どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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お待たせして申し訳ないです(-_-;)
取りあえず落ち着いたので投稿しまする。
まぁ、また来月から実習ですがね!

今月のシルバーウィークにどれだけ課題が出されて、休みがつぶれるのだろう。



第三十三話

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、ラスロは歩き続けていた。

 その身に憎悪と殺意をみなぎらせながら。

 視界に移る者全てが敵だ。

 どいつもこいつもエクソシストでイノセンスを持っている。

 

 ――――やつを許すな。

 

 当然である。

 帰る場所を失った。

 家族を失った。

 大切な友人たちを失った。

 最早、エクソシストは敵以外の何でもない。

 理性を失い、先の見えない闇の中でラスロは狂う。

 

「…………イノセンスが、憎い」

 

 そう呟けば、殺意が満ちる。

 

「…………エクソシストが憎い」

 

 戦意が漲る。

 全て倒し、壊し、復讐しなければいけない。

 両手に持つイノセンスは、全てが終わった後で壊そう。

 取りあえずは脅威度の高い者たちの排除。

 そして――――主の指示を優先とする。

 

「壊せ、殺せ、目の前で失う悲しみを、身をもって知れ……!」

 

 憎しみは止まらない。

 先ずは吸血鬼を始末し、その次は白髪だ。

 どこか見覚えがある気がするが、イノセンスを持ちティキを殺したのなら間違いなく敵だ。

 後は残りの眼帯と剣士はイノセンスを奪ってあるから簡単に殺せる。

 そして――目の前の少女を殺すだけだ。

 主は第一に殺せ、そう望んでいる以上殺す。

 

 

 ――――おいバカやめろ。

 

 

 そんな、情けない声が脳裏に響く。

 どこかで聞いたことがあるようで、ないような声だ。

 その声は、耳をすませば次々に聞こえてくる。

 

 ――――女の子泣かせるとか、万死に値する。

 

 ――――剣を向けた? ああ、ご愁傷様ハチの巣だな!

 

 ――――白髪……? ああ、大丈夫大丈夫、頑丈だから。

 

 どことなくうっとおしい。

 これは間違いなく、自分の声だと分かった。

 しかし、自分ではない?

 

 ――――ちょ、リナリー泣かせたな!?

 

 ――――帰ったら、手術だな……今度は女体化か?

 

 ――――おいヤメロ。

 

 何かが心の奥で疼いた気がした。

 懐かしいような、それでも思い出すと後悔するような不思議な感覚。

 白髪、ハチの巣、リナリー。

 何かが邪魔をして思いだせないが、大切なものだった気がする。

 一つ除いて。

 ハチの巣?

 虫の巣?

 いや違うな。

 比喩?

 

 

 

 比喩?

 

 

 

 

 

「……何で今、銃弾の嵐を幻視した? 後ろで高笑いして、優雅にツケで酒を飲む赤髪のエセ神父は一体?」

 

 頭痛がひどい。

 殴られたような――――というか殴られたとしか思えないような痛み。

 なんだ、これは。

 とても懐かしい、でもすごい怖いよこれ。

 

「エクソシスト、なのか? なら、殺――――――せ、ない?」

 

 勝てないとか以前に、拒否反応が出る。

 いや意味わかんないし。

 

「間違って殺すなんて言ったらただじゃすまない気がする」

 

 そして再び何かを幻視する。

 ……紙束――――うっ。

 ダメだ、見たら感情メーターのどっかが振り切れそうな気がする。

 

「結論、忘れよう。それよりもエクソシストを――――!」

 

 ――――そう言えば、偽名だってバレたな。

 

「やめい、ホントにやめい」

 

 素が出ていた。

 というかさっきから何なのか、コレは。

 まるでもう一人の『俺』のようではないか。

 イタイイタイ。

 

「くそ、調子が悪い――――なんだ、急にノアに対する憎しみが? アレ、今度はイノセンス? おい、おいおいおいおいちょっと待て?」

 

 イノセンスが憎い。

 でもノアも憎い。

 おかしい、相反している。

 

「――――へぇ、邪魔するんだ、生意気なイノセンスだよねぇ」

 

 鈴の音のような声が聞こえてきた。

 そちらの方を振り向けば、一人の少女が立っていて、視界に入れると同時に愛しさがあふれてくる。

 触れたくて、抱きしめたくて仕方がない。

 しかし同時に酷く憎く、殺したくて仕方がない。

 

 相反する思いが、胸の中で渦巻いていく。

 

「タイミングを間違えたね、イノセンス。ボクが気付くのが遅かったら危なかったかなぁ? 途中までは()()()()()のに、急ぎ過ぎたねー」

 

 ボクの勝ち、そう呟きながら少女はラスロへと抱き付いた。

 甘い匂い、柔らかい体、年端もいかぬ少女とは思えぬ色を醸し出す。

 手が震える。

 首を絞めろ、優しく抱きしめろ、頭がこんがらがってくる。

 

「――――ええい、うっとおしい!」

 

「逃がさないよ? って、そこをどいてくれないかなぁイノセンス。アレは、ボクのだよ?」

 

 イノセンスが、憎くなる。

 何が何なのかわからなくなり、振り払うように全力で駆け出す。

 視界の先は未だ暗闇で、ぼんやりと見えるのはエクソシストと思われる者たちのみ。

 しかしその先に、一人の男が見えた。

 何故かハッキリと見えるその男は、ただ静かに柱へともたれかかり動かない。

 

「見たことがある、ような。……ノア、か?」

 

 ジジ、と脳裏をノイズの入った映像がよぎる。

 飄々とした人柄に対し、狂ったように快楽を求めるような姿。

 そして――――赤い液体が滴る姿。

 

「――――――――!」

 

 視線が彼から離れなくなる。 

 頭が痛いが、それでも――――!

 

 

 

 懐から、何かが滑り落ちる。

 紙束のようだ。

 何故だろうか、記憶が刺激される。

 アレが何なのか、遠目でも分かる気がする。

 

「借用書……?」

 

 確信がある。

 見たことがある?

 遠目で見ただけで分かるほどの回数を?

 ちょっと自分の人生が不安になってきた。

 

「くそ、どうなってる。そもそも、今更だけど俺は――――?」

 

 自分の名前が分からない。

 俺の名前は確か『――――』だったが、それは今において正しくない気がする。

 何か、もっと違う名前で……?

 

「赤髪、エセ神父、酒瓶、酒の滴る男、借用書? 赤い髪のエセ神父は酒瓶で人を殴ってワインまみれにし他人に借金を押し付ける? ……どう考えてもそんな神父いるわけないのにいる気がしてならない俺は一体? いやまてヤダよそんなのと関わる人生は!?」

 

 何か、思い出せそうな気がする。

 代わりに何か大事な倫理的な何かを失いそうな気がするけど。

 不味い、思い出してはいけない類だこれ! 

 でも思い出さないといけないような気がしてならない!

 ノア、イノセンス?ちょっと待て、後で考えるから。

 それよりもこの理不尽な不思議生命体エセ神父のことだ。殺しても死ななそう。

 

「もう少し、もう少しで俺は、俺を……」

 

 俺の名前、それは……?

 恥ずかしいような、実はちょっとテンションが上がった瞬間もあったような。

 分からない、思い出せない、切っ掛けが足りない。

 俺の記憶を刺激するワードが、あと一つ足りない。

 

「白髪? いや、あれは俺じゃない。エセ神父は人を虐げる外道……あれ、今自分の心が痛んだ」

 

 何が足りない?

 エセ神父は大事な要素の一つ。

 でも、それ以上に大切な要素があったはずなのだ。

 それは酒瓶でも借金でもない。

 何が、何が足りないッ!

 

 

 

 

『――の名前……知りたかったな――――』

  

 

 

 視界が、弾けた。

 心に染みわたるようなその声は、暗闇を突き抜けて俺へと届く。

 ああ、そうだ、そうだった。俺の名前がなんで『――(ラスロ)』なのか。

 俺の名前の起源はそう――――!

 

 

 

 

 

「――――あ、それは無理恥ずかしいし」

 

 

 

 

 

 中二病恥ずかしい、だ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神田が、ラビが、クロウリーが、そしてロードが目を見開いた。

 

 

 

 何の迷いもないその一撃が、確かに()()()()を切り裂いていたその瞬間を。

 

 

 

 その内の誰よりもリナリーは驚愕し、何度も黒い騎士を見つめなおす。

 それを感じたのか黒い騎士はバツが悪そうに頬をかく。

 

「重い」

 

 黒い騎士が腕を振るえば、肩に乗っていたロードはひらりと宙を舞いレロを開いて表情を隠す。それでもラスロたちには見えていた。その口元が三日月のように笑っていたことに。しかし先程のような狂気、憎悪は最初からなかったかのように霧散していた。

 黒い騎士はよからぬことでも考えているのかとあからさまに溜息をつき、自らを覆っていた鎧を霧へと変えていく。

 その中から姿を現した男の目は、淀んではいるが確かに理性を感じる。エクソシストを必ず殺すロードの人形の目ではない。アレンはその目がいつも師匠に借用書を突きつけられ、途方に暮れているあの時のものだと確信する。

 

 

「……リナリーにバカと言われると立ち直れなくなりそうだな、俺」

 

 そんな言葉と共にリナリーは腕を引かれて立ち上がる。

 まだ信じられず、幻を見ているのではないかという気持ちを押し殺して涙を拭う。

 

「うぐぅ!? 改めて泣かせてしまったことへの罪悪感がっ。し、師匠に殺される……前にシスコンに殺されそう」

 

 いやまぁこんなことになった時点で俺の未来真っ暗だけど、とそんな呟きが聞こえてくる。

 それだけのことだったが、確かにリナリーは確信した。

 目の前のぬくもりは、確かに本物なのだと。

 

「ラスロ……?」

 

「ごめん、リナリー。本当に迷惑かけた。後でもう一度、ちゃんと謝るよ――――一応、男衆にも」

 

 そう言いながらラスロは自ら棺桶を召喚し、その中に納まっている武器を両手に持つ。

 何故彼が急に戦闘態勢に入ったのか――――それよりも、彼が自主的に戦闘態勢に入る珍しさに皆が驚く。

 

「アレン、リナリーは頼むな? ついでに男衆」

 

 ついで扱いされたさ!?という叫びを耳にしながらラスロは剣を抜く。

 そしてイノセンスの能力を発動し、その剣をイノセンスへと変えていく。その瞬間、ラスロが何かいぶかしむような表情を浮かべるがすぐに隠れ、何かを確かめるように剣を軽く振り下ろす。ヒュン、と地面に亀裂を入れるその剣を見て、ラスロの表情が引きつった。

 

「あっれ……こんなだっけ。なんかやたらシンクロ率が上がっちゃってるような……いやいや」

 

 忘れよう、取りあえずヘブさんに見てもらうまで確定じゃないし。

 そんなつぶやきがリナリーの耳に届いた。

 

「まぁ、なんだ。取りあえずだ――――またワインまみれにしてやるよ、ティキ・ミック」

 

 何を言っているのか、アレンの喉元まで出しかけたとき彼らは気づいた。ラスロの視線の先、ティキ・ミックが倒れていたハズの柱に誰もいない。そこにいたのは楽しそうに、でもどこか複雑そうな表情をしたロードだった。

 

「……千年公は、分かってたのかなぁ。どうおもう、ラスロ?」

 

「あのデブの事だし、予想はしてたんじゃないか。ティキは『快楽』のノアだろ、デブのお気に入りの」

 

「代々、快楽のノアが期待されてることなんて、まぁた面白い事を知ってるね。『怒り』の記憶の中にあったのかなぁ」

 

 ラスロはどうだかと肩をすくめて視線をずらした。

 そこで初めて、ラスロの視線が向かったその一角に立ち上る威圧的で背筋が冷えるような気配を感じ取った。

 

 ――頭を覆うのはヘルムのような物体。そこから伸びるのは漆黒の一本角だ。上半身を覆う蛇のようなムカデのような、はたまた背骨のような帯の痕は、いくつも重なり合って黒く染まる。ノアの黒い肌とは比べ物にならない程の、黒。

 背から生えるのは、上半身を覆ったものをより攻撃的に禍々しくした帯でできた羽。

 

「さっさと帰って、謝らないといけないんだ――――覚悟しとけよ、ティキ」

 

 ラスロの発言から、あれはティキなのだと倒した張本人であるアレンは理解する。なぜ、どうして、そんな疑問が皆の脳裏を這いずり回る。

 そんな中一人冷静に構えるラスロの左手にはいつの間にか――割れた酒瓶が輝いている。

 

「トラウマ、ほじくりかえしたらァ――――!」

 

 ティキが、震えた。

 アレンも震えた。

 本人の頭もズキンと痛んだ。

 


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