「ったく、ホント色々と台無しにしてくれるよな、狸君はさ!」
「こっちも余裕ねぇんだよ瓶底。ほら、酒瓶が振り下ろされるぞ、飛んでくぞ」
「待てってば! 分かった、ややこしい話なしで進めるから取り敢えず下ろせ! ああ、もう、少し期待してたんだぜ? 狸君が上手いことロードの手から逃げれてくれるの」
「知るか。というかそれでいいのか快楽のノア……まぁ、取り敢えず」
さっさとしないと分かってるよな、と視線で訴えつつ酒瓶を下ろす。
またまた後ろから幾つかの視線が突き刺さってくるが華麗に気づかぬふり。
「下ろしたな? 後ろに隠し持ってないな? 罠とかないよな?」
「このフィールドに誘い込んだのお前らだろうが。この短時間で何かできるとでも?」
「そう出来ないとか言っておいて出来るから狸って呼ばれるんだぜ狸君」
「……この廃棄物といい瓶底といい、俺が人間に見えないなんてホント末期だね? 神酒飲む?」
「いらねぇよそんな心遣い! っと、話が進まない――まさかこれも計算内か?」
俺が急かしておきながら、話を伸ばして自作自演をし、最終的に好き放題酒瓶振り回すと思ってるのか。どれだけ俺が鬼畜に見えるのだろうか。やはり瓶底眼鏡は度があっていないらしい。後ほど叩き割って新しいのプレゼントしてやろう。
本物の瓶の底でできたやつ。
「オイ、狸。さっさと話を進めさせろ。漫才みてぇんじゃねえんだよ、俺は」
「ここばかりは神田に同意です。時間もありませんし、早いとこ終わらせてくれます?」
「……何だか辛辣だな少年。まだ怒ってんの? ていうかアレだな。狸くんら師弟は全員揃って摩訶不思議な生き物だよな。なんでアレで生きてるかなァ……」
「? 良く分かりませんが、機嫌が悪いのは確かです。というか今更ですが、なんで貴方がここにいるんです?」
バチバチとアレンとティキの視線が交わりぶつかり合う。
それが数秒続いた後、フイ、とティキが此方に向き直りポリポリと頭をかきながら用件を口にした。
「あー、まぁ何だ。少年とは後で話すとして、今から伝えることは俺の話に乗る乗らないって話なんだが、此処にロードの扉に通ずる鍵がある。これを使ってゲームをしようってのがロード。そして俺はそれに乗っかって仕事をする。まぁなんだかんだ言ってるけどゲームだよ、ゲーム。生きるか死ぬかの、さ」
言いながらティキはカギを取り出して俺に見せてくる。
「これを使ってお前らが中央の塔の最上階にある扉から外に出られれば勝ち。塔の頂上までには三つの部屋があり、それを突破し、最後の部屋を抜け、頂上の扉から外に出る。簡単な話だろ? 乗らなきゃ死ぬ。乗れば生き残れるかもしれない。もう俺ってばやる気萎えてるんだけど当然乗ってくれるよな?」
そう言ってティキは俺を見てくる。
それはすべての判断を俺に委ねたということだろう。
これは正直原作通り。乗らなければ方舟と共に空間に飲まれ、乗れば辛い戦いになるがなんとか生き残れる可能性が出てくる。何より、この場所から移動しないとあっという間に崩壊に飲まれる。しかし、ティキの話の乗り、ロードの扉を介して移動すれば飲まれるまでの時間に余裕ができる。となれば、当然乗るしかない。
軽く皆を一瞥してから、ティキへと伝える。
「分かった、乗ってやる。ただ一応確認な。その頂上にある扉は外に続いてるんだな?」
「ああ、それは保証するよ狸君。それじゃ、受け取れ少年!」
ピィンとティキは鍵を指で弾いてアレンの方へと飛ばす。
その時でさえ俺から視線を外さないのだから徹底しているものだ。流石に今は何もしないってのに。
「じゃあ、渡すもんは渡したぞ。――ああ、狸君、一つ言い忘れてた」
ティキは去り際に俺の方へと再び体の向きを変え笑っていう。
「ロードが言ってたぞ。言ってくれれば、何時でも迎えに行くってさ」
「……断固拒否するって言っといてくれ。俺はまだ、
そっか、と苦笑して今度こそティキは去っていった。
神田は追いかけようとしたみたいだが、建物の壁の中に消えていったティキを追いかけることはできず渋々諦めた後、八つ当たりのように俺へと殺気を向けてきた。理不尽すぎるよ神田くん。
というか、神田以外からも未だに視線を感じる。
いやまぁ仕方ないとは思うけど露骨すぎて背中がかゆい
「――で、今の瓶底の人と知り合いなんですか、ラスロ。話の内容的にノアっぽいんですけど」
「あー、うん。あれもノアの一人だ。アレンは、というかここにいる皆は会った事あるだろ? ほら、物質を透過して自在に移動する憎らしいイケメン。名前はティキ・ミック」
『――――――!?』
神田以外が皆、嘘だろ、と目を見開いて驚いている。
俺も思ったよ。服装と眼鏡だけで印象って大きく変わるんだねって思ったよ。当然、悪い方にだが。
「さて、納得いかないのは分かるけどさっさと行こう。ここら辺もやばそうだ」
背中のリナリーを背負い直し、アレンを促す。
確か使い方は、適当な扉に鍵を差し込めばよかったはず。
「――ん? どうかしたのか、リナリー」
何故か左肩に置かれたリナリーの手に力が入っていた。
「え、いや、なんでもないよ? ただ、さっきの人が言ってたロードの言葉が気になって」
「ああ、しつこすぎる勧誘か。実のところ俺も良く分からない。ぽっちゃりは俺を殺そうとしているし、ロードは俺をおもちゃにして遊ぼうとしてる。この場合、連れてかれたらどうなるんだろうな、って考えると不安しかないから勧誘に乗る気はないけどな」
「……例え、皆の無事を引換になっても?」
「……らしくない、意地悪な質問だな? もしかして俺、リナリー怒らせた?」
「別に怒ってはないよ? ただ、いつもラスロは突然消えちゃうから、それで」
「突然ねぇ。あれ、基本師匠に拉致られるか脅されるかしてるからなんだけどな。あー、さっきの質問に答えるけど、俺は皆の無事を引換に自分を渡したりしないよ。自分が大切だからな」
事実である。
ぽっちゃりが取引を持ちかけてきた時でさえ、皆が話に乗ってしまったら説得しようと考えていたくらいだ。最悪、うるさい風船を一刀の下に切り伏せてなかったことにしようとしてたし。自分を犠牲に皆を助けるというのは、本当の本当に最後の手段だ。今のところ原作との差異はないから言えることでもあるが。
「――――――嘘、ついてないよね?」
「ん。どれもこれも俺の本音だよ。あー。ほら、此処に引きずりこまれる時も自分の身可愛さにアレン引きずり込んだし。まぁ、これは皆言えることか。凄い連鎖起こってたもんな」
するとリナリーは顔を伏せて黙り込んでしまった。
はて、納得したのか納得できなかったのか。
まぁいい。俺は自己犠牲を好まない、という事実を俺が認識していればそれで。
……それにしても、柔らかい。役得、あざす。
その後、男どもの視線を身に集めながらアレンに適当な扉にカギを差し込ませる。ビクビクしているけど大丈夫、誰もが通る道だから。ロードと関われば驚くことばかりだ。まぁ既にアレンは経験してるんだろうけども。
鍵開け決めのジャンケン? 俺が負けるに決まってるから無理やり押し付けましたよ。
「――――っ!?」
アレンがカギを差し込めばポン、という音と共に扉の外見がファンシーな物へと変化する。
後はこれに入れば――スキン・ボリックだったかとの戦闘になるはず。
「……行くぞ」
ピリピリしている神田の声。
それに従うように俺たちはその扉の中へと踏み入る。
すると――――
「ここ何さ……」
ラビの呆然とした声が聞こえる。
まぁ無理はない。ちょっと俺も驚いてる。
空には月、月、月、と複数の月が空で輝いている。おまけに空にかかっている七色のアレは虹だろうか。無闇矢鱈にピカピカ光るカラフルな雲まで浮かんでおり最早統一感などない。あまりに現実離れしたその光景は、間違いなく外ではありえないと実感させてくる。ここは既に方舟の中なのだ。
「…………何かいやがるな」
身が浮きだっている俺たちとは違い、神田は最初から今この時まで体に殺気を宿らせていた。だからこそ分かるのだろう、彼、スキン・ボリックが潜んでいることに。
まるで神田に一言に呼応するようにユラリとガタイに大きい不気味な男が姿を現す。彼はすでに神田とも面識があり、外にいるティエドール元帥抹殺の任を帯びていた男だ。確執があるといってもいい。だから原作でも神田はここを引き受けアレンたちを先に行かせたのだ。そしておそらく、今回も。
しかし――
「神田、ここは俺――なんでもないです」
「そうか、蚊がいたような気がしたんだが」
俺がやると言おうとしたが突きつけられた六幻で黙らせられた。
いや、別にロードとかと会いたくないわけじゃないですよ?
ティキの覚醒体と戦いたくないわけじゃないですよ?
何より師匠とぽっちゃりのダブルに会いたくないわけじゃないですよ?
ホントダヨ!
……いや、本当に。
ここで神田が足止めを食わずにティキ戦まで持っていければ覚醒体のスピードにもついていけるかと思って。神田のスピードは俺たちの中でもトップだし、今の俺より絶対に役だってくれるに違いない。俺だとスキン相手に現状足止めが限界になるが、隙をついて扉くぐって追って来れないようにぶっ壊せば終わりだし。いっそ出入り口両方潰せば……。
外道上等。
「……オイ、リナリー含めなんだその有り得ないものを見てしまったって目は」
「いや、まさかラスロから面倒ごとに顔を突っ込もうとするなんて……本当に大丈夫ですか?」
「本気で心配すんなよ……俺ってソコで心配されちゃうの?」
やっぱりアレンとは話し合わないといけない。
――訂正、そこで同じ顔している三人も同様だ。
「うぜぇ、さっさといけ狸」
「……わぁったよー。あ、でも一つだけ」
アァ!? とすごい目で睨まれるが慣れている俺には効果が薄い。借金取りはそれ以上の殺気と酷い目を持っているものです。ぶっちゃけ師匠はそれ以上にすごい時あるし。以前、イノセンスの能力を確かめたときに俺が変化してしまった鼻下が酷い偽師匠を本人に見られたときはマジで死ぬかと思ったし。視線で人を殺せるねアレは。
「スキン・ボリックは早期決着が望ましい。手加減無用、一太刀で首を飛ばすつもりで」
「オイ狸、やっぱり何か知ってやがったな? ……まぁいい。後でその面含め化けの皮剥がしてやる」
「……手加減してね?」
「死ね」
「ごめん、俺もないと思った」
ちょっと殺気抑えようよ。
まるで俺もノアの一味みたいな扱いじゃないか。
違うからね、誘われてるだけで必死に抵抗している哀れな羊が俺だからね?
皆に言ったら狸の間違いだって訂正されそうだけども。
「さぁてと。それじゃあ行きますか。アレン、行くぞ」
「ま、待ってくださいラスロ! 本当に神田一人置いていく気ですか!? もう崩壊も始まってます、時間が――」
「じゃあ神田に言ってみ? 寧ろ神田に心もとないって言った瞬間刃の向き変わるから」
「――――――行きますか」
ちらりとリナリーを見れば、信頼を灯す目で神田を見ている。
説得の必要はなさそうなのでモーマンタイ。他のメンツも神田ならと頷いている。
まぁ、スキンってば強いんだけども。
ただ一撃で、攻撃回数を少なく仕留めれば神田の負担も大きく減る。スキンの能力的には『接触』が重要になってくるからだ。その回数さえ少なくしてしまえば回復力の高い神田は負けることはない。故に、一撃で首を飛ばすようにと言っておいた。
「――神田、ここは任せるぞ」
「は、さっさと行け。……直ぐに追いつく」
それを最後に神田はスキンへと向き直り此方を見ることはなかった。
その背中を焼き付け俺たちは次の扉へと歩みをすすめる。
「確か次は――――カモか」
次の扉を潜る前、来たるべくカモの為に大量の紙を用意しておいた。
印鑑? その場で調達できるよね?