どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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ジャスデビー


第九話

 

 

 

 列車を降り、バルセロナを目指し歩いていたのだが日も落ちてきたのでここらで宿を取ることにした。ローズクロスさえかざせば、お金を持っていなくとも教団が払ってくれるのでとても便利。だからと言って、師匠は多用しすぎだと思う。

 

「ふはぁー。肩凝ったな……流石に」

 

 ベットに座りながらグルグルと肩を回す。

 長時間座っているのはやはりキツイ。それに、チョメ助らが装置改造の為やってきていたので寝不足だ。一体につき三十分~一時間ちょっとかかる。たかが爆弾一つと思っていた浅はかな俺を恨みたい。

 

「しかし、まぁ、魂の消滅を逃れられるならいいか」

 

 結論づけて武器の整備を始める。

 剣は磨くだけでいいが、銃の方がちょっと面倒くさい。分解して磨いてだ。一度も使用してないけど。それに、イノセンス化してしまえば暴発とかないけど……うん、趣味です。

 

「これだけが、あの生活中の娯楽だったからなぁ……」

 

 確かにあの生活中、トランプとかは手にしたがあれは娯楽ではない。

 あれは俺たち弟子組にとって商売道具でしかなかった。アレンとトランプしたときなんかイカサマの応酬。ドチラが綺麗に騙せるかとずれた勝負になっていた。

 

「思えば、遠くに来たものだ」

 

 すでに違う世界に来てるけどね。

 ……やめよ、自虐やめよ。

 

「さっさと追いつかないといけないし、寝よう。それがいい」

 

 俺は軽く寝る準備をして、ベットに横になった。

 目を閉じると、何故か瞼の裏にとある思い出が浮かび上がる。 

 

『馬鹿弟子一号、酒持ってこい』

 

『師匠、それならお金を俺に下さい』

 

『つけとけ』

 

『弟子につけんなこの馬鹿師――!』

 

 とか。

 

『ラスロこれをやる。纏めて、その時が来るまで持っておけ』

 

『紙? もしかして何かの情報ですか?』

 

『…………ああ、そうだ。絶対なくさず持っておけ、いいな?』

 

『分かりました』

 

 

 

 翌日。

 

 

『クロスの弟子は何処だァ!!』

 

『え、俺ですけど……』

 

『連帯保証人だな? この契約書通り全部で20ギニー、払ってもらおうかッ!!』

 

『四十、万? え、何で俺? そんな契約書の――ってまさか!?』

 

『持ってるじゃねえか。……当たりだな。ちょっとコッチ来いや』

 

『え、ちょ、な、その時ってこの時か――!?』

 

 

 

 

 

 

「……なんで、思い出すのがトラウマの数々?」

 

 え、やだ、嫌な予感しかしない。

 しかも師匠関係での。

 俺はバッと布団を飛び出し荷物をまとめる。

 だめだ、ここにいちゃダメだ。面倒ごとに巻き込まれるに決まっている。直感を信じるんだ。

 そして宿を出て人気の少ないところへと移動する。あるんだよ、人混みに紛れてたらいきなり腕掴まれて請求書つきつけられた時が。はっきり言って、同じような状況でアクマに襲われた回数より多い。……有り得ない。

 

「このコート、本来はアクマを誘きよせる為のものなのに、借金取りが目印にするとかどうよ。あんまりだ」

 

 エクソシストって何だっけ?

 ああ、帰りたい。より帰郷を求めているよ俺の心。 

 そんな時だ。見たくもないものを見てしまった。

 扉。ポツンと置かれているハート型の扉。うん、有り得ない。

 クルリと体の向きを変えて、その場を去ろうと足を踏み出すのだが、それよりも先にドアが開く音が聞こえてきた。

 

「………………勘弁してくれよ、ロ――…ド?」

 

 俺は諦め、ため息をつくながら後ろを振り返る。

 しかし、そこにいたのはロードではなく、なんかファンキーなファッションをした二人組だった。片方アンテナついてるし。……まだ会ったことなかったけど、ジャスデロとデビットでせう?

 

「「は、はは、ハハハハハハハ!!!!」」

 

 二人は俺と目があうと、笑う。

 何か病んでるっぽい。

 

「ようやく会えたなぁ弟子一号!! 俺はデビット、はい次!」

 

「ジャスデロだよ! 二人合わせてジャスデビっ! ヒヒ!」

 

「「そう、二人合わせてジャスデビなんだよこのヤロー!!」」

 

 そう言いながら銃を突きつけてくるジャスデビの目は、獲物を見つけた目というか親の敵? 的な目に変わる。一体何事? というか、弟子一号って、まさかまさかまさかね?

 

「あー、嬉しくてしょうがねぇ! ようやく会えたな弟子一号! 会いたくて会いたくてしょうがなかったぜ!!」

 

「……大声でそんなこと言うのやめような。ホモ発言よソレ」

 

「だぁれがホモだゴラァ! 俺たちがお前に会いたくてしょうがなかった理由、教えてやるぜ! ジャスデロ!」

 

「ヒヒ! 弟子一号、これが理由だよっ!」

 

 そう言ってジャスデロ、アンテナ君は一枚の紙――が連なっている分厚い紙の束を取り出し突き出してくる。ああ、見る必要はないよ。もう、分かったから。君たち、俺の仲間なんだね?

 

「同士だったか。……お互い頑張ろうな?」

 

「「ざけんじゃねぇ! 俺たちはお前に払わせる為にここへ来たんだ!」」

 

「はっ、そういうことなら話は別だ……断固拒否する!」

 

 現在、俺の押し付けられている借金は五百ギニー、約一千万。教団に一時的に負担してもらっているので利子なしで返せばいい。こんな縛りの少ない生活を捨てろと言うのかこのノア共は。アレンには悪いが、師匠に貨物に詰め込まれて教団へ、そこからアレンが来るまで稼がせてもらったので大半は返し終えてる。……まぁそれで五百ギニーなんですけどね?

 

「そういうのはな、かかる方が悪いんだ。師匠に関わるなら、顔隠して正体隠して接近しないとダメなんだよ。じゃないと、何時の間にか名前がバレた上にそうやって請求書の保証人にされんだよ」

 

「んな事俺たちが知る訳ねぇだろ!? つうかおかしいだろ! 俺らに借金つけて逃げ回るとかホントエクソシストですかぁー!?」

 

「……即答できねぇー」

 

「ヒヒ、信用なさすぎるねクロス! 当然だけど!」

 

「というか、一つ聞いてもいいか? 何で俺が師匠の弟子だって知ってんだよ。あったことなかったよな?」

 

「アァン!? んなもんロードに聞いたに決まってるじゃねぇか!! 御陰で宿題手伝わされたわ!!」

 

「ロォードッ! 厄介事押し付けるどころか作り出してるんじゃねぇよ!! そんなに俺の胃を破壊したいか! 今月胃薬の箱二箱目突入だコラ!」

 

 ていうか、トラウマ思い出した時感じた嫌な予感ってこれか!

 キャハハッハ、と笑うロードの姿が脳裏に浮かぶ。

 やめぇ、もうホントやめぇな。このままじゃ胃がまっ先に死ぬ。

 

「兎に角弟子一号! クロスより簡単そうなテメェに払わせる、金だせやコラー!!」

 

「チンピラか、つか師匠追えよお前ら! 酒屋と美人探せばすぐ見つかるから!!」

 

「折角見つけても逃げられんだよ! 逃げ足早いししぶといし、んだアレは!!」

 

「アクマじゃなくて悪魔の方だね、ヒヒ!」

 

「いいえて妙。師匠の所業はあんまりだからなぁー」

 

 三人してうんうんと頷く。

 変な連帯感が出来ていた。

 

「って、意気投合してる場合じゃねぇ。さっさと金出してもらうぜクソ弟子! ジャスデロ、赤ボムいくぜ!」

 

「「装填、赤ボム!」」

 

 ジャスデビが引き金を引く。すると、リバルバーの銃口から巨大な火の弾が飛び出してくる。それを正面に見据え、腰の剣で薙ぎ払う。

 

「へぇ、ロードの言ってた通りだ。普通の剣で俺たちやアクマの攻撃を防いだり破壊したりするって! はは、何だか楽しくなってきた」

 

「ヒヒ、クロスとじゃまともに暴れられなかったからね、ヒヒヒ!」

 

 俺は二人が銃を構えるその前に走り出す。

 

「おっやる気か! 行くぜクソ弟子!」

 

「ヒヒ、ヒヒヒヒ!!」

 

 銃口から放たれる弾丸は、一発一発の効果が違った。

 最初の炎弾だったり、当たると氷結しかけたり、打ち返したものを消したりと多種多様。段々と、このノアの能力を思い出してきた。

 

「……試しに、その銃、奪わせてもらおう!」

 

 剣を片手に、銃を抜き取り狙いを定める。

 ターゲットはジャスデロ。第一印象から決めてました。

 狙いが本人じゃない上、いきなり発砲してくるとは思わなかったのか硬直するジャスデロ。俺の放った弾丸は、なんの問題もなくジャスデロの銃に当たり、その銃を弾き飛ばす。

 同時に銃を乱射し牽制しつつ、飛んでいったジャスデロの銃を回収しイノセンス化してみる。

 

「……やっぱり、弾倉が空か。つまり、あの弾丸は能力によるもの?」

 

 ここまで思い出せばするりと出てくる。一応、あの中には普通の弾も装填されたことはあったはずだが能力を思い出した以上特にいらない情報だ。

 『実現』これが二人の能力だったはず。脳で一致した想像を実現させる、反則じみた能力だ。

 長引かせると非常に不利。『実現』により大量の何かを作られると消耗戦に弱い俺がキツイ。ここは撤退するべきか。寝不足で体もだるいし。

 というわけで、奪った銃のイノセンス化を解く。その瞬間、ピシリと音がしたが気にしない。ま、まぁ弾入れないなら銃身の内側にヒビ入っても大丈夫さ。入れたら入れたでその時です。大丈夫、ノアだから。

 

「クソ弟子ぃぃ! デロの銃を返せ! ヒヒ」

 

「ん、悪い、今――返すッ!!」

 

 銃を投げる。

 しかし銃だけではない。スモークグレネードもプレゼント。

 

「ヒヒッ!? どこ、デロの銃どこへぶっ!?」

 

「じゃ、ジャスデロ!? くそ、クソ弟子どこ行った!!」

 

 誰が出ていくか。

 心の内で呟きながら、イノセンスの能力を切り替える。

 

「発動、『己が栄光の為でなく』」

 

 その瞬間、俺は自ら放ったスモークの煙と同化するように消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ! クソ逃げられた! やっぱ弟子じゃぇかあのヤロー!!」

 

「あ、あった!デロの銃あった!! ヒヒ!」

 

 煙が晴れた頃には、既にラスロはいなかった。

 幾ら煙に紛れ込んだとはいえ、あまりに見事なものでデビットは彼の師匠、クロスの弟子だと再認識する。手口は少し違うが、逃走の華麗さに置いては引けを取らない。

 

「だが、覚えた。次あったとき、今日受け取らなかった事後悔させてやるぜ! 次にはもっと増えてるからなッ!」

 

 残念ながら、この場に突っ込み役はいない。 

 どうやらデビットもまた、クロスに染められつつあるようだった。

 

「ヒヒ、何かカラカラ音するけど返ってきた、ヒヒヒ!」

 

 隣で銃を大切そうに握りしめるジャスデロ。

 彼は今回の事で、ラスロを完全に敵と認識した。

 次に会えば、油断はしない――つもりだ。残念な事に、彼の頭で何時まで覚えてられるか分からないが。

 

「怨念、ドロドロたまったぜ……次、ぶちかます!」

 

「ヒヒ! ベコベコにしてやる!」

 

 ここでまた、ラスロの胃にダメージを与える厄介ものが一組増えた、しかも、二人。

 この他にも、ロード、千年伯爵に、そのうちティキ。千年伯爵がそうであれば、ルル=ベルも当然である。何だか死ぬのも時間の問題の様な気がしないでもない。

 ラスロの人間関係? は加速する。

 それも、ただひたすら――――――悪い方へと。 

 神様は、そこまで彼が嫌いらしい。

 

 

 

「って、アレ?」

 

「ん? どうしたジャスデロ」

 

 コテンと首を傾げ、デビットの服を見る。

 正確には、その右ポケットを。

 デビットもそれを見れば、何か紙が一枚はみ出ていることに気づいた。請求書? とも思ったが、アレはポケットに入る厚さではなかったなーとフツフツ沸き上がる怒りをいなして紙を抜き取る。

 

「えーっと、んだよ、やっぱり請求書かよ。……クソッ!」

 

「ヒヒ、さっさとあの弟子捕まえて払わせないとね……ところで、一枚だけ取り出したりしたっけ?」

 

「…………………………」

 

「……………………ヒヒ!」

 

 ビキリ、そんな音が彼らの頭から聞こえてきた。

 ジャスデビの二人は、ゆっくりと、保証人の欄を覗き込む。するとそこには――ラスロと名が書かれ、横線で消されていた。見れば、下にある血印まで線で消され、新しい血印が押されている。

 

「…………………………」

 

「………………見ないの? ヒヒ!」

 

 その上には、消されたラスロの名前の代わりに新しい名が、二人分。よく見れば、血印も二人分あった。二人、この単語が頭から離れない。二人、それはジャスデビを現す言葉。

 ゆっくりと、顔を上げるデビットとジャスデロ。

 そして、見た。

 

 

 

 

 

 

 

「「アァァァァァンノォォォォ!!! クソ狸ィィィィィィィ――――――!!!!」

 

 書かれている名は二人分。

 随分と達筆だなとかそんな感想はどうでもよかった。

 大切な事実は、その二人の名が自分たちのものであること。今更だが、自身の親指が赤く染まっていることに気づく。

 

「ぜってぇ殺す! 金ぶんどってから殺す!」

 

「ヒヒ、ヒヒヒ! やっぱ弟子だ! クロスの弟子だ!!」

 

 そう、それはラスロが貨物に詰め込まれた際に渡されていた請求書。

 それを二人へと擦り付けたのだ。……イノセンス使って隠れながら。

 ラスロが千年伯爵からいただいた名『狸』だが、ジャスデビもまたそれに倣った。

 

 

 

「「待ってろよクソ狸! ぜってぇ殺すすぐ殺す! クロスと一緒にあの世逝きだ――――――!!」」

 

 

 

 そして少し訂正がある。

 神さまが嫌うから以前に、彼自身にも問題があったのだと言うこと。

 

 

 

 敵は増え、味方は依然少ないままだ。

 

 

 

 




借金増額。
ラスロにはすまないと思ってます。

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