「ボクのコムリンに何をするんだあ!!」

 

 製作者だった。

 コムイは銃身の操縦コンを握るジョニーに取り付き、狙いもなにも関係なしに無駄玉を撃ち出し始めた。それはもうコマの様に回り続け、弾が撃ち尽くされるまで止まらない。当然、それは俺たちの方にも飛んでくるわけで――

 

「た、退避ぃぃぃ!!」

 

「アレン、腕で防げ!」

 

「無理ですって! 腕損傷してるんです! それこそラスロがやればいいじゃないですか!」

 

 言い争うが何も解決しない。

 俺たちは弾が撃ち尽くされるその時まで必死に逃げ続ける事になった。……なんで敵が増えてるんだろうね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぐれたっ! アレン達は何処だ!?」

 

 瓦礫の山から顔を出し様子を伺う。

 あの後、あまりに適当に弾が飛んでくるものだから滅茶苦茶に逃げ回った。その結果誰がどこに行ったか分からないという状況に陥る。一応リナリーはまだ無事に背負われているので。コムイによるやっかみはないはずだ。

 

「というか、怒られるべきは製作者本人だろが」

 

 瓦礫を踏みしめながら慎重に中央への道を進む。それにしてもリナリーはよく寝ている。どれだけ強力な麻酔が搭載されているのだろうかあのポンコツ。しかもそれはエクソシスト用だというのだから驚きだ。

 

「象じゃあるまいし……馬鹿と天才は紙一重か……お、いたいた。リーバー班長にアレ……ン?」

 

 ガチャンと言う音と共に、アレンがコムリンの胴体中央にある禍々しい部屋に連行された。中ではロボコムイが数体、物騒な装備を持ってアレンを招いていたが……ドリル? チェーンソー? あそこに書かれている手術室って?

 

「いや、流石に止めないと不味いよな……しかし」

 

《アレン・ウォーカー収容完了しました。続いて、リナリー・リー、ラスロ・ディーユに目標を設定。収容します》

 

 ビコーンと目が光り、ホラーの様に首が俺たちを見据えた。あ、ディーユも偽名な。デュをちょっといじった結果だ。

 その下ではリーバー班長たちがアレンを引っ張り出そうとしつつ、俺に逃げろと訴えてくる。いやいや、もう無理でしょ。逃げれる場所ないよ。

 

「やれるだけ、やるか。っと、リナリーはここで待ってろよ……んじゃ、行ってきます」

 

 念の為に俺のコートをかけておく。

 濡れていたはずなのに、あの乱射とコムリンビームで見事に乾いている。どれだけ紙一重で回避していたのだろうか、俺。一歩間違えればあの天パ集団の仲間入りをしているところだった。

 コムリンが、俺に向かって走り出す。俺はそれに対して、そこらへんにある瓦礫、特に尖っているものを手に取り念じる。そうこれは武器! がんばれ俺頑張れ瓦礫やれば出来る絶対できる! 諦めるな瓦礫、お前ならきっとイノセンスにだってなれるッ!! キングオブ瓦礫にだってなれるんだ!

 しかし結局――――――バカみたいに必死になることしか出来なかった。

 コムリンが俺の眼前に到着する。同時に湧き出てくる無数のマジックハンド。それは間違いなく俺の両足を掴みとり宙吊りにしてくる。ウィーンと開くコムリンの胴体。そこから見えるマミーというか、包帯でグルグルまかれたアレン。目が合う。

 

 ――いらっしゃい。

 

 ――やっぱりお勘定お願いしまーす。

 

「やっぱ無理! 来んなポンコツぅぅぅぅ!!??」

 

 クソ、こうなったらもうイノセンスをっ!

 こんなAKUMAでもノアでもない奴に最終兵器(リーサルウェポン)使う時が来るなんて屈辱すぎる!

 しかし、変な改造されてムキマッチョとかにはなりたくない!

 覚えていろコムイにコムリン。この屈辱は忘れない。

 

「イノセンス、発動。『無毀なる――……」

 

 他の能力二つを封印してでしか発動しない最終兵器。

 一度封印してしまえば、暫くは二つの能力は使用できないが、それ以上の結果をもたらす最高の剣。臨界点突破をしてしまえば、永遠に二つの能力が封印されかねない程の効果を持つ。まぁ今の俺じゃあ臨界点突破なんてできないがな。あれってシンクロ率高くないと出来ないし。

 右手を胸に差し込み、イノセンスを取り出そうと握りしめる。

 後は抜き出すだけ。と、言うときに不意に、俺を掴んでいたハズのマジックハンドが消失した。

 

「……――湖って、は!?」

 

「ラスロッ!」

 

 そして落ちると言うときに、ふわりと体を支えられる。

 振り向けば、そこには俺のコートを羽織っているリナリーがイノセンスを発動した状態でそこにいた。どうやら、俺を助けてくれたのはリナリーらしい。マジ女神。

 彼女は地に降り立ち、俺を下ろしてくれる。

 

「た、助かったー。サンキュ、リナ……ッ!?」

 

「それより胸! さっき胸に穴が!」

 

 ズイッと接近されペタペタと触診してくるリナリー。くすぐったいわこの天然! やめてー男の理性削ろうとしないでー。というか殺気、殺気がすごいから。きっと今、室長の顔を見れば血の涙を流し呪詛を吐いているに違いない。ああ、憂鬱だ。じけんが終わろうとしているのに憂鬱だ。

 俺はどう室長を諌めようか考えつつ、俺が無事だと理解しコムリンを潰しに行ったリナリーを眺め続けた。 

 

 

 

 

 

 

 リナリー・リー、彼女にとって教団とは牢獄でしかなかった。

 幼い頃、家族と引き離され戦わせられ傷ついた。たった一人しかいなかった家族と、幼いながらに引き離されたのだ。すぐに精神は疲弊し、疲れきり、自らを傷つける。御陰で縛り付けるものは増えるしで悪循環でしかない。そんな時に、兄はやって来た。『遅くなってゴメンね、ただいま』の言葉と共に。

 それからは教団は家になる。三年の月日をかけて、兄が来てくれた教団が帰るべき場所になったのだ。故に、リナリーに取って帰るべき家になった教団にいる皆が家族である。

 そしてそれは「世界」になる。

 戦場に居続けた彼女にとって、教団にいる仲間であり家族である皆の顔が大切だった。それが彼女にとっての世界。 

 仲間が一人死ぬ。それは彼女にとって、世界の一部が欠けると同義だった。

 

 

 

 

 

 

 トクントクンと鼓動が聞こえた。

 ハッキリしない意識の中でも、人の生きている証拠であるその音は聞こえていた。誰かの背中。背負われている。何故、誰、と疑問が湧き出るが確かめようにも体は動かないし声もでない。

 しかし、聞こえる。

 それは男の声だった。

 聞きなれたリーバー班長の声に、最近入団した白髪の少年の声。そして、しばらくぶりに帰ってきた金髪の少年。元帥と共に出ていった全く連絡を寄こさなかった、非常に心配をかけさせてくれたあの少年の声。

 本当に何気なく帰ってきたのを叱るにも叱れず流れてしまったが、その際の怒りがフツフツと湧き出る。どれだけ心配したか、まるで分かっていない笑顔。リナリーにとっての世界の定義を知っているにも関わらずの所業。動くようになったら一発蹴らないと気が済まないと考える。

 続いて爆発音が聞こえ、体が揺れる。

 話し声はとぎれとぎれになり、いずれ聞こえなくなる。唯一聞こえるのは彼の心臓の音のみ。鼓動から、そうとう焦っていたのだと分かりクスリと笑いそうになるが、やはり動かない。

 ガラガラと瓦礫を退ける音。そしてそれを踏みしめる音。それから、少年――ラスロが体勢を立て直そうと体が一瞬上に持ち上げられる。それと同時に顔が肩に位置も持っていかれ、視界が広がった。

 惨状。何がどうなってこうなったか。

 それはすぐに分かったし、思い出した。彼女の兄の名前がつけられた巨大なロボ。それがアレンを収容していた。それを見ていたリナリーは助けないとと力を入れるがやはり動かない。するとラスロがブツブツと何かつぶやいたあと、肩を落としてコムリンへと向き直った。  

 すると、いきなり視線が低くなる。

 リナリーは下ろされたのだと理解する。そしてパサリとラスロのコートをかけられる。その時、リナリーは聞いていた。ラスロにしてみれば深い意味は無くとも、リナリーにしてみれば大事な言葉を。

 

『行ってきます』

 

 神田でさえ、人が少なければ渋々言っていく言葉。 

 しかし、社交性が高く親しみやすいと言われるラスロは先ず言わない。彼は滅多に『ただいま』『おかえり』を教団内で誰かに言うことは油断しているとき以外はまずない。それはまるで、否定するかのように。

 そんな彼が言った言葉は偶然にもリナリーの耳に入った。

 やがて遠くなるラスロの背中。

 そして呆気なくコムリンに掴まる。

 次の瞬間、リナリーの背筋が一気に冷える。

 胸に穴が空いていた。意味が分からないが、ポッカリと穴が空いていた。場所は左胸の心臓部。そこにあろうことかラスロは手を突っ込み何かを引き出そうとしているように見えた。

 リナリーの体が動いた。

 少し強引にだが、麻酔が弱まっていた体をイノセンスを使って動かし、俊足でラスロを助けだし地面に降ろす。ラスロは少し戸惑った様子で礼を言ってきていたが、彼女はそれどころではなかった。仲間が死ぬ、そんなイメージが脳内に浮かんでいる。

 ラスロを下ろしたリナリーは人目など気にせずにラスロの胸に飛びつき、感覚を確かめる。恐ろしいことに、天然。自身が女であることを一時的に棚に上げての行動。彼女は兄がどれだけ妹を心配しているか理解してきれていない。そしてその妬みが何処に向かうのか。冷静な彼女なら分かったのだろうが、それどころではないためラスロに災厄が降り注ぐのは決定していた。

 アタフタするラスロを見て、大丈夫だったと安心したリナリーは対象を切り替え元凶であるコムリンに向かって飛翔する。ラスロの件はきっと意識がぼやけてそういう風に見えていたということにして。

 それからは早かった。

 コムリンを切り裂き、コムイを突き落とし、包帯だらけのアレンを回収してその場を去る。

 ちなみに、ラスロは切り裂かれ落ちてきたコムリンと突き落とされたコムイの下敷きになりかけたが彼女の知るところではない。

 

 

 

 


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