どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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過去話、伯爵の場合となります。
読んでも読まなくとも進行に支障はありません。



伯爵のイメージが崩れる可能性が大ですのでご注意を。


第十六話(過去)

 

 

 

 これは過去、ラスロと千年伯爵との出会いの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有り得ない……二十にもなってない少年に酒買わせてつけとくとか、有り得ない……感覚日本人の俺なめるなよ? つか、酒買うためにイノセンス使って姿変えるとか有り得ない」

 

 トボトボと裏路地を歩いて、拠点である宿を目指す。あの師匠が、お使いって言うから地図貰って赴いたら酒屋じゃないか。しかもツケの常連。本人は中々払ってくれない、なら、その使いできたこの男ならどうだ? と店の人が思うのはしょうがないことだと思う。だからと言って……有り得ない。

 

「というか、何でこんな真昼間から薄暗い裏路地なんて歩かなきゃいけないのやら。この歳で借金取りに追われるとか……」

 

 残念ながら、まだ練度不足のため長時間イノセンスを発動することができない。その為、もう姿は元の俺へと戻っている。

 故に、今日は目立つコートも宿に置いて追われる可能性を低くしてきた。目印着て歩くとか有り得ない。……もうヤダ。

 疲れた、逃げ出したい。しかし、逃げてもすぐ捕まるだろうし、後に待っているだろう借金の嵐に巻き込まれたくはない。胃が、胃が痛いよ。こんな荒れた世界さっさと出て帰りてぇー。

 なんて思いつつ宿までのわずかな距離を表通りに出て進もうとした時のことだ。ちょっと油断していたのかシルクハットに高価そうな服をきたちょっとふくよかな男性と激突した。ま、ぽよんと弾かれて痛みとかなかったけど。

 

「おっと、すみません。大丈夫ですか?」

 

 ふくよかな男性は貴族っぽい人間なのに随分と心が広い人だった。ただ、何ていうのだろうか。この人いい人っぽいけどなんか関わると禄な目に合わねぇぞと師匠によって培われた直感が囁いている。何か凄い秘密を抱え、知ってしまうとお陀仏ですよー、的な。

 

「いや、こっちこそすいません。ちょっと急いでたんで」

 

「ちゃんと、前を見て歩いたほうがいいですよ。では、吾輩はこれで」

 

「あ、はい。それじゃ。……二度と会わないことを願って」

 

 最後は当然聞こえないように呟くだけ。

 多分あの人、外面いいけど家では善良な人の皮剥いで外道ヅラになるに違いない。

 

「さて、と。あんまり遅れても師匠に怒られるし、さっさと帰ろう」

 

 俺は片手に持った酒瓶を確認して、師匠の待つ宿へと戻った。

 ちなみに、酒は無事です。反射的に守ってしまったらしい。うん、有り得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、まさかの再会である。

 俺は今日、お使いの後借金取りに追われてました。だからコートを隠して路地裏に逃げ込んだのだが……

 

「おや、君は昨日の……」

 

「げ、昨日のふくよかな人」

 

「吾輩は太ってません。……それより、こんなところで何を?」

 

 そう、再会したのはまたもや裏路地。

 というか、貴族な貴方こそここで何してると問いたい。

 

「いやぁ、今日も今日とてお使いを」

 

「お使いですか……家族が待っているのですか?」

 

「いやいや、待ってるのは悪魔的な赤毛ともやし君で。旅仲間みたいなもんです」

 

 その時、悪魔という単語に少し反応を示したふくよかな人。

 しかしそれはすぐに消え、何事もなかったかのようにふくよかな人は歩き出す。

 

「そうですか。……最近、この辺りは物騒になってきたそうです。気をつけた方がいいでしょう。では」

 

「え、あ、はい。それじゃ」

 

 え、何、マジでいい人なん!?

 ヤバイ、俺何時ぶりに心配されただろうか。

 ……記憶掘り返すのやめよ。アレン拾った当時、立ち直ったアレンに慰められたくらいしかパッと浮かばなかったし。別に、それ以外ないとかそんな悲しい理由はないですよ?

 結局この日、その話題を掘り返すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 更にその翌日。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 再度裏路地にて、あのふくよかな人と相対した。

 

「本当に、よく会いますねぇ。……それに、片手に酒瓶を持っているのも変わらない」

 

「全くで。お使いの帰り、道は毎回変えてるんですけどね」

 

「それにしても、毎日ソレを持ってますが一体なにを?」

 

「だからお使いですよ。俺の師がお酒大好きで。というか、貴族っぽい貴方こそここで何を?」

 

「吾輩は散歩ですよ。表通りもいいですが、人が多いのでね」

 

 ならせめて護衛くらいつけたらどうだろうか。

 まさか、このなりで武術武道に精通した達人とかですか? カッコイイ。

 

「これまた何か縁ですかねぇ……。そう言えば、師がいるのですか?」

 

「ええまぁ。師って言っても武術とかじゃなくて神父タイプですけど」

 

 その瞬間、ふくよかな人の放つ気がほんの少し禍々しくなった。

 あれ、もしかして俺地雷ふんじゃいました?

 

「では、つまり、貴方も神に縋る人間だと?」

 

 目が怖い、声音がヤバイ。 

 なにこの病んでる人。そこまで神様嫌いですか!? 

 実は俺もです!!

 

「い、いや、正直言っちゃうと逆ですよ。俺、神様大嫌いですもん」

 

「嫌い?では、何故教えを請うのです?」

 

「あはは、俺、ちょっと不謹慎かもしれないですけど神様に復讐したいんですよね? 神さまいるって信じとかなきゃ、復讐もなにもあったもんじゃない」

 

 俺をこの世界に連れてきたアホ神はいてもらわねば困る。でなければ殴れん。俺が神さまがいると信じる理由は、ある意味俺の願いだから。正直、心臓に宿ったイノセンスからは神様的な力を感じる気がするのだ。大丈夫、俺って本名裏切りの騎士だから。神様だって斬れますよ。その証拠に、咎落ちしない。

 

「何か神様って、俺に対して随分意地悪でして。アッチが俺を嫌うならば、こっちだって嫌ってやるぞと。取り敢えず、俺に過酷すぎる運命プレゼントしてくれた神さまは一発殴らないと気がすまないんですよね」

 

 するとふくよかな男性、俺が本気で言っていると理解してくれたのかトゲトゲしかった気と病んだ目はなりを潜めた。というか、逆に親愛度が増している気がする。俺って、誰が借金取りで敵か見分けるために無駄な観察眼身に付いちゃってるから偶にそう言った感情の機微を読み取ることができたりする。

 

「そうですか。貴方も神が嫌いな同志でしたか」

 

「ええ。ということは貴方もです? 貴族ですよね?」

 

「確かに吾輩は貴族です。しかし、だからと言って神を愛するわけでも無いのですよ。むしろ吾輩の敵です」

 

 そう言うと、ふくよかな男性はくるりと踵を返して俺にいう。

 

「貴方が持つ、神への憎しみは本物のようです。それに、なんでしょうね……今まで見てきた神を憎む人間の中でも、貴方の様な者は見たことがない。神を信じる理由が、神に復讐する為、か。面白い考え方ですね。これも、やはり何かの縁でしょう、どうです? 一緒にお茶でも」

 

 ふむ、どうしたものか。

 意外といい人だぞコレ。しかもお茶に誘ってくれるとは。相手は貴族でお金持ち、もしかしたらすっごい美味しいお茶が飲めるかもよ俺。決断せよ俺。あの厳しい日々の中に、ちょっとくらい休憩の時間があっても良くない?

 

「じゃ、お供させてもらっても?」

 

 ぜひ、と頷いたふくよかな男性はそのまま表通りに。

 俺はと言えば、ふくよかな体型にちょっと隠れつつ後に続いた。この日から、俺がこの街を出るその時までちょくちょく出会い、談笑するという日々が続いていた。

 やはり、時が経ちつつも意見が合えばより会話は弾むわけで徐々に仲良くなっていった。まぁ基本あのふくよかさんは動くの疲れるらしいから店に入って駄弁るだけだけど。だがしかし、俺には今までなかった時間故に新鮮である。

 ただ、この人どっかであったか知っているような気がする。喋り方は普通だけど、引っかかるのは容姿。ぽっちゃり、ふくよか。それと神様嫌いって話。

 毎回駄弁ってると思い出しそうになるのだが、結局思い出せることはなかった。

 

 

 

 そんなある日のこと。

 ふくよかさんと遭遇した俺は、今日明日にでもこの街を出ることになったと伝える。どうも、師匠の仕事に一段落がついたらしく次の任務に向かうからだと言う。

 するとふくよかさん、顎に手を当てて何か考え始める。

 ぶつぶつと呟いているが、微妙な音量故に聞こえない。

 そしてふくよかさんは俺を一瞥したあと、口を開こうとして――唐突に殺気を放ってきた。瞬間的に体が動き、ふくよかさんから二メートルほど距離を取る。すると、先程まで俺が立っていた場所に穴が穿たれていた。半径三十センチくらいの円が、綺麗に刻まれていた。

 

「よけたのですか……?」

 

 当然俺も驚いたのだが、殺気を放っていたふくよかさんの方が驚いていた。

 その間に隠しナイフを場所を確認し、本数を確認する。また、何時でも取り出せるように手をある程度近いところに待機させて様子を伺っておく。

 

「……貴方、何者です? 吾輩の一撃を避けるとは、只者じゃありませんね?」

 

 そう言ってくるふくよかさんだったが、以前ほど温かい空気を放ってはいない。その真逆で、凍てつくような殺気をバリッバリに展開し体の芯を凍らせてくる。ふくよかさんは、くるりと持っていたステッキを回す。するとそれは何故かカボチャの傘へと変化して――――――

 

「カボチャの、傘?」

 

「さて、答えなさい。貴方は一体なんですカ?」

 

 ……待って欲しい。

 その体型にその喋り方。ハートついてないけど同じだ。それにトドメのそのカボチャの傘。しゃべるだろそれ絶対! そういや店でも紅茶に砂糖大量に入れてったっけ、あれだけ甘党ならこんなふくよかにもなるよな!

 

「ねぇふくよかさん? そういや俺たちって名前、知りませんよね。どうです、ここで一つ明かしてみるってのは」

 

「……いいでしょウ。では吾輩から。吾輩の名は千年伯爵、製造者をやってまス」

 

 ほらー!

 やっぱりあのデブ公だった! なんで気づかない俺! 俺って人間バージョンの千年伯爵って見たことないっけ? あれ、実はない? ってことは気づかなくてもしょうがない――けどダメでしょそれは。 

 

「と、取り敢えず俺も。俺はラスロ・ディーユ(偽名)、エクソシスト、やってます」

 

「そう、ですカ。貴方はエクソシストでしたか」

 

「ええ、まぁ。そちらこそ、まさかあの伯爵だとは……」

 

 そういや、実はこれが初めての会合か。アレンの時俺は別のところで他のことやってていなかったし、師匠が遭遇したときは『己が栄光の為でなく』で姿隠して戦場から離脱してたし。

 

「神を否定していた貴方が、神の使徒……たしかにあの憎悪は本物。何故堕ちていないのですカ?」

 

「さて、何ででしょう。俺に適合するイノセンスだから、それなりに反逆心があるんじゃ?」

 

 すると伯爵(人間)は面白そうに笑う。

 実に興味深そうだ。

 

「それにしても、残念でス。貴方はコチラ側に引き入れたかったのですがねェ」

 

「とか言いつつ、その謎エネルギーつきつけるのやめてくれる? 当たったら簡単に俺吹き飛ぶよね?」

 

「まぁ、先ほど同様何者であろうと結局一度殺すのには変わりありませン……」

 

「それこそなんで!? さっきまで俺普通の人間って認識だったよね!?」

 

「殺せばどうにでもなるんでス。吾輩、千年伯爵ですかラ?」

 

 伯爵はついにあの姿へと変貌する。

 何時ものあのぽっちゃり千年公の完成である。

 

「死ィネ♥」

 

「ふっざけんなァァァ――――――!!」

 

 俺はナイフをイノセンス化して振るう。

 伯爵は一度レロを剣にして、そのナイフと打ちあったが少し距離をとろうとステップを踏んだ。

 

「それが貴方のイノセンスですカ♥ ……脆弱ですねェ♥」

 

 ナイフを見れば、ほんの少しではあるが欠けている。

 伯爵は脆弱というが、元が普通のナイフにしては上出来である。

 しかし、どうしたものか。流石に俺、伯爵に勝てる気がしないし逃げないといけないんだが……手持ちに煙幕系が一つもない。あるのは手榴弾一つ。こうなれば仕方がない……建物爆破しよう。幸い、ここの近くには廃れた教会があるから、そこを目指す。

 決まれば直ぐ行動! とばかりにナイフを数本投げつけて一目散に走り出す。伯爵は、飛んできたナイフ全てがイノセンスであることに気づいたようで全て剣で叩きおってきた。

 まぁその間に俺は教会付近まで走ってるんだけどね。エクソシスト、そして借金取りとの鬼ごっこで鍛えられた脚力をみよ!

 

「そぉい!」

 

 俺は閉じている扉に飛び蹴りをかまして中へと入る。

 中は窓も割れているし埃も溜まってるし散々だが、俺にしてみれば都合がいい。

 そうして中で伯爵を待っていると、上の窓を突き破ってやってきた。

 

「まさか、最後の神頼みですカ♥?」

 

「なわけない。ここで俺が祈ったって助けてはくれない。多分、いや絶対、更に追い詰められるような出来事が起きる」

 

「本当に、堕ちないんですネ♥? どうなっているのか非常に気になル♥」

 

「やめぇその笑顔。背筋が震える」

 

 と、震える演技で両手を服の上に重ねる。

 そして片手に手榴弾、もう片方にはナイフを二本指に挟んで、投げる。

 

「ヒョ♥!?」

 

 当然伯爵は驚きながらもナイフをかわしてくる。

 続いて俺は手榴弾のピンを抜いてポイッと投げて身を伏せる。目標は伯爵――ではなく教会中央の柱。イノセンス化で多少威力の上がった手榴弾なので天井を少しでも崩せればこの老朽化している協会なら崩せるだろう。更に埃と瓦礫によって視界が遮られイノセンスを発動して逃げきれる。

 そして、手榴弾は俺の思惑通りに爆発し、瓦礫をまき散らし、と埃を舞い上がらせ視界を遮った。

 

「ハッハッハッ! 甘いなぽっちゃり、俺はそうそう殺されない!」

 

「ぬゥ♥ 何処に消えたのですカ♥!?」

 

 教えるわけがなかろうに。

 俺は速攻でイノセンスを切り替え発動し、こっそりと街中の方へと逃げ出した。なに、ちょっとばかし仕返しをしないと気がすまないんだ俺。

 こっそり人混みに紛れ、イノセンスを使って伯爵(人間)に変化する。ははは、共にお茶を飲んでいた日数からしてイメージ簡単! 覚えやすい顔だし体型だし?

 そのまま、教会が崩れて大変だと騒ぐ人々に元へと歩く。

 そして――――――

 

 

 

 

 

 

「――それ、吾輩がやりました……弁償します」

 

 

 

 

 取り敢えず色々負債をつけておいた。

 話を聴きに来た警察にも、自身の名前を明かしてサインをしておいた。筆跡が似てなくとも、ここまで同一人物であれば逃れるのは難しかろう。きっと、伯爵は迷うはず。化けた能力が本当はイノセンスの能力で、ナイフは違ったとか、またはその逆で、ナイフこそイノセンスだが、化けたのはメイク技術によるものだ、とか。

 あれでも、人間バージョンの伯爵は貴族間のパイプもあるってお茶してた時に聞いてるし、俺に正体をバラされる危険性からそうそう人殺しはできないはず。ただ、ヤケになる可能性もあるので一応、『大人しく、ちゃんと借金は払いましょう。この件に関して報復に出てくるならコチラにも考えがある――』とでも手紙を書いておくとする。下手にブチギレされて無差別攻撃されるよりはマシだろう。ていうか、意外と伯爵って直接は人間殺さないし。原作のレオだって、一度狙われたっきりだろうし。

 それに、千年公という貴族が残っていればある程度動きが分かる。匿名希望で、コッソリ、中央庁へと情報を流して目をつけられてなんていないよ? ……匿名希望で、出したのになぁ。

 そんな訳で手紙を『次に吾輩に出会ったら渡して欲しい』と言って警官に預けてその場を去った。当然、事情を把握しきれていない警官が追ってきたがイノセンス使って撒いた。

 

 

 

 

 

 それからと言うもの、伯爵は俺に会うたびに言うのだ。

 

 

 

 ――この狸メ♥、と。

 

 

 

 また、師匠の話だと中央庁からのガサ入れがあったらしいが、それはそれは見事な応答で何一つボロを出させることができなかったらしい。

 次の日、伯爵に出会ったのだが本気で死にかけた。

 アクマ引き連れてまるで百鬼夜行。 

 師匠いないしでホント有り得ない! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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