お前には守りたいもの(読者の期待)があるんじゃないのか?
自分が信じる正義のために戦う(少しづつでも書く)んじゃないのか?
それとも全部嘘だったのか? by声のお仕事してる人
・・・・・・ハイ、ちょい遅れの(寒い)ネタやった所で最新話投稿します。
バイクを駆り、街を走るジン。
間もなくインカムが内蔵された彼のヘルメットに、オペレーター担当の父の部下から無線通信が入る。
『ワームです。場所は・・・・・・』
「
立ち入り禁止区域Ⅹとは木組みの家と石畳の街の郊外、北西部にある。
自然が豊かで、かつてはピクニックやキャンプができる自然公園でもあった場所。
現在は
あくまで表向きはそうなっている。
『例の坊ちゃん能力ですね』
「まあね。だからもうそこに向かっている途中。詳しい位置情報を」
ジンの能力。それは簡単に説明すると『限定的な未来視』だ。
自身が何故そのような特殊能力を持っているのか、そんなことは彼自身にもわからない。
ただ、理由があるとするなら彼の瞳に流れるタキオン粒子にあるのでは、
と医療班のリーダーは仮説を立てていた。
まずマスクドライダーシステムは装着者の全身にタキオン粒子を駆け巡らせることで、
自在に時間流を行動する能力を持たせる。これがクロックアップだ。
これによって同じクロックアップ能力を持つワームと初めて対等に戦闘ができるようになる。
そもそもクロックアップ状態の存在を視認するにはタキオン粒子が流れる眼を持たなければならない。
ジンはこの眼に流れるタキオン粒子が変身解除後も残留しやすい体質だった。
それが原因なのかはわからないが、ジンは特に気にしてなかった。
未来視と言っても一時の猶予もない直近のタイミングであり、しかも断片的かつ未来に見る可能性のある景色だけ。
つまり頼りはジンの視覚情報のみで、詳細な情報や遠い場所の出来事はわからない。
『身内の惨殺死体』や『残酷な事件の書かれた新聞の見出し』などが電波の悪いテレビ放送のように見えるだけ。
それに未来が見えたところでそれを
未来視には頼れない。それは三か月前のワーム襲来で身に染みた。
ラビットハウスを一週間休んだのは、前々から開発を進めていたワームを探知する装置をエリアⅩや街の各所に設置するのを手伝うためだった。
『ワームを探知したのはエリアX-8。ワームはそこから南東に移動。山の麓近くのX-14で一般人と接触したようです。現在はそこからエリアX-20に移動しています』
エリアは地域全体図を縦×5横×5の格子状に切って左上をX-1、右下をX-25として上から下に、方角でいうなら北西の位置から南東へ数字を振り分け区切ったものだ。
位置関係的に一概には言えないが、ざっくり言うなら数字が大きくなるほどに居住区に近くなる。
「エリアⅩは私有地にしていて、周辺には目立たないように警備が常駐していたはずだったよね?」
エリアごとの地形や環境、ワームの個体差によるが、エリア近くでも一般人が接触する可能性があるのは大体X-25かそうでなくても外枠辺り。
エリアX-14は立ち入り禁止区域内部で居住区からも離れている。
「すみません。どうやら子どもが警備の目を盗んで侵入していたらしく・・・・・・自分達の落ち度です」
ジンの口からつい溜息が漏れる。
わざわざ危険地域と銘打たれた場所に自分から入り込むとは、傍迷惑な冒険心を持つ人もいたものだ。
「いや、責めているわけではないよ。そういう事の追求は僕がすることでは無いし、
みんながいつも頑張っているのは知ってる」
『いえ、そんな・・・・・・そうおっしゃっていただけると有り難いです、坊ちゃん』
オペレーターは謙虚な態度で礼を言う。
ジンは正直無線で坊ちゃん呼びはこそばゆいな、と感じつつ素直に礼を受ける。
「起きたことはしょうがないよ。過去は変えられない、今は今だ。現状は?」
『一般人の避難を優先しつつ、常駐隊員が戦闘中です。衛生兵も含めた実働部隊も向かっています』
「・・・・・・っ! こちらも現場に急行する」
(常駐隊員の装備じゃワームには効かない。急がないと)
人目が無い郊外へ出たところで腰のベルトに挿していたサソードヤイバーを片手で抜き、正面に構える。
【Stand by】
召喚されたサソードゼクターがジンのヘルメットの上にジョウント(ゼクターが持つ、時空を寸断して行う特殊移動)して、器用に着地。そこから跳んでヤイバーと合体した。
「変身」
【HENSHIN】
マスクドライダーシステムを装着。
「キャストオフ」
【Cast off】
【Change Scorpion】
重厚な鎧を飛ばし、スマートな姿に変わる。
すぐさまヤイバーを左大腿部にあるホルダーに挿し、バイク速度メーター下にあるパッド画面を操作。
特定の操作で現れる暗証番号入力画面に4桁番号を入力。
画面に映る『Camouflage-release』の文字。
「
ジンのバイク・・・・・・マシンゼクトロンはその真の姿を解放した。
フロントカウルから白兵戦用の武器になる牙が展開。
複眼のように三つのライトが対になっているヘッドライトと相まって、それは昆虫の顎に見えた。
さらにフード部には蠍を模したパープルカラーの紋章が浮かび上がり、その中央には『ZECT』の字が綴られていた。
その『ZECT』の文字は車体の側面や背部コンテナにも施されている。
そして変化したのは外見だけにあらず、この擬態装置は一般的なバイクとは次元違いのゼクトロンのマシン性能を隠すためのものでもある。
マシンゼクトロン。その最高速度、時速400㎞。
比較例として、オートバイの高速道路での法定速度は時速100㎞。
市販されているオートバイの、スピードメーターに記載されている最高速度は時速180㎞。
因みに新幹線の最高速度は時速300㎞前後。
全長僅か2070㎜のマシンゼクトロンのスピードは、新幹線を置き去りにする。
そして、このスピードは
「クロックアップ」
サソードはベルト腰部のスライド式のトレーススイッチを、着物の帯を締めるような動作で作動させる。
【Clock up】
クロックアップが発動し、世界が止まる。
否、彼が世界を置き去りにした。
途中ですれ違う歩行者も、追い越した自動車も、何者も彼を認識することはできない。
彼は時間を抜き去り、我が道を往く。
※
「急いでどこ行っちゃったんだろジンくん」
「・・・・・・」
「リゼちゃん?」
リゼは自分が席を外している間に、急に「予定ができた」と言ってラビットハウスを飛び出したジンのことを考えていた。
また例の仕事の手伝いなのだろうか、どうして姉の自分に何も言わずに行ってしまうのか・・・・・・疑念と疎外感が彼女を苛む。
「『ちゃんと一時間以内に帰るよ(キリッ 』って言ってたわよ?」
「え? あ、うん」
場を和ませようと、あえて冗談めかしにフォローしようとする千夜の声もどこ吹く風。
反応が遅れて急いで生返事を返す。
千夜は続けて何かを言おうと口を開き、何も言えずに閉じた。
リゼのあまりの落ち込みようから、彼女の抱えているものが言葉で払拭できるものではないと悟ってしまったのだろう。
ココアも何気ない話題のつもりで振った手前、予想外に陰鬱としてきた空気をどう変えたものか判断を戸惑っている。
さっきまでの
(ジンが自由奔放なのはいつものことだ。それをいちいち心配してもみんなを不安にさせるだけ。
寧ろ変に気にしている私が普通じゃない)
リゼも自身の不自然な情動に自覚はあった。
だが
(でも何故だろう。そう頭では分かっているはずなのに、妙な引っかかりを感じる)
自他共に原因が何であるかわかってなければ尚更に。
(何なんだ・・・・・・この慢性的な偏頭痛に似た苦痛と、
心許ない蝋燭の火一つを頼りに暗闇を歩くような寒気は・・・・・・)
突如、脳裏に例の虫の様な怪物とそれを倒した騎士の姿が浮かんだ。
思い出す恐怖と安堵、相反する感情。
脈絡を感じない想起にリゼ自身、動揺する。
(何故あの夢? のことを思い出すんだ? あれは白昼夢というには現実味があり過ぎたが、だからといってジンとは一切関係が)
瞬間、頭によぎる。
‐―――――――――――――――――――――――――
「リゼ、―――よ! はや――――つれて―――まで逃げ―――っ!」
‐―――――――――――――――――――――――――
「―――だめよ。あなたが―――――――。お姉――ん――だから、ね?」
‐―――――――――――――――――――――――――
(なん・・・・・・だ? これは、昔の記憶? いつの記憶だ? 私にはこんな記憶、覚えは無い、はずだ。覚えは・・・・・・)
映像も音もノイズが激し過ぎて、一体どういう状況なのか読み取れない。
まるで開けてはいけない箱に誤って腕をぶつけて蓋がズレ、急いで閉めたがその時に中身がチラリと見えてしまったかのような。
はっきりと見てはいないけど、見てはいけないということだけは本能的にわかってしまったかのような。
そんな形を持たない危機感がリゼの心中を支配する。
ただ、辛うじて聞き取れた声から火より優しく、布より確かな、触れていると表面からではなく体の奥の奥から温もりが広がっていく感覚を・・・・・・そんな不思議な温かさを感じた。
同時に自分は何か大切な事を忘れてしまっているのではないかという不安と焦燥が沸き上がった。
しかし無理に思い出そうとする度に、酷い頭痛がリゼを襲った。
「リゼちゃんっ」
「うわっ、何だココアか」
急なココアの声で現実に引き戻された。
さっきまでの頭痛が消え、朧気な記憶も霧散する。
「大丈夫? 何回も呼んだのに全然気付かないから、リゼちゃんまで立ちくらみを起こしたかと思ったよ」
「え? 立ちくらみ? ジンのことか?」
またしても自身の失言でリゼに余計な心配事させてしまったかと一瞬顔を強張らせるココアだが、それも一瞬だけですぐに何でもないことのように能天気な笑みを作る。
「本人がなんでもないって言ってたし、すぐに顔色も治っていたからそれほど体調が悪いわけじゃないと思うよ?
それにほら、ジン君って熱中したら周りが見えなくなるタイプっぽいし、それで疲れが溜まってたんじゃないかなぁ」
「そうか・・・・・・そうだなっ」
ココアの言い分に心当たりがあるリゼは一先ず妥協して納得する。
(そうだ大丈夫だ。ジンは大丈夫。大丈夫大丈夫・・・・・・)
リゼは自分に必死に言い聞かせている事に無自覚のまま、気を紛らわせるため近くに置いてあった新聞紙を手に取る。
やけにアダルティックなハーブティー専門店のバイト募集の広告が目立つ以外は、何の変哲もない街の新聞社が発行しているローカル新聞だった。
※
薄暗い森を少女の手を引き、若い男が走っている。
二人の目に映るは恐怖と焦燥。
男は少女を狙う怪物から少女を連れて逃げていた。
彼らを逃がすため5人の同僚が足止めをしようとした。
男は同僚たちの中で一番歳が若かった。
同僚たちは要救助者の少女を含めた、二人の未来ある若者を守ろうとした。
だが怪物は同僚らの放った銃撃を物ともせず、得意の高速移動で蹴散らしてしまった。
厳しい訓練を共に耐え、切磋琢磨し、同じ釜の飯を食った仲間が有象無象の塵芥のごとく吹き飛ばされる。
一度も組手で勝ったことのない先輩達が、赤子の手をひねるよりも容易く地面に叩きつけられた。
ただバケモノの凶悪さ残虐性を表現するための舞台装置ようにあっさりと。
「チクショウ」と、男が何度口の中で反芻したことか彼自身わからない。
悔しかった、仲間を見殺しにするしかない無力さが。
恐ろしかった、あっさりと人間を殺傷する怪物が。
怪物はその気になれば彼らを一瞬のうちに、簡単に捕まえられる。
だがそうしない。何故か?
(野郎・・・・・・
怪物は狩りを楽しんでいた。
中世の貴族が狐狩りを愉しむように悠々と、残酷に。
自分より弱い獲物を弄ぶことに快楽を覚えていた。
逃げるしかない獲物が無駄に足掻くさまを観察していた。
「危な―――――い゛づっ!?」
「きゃっ!?」
そして唐突に飛び掛かり爪で切りつける。
致命傷にならない程度に、されど痛みと恐怖で徐々に絶望していくように。
咄嗟に少女の手を引いて庇ったことで、足を切りつけられた男は地面に倒れる。
少女は自分を庇って傷ついた男に駆け寄った。
「ごめんなさいっ・・・・・・ごめんなさいっ・・・・・・わたしのせいで・・・・・・」
少女はボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
男の足を止血しようと、持っていたハンカチで必死に押さえながら泣いていた。
そのハンカチで自分の涙を拭かず、赤の他人の男の傷を押さえ続けていた。
薄ピンクの可愛らしいハンカチは、男の真っ赤な血でビチャビチャになってしまっていた。
折角の可愛いハンカチが台無しだ、と場違いなことを思いながら男は何とか上体を起こす。
「傷は深くない、大丈夫さ。そんなことよりひどい顔じゃないか」
男は自身の恐怖と痛みを抑えて笑顔を作り、血で濡れた少女のハンカチの代わりに自分のハンカチを渡す。
飾り気のないうえ皺が寄っている、男自身の性格を反映したかのような無骨なハンカチ。
少女の如何にも年頃の女の子が持っていそうなハンカチとは比ぶべくもないが、こちらに男の血が付いていなかったのは僥倖だった。
男は少女が涙を拭いている間に自身のネクタイを外し、負傷した足を心臓に近い部分で強く縛る。
そして懐からペンとライターが合体したような携帯用小型銃・ゼクトガンを取り出す。
見渡すと近くに金属コンテナ型のゴミ捨て場・・・・・・自然公園であった面影を匂わせる人工物を発見した。
それを見て何か思いついた男は息を大きく吸って、吐き、覚悟を決めた。
「嬢ちゃん。落ち着いて聞いてくれ」
「え? は、はい!」
急に話しかけられたことで少女が動揺して声が上擦る。
元々押しに弱い大人しい子なのだろうかと、男は想像しつつ自分の考えを伝えた。
「あいつは俺が足止めする。その間このコンテナに入って内側から蓋を占めてくれ」
「そ、そんな! 隠れるなら一緒に!」
少女は話を聞き、そんな自己犠牲を前提にした考えに反論する。
男はそんな少女の優しさを噛み締めながらも首を横に振る。
「いや駄目だ。あいつは遠くから常に俺たちを監視している。二手に分かれても無駄だろう」
怪物はその気になれば一瞬で二人とも仕留められる。
「だけど君だけを助けるのなら可能・・・・・・かもしれない」
奴は遊んでいる。獲物が自分から逃げ切れるはずがないと高をくくっているからだ。
逆に遊んでいるうちはすぐに息の根を止めようなことはしない、とも言える。
だからこれは賭けだ。
少女が近くにいて、男が怪物の
ただの時間稼ぎだ。
だが時間は彼らの味方だ。
何故なら、もうすぐ
「それじゃ、あなたが・・・・・・」
少女は男の意見に反対するが、気配を悟った男が少女を抱き上げ無理矢理金属の箱に入れる。
男は少女の否定の声を無視して蓋を閉め、振り返る。
そこに怪物はいた。
「来い、ワーム! 俺が相手だ!」
怪物の姿を男は初めて正面から見た。
まるで髑髏顔の悪魔の全身に、バラバラに分解したタランチュラの部品をくっつけたような醜悪な怪人。
肩からは非対称な蜘蛛の足が生え、体の節目を白い体毛が覆っている。
見ているだけで怖気が走り、足が竦みそうになる。
男は腰が抜けるのを気合で耐え、怪物を睨みつけた。
「――――――――!」
怪物が飛び掛かるその瞬間。男には、その動きがやけにゆっくりに見えた。
(あ・・・・・・俺、死ぬわ)
それが走馬灯だと男は無意識に理解した。
男の脳裏に記憶が駆け巡る。
職人気質で厳格だった父親、逆に温和で優しかった母親。
運動神経しか取り柄のない自分とは違う優秀な弟と、その弟と遊んだ幼少の記憶。
実家の寿司屋の跡取りを弟に押し付け、逃げた記憶。
その時チラリと見えた、今まで見たことがなかった哀しそうな父の顔。
何故か最後に思い出したのは、坊ちゃんが自身のポケットマネーで丸ごと買った本マグロを、鮪包丁とかいうほぼ刀剣で捌いて
何故その時の記憶が家族の記憶と共に浮かんだのか疑問に覚え、思い出した。
みんながマグロ料理を食べる中それを見つめるだけの坊ちゃんに自分も食べないのか、と男は聞いた。
(その時坊ちゃんが言った『振るまう側が品に手を付けるわけにはいかない』って言葉)
小さい頃に彼が店で使うネタを盗み食いした際、父親が鬼の形相で叱った後に、
母になだめられながら言った言葉に似ていたのだ。
(坊ちゃんの怪訝な顔というかムスッとした表情が親父に似ていて、ちょっと笑いそうになって、ちょっと泣きそうになって・・・・・・)
その節は先輩達にも心配をかけてしまったと、今更ながら申し訳なかった。
(なあ、坊ちゃん。こんな不甲斐ない親不孝な俺でも、女の子を命を懸けて守ればヒーローになれるかな?)
何かに変わりたかった。でも変われなかった。
男はそれでも諦めきれなかった憧れに焦がれながら、目を閉じた。
「残念だけど貴方はヒーローにはなれない。そんな
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
だが、激しくも気品のあるエンジン音がその疑問を切り裂いた。
一台のオンロードバイクが男と怪物の間に躍り出る。
片手に刀剣を握りしめた騎士が、バイクの跳躍と同時に怪物を一閃。
怪物は飛び掛かった方向と逆方向に吹き飛ばされる。
騎士は着地後にカーブしながらバイクを停めると、無駄のない優雅な動きで地に降りる。
「ワーム。お前の未来は、僕が奪う」
刀剣を怪物に構え、騎士は宣言する。
お前に何も奪わせない。
お前から総てを奪い返す。
男は死の恐怖で腰が抜けながら、箱の中の少女にただ一言だけ伝えた。
仮面ライダーサソード(真打)VSタランテスワーム(無銘)、幕は切って落とされた・・・・・・次回『初二段変身×2 4』
PS.この名無しの男さんのイメージはカブトに出てくる『毎朝 鏡の前で 顔を洗う男』だったりします。
読んでくださりありがとうございました。
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