光だから早いしすごいですね。
と、ネット環境も整ったので投稿しました。
と言ってもストックは一話分しかないというね……
ラスロたちが扉に消えた頃、神田は既にスキン・ボリックへと向き直っていた。
片手に持つイノセンス、六幻はすでに二幻刀と呼ばれる状態まで昇華しており、本来一本であるはずの六幻は写身を作り出し二刀流へと変化していた。
「お前が己の相手か? ティエドール部隊で見かけたことがあるぞ」
「奇遇だな、俺もだ。見るたびに遠くから眺めてるだけの腑抜けだと思ってたんだが……戦えるのか?」
するとスキン・ボリックは嬉しそうに笑う。
たった一人目の前に立っている敵を倒すほかに選択肢がない以上、悩むことも、迷うこともなく殲滅すればいいのだから。残りの獲物はゆっくりと順番を決めて倒せばいい。
「あぁ……ずっと迷ってた。誰を一番に殺すのか。今は丁度一対一でできそうだから、お前が一番だ。己はノアの一族スキン・ボリック。お前はティエドール部隊の何て奴だ?」
神田は少しの間を挟み、自分の名を口にする。
「――神田だ」
その瞬間、光が走る。
スキン・ボリックはノアとしての能力を所有している。
そしてその能力は単純でありながら、近接戦闘においては比類なき強さをみせるカウンター系の能力である。とはいえ、カウンターだけでなく自身から攻撃を仕掛けたとしてもその力は絶大で、神田が技巧、速度で敵を斬るならばスキン・ボリックは力技で敵をねじ伏せるという表現が正しい。
そんなスキン・ボリックの能力は、体内に膨大なエネルギーを所有、それを放出、敵に蓄積させるといったものだ。
同時に能力全開時は姿を変え、鎧のようなもので全身が包まれ。肩にある突起のようなものから力を放出できるようになる。
総じてそれらのエネルギーは雷撃という形で放たれ敵を焼き尽くす。
おまけにこの雷撃は防いでも必ず感電する。
つまり防いだところで何割かダメージを軽減できるだけで、ちゃんとした対処法にはならない。
もし完全にダメージを逃したいならば回避一択。
そして何より、近接戦闘によって直接スキン・ボリックに攻撃を加えれば武器を介して体内の何百万ボルトという高エネルギーの一部が流れ込んでくるのだ。
攻防一体化した極限のパワー型、それがスキン・ボリックの宿す『怒』の力。
イノセンスを憎みに憎む、強烈なノアメモリーの特性が剥き出しになっている力だった。
神田は近接型。
つまり相性は――最悪だった。
ユサユサと揺れる。
人の背中におぶわれているのだから当然のことではあるが確かにここにラスロがいる、そう認識できることが今のリナリーには嬉しかった。まぁそれでも何か隠しているといった様子が気にかかってはいるが。
しかしそれは同じ師を持つアレンも気づいているようだから、そこまで本気で隠そうとしているわけではないのだろう。
そう考えたのはリナリーだけでなく、他のラビやクロウリーも同じだった。
実際は疲弊しているラスロに隠しきる余裕がないのだが。
ちらりと盗み見た横顔は、何か企んでいそうな何時ものラスロで――
「ん、どうかしたかリナリー?」
「……ううん、なんでも。ただ、なんだか今のラスロは生き生きしてるなって」
するとラスロ、ポカンと口を開けたあとどこか遠くを眺めるような目になる。
ポカンと空いた口からつぶやかれるのは、そんな馬鹿なとか、反面教師にしてたはず……! とか、俺は絶対に見下しながら高笑いはしない!(手遅れ)とか、何か自分に言い聞かせるような言葉だった。
リナリーはそれがいつもの光景に思えて、偶然目があったアレンと共に笑みを漏らす。
後ろのラビとクロウリーはラスロと出会ってから日が浅いためか、よくわかっていないようだった。
「ふ、ふはは。いや、もういいんだ俺。よく頑張ったよ。抗わなくていいんだ、全てを押し付けて逃げていいんだ! 待ってろパンク共、あれからまた増えた俺の紙切れ、百枚単位で押し付けてくれるわ!」
「……何時も通りのラスロですね」
「そうだね、ラスロだね」
「なんか納得してるそこの二人! 特にアレン! お前もチャンスが来るぞ、そう、あの借――紙束を押し付けるチャンスが!」
「最低な予言ですからねそれ!?」
やはり笑みが漏れ出る。
ワイワイ言っている二人の会話の中にこそいないが、それを最も近い位置で聞いている、それが何か少しでも近づけたような気がした。何せこの二人、勝手に抱えて勝手に消える師匠によく似たエクソシストなのだから。そして、程度の違いこそあれど壁がある。
その壁が、今のラスロからはほとんど感じられない。
既にアレンは人とアクマを救済すると、立ちはだかっていた壁は粉砕している。
しかしラスロはどうしたのか。
アレンと同じように何か切欠があって心を開いていくれているのか、それとも別の理由があるのか。
神田は、大丈夫。
彼の強さは誰もが知っている。
だからリナリーにとって、それだけが唯一の心配だった。
それが間違っていなかったと知るのはもう少し後のこと。
ようやく見えた扉に飛び込めば、目に入ってきたのは本、本、本、本と本だらけの図書館のような部屋だった。
どうもこの扉に近づくたびにラスロがソワソワしていると感じたリナリーは、同時にその原因となるであろう二人組を見つける。
「どーもぉ、こんにちは、デビットでぇす」
「どーもぉ、こんにちは、ジャスデロだよっ!ヒヒ」
「「二人揃ってジャスデビだッ!!」」
部屋の中央にある台座。
そこに腰掛けていたのはファンキーな格好をした色黒の二人組で、それぞれをデビット、ジャスデロと名乗った。
二人を知っているラスロからすると、あまりに静かで不自然だった。
流石にまた濃いのが出てきたなぁとラビが引いている中、ラスロはラビの肩を叩く。
「んぁ、どうしたさ、ラスロ」
「悪いんだけど、ちょっちリナリーお願い」
そう言ってラスロはリナリーをゆっくりと降ろし、ラビへと渡す。
瞬間、暖かかった体温が離れていく。
それに痛みを覚えてしまったのは、ドッチだったのか。
「ど、どうしたさラスロ! なんだか自分が戦うみたいに……!」
「あながち間違ってない。コイツらには因縁があってさ」
そう言いながらラスロは一歩前へ出る。
それを見ていたジャスデビの二人はニンマリを顔を歪めて出す。
「待ってた、待ってたぜこの時をよォ!! 何度目かわからねぇこのセリフ、今日で終わりにしてやんよ!!」
「ヒヒ、ヒヒヒヒヒ! アンテナの恨み、ここではらすよヒヒヒヒヒ!」
ジャキンと銃を構える二人に余裕などない。
おまけに遠慮という言葉もない。
あ、なんだいつもどおりじゃんとラスロはつぶやく。
「死ィね死ね死ね死ねしねクソ狸がァァァァァ!!!!」
「ヒヒヒ、いつものように逃げ場はないよ! ここがお前の墓場だナマモノっ、ヒヒヒ!」
「うっせぇアンテナ野郎! だれがナマモノだ見ろこの意思のこもった純真な瞳を!」
「そう言いながら懐に借用書仕舞いこんでんじゃねぇ! おいてこい畜生が!」
「ヒヒヒ、濁ってる、もう既に濁ってるよその瞳、ヒヒ! 取り替えたら?」
アハハハハと殺気振りまきながらメンチを切るエクソシストとノアの一族。
あまりに原始的な喧嘩の仕方に、命懸けのゲームであることを忘れかけてしまう。
「――アレン、先に行け。アイツらのことはよく知ってるから、俺に任せろ。何回かっていうかかなりの回数戦ってるからさ」
「でもラスロ、今のラスロは……いえ、何でもありません。大丈夫なんですね?」
「おうさ。俺が死んだことなんてあったかよ?」
「あったら、ここにいませんよ」
「――――――――」
ふとラスロが固まってしまう。
その時、リナリーはラビの肩を借りていたためアレンに向き直るラスロの顔を見ることができなかった。しかし、対面するアレンの表情がどこか不安げだったのが見える。
何があったのか、どんな顔をしているのか分からないのがもどかしい。
それはどうやら肩を貸しているラビ、そしてクロウリーも同様だったらしい。
「本当に任せてしまって大丈夫であるか?」
「クロちゃんの心配はわかるけど、きっと大丈夫さ」
そういうラビの顔は明るくない。
皆分かっている。今のラスロはどこか危うい。
しかし、この状況下で敵を知り戦闘経験が豊富なラスロがジャスデビの相手をするのが一番だというのも理解してしまっている。おまけにラスロは逃走能力が高いのだから、尚更正しい選択となる。
「――ああ、お前らは行ってもいいぜ。俺らが用あんのはそこのクソ狸だけだ。そこの白髪頭もクロスの弟子らしいが……ダメなんだよなァ。もうこのクソ狸見た時点でこいつ殺すまで他はどうでもよく思えちまう……!」
「ヒヒ、あの狸殺す、あの狸殺す……ヒヒ!」
「――――残してくのすんごい不安になりましたよラスロ! ホントに大丈夫なんですよね!? というかどういう関係なんですかコレは! まるで師匠みたいに――――ぁ、納得です」
「そうだよラスロ! ダメならちゃんとダメって言わなきゃダメだよ!?」
「おいまてアレン、なにを納得してるの? 違うからね? 師匠→俺みたいな構図で俺が元凶じゃないからね? あ、リナリーはありがとう、すごい心が癒された」
それだけ言うとラスロは片手に剣を引っさげてジャスデビへと向かっていく。
アレンはそれを一瞥した後、ラビたちを呼ぶ。
「行きましょう。どうやら意思は硬いみたいです。リナリー、そんな顔しなくても大丈夫ですよ。あのラスロですから必ず帰ってきます」
「そ、そうさ! きっとユウと一緒に次の部屋の扉蹴破って入ってくるさ!」
「そうであるな。神田であれば、きっとこの部屋を通るはずである」
最早彼ら、ラスロが自力で倒して次の部屋にやってくるというビジョンが見えていない。きっと神田が何とかしてくれるだろうと、人知れず神田への期待が高まった瞬間だった。
促され、肩を借りなければ歩けないリナリーはラビと共に進むしかない。
足の動かない自分では足でまといにしかならないのも理解している為、ただ進むしかない。
「先に行って待ってますからね!!」
「おーう、後からちゃんと追う! 相手はきっとティキとロードだ、気をつけろよ!」
最後、ラスロが笑う。
いつも通りの笑顔であったが、それが信じられないままリナリーは次の扉をくぐっていった。
「さて、行ったか……」
扉を一瞥してつぶやいた。
行けとはいったものの、今のラスロでは手数が少ない。
ラスロが片手に持っていた剣、その形状に気づくものがいなかったのは、ラスロには不幸中の幸いといえた。なにせ抜き身の『
最悪、他の能力が使えなくなっているのすらバレる可能性がある。
それは仲間であってもノアであってもよろしくない。
「さぁてと、始めるかジャスデビ」
「ああ来いよクソ狸! 見ろこの請求書の束をッ! これはテメェから押し付けられた分、これは一昨日クロスの根城に乗り込んだときに押し付けられた分、これは二週間前ッ!」
「お、おう……おう?」
「テメェならわかるよなぁ、この気持ちが! ドンドン残高が減っていくこの虚しさが!」
「ヒヒ、ヒヒヒ! デロのお年玉すっからかんだよッヒヒ!」
バララララとめくられる借用書の束は辞典かと言いたくなるほどに分厚い。
進化したなぁとラスロは呟きながら、懐に入れた借用書を確かめる。
(喜べ、百ページ程追加です! やったね!)
どこまでも人を煽ろうとする男である。
今と違い余裕があったなら間違いなくラスロは口に出していた。
そして挑発の後に罠に嵌めまくり、更に借金地獄へと階段から転がり落とすのだ。
最下層はまだ見えない。
「――勝負だ、ジャスデビ。これより先は減るか増えるかの戦い――ついてこれるか?」
「「上等!!」」
ラスロは覚悟を決め、『
初めて見るその剣にジャスデビは驚くものの、目的を忘れることなく再度銃を構える。
「「押し付けるために!!」」
「生きるために!!(金銭面込み)」
最後までシリアスになりきれず欲望のままに戦うのだった。
修正