ご注文は“さそり”ですか?   作:鯛焼きマン

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前回の話と今回の話は一つの話を(合わせたら二万文字いきそうだったので)区切りが良い所で半分に割ったものなので、早く投稿できました。次回は・・・・・・お察しです(汗)

とにかく、ギュインギュインのズドドドドド・・・・・・! な最新話投稿でーす!(自画自賛)


初めて会った日の事憶えてる? 自分の家のメイドにしようとしてたわよね 2

 時刻は夕刻。

 チノ達が切り盛りしている昼のカフェ・ラビットハウスを閉め、タカヒロがマスターを務める夜のバー・ラビットハウスに切り替える準備を終えたチノ・ココア・リゼはマグカップ専門のショップに来ていた。

 

 何故、彼女達がそんな所に来ているのか。

 発端は開店前にシンプルなデザインのラビットハウスのカップを見てココアがチノに「もっと色々なカップがあった方がお客さんもきっと楽しいと思うよ」と言ったことで、

 丁度チノが(ココアが仕事に慣れるまでに割ってしまった分の)新しいカップの補充をしようと考えていたこともあってその意見に乗ったのだった。

 

「ジンくんも来れたら良かったのにね」

「ジンさん、家の手伝い大変そうですね」

「父は優しいが厳しい時は本当に厳しいからな。特に時間には厳しいし、断りの連絡を一文メールで送るだけで手一杯だったんだろう」

 

 ジンは病院に家の部下達の見舞いに行ったあと、本来なら彼女らに合流する予定だったのだがまたしても用事が入ってしまったのだ。

 本来ならラビットハウスに相応しい(すい)な逸品を一緒に探そうと思っていたチノは残念そうにしている。

 

「まぁまぁチノちゃん。お姉ちゃんに任せなさーい!」

 

 袖を捲り上げながらガッツポーズを決めるココア。

 

「ココアさん?」

「お洒落で可愛い最高のカップを買って、私達のセンスでジンくんを驚かせちゃおう!」

 

 落ち込んだチノを元気付けようとココアは張り切って店内に入っていく。

 

「大丈夫か? ジン(あいつ)は食器であれ、料理に関係するものに関して特に厳しいぞ?」

「限りある資金でそれなりの数を揃えなくちゃいけないから、安価かつ丈夫なものでないといけないってココアさんわかっているんですかね・・・・・・」

 

 二人は幸先に不安を覚えつつもココアに続いた。

 

 

 

 

 

 そして案の定テンションが上がり過ぎて注意が散漫になったココアが、商品の陶器が飾られた棚に衝突。いきなりカップを割りかけるというハプニングがあったがそこは二人がフォローして事無きを得た。

 

「わー! このカップ可愛い」

 

 それで反省し、多少は自制しつつもお洒落なカップの数々に気持ちの昂りを抑えられないココア。

 

「「あ」」

 

 彼女が何気なく伸ばした手が別の少女の手に触れた。

 二人の少女が慌てて手を引っ込めてお互いの顔を見つめ合う。

 

「まるで少女漫画のワンシーンだな。ベタな展開ならここでお互いの顔が急接近して」

「『芋けんぴ 髪についてたよ』と言って食べるんですよね。ジンさんに貸してもらった漫画に描いてました」

「そうそう・・・・・・ん?」

 

 少女漫画の 法則が 乱れる!

 

「小麦粉、髪についてたよ」

「ついてるわけないでしょ! 昔のヨーロッパの貴族じゃあるまいし・・・・・・ってリゼ先輩!?」

 

 ココアの少女漫画的セリフ()にツッコミを入れた金髪の少女はリゼの存在に気付き、目を丸くする。

 

「あれ? シャロじゃないか。奇遇だな」

 

 リゼも一泊遅れて少女に気付く。

 

「リザさんのお知り合いですか?」

「ああ、私の通っている高校の後輩の(きり)()(しゃ)()だ」

 

 リゼから紹介を受けた桐間紗路ことシャロ。

 シャロも、ココアとチノがリゼのバイト仲間だと教えてもらい、二人に恐縮した態度で挨拶をする。

 

「り、リゼ先輩の後輩の桐間紗路、です!」

「あはは、そんなに固くならなくていいよ? リゼちゃんの後輩ってことは同い年なんだし。よろしくねシャロちゃん!」

 

 出会って三秒で友達をモットーにしているココアはシャロの堅苦しい言葉遣いを和ます。

 

「あ、そうなんだ。あれ? その割には・・・・・・」

 

 ココアが同い年だと知って態度を軟化するシャロ。

 だがそこで自分と同い年であるはずのココアが年上のリゼに対してやけにフレンドリーな、悪く言えば馴れ馴れしい態度をとっていることに疑問を感じた。

 そんな年功序列を重視するお嬢様学校に通っている者特有の疑問にリゼが答える。

 

「実は少し前までココアの奴、私のことを同い年だと勘違いしててな。私自身、年功序列をそこまで重視してないし今更急に態度を変えさせるのもおかしいだろ? ココア自身もこういうキャラだしな」

 

 ジンのことも双子の姉弟だと思っていた模様。

 実際、帽子などで髪型を隠して体型が目立たない服を着れば、ぱっと見どっちがどっちかわからない位には似ている。

 

「リゼ先輩達はどうしてこの店に?」

「私達はバイト先の店で使うカップを買いに。そう言うシャロは?」

 

 デパートの一店舗ならショッピングしている内に偶然出会っても不思議ではないが、業務用からそれなりに高価な商品を取り揃えているカップの専門店で居合わせたことが気になったリゼ。

 

「私はこの店のカップを見に・・・・・・」

「買わないのか?」

「い、いえ、見てるだけで充分ですからっ」

 

 リゼの問いにやたら動揺するシャロ。

 目が全力でバタフライしていた。

 

「シャロさんはどのカップが良いと思いますか?」

 

 憧れの先輩であるリゼ相手に下手な誤魔化しを言う訳にもいかず困っていたところで、チノの質問に救われるシャロ。

 即座に話題を変え、彼女の相談に乗る。

 

「そうね、例えば・・・・・・ほら、このカップは紅茶の香りが広がる形になっているし、こっちは持ち手の触り心地が工夫されているわ」

「カップにも色々あるんですね」

「おおっ、触り心地が気持ちぃ~」

 

「細部を見るとカップそれぞれに職人の(こだわ)りがあるのよ」

 

 自分の趣味の話題であることもあり、上機嫌にスラスラと語っていくシャロ。

 その様子にココアはこの場にいないとある少年と似たものを見た。

 

「そうやって語る姿、まるでジンくんみたいだね!」

「いや、誰よそれ」

 

 リゼの弟であるジンの存在を知らないシャロは困惑した。

 リゼとは暴漢(不良野良ウサギ)に乱暴(とうせんぼ)されていた際、助けてもらったことで知り合った仲だった(シャロはウサギが大の苦手)。

 しかし校内の人気者であるリゼとはその後、じっくり話す機会はあまりなかったのだ。

 むしろ今日ほど長く話せた日は今までなかった。

 

「つまり『のぶれす・おぶりーじゅ』。高貴な人ってことだよ!」

「え? 私が高貴っ?! そ、そんなことないわよ!」

 

 自分が高貴な人と言われ驚愕するシャロ。

 恥ずかしさから周囲に話してはいないが彼女は『お嬢様』と『一部の秀才』が通う高校に、奨学金制度を用いて通っている『一部の秀才』の方なのだ。

 無論、その生活は高貴とは程遠い。

 

 だが、チノもリゼもココアの発言を聞いてシャロを『お嬢様』の方だと納得してしまった。

 (くだん)のお嬢様校の奨学金制度の対象となる水準は極めて高いことで有名であり、まさか目の前にいる少女とは夢にも思っていないのだろう。

 シャロも自身の惨めな素性を憧れの先輩に話すわけにもいかず、否定できなかった。

 

 

 

 

 

 シャロの助言もあり、ラビットハウス組の三人の買い物は順調に終わった。

 どのくらい順調かと言うと、当初の目的であるラビットハウス用の他に、個人用で幾つか買う余裕があったほどだ。

 

「そういえばさっきココアが言っていた」

「のぶれす・おぶりーじゅ?」

「その『nobless obligation(ノブレス・オブリージュ)』なんだが、前に親父も言ってたんだ」

 

 

 

 

 

 それは天々座家の屋敷の敷地内にある訓練場で、父の部下の隊員達と混ざって訓練をしているジンを偶然通りかかったリゼが見た時のことだった。

 

 いつも小綺麗な格好をしているジンが、土に塗れてボロボロになりながら隊員達とCQCの組手を行っていた。

 自分より体格の大きい壮年の熟練隊員に投げ飛ばされ、幾度も地面に叩きつけられるジン。

 そんな彼の姿を見ていられず、リゼが止めに入ろうとした。

 だが肩に置かれた手によって彼女の動きは止まる。 

 

 いつからか背後にいた父がリゼを制止していたのだった。

 

 リゼは「何故、ジンはあんなになってまで部下達と訓練をしているのか」と父に訴えた。

 しかし何度聞いても父は理由を教えてくれなかった。

 ただ「ジンは『nobless obligation』のために頑張っているんだ』とだけ言った。

 リゼもここまで言っても教えてくれないのならそれなりの訳があるのだろうと諦め、それ以上追及はしなかった。

 ・・・・・・その日からだったかもしれない。リゼにとって、ジンの存在が遠くに感じるようになったのは。

 

 そして『nobless obligation』の言葉と共に、いつも冷静沈着で生半可なことでは動揺しない父が、リゼの最初の問いかけを受けた一瞬だけ見せた辛そうな渋い顔が強く印象に残っていた。

 

 

 

 

 

「ただ、解釈がココアとは違っていたな」

「リゼちゃんのお父さんは、なんて言ってたの?」

 

 『nobless obligation』とは直訳すると『高貴さは(義務を)強制する』となり、元はフランスのことわざで『貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ』・・・・・・要約にすると『高貴な者は高貴な振る舞いをせよ』という意味を持つ言葉だった。

 

 現在では『特権は、それを持たない人々への義務によって釣り合いが保たれるべき』、『権力者や富裕層など特別な人々は、その立場に相応しい社会の模範となるように振る舞うべき』などの社会倫理や社会的責任に関して使われる言葉とされている。そして、

 

 

 

「確か『資格者の義務』、だったかな」

 

 

 

 この街におけるワームとの戦いの全権を担う天々座家の当主は『nobless obligation』をそう解釈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャロはルンルン気分で帰路についていた。

 リゼ達に何だか後々面倒臭いことになりそうな誤解こそされたものの、その程度のマイナスは憧れの先輩にペアカップを買ってもらったことで打ち消された。

 どころかそのままメーターを振り切って、未だに幸せMax状態だ。

 

(私こんなに幸せでいいのかしら~? 大丈夫~? 今日死んだりしない~?)

 

 幸せ過ぎて(麻雀でいう『九蓮宝燈の役であがる』みたいに)一生の運を使い切ってしまったんじゃないかとハイテンションのまま心配するシャロ。

 

「あれ? リゼ先輩?」

 

 その途中、何故か先ほど別れたはずのリゼの後ろ姿を発見する。

 

「リゼ先輩~!」

 

 疑問に思ったが、どうしてここにいるのか理由を聞こうと呼び止めた。

 

「うん? 誰だ君は」

「え?」

 

 振り返り様に返ってきたセリフで、シャロは自身の早とちりに気付いた。

 後ろ姿の雰囲気で判断していたが、その人物はリゼではなくジンだった。

 

「す、すみません! 人違いでした!」

 

 落ち着いてよく見れば、身に付けている服装がリゼの着ていた上下純白の制服とは違う。

 裾に黒のラインが一本通っている白いズボンにワイシャツを着て、紫のセーターを腰巻にしている。

 どことなくココアの制服に類似点がある格好に、シャロはもしかして同じ高校なのかなと予想を立てる。

 

「それはいいけど君、その制服からしてリゼと同じ学校の子?」

「はい、そうですけど・・・・・・え? リゼ先輩のお知り合いなんですか?」

 

 予想外の問いかけにシャロは素で驚いてしまう。

 

「リゼは僕の・・・・・・姉だよ」

「ああ、どうりで・・・・・・」

 

 見た目が非常に似ているので親族なのではと考えていたが、姉弟と聞いて納得したシャロ。

 

(それにしても似ているなぁ・・・・・・あれ? この人どこか会った気が・・・・・・)

「どうしたの? ドッペルゲンガーにでも会ったような顔して」

「い、いえ、ただよく似ているなぁと」

 

 自分が初対面の男性の顔をまじまじ見ていたことに恥を覚え、シャロは顔が紅潮する。

 対するジンは表情筋が死滅しているのでは? と心配になりそうな安定の無表情。

 

「そうだね、それは言われ慣れているけ・・・・・・はぁ」

「? どうしたんですか?」

 

 会話の途中で困ったように溜息を吐くジン。

 彼の視線を追ってシャロは振り返った。

 

 

 

 シャロ()シャロ(ワタシ)を見つめてました。

 

 

 

「うそ・・・・・・私が、二人?」

 

 自分と姿形、服装まで同じ人物が脈絡もなく現れたことで混乱するシャロ。

 恐怖するとか以前に目の前の出来事が現実として処理できなかった。

 

「逃げてくれ」

「え、あ、あの」

 

 思考停止状態になっていたシャロの前にジンが立つ。

 庇うように彼女を下がらせる。

 

「いいから何も聞かずに逃げてくれ。早く」

「は、はい!」

 

 ジンは訳が分からず立ち往生していたシャロに避難を促す。

 戸惑いつつも、のっぴきならない事態であるということは飲み込んだシャロは言われるがままその場を走り去った。

 

「ッ・・・・・・・・・・・・」

「行かせないよ」

 

 逃げる少女(シャロ)を追おうとする擬態(シャロ)の前にジンが立ちふさがる。

 両者は眼前の敵を見定めるように睨み合う。

 

「『白い服装の人物が標的となった連続猟奇殺人事件』を、起こそうとしたワーム」

【Stand by】

 

 ジンは持っていた竹刀袋からサソードヤイバ―を取り出しトリガーを引く。

 連動して背後から空間を跳躍して飛んできたサソードゼクターを構えた右手で掴んだ。

 

「お前の未来は、僕が奪う・・・・・・変身」

【HENSHIN】

 

 ゼクターをヤイバ―に装着してマスクドフォームに変身完了。

 サソードは刀を抜く動作でヤイバ―を構える。

 

「―――――――――――――!!」

 

 サソードの変身に対抗して、擬態も奇声を発しながら醜い怪物に変貌する。

 その姿は熱帯地方に生息するウデムシのように長く頑強な腕を持ったワームに変わった。

 

「晩御飯の時間が迫っているんだ。冷めてしまったらコック達に申し訳ない」

 

 だから速攻で終わらせる、とサソードは踏み込んで剣を振り下ろした。

 上段からの一閃がワームの肩口に吸い込まれるように入った。

 

「なにッ?」

 

 しかしワームの外骨格には傷一つ付いていない。

 

「~~~~~~~?」

 

 ワームは「なんだ? そんなものか?」とでも言いたげな様子で余裕綽々とばかりに挑発する。

 

「・・・・・・千切りにする」

 

 静かに憤ったサソードは再度、ワームに斬りかかる。

 それをワームは禍々しい棍棒のような腕で受け止め、空いてるもう片方の腕でサソードの横腹を打った。 

 

「ぐ―――――っ!?」

 

 腹部のダメージでサソードが怯む。

 ワームはそれを見逃さず、さらに鈍器の腕で怪力を振るう。

 サソードも自身の腕で攻撃を受け止めようとするが、ワームの攻撃はガード越しからでも十分過ぎる恐るべき破壊力を持っていた。

 一発ごとに腕が痺れる。

 打撃は骨まで響き、全身が悲鳴を上げる。

 

 そして僅か三発の攻撃でガードは弾かれてしまった。

 

 サソードが最大の腕力を発揮する、防御に優れたマスクドフォーム。

 今回のワームは、あろうことかそのマスクドフォームを腕力で負かし、防御を打ち砕いた。

 ワームの怪力はサソードを大きく上回っていた。

 

 

 

 

 

 サソードの体が、くの字に曲がる勢いで吹き飛ばされた。

 そのままのスピードで建物の壁面に叩きつけられ、表面の煉瓦が砕け散る。

 ブラッドべセルが千切れ舞い、飛び散るオレンジ色のポイズンブラッドが路面を濡らす。

 

「―――――かはっ」

 

 壁面に受け身無しで叩きつけられた衝撃で、サソードの肺から空気が漏れた。

 脱力した四肢が垂れ下がり、仮面は俯く。

 壁を背凭れ(せもたれ)に座り込むような格好になったまま、サソードはピクリとも動かない。

 

 戦闘不能になったと思われる敵にトドメを刺すため、ワームは悠々と近づいていく。

 

 

 

 

 

 

‐―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――――ゴホッ! ―――――ゴホッ!」

 

「はい、これお薬・・・・・・」

 

「ありがとうね、ジン・・・・・・」

 

「お母さん、だいじょうぶ?」

 

「ええ、今日は調子が良い方だわ。きっとジンの看病のおかげね♪」

 

「ほんとう?」

 

「もちろんよっ。じゃあ調子が良いから、看病してくれたご褒美にご本を読んであげましょう~!」

 

「・・・・・・うんっ」

 

 

 

 

 

「『ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは。』

 ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。

 兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。

 おしまい・・・・・・あら? どうしたの、ジン?」

 

「ねぇ、お母さん・・・・・・人は、死んじゃったらどうなるの?」

 

「っ・・・・・・・・・・・・ジン、人はね、死んだら天に昇ってお星様になるの」

 

「そんな! 遠くにいっちゃうなんて、やだよ!」

 

「いいえ、悲しむ必要はないのよジン。例え遠くにいても、そこからみんなの事をずっと見守ることができるの」

 

「それでも、遠くにいっちゃうのは・・・・・・いやだっ!」

 

「ジン・・・・・・」

 

「だから・・・・・・もし、もしだけど・・・・・・お母さんが天に昇っても、僕がお母さんをむかえにいくよ! 何年かかっても、どれだけつらくても、ゼッタイにたどり着いてみせる! だからお母さん、お星様になんかならないで、僕がいくまで待っててね! 約束だよ!」

 

 

 

‐―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(僕は・・・・・・常に頂点()を目指す・・・・・・それが、せめてもの償い・・・・・・)

 

 サソードの眼前までワームは迫っていた。

 そしてサソードの命を絶たんと必殺の怪力を振り上げる。

 サソードは未だ動かない。

 

 だが突如、地面に散らばっていたブラッドべセルが舞い上がる。

 

「――――――――――!?」

 

 予想外の事態に驚愕し、警戒するワーム。

 そのワームを取り囲むようにサソードの装甲から伸びた無数のオレンジ色のチューブが空中を漂う。

 

「――――――ッ!!?」

 

 瞬間、チューブが収束してワームを捕縛。

 ワームは拘束から逃れんと力を籠める。

 やはりその膂力は凄まじく、ブチブチと音を立ててブラッドべセルは一本ずつ切れていく。 

 

 しかしそれはサソードも予想していた。

 

「キャストオフ」

【Cast off】

 

 サソードはブラッドべセルで拘束したままキャストオフを使った。

 拘束され動けないワームにサソードの装甲が直撃。その体が地面を転がる。

 

【Change Scorpion】

 

 絡まったチューブを引き裂いて立ち上がるワームの視線の先で、サソードは細身のライダーフォームに変身していた。

 

「さっきの攻撃は効いたよ。おかげで目が覚めた」

 

 腰を落とし、下段の構えをとる。

 

「でも、もう食らうつもりはない」

 

 再び、ワームに向かって踏み込んだ。

 

「―――――――!!」

 

 同じことの繰り返しだ、とワームもサソードに向かって先程と同じように鈍器の腕を振るいサソードの頭を粉砕しようとする。

 

 そしてサソードの姿が消えた。

 

「こっちだよ」

「―――――――!?」

 

 否、消えたわけではない。

 サソードはライダーフォームの身軽さによって素早くワームの死角に移動したのだ。

 ワームは背後に回ったサソードを討つため、振り返りながら腕を振るう。

 だが、またしてもサソードはいない。

 

「―――――――ッッ!?」

 

 それどころか体に鋭い痛みが走る。

 見ると外骨格の隙間、()()()()()()()()が切り裂かれている。

 ワームの脇の下をすり抜け死角へ移動する一瞬の間にサソードが斬ったのだ。

 

 だがこれは口で言うほど簡単なことでは無い。走り抜けながら手でタッチするのとは訳が違う。

 その難易度を例えるなら『走っている車の運転席から手を出して対向車線の車の窓に素早く手を入れ、窓枠に手がぶつからないうちに引き抜く』という普通なら不可能に等しい行為。

 少しでもタイミングを間違えば、殺人的な一撃が直撃する。

 

 防御力の高いマスクドフォームの時ですら大ダメージだったのだ。身軽さの代わりに装甲を脱いだライダーフォームでは洒落にならない致命傷を負いかねない。

 

「―――――!! ―――――――――ッ!!」

 

 ワームもそれを理解しており、意地でも当てようと腕を振り回す。

 しかし寸でのところでサソードに躱される。

 死中に活を求めるサソードの覚悟は乱れぬ集中力となって致命的なミスを回避し、アドレナリンの上昇によって彼の五感は研ぎ澄まされる。

 

 みるみるうちに傷だらけの血塗れになっていくワーム。

 一つ一つの傷こそ小さいが、それが積み重なることで戦意は削がれる。

 初めより確実に動きは鈍くなっていた。

 

 ワームは流石に自身の覆せない不利を悟り、クロックアップによる逃走を図った。

 だが、それを許すサソードではない。

 帯を締め直すが如き所作でベルトのスライド式のトレーススイッチを作動させる。

 

「クロックアップ」

【Clock up】

 

 サソードは低姿勢から懐に飛び込み、逃げ腰で隙ができたワームの膝裏を切り裂く。

 耳をつんざくような悲鳴をあげ、ワームの体勢が崩れた。

 

「ライダースラッシュ」

【Rider Slash】

 

 すかさずサソードは必殺技を発動。

 ワームも足を負傷したことで逃走は不可能であると判断し、迎撃の構えをとる。

 

 両者の時が加速し、世界の時から外れた世界。

 決着は一瞬だと両者共に理解していた。

 戦士と怪物が睨み合う。

 

 お互いが必殺の間合いを図り、相手の隙を狙う・・・・・・体感では数十分以上に引き延ばされた時間。

 実際の時間は一秒だったか、一分だったか・・・・・・測れる者はここにはいない。

 

 

 

 

 

「ハァッ――――――!」

「―――――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 サソードが首を狙って剣を振るう。

 

 ワームが腕で防ぐ。

 

 ただしフェイント。本命は返す刀による胴薙ぎ。

 

 ワームは片腕で胴を守り、口腔から緑色のアコニチンを含む毒液を放って目潰し。

 

 それをサソードは頭を下げて回避。さらに肩のブレードによるショルダータックルを繰り出す。

 

 ワームが仰け反る。

 だがすぐさま顔をあげ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Clock over】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深々と斬られたワームの喉笛から緑色の血の飛沫があがる。

 一歩、二歩、とたたらを踏み、転倒。

 その体は爆裂霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・・!」

 

 戦闘が終わり、サソードは膝を着く。

 変身が解除されてジンの姿に戻る。

 

(今回は苦戦した。ワームが強くなってきている。もっと気を引き締めないと・・・・・・ああ、そうだ。今回の苦戦の原因の一つは僕自身の気の緩みだ・・・・・・思えば近頃、余計な事を考えている時間が増えた気がする)

 

 前まではヒーロー云々とかで一々動揺しなかった。

 別にテストで一位になれなかろうが次のテストを頑張ればいいと割り切れていた。

 サソードゼクターの資格者になってからは一度も悩むことなんてなかった。

 ()()()()()()だからだ。

 

 と言っても彼がサソードゼクターの資格者になったのは三ヶ月・・・・・・いやもう四ヶ月前ぐらいだろうか、時空の彼方からワームが出現し始めて真っ先にリゼが標的にされた事件の時からなのだが。

 

 兎も角、何故今更になって心が搔き乱されることが増えたのだろうかとジンは考えた。

 考えた結果、やはりあの時から・・・・・・『サンドイッチ落涙事件(仮)』からだという結論に至った。

 

(これも全部、あの時ココアさんが・・・・・・いや最後に選択したのは僕だ・・・・・・何故だ、何故、僕はあそこでサンドイッチを食べてしまったんだ。それに食べたとしても・・・・・・くっ)

 

 堂々巡りのたられば思考。

 その無意味さをわかってはいる。

 過去は過去。今は今。

 そう自分に言い聞かせてジンは無駄な行為を止めようとする。

 

(嗚呼、こんなの僕らしくない・・・・・・()()()()()()()()()()・・・・・・・・・・・・ダメだ、やっぱり冷静じゃない)

 

 だが、理性で理解していても心のモヤモヤは晴れない。

 

(何でこう最近上手くいかないことが多いんだ? 店が全部閉まっていた事いい、ココアさんの事といい・・・・・・店の事は結果オーライだったけど・・・・・・パン、美味しかったけど・・・・・・)

 

 最早ネガティブなのかポジティブなのかわからなくなってきている。

 ジンの面倒臭い精神構造がさらに面倒臭いことになっていた。

 それでも少しずつ周りを見る余裕が復活してきた。

 

(今日なんて、逃げてくれって言ったはずの子もまだいるしさ・・・・・・え?)

 

 そして前を見ると先程の少女・シャロが物陰からジンを見ていた。

 

「・・・・・・・・・・」

「え・・・・・・と」

 

 そしてジンと目が合った。

 

「はぁ・・・・・・ラーメン食べたい」

「は?」

 

 過去の動揺を引き摺って無様な戦いをした挙句、不注意から一般人の前で変身解除。

 流石のジンもちょっと現実逃避したくなった。




ライダーとしての正体がバレてしまったジン。シャロに秘密を黙ってもらうため、彼が使った奥の手とは・・・・・・次回『初めて会った日の事憶えてる? 自分の家のメイドにしようとしてたわよね 3』


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