ご注文は“さそり”ですか?   作:鯛焼きマン

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一応原作アニメの二話のサブタイトルのもじりのつもりだけどこのサブタイは流石に次回までにして一旦区切ろうと思います。


今回と次回は日常パートになります、と意味のない予告をして最新話投稿します。


ツンデレの妹を持つ姉とツンドラの弟を持つ姉 4

 時計の針が正午を示す時間。中学の始業式が終わった香風(かふう)智乃(ちの)は彼女にとって我が家であり仕事場でもある『ラビットハウス』の前に来ていた。

 ここで彼女は母を亡くしてから父と祖父(?)の三人で暮らしていた・・・・・・のだがこの間、この街の学校に入学することになって下宿先を必要としたココアを招待したことで今では四人(?)暮らしとなっている。

 夜は父がバーを昼はチノと上記のココア、そしてバイトのリゼの三人で喫茶店を営んでいる。

 

 また今日は数ヶ月前からバイトをしているある人が久しぶりに顔を出してくれる日でもある。

 

(最近会ってなかったから変に緊張しないようにしないと)

 

 その人はこの約二週間バイトを休んでいた。

 ()()()()()()()()()が忙しくなったためとのことらしい。

 現在まだ中学生の身の上の都合、便宜上はお手伝いという立場で実家のラビットハウスで働いているチノはその事情に共感し納得していた。

 店主である彼女の父も同意見のためその長期休職を許した。

 

 むしろ反発したのは同じバイト仲間であり()()()()()()()()リゼだった。

 

 (くだん)の父親の仕事の手伝いの内容というものが何か、彼女すら教えて貰っていないことが納得できなかったらしい。

 その場は「家族やそれに類する間柄でも全てを教えられるものではない。特に仕事に関する事ではな」と祖父が収めてくれたが、あの時のギスギスした空気がチノの脳裏によぎる。

 ココアが来てくれたことで彼女の陽気に当てられリゼの雰囲気は日に日に元の明るさを取り戻していったが、その分別の事で悩んでいるような様子が見られるようにもなった気がチノにはした。

 

(っ・・・・・・いけない。こんな暗い顔してちゃ)

 

 ブンブンと頭を振り気を引き締める。

 

(『料理とは常に、(すい)なものでなくてはならない』でしたね)

 

 彼の言葉を胸に抱き、ラビットハウスの扉のドアノブに手を掛ける。

 

(それにココアさんがいれば何だかんだで場を明るくしてくれる・・・・・・はず、です)

 

 ただいま、の声と共に扉を開く。

 

「大人しく白状しろ・・・・・・早く楽になれるぞ」

「なら黙秘権を行使する」

 

 年季の入った木製のテーブルを挟んで向こう側にいるリゼからの質問に、ジンは即答する。

 彼は現在、刑事ドラマの取り調べよろしく木製の椅子に座らされている。

 

「軍隊の尋問に黙秘権は、無い」

「捕虜にだって人権はあると思うけど?」

 

 予想の斜め上をいく展開にチノは言葉を失い呆然とする。

 

「なんだこの状況・・・・・・」

「あ! チノちゃんおかえり!」

 

 やっとのこと一言絞り出した彼女を対照的に、相も変わらずマイペースなココアが出迎える。

 彼が何故このような仕打ちを受けているのか。チノはココアに現状の説明を求めた。

 

「えーと、それはねぇ・・・・・・」

 

 それを受け、ココアはつい三十分ほど前の出来事から語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の学校の入学式が明日だと知ったココアはその事実を教えてくれた少年を(そういえば名前を聞いてなかったことを思い出し)探す途中で、彼と同じく自分と同じ高校に入学するという和服の少女に出会った。

 話して意気投合した少女に少年のことを尋ねるが、当然であるが外見の特徴だけではわからないとのこと。

 そこは残念だったが気が合う少女とココアは必然的に友人になり、明日は迷わないように高校まで(話が盛り上がり過ぎた所為で間違って中学校を紹介されたアクシデントはあったが)案内して貰った。

 

 そんなこんなで時間は過ぎていき、今日の所は少女も仕事中とのことで明日の再会を約束して別れ、彼女も自身の職場であるラビットハウスに行くことにした。

 店の扉には準備中の札が掛けられており、店に入るとまだ店内には誰もいない。

 とりあえずココアは店の奥で事務の仕事をしていた現マスターのタカヒロさんに挨拶をして、更衣室で制服に着替える事にした。

 

 ちなみにこの店の女性用の制服は何気に巷で有名だったりする。

 ココアもシンプルながら秀逸なデザインを気に入っており、それを着て仕事をすることがやり甲斐になっている。

 

(そういえばタカヒロさんが『長い間バイトを休んでた子が今日から一緒に仕事をすることになるからよろしく』って言ってたけど・・・・・・)

 

 どんな人だろう、とまだ見ぬバイト仲間の人物像に思いを巡らせながら更衣室に向かう。

 

(あっ、使用中の立て札が掛かってる。リゼちゃんはまだ学校だろうし、それならチノちゃんかな? よーし・・・・・・)

 

 ココアはただ今、更衣室で着替え中であろうチノを驚かせようとノックせずにドアを開いた。

 しかし中にいたのはチノではなかった。

 

「チノちゃんただいまぁう゛えええええ!!?」

何奴(なにやつ)・・・・・・って、君は・・・・・・」

 

 中にいたのは久しぶりにラビットハウスに来て、今まさに制服のバーテンダーの服に着替えている最中のジンであった。

 

 タカヒロ以外にラビットハウスに男性はいないと思い込んでいた彼女は人生で十指に入るレベルのショックを受け、およそ女性が出してはいけない声で驚く。

 その惨状を見て逆に冷静になってしまったジンは冷めた視線を送る。

 

「胸元セクシーな泥棒さん!?」

「なんだそれは」

 

 泥棒という謂われない罪を言い渡され辟易する彼だったが、誤解を解く前にまずは一言言っておきたいことがあった。

 

「・・・・・・男の生着替えとか誰得だよ」

 

 店主に提案して更衣室に鍵を取り付けて貰おうか、とジンは真面目に検討した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでこの状況に?」

 

 そこまでの話を聞いたチノは今なお言い争い(と言う名の一方的な詰問)を続けている彼らを横目で見ながら「嗚呼、そろそろ開店準備をしないといけないのになぁ」とでも言いたげな心労の息を口から漏らす。

 

「ううん、その事は私の声を聞いて来たタカヒロさんが説明してくれたから誤解は解けたんだけど」

 

 ココアはチノの予想を訂正し、本題を話した。

 

「その後来たリゼちゃんに()()()()()()()()()()()()を話したら、リゼちゃんが顔を真っ赤にしてキッチンに走ってっちゃって・・・・・・」

 

 

 

 

 

「答えろ、ジン」

 

 キッチンでの支度を終え、暇潰しに新聞紙を広げるジンの前にリゼが立つ。

 そしていつになく真剣な声と鋭い目をしたリゼは彼にこう言い放った。

 

「何故、婦女子を暗い路地に連れ込むようなマネをした?」

「・・・・・・保登さんめ、名前で呼ばれなかったのがそんなに・・・・・・いや違うか」

 

 こうして話は冒頭のシーンに戻る。

 

 

 

 

 

「社会勉強って・・・・・・まあ、色々やり方が極端なジンさんならしかねないこともないですけど・・・・・・」

 

 ココアとジンとの初対面時の話も聞き、まずは状況を理解したチノ。

 

「やり方が極端って? 確かにあのリゼちゃんに一歩も退かないのは凄いと思うけど」

 

 モデルガンとサバイバルナイフをそれぞれ手に持ち詰め寄るリゼに眉一つ動かさず応対することは、実年齢よりも大人びていると周りから評価されるほど冷静沈着なチノでも無理であろう。

 

「ええ、初めてラビットハウスに来た時も凄かったですよ」

 

 あの人はある意味大物の変人です、と前置きしてチノは彼と初めて会った日のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々ジンは進んでバイトを始めたわけではなかった。

 その社交性の無さを案じたリゼに半ば無理矢理ラビットハウスに連れてこられたのが始まりだった。

 

「やあ、チノ。こいつがここで働かして欲しいと私が前に話した弟の・・・・・・おい、何をしているんだ?」

 

 チノに挨拶がてら彼の紹介をしようとしてリゼが振り返るが、肝心の彼はそんな話は他人事とばかりに壁や店のインテリアを観察することに集中していた。

 

「テーブルや椅子の傷や老朽具合・・・・・・趣と取るか廃れと取るか・・・・・・」

「それはどういう・・・・・・」

 

 弟の奇行を見て怪訝な表情をするリゼが疑問を言い切る前に彼は口火を切る。

 

「別にこの店に来るとは言ったけど、働くとは言ってない」

 

 ジンはそう言って初めに彼女がチノに対して行おうとした説明を切り捨てた。

 

「料理とは常に、(すい)なものでなくてはならない。僕が働くに相応しい店か、見極めさせてもらおうか」

(なんだこの人・・・・・・)

 

 初対面の人から予想外の不遜な物言いをされ、困惑を隠せないチノ。

 それが香風智乃と天々座刃の衝撃のファーストコンタクトだった。

 




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