名前の由来は紅茶ブランドの『JING TEA(ジンティー)』から。
容姿はリゼを女体化ならぬ男体化した感じ、声はリゼより低いがギリ中性的。
着痩せするタイプで体は線の細そうな見た目に反し鍛えられている。
イメージカラーはリゼと同じ紫。
ジンの設定はこんな感じです。
「ふぁあ・・・・・・」
木漏れ日が草花を照らす朝。紫がかった黒の長髪が美しい少女、
「またあの時の夢か」
三ヶ月も前の出来事ではあるが、リゼの中であの時の事はそれだけ強い印象に残っていた。
(いや、もしかして本当に夢だったのか?)
しかし、あの出来事が夢か現か判別が出来かねてきているのも事実。
それだけ現実離れした出来事だった。
しかも後日あの場所に行ったが、痕跡は何一つ無くなっていた。
だから余計に疑念が大きくなる。
それでもリゼは一つ心残りがあった。それは、
(ただ一言、お礼が言いたい)
その引っかかりのおかげでリゼの心には、あの仮面の騎士のことが焼き付いていた。
だが、どうも積極的に調査しようと思う気になれない。
漠然とした忌避感があった。
理由は、わからない。
(そもそもが白昼夢じみた話だ。事情を話したところで誰も信じてくれないだろう・・・・・・それに)
下手な好奇心は猫を殺す。
想いはあっても足が動かないのは、無謀の先には死しかないことを伊達に軍人の子ではない彼女は理解していたからか。
「・・・・・・兎も角、そろそろ起きるとするか」
あるいは、彼女の心に染みついたあの“
何はともあれ今日は春休み明けの登校日、制服などの簡単な身支度を済ませた後に部屋を出る。
何故寝起きすぐに自室で着替えをするかというと、リゼの家が城のような大豪邸だからだ。
勿論それに見合うだけの広大な敷地と多くの使用人(および父の部下)を抱えている。 なので自分の家の中だからといってあまりラフ過ぎる格好をする訳にもいかない。
その使用人のほとんどが男性なので尚更だ。
だからといって別に自分の家に家族以外の人間がいる状況に不満はない。
ほとんどの使用人が自分が幼い頃から一緒に住んでいる半ば家族同然とも言える人達なので寧ろ突然いなくなられても嫌だ。
だが家族同然だとしても親しき仲に礼儀あり、という言葉通り一線は引かねばならない。主人の子と使用人の間なら当然。
それについて口うるさい家族が一人いるのでリゼも特に気を付けている。
(噂をすれば・・・・・・)
曲がり角を曲がったところで一人の少年が見えた。リゼは見えない位置で一度深呼吸した後、意を決して挨拶を交わす。
「やあ、ジン。おはよう」
「おはよう、リゼ」
この少年の名前は天々座
リゼと同じ質の黒髪を持ち、姉弟揃って目付きが生まれつき鋭いので一目見ただけで血の繋がりを察することができる。
リゼとの大きな違いは、彼が男性らしく髪を短くしている点だろうか。
「えっと、朝食はどうしたんだ?」
ダイニングルーム(一度に十人は一緒に食事出来るぐらい広い。ちなみに客間とは別)から丁度出てきたジンに何気なく話題を振るリゼだが、彼の対応は質素なものだった。
「もう食べた。朝早く家を出る用事があったからね」
その言葉通り上から下まで身支度を完璧に済ませ、今すぐに外へ出ても恥ずかしくない格好をしている。
様子もどこかしら急いでいるように見える。
「用事ってなんだ? 制服まで着て。入学式は明日だろ?」
急いでいるのは察したが流石に二・三言しか会話がないのは実の姉弟にしては寂しすぎる気がするし、純粋に用事が気になったのもあってリゼはジンに再び問うた。
だが、
「リゼには関係ない。じゃあ、そろそろ行くよ」
取り付く島もないとはこのことだろう。
姉と容姿が似通っているジンのリゼとの一番の相違点はこの無愛想さだ。
その所為でただでさえ鋭い目付きも相まって、初対面の人からまず敬遠される。
リゼはそれを前々から気にしていてよく諫めていたが、当の本人はどこ吹く風で気にする様子も一切無し。
父親も「男にはそういう時があるもの」と言い、彼女自身何度言っても相手にしてくれない弟に口を酸っぱくするのが空しくなっていった。
そんな時からだろうか。彼女がジンに話がけ辛いと感じるようになったのは。
「・・・・・・ああ、じゃあな。気を付けろよ」
こんな現状はどうにかしなければならない。
それが分かっていても一歩踏み出せない自分が、リゼはどうしようもなくもどかしかった。
(昔は・・・・・・あんな風じゃなかったのに・・・・・・)
リゼは幼い頃のことを想起する。ただ無邪気に、二人で遊んだ日のことを。
昔のようにとは言わない。
それでも彼と向き合いたい。
当たり前の姉弟のように。
それがリゼの偽りない想いだった。
(やはり私はココアのようにはなれないな・・・・・・)
自分がこの事を気にするようになったのはきっとあの子の影響だろう、とリゼが頭に浮かべたのは新しくできた無邪気な後輩の事だった。
※
木組みの家と石畳の街。清々しい朝の空気が通る街道を一人の少女が歩いていた。
「フフフフンフン♪ フフフーン♪」
商店が賑わうにはまだ早い時間帯故に人通りが少ない街中を、ご機嫌に鼻歌まで歌っているのは
春からこの街の高校に通うために、ついこの間下宿先のラビットハウスに引っ越してきたばかりである。
ココアは以前からこの街には何度か家族と来たことはあるが、その家族と離れて他所の家にお世話になることに心配が無くはなかった。
だが久しぶりに訪れた街の雰囲気が依然と変わりなく心地よかったこと、そして下宿先の店のマスターのタカヒロさんの人柄良さで引っ越し前のちょっと不安だった気持ちはすっかり晴れた。
それにその店で一緒に働くことになった前マスターの孫で店の看板娘の
可愛くてモフモフの最高の妹(本人の許可無し)もできたことで彼女の気分は一周回って200%に快調だ。
今は新入生として、新しい学校の入学式に出るために登校している。
(チノちゃんとはすぐに通学路が分かれちゃって少し寂しいけど、今日は良い出会いがあるような気がするし学校での生活が今から楽しみだなぁ~)
「待て」
そんなフワフワとした心持ちに水を差すような声と共に、ココアの手首が掴まれた。
「ええっ!?」
驚いて振り返ってまたも驚く。
相手はココアと年が近いと思われる少年だった。
「えっとぉ・・・・・・なに、かな?」
明るく朗らかな性格で誰とでもすぐに仲良くなれるココアといえど異性に手を握られる経験など無く、緊張して普段から自然と浮かべている笑顔もぎこちなくなってしまう。
それでも何とかそう問いかけるが相手は「違ったか」と小さく呟いた後、あっさりと手を離した。
「すまない。人違いだったよ」
「待って!」
簡潔に詫びの言葉を入れて去ろうとする少年を今度はココアが呼び止めた。
「きみ、同じ学校の生徒だよね!?」
第一学友との遭遇に目を輝かせる少女に少年、ジンは虚を突かれ一瞬固まる。そして
「・・・・・・はあ」
面倒臭そうなヤツに声をかけてしまったと後悔した。
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