肉塊か、奴隷か、権力者か。【1部完】   作:まさきたま(サンキューカッス)

10 / 11
いよいよ最終局面。


置換。

「デュフォーよ。お前は、裏切者である可能性が高いから、”闘い“に赴く前に改めてレヴィに自らを診て貰いたいと、そういうのだな。」

「・・・はい。旦那様。僕が裏切者であったなら、いかなる処分にも従います。」

 

 翌日。憎きロックとの決戦を翌日へと控え、旦那様やリリアン様を含めたこの家に住むもの全員──、いや、パルメを除く全員で一つの部屋に集まっていた。

 ここは、旦那様の私室。この家の奴隷になって以来、初めて僕はこの部屋で椅子に座り旦那様と共に食卓に付く。

 

 明日へ備え、本来は皆で英気を養うべく企画されたこの宴だったが。皆の表情は明るいものではなかった。信頼していた、パルメの裏切り。そして、離反しているであろう、僕。二人も愛すべき家族であったのに、旦那様の命を自らの益の為に奪うことを是とした事実が明らかになってしまった。それも、決戦前日に。明るく食事を楽しめるはずがなかった。

 

 リリアン様は顔を蒼白にしている。ロルバックは無言で、ジッと僕を睨みつけている。・・・心が、痛い。久し振りに感じた、良心の呵責。

 

「ねぇ、デュフォー。パルメが裏切っていたのって、本当なの?」

「リリアン様。・・・残念ながら、疑う余地はありませんでした。確実に裏切者でしょう。」

「私も聞きました、お嬢様。彼女が自ら、ロックの手の者に連絡を取っていたのを。」

 

 僕らのその証言を聞いたお嬢様は、わっと泣き始めた。

 

「デュフォーよ。・・・残念である。お主も、裏切っている可能性があるのだな?」

「明日、全てが分かるでしょう。コレがただのロックの離間策であるなら、それが最上。“闘い”の前に記憶が戻るならば、それは中庸。そして最も恐ろしいのは、僕が記憶が戻る瞬間“闘い”の開始直後であること。どのタイミングで僕が裏切者に成り果てるか分からないのです。」

 

 僕は旦那様に、そう言って目を伏せた。今、この場で僕は殺されてしまってもおかしくは無い。

 

「ソレについては、旦那様。このレヴィをご信頼下さいまし。デュフォーが旦那様を慕っている気持ちに嘘は無かった、これは確実で御座います。例え記憶が戻ろうとも彼がロックに寝返ることは有り得ないかと。」

「む。本当か、レヴィ!」

 

 だが、レヴィは僕を信用してくれるらしい。いや、「僕を」ではなく「自分の魔法の精度を」信用しているのかもしれないけれど。

 

「これは勝機だと思います、旦那様。デュフォーが裏切ると思い込んでいる奴等の裏をかく事が出来る秘策。」

「・・・旦那様、お聞き下さい。僕はここにお仕えする事になった当初、旦那様では勝ち目は薄いだろうと考えておりました。だからこそ、自らの命のために裏切りを選択したのでしょう。だとすれば僕は、心の底が裏切りを選択した。推測ではありますが、用心深いロックの事、この事実も向こうで分析されて居るはずです。即ちロックも、僕が裏切る事実を信用しているかと。」

「そうか。続けたまえ。」

 

 旦那様はこんな僕(うらぎりもの)の話を、真摯に聞いて下さる。どうしてこんな狂った世界に、まだこんな素晴らしい人が残っているのだろう。

 

「そして奴等に、“闘い”が始まった直後に僕が旦那様を撃ち抜いたという幻影を見せましょう。いえ、正確にはそう認知させてやるだけですけれど。旦那様は僕の合図で、お倒れになられて下さい。」

「光魔法を使えば良いのでは無いか?」

「・・・申し訳ありません、僕には出来ないのです旦那様。光魔法を習得しているわけでは無いのです。旦那様の目前から消えたのは、ただの認識阻害魔法。今まで隠していて申し訳ありません。」

「なっ・・・!? で、では精神魔法しか使えないのか・・・。そうか、いや。よく打ち明けてくれたな、私が勘違いしていたから言い出せなかったのだろう?」

「申し訳ありません。申し訳ありません旦那様・・・。」

 

 そして、今までずっと隠してきた僕の本当の能力も伝える。コレで、旦那様に対する隠し事は全て無くなった。

 

「って、はぁぁぁ!? デュ、デュフォーあんた今自分が何言ったか分かってる!?」

「わっ!? レヴィ、ど、どうしたのかしら?」

 

 ・・・レヴィも、僕が光魔法を使えない事を気付いて居なかったらしい。実は分析魔法でバレてるんじゃ無いか? と考えていたけど、どうやら彼女は知らなかったようだ。

 

「認識阻害魔法で、姿を消したですって? や、やってみなさいここで!」

「は、はぁ。では少し視線を外して下されば。」

 

 それにしても、随分と動揺しているな。いきなりどうしたんだろう、レヴィは。

 

「・・・、消えたわね。」

「凄いわ、デュフォーが消えた。食卓の椅子は6つ用意した筈なのに、5つしか見えないわ。」

「オレは、何となくそんな気はしていたがな。訓練中、奴は殆ど光魔法らしき魔法を使っていない。奴が精神魔法しか使えぬと知って、むしろしっくりときた。」

「え、ちょっと待って。デュフォーを見失ったの、私だけじゃないの? デュフォーまさか、あなたここに居る全員に同時に認識阻害魔法をかけたの!?」

 

 僕は質問への返答として、机の上に置いてあるレヴィの電子手帳にYesと打ち込んだ。この状態で声をかけても、気付いて貰えないのだ。

 

「レヴィ、貴女の電子手帳・・・。」

「へ? あ! そんな、冗談でしょ。全く気付けなかった、これ本当に認識阻害だって言うの!?」

「レヴィ、何をそんなに慌てている。旦那様の前だぞ、はしたない。」

「ロルバック、貴方は闘技場出身でしょ。それでも分からないの? 精神魔法で透明化の代用なんてどれだけ馬鹿げた技術なのか!」

「・・・いや、そんな変な使い手と闘ったことが無いから分からん。」

「当たり前よ! そんな戦法、ここ数十年誰も使ってない。と言うかあの習得難度の高い精神魔法をそこまで詰められるなんて気が狂ってるわよ、並大抵の精神力じゃまともに習得すら出来ないって言うのに!」

 

 ああ、そんなことを驚いていたのか。幼少期の血の滲む努力と日々の鍛錬、その成果として有るのが僕の精神魔法だ。確かに、他の人より高いレベルであると自負している。

 

「レヴィ、落ち着きたまえ。君はどうして今その様に動揺しているのかね?」

「・・・旦那様。彼が今使っているこの魔法が本当に精神魔法で、今のこの現象が彼の認識阻害の極地であるならば。恐らくデュフォーは齢10歳である現時点で、既にこの国で1、2を争う精神魔法の使い手と言うことです。」

「なっ!?」

 

 そうなのか。僕の魔法がそこまでに仕上がっているとは、僕自身も知らなかった。

 

「デュフォーってば、そんなに凄かったの?」

「私もビックリです、リリアン様。と言うか何故今の今まで黙っていたのか小一時間は説教してやりたいです。」

「そうか。・・・ふふ、リリアン。お前が探しだし連れてきた奴隷は有能どころか、この国の頂点に立つ程の者だったか。良かろう、デュフォーよ。お前の献策は受け取った。私はお前を信じよう。例え貴様が裏切者で、記憶を取り戻したとしても貴様は裏切らんだろう。そう、私は信じる。」

「も、勿論でございます! ありがとうございます、旦那様。」

「明日、全てを終わらせるぞ。我が妻の件、殺された我が家の、愛すべき奴隷達の件。いよいよ決着の時だ。皆、力を貸してくれ!」

「「「はい!」」」

 

 みんなの、僕等一家の声が綺麗に揃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュフォー、良いわ。これ以上無いってくらいしっかり分析してあげた。貴方が旦那様を裏切ることは、まぁ有り得ないわね。」

「・・・ありがとうございます、レヴィさん。」

 

 旦那様の私室を出た後、僕は書斎に来ていた。最後の確認の為、僕は自らレヴィに徹底的に分析して貰うことを頼んでいたのだ。

 

「私はアンタの為じゃ無く、旦那様の為にやったのよ。お礼を言われる筋合いなんて無いわ。」

「旦那様の為にして頂いた事なら、旦那様の家族である僕がお礼を言っても問題ないでしょう?」

「私も家族だっつの。・・・ねぇ、デュフォー。」

 

 書斎を出て行こうとした僕は、レヴィに呼び止められる。既に空は昏く塗り潰されており、机の上に置かれた小さな灯りが、書斎のレヴィの横顔を優しく照らしていた。僕と彼女の二人きりの影を、部屋の壁に映していた。

 

「何でしょう?」

「────死なないでね。例え勝ったとしても、アンタの葬式で祝勝会がお通夜ムードなんてゴメンなんだから。」

「それは、心配して頂いているのでしょうか?」

「旦那様の為だって言うの。どうせ勝つなら気持ち良く勝って頂きたいのよ。・・・それに、とても嫌な予感がするわ。昔から、私のこう言う勘は良く当たるの。気を付けなさい、デュフォー。」

「ご忠告、ありがとうございます。」

 

 彼女の表情は、その言葉とは裏腹に不安げであった。もしかしなくても、彼女なりに僕の事を案じてくれているのかもしれない。

 

「行きなさい。私も直に寝るわ。明日、戦場に細工が無いか調べる仕事も残っているの。夜更かしするわけにはいかない。」

「はい、おやすみなさい。・・・ありがとう、レヴィ姉さん」

「・・・は?」

 

 そう言い残し、僕は書斎の扉を閉めた。中から何やら慌てた声が聞こえてきたが、気恥ずかしかったので僕はさっと書斎を離れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅん。レヴィは姉さんってつけるのね。別に、別に気にしているわけでは無いけれど?」

「居たんですか、エルメさん。」

 

 そのまま真っ直ぐ部屋に戻ろうとしたら。廊下に何故か立っていた、眉間に皺を寄せたエルメに見付かってしまった。どうやら、書斎を出るところから見られてしまっていたらしい。

 

「えっと、あれは少し意地っ張りなレヴィをからかいたくなっただけなので。」

「いえ、気にしてる訳じゃ無いわ。ただ少しだけ気になった事は、つまり私は、姉さんと呼ぶには相応しくないと言いたいのかしら?」

「エルメさん、落ち着いて。」

 

 最近分かってきたのだが、エルメさんは思ったより表情豊かである。そしてどうやら、彼女は兎みたいな性格のようだ。普段は平然としているのに、案外寂しがり屋だと気が付いた。

 

「では・・・エルメ姉さん、これで良いですか?」

「なんか、無理矢理そう呼ばせてるみたいで釈然としないわ。」

「それじゃあどうすれば良いんですか・・・。」

 

 そして案外面倒くさい性格みたいだ。

 

「・・・ねぇデュフォー、貴方は私をどう思っているの?」

「はい? いつも食事や家事をやって頂いて感謝しておりますが。」

「そう言うのじゃない。こう、こう人としてよ。」

「人として、ですか。」

 

 おかしな問いだ。そもそも、この世界では「人として」だなんて前提の質問は殆ど聞かれなかった。

 

「その、・・・。家族と思ってます。」

「それは当たり前でしょ? 違うの、貴方は何やら私に距離を持ってないかしら? そこを聞きたいの。」

「僕がエルメさんに距離を持っている、ですか? そんなことは・・・。」

 

 いや、どうだろう。僕は何故かエルメさんと二人きりで居るのは恥ずかしかった。ひょっとして、無意識に避けてしまっていたのか?

 

「・・・有るかもしれません。すみません。」

「やっぱり。な、何がいけないのかしら。私、そんなに貴方に避けられるような事をした覚えは無いのだけれど。」

「ええ、ええ。当然そうです。その、つまりですね。」

 

 これは困ったぞ。この質問、どう答えたモノだろう。

 

「あー、その。実は、僕はエルメさんを見てると少し顔が熱くなるのです。」

「────はい?」

 

 内心で慌てていた僕は、咄嗟に何も考えず口だけで答えていた。それも、バカ正直に。

 

「いえ、その、何だかエルメさんを見ていると胸が苦しくなって、恥ずかしくなってきてですね?」

「わ、私を見ると、胸が苦しくなって、恥ずかしくなってくるのね?」

「それで、つい目をそらしたり避けてしまった様な事はあったかもしれません。」

「そ、そう。つい目をそらしたり避けてしまったりしちゃうのね。」

 

 不味い。殆ど何も考えず勢いで返答してしまったぞ。失礼なことを言ってしまったかもしれない。

 

 何やら、エルメもエルメで様子がおかしくなっている。何やら酷く慌てて居るようだ。何か、さっきの僕の発言に不味いことは有っただろうか?考えろ、考えろ・・・。

 

 ・・・。

 

「わ、私を避けてる訳じゃ無いことは分かったわ! ご、ごめんなさい、少し考えることが出来たから今日は失礼するわ。明日、頑張ってね! うん、それじゃ!」

「エ、エルメさん?」

 

 いくら考えても答えが出ないので、とりあえずジッとエルメの反応をうかがってみたら。今度はエルメの方が僕から逃げ出すかの様に、慌てて逃げ去ったのだった。

 

 一体何なのだろう。明日、僕はエルメに謝った方がいいだろうか? ロルバックに相談してみるべきか。

 

 だが、今日はもう遅い。時間をかけて分析してもらった分、時間はもう深夜と言ってもいい頃合いになっていた。ロルバックも、もう寝ているかもしれない。だから僕は明日に備え、一人廊下で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタン。誰もいない厨房に、僕は足を踏み入れる。誰も、居ない。誰にも、見られていない。僕がここに居ることは、この屋敷の人間の誰も把握していないはずだ。音をたてぬよう静かに、僕は厨房の中にある椅子に腰を掛けた。

 

 一体何故、僕がわざわざ大事な決戦の前夜に、寝る前にこそこそと厨房を訪れたのか? それには、当然理由がある。なぜなら僕は、ここに来なければならなかったからだ。

 

 ・・・いや、待て。それでは理由になっていないな。言い直そう。僕は、ここに来る必要があったのだ。

 

 ・・・アレ? 言い直せていない。何かが、おかしい。

 

 

 

 

 何故、僕は厨房に居る? 待て、ここに僕が来る必要があるって、そんな訳がないだろう。ここには、僕は何の用事も無い筈だ。だったら何で、僕はわざわざここを目指し歩いてきたのだ?

 

「よし、来たな。では現時刻をもって、貴様の一切の自発的な行動、並びに発言を禁ずる。」

 

 椅子に座った僕の背後から、底冷えのするような冷たい声がした。そして僕は、そのいきなり出されたありえない命令に対し、直ぐに絶対に従わなくてはならないのだと理解した。だって、これはそういう命令なのだから。

 

「ふむ、思ったより順調に事が運んだな。もう少し苦労するかと思ったが・・・。所詮、屑は屑と言った訳か。ああ、ご苦労だったグレイ嬢。後は君は、そこの窓からロック様の店に戻ると良い。後日迎えに行こう。」

 

 何を言っているんだコイツは? 僕は明日、ロックと闘い、旦那様に勝利を捧げる義務があるのだ。そんな命令に従う訳がない。・・・だが、僕はこの人には逆らえない。忌々しいが、どうやら受け入れるしかないようだ。いったいどんな奴なんだろう、コイツは。

 

 僕は返事をする際に、チラリと僕に一方的に命令しているその男の顔を見た。見てしまった。

 

「分かりました。僕はロック様の元に向かいます。」

「良いだろう。・・・ククク、なんだその顔は。まるで、お化けでも見たかのようじゃないか?」

 

 僕に、いきなり理不尽な命令を告げ無理やり従わせる謎の男。その男の顔は、灯りのない厨房で微かに月明かりに照らされている。部屋は暗く、男の顔は見えにくかった。だが、僕にはその男の正体がハッキリと分かった。

 

 その男は、僕だった。僕が、僕の目の前に居て、僕に命令をしていた。一体、何だ。何が起こっている? 僕は夢を見ているのか? 

 

 混乱の極致に居る僕を、その男は見下した目で見ていた。

 

「ああ、そうだ。せっかくだ、記憶も戻しておいてやるよ。ほら、これだ。」

 

 そう言って、その男は僕の頭を乱暴に掴み、僕の目をじっくりと見た。世界が、歪む。僕が本来持っていたはずの記憶の鍵を、無理矢理こじ開けられていく気持ちの悪い感覚で、思わず吐きそうになる。

 

────ああ、そうだ。思い出してしまった。

 

 ()の家族は、もう居ないのだ。ロックに強引に“闘い”を申し込まれ、みんな死んでしまった。いつも厳しく、時に諭す様に私を怒ってくれた父も、私を幼少の頃から育ててくれた優しいエルフの乳母も。その場で肉塊として引き裂かれ、非労働者共の胃袋に収まってしまった。

 

 思い出してしまった。私は、デュフォーなんて男では無い。ロックに人的資源として扱われ、売られる直前に()()()()()()()()()()としてデュフォーに引き渡された、ザスト・グレイの娘。私は、ナタリ・グレイなのだ。

 

 ああ、しまった。つまり、私は。3ヶ月もの間、この男に代役として利用されていたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうした? 早く行け。」

「・・・はい。」

 

 気が付くのが遅かった。ああ。私は、また、家族を、家族として受け入れてくれた人達を、この家の人達さえも守る事が出来ないのか────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・行ったか。怖いくらい、ここまでは順調だったな。どうしようも無く愚かな連中だよ、この家の奴等は。

 

 さて、明日は久し振りに僕が僕として振る舞う事になる。今までは、あの人的資源(ナタリ)が自身の愚かさを存分に発揮していたからこそ、レヴィにすらも疑われなかった。明日は、朝から闘うまでの短い期間とは言え、奴の行動をトレースし実行せねばならん。

 

 そう、僕は自身の有用性を手放す手段として、当初予定していた僕自身に対する自己暗示では無く、()()()()()()()()()()()()()()を僕だと誤認識させると言う手段を選択した。彼女は今、僕の所有物であり、僕の傀儡となっている。

 

 正直に言おう、僕はロックから情報を貰うまでレヴィを過小評価し過ぎていた。まさか、この国で5本指に入るほどの優秀な分析術士だったとは。情報を貰った僕は、急遽売り払われる直前だったグレイ家の娘を報酬として貰い、3月もの間ずっとソイツに僕として振る舞わせていたのだ。本人ですら、自分がデュフォーであると思い込ませる暗示まで使った。結果は、完璧だった。

 

 強いて予想外だった点を言えば、人的資源(ナタリ)がエルメに恋心を抱いた点だった。アイツ、まさかそっちの気が有ったとは。そういえばパルメと本番もやっていたっけか。実に笑える、計算外だった。

 

 ・・・コレでやっと、この腐った家から解放される。ロルバックやレヴィの能力は惜しいけれど、やはり僕がこの家についてロシェンヌに勝たせるのはリスクが大きすぎる。いずれ滅び行く家に長居する理由は無いのだ。

 

  その為に、「僕」という存在をここまで貶め、愚物へと成り果てる事を許容してきた。自らの有用性を放棄し、ロシェンヌに心服する愚物として3月もの間、この国に存在してきたのだ。ようやくこの屈辱も、報われる。

 

 一応は、ロシェンヌにつく事も考えた。ロックには恩も出来てしまったし、そもそも色々と僕の情報も抜かれてしまっている。ここで敢えてロックを潰しておいて、優秀な手駒で有るロルバック、レヴィを人的資源(ナタリ)のまま利用して成り上がるのも手だとは考えたのだ。

 

 それには、まずコイツらの言う“絆”とやらがどれ程のモノかと確認してみる必要があった。問答無用に信頼関係を結べるのが実現出来るならば、確かに有用だ。とは言え、そんなことは有り得ないだろう。だからこそ、()()()()使()()()()()()()()()()

 

 あれは、傑作だった。あの夜、僕は「もうすぐ“闘い”だから」とわざわざ人的資源(ナタリ)を元気付けに来た健気なパルメを見て、コイツを利用しようと考えた。そう、僕はパルメに、その場で動けない様に暗示したのだ。

 

 それはそれは、パルメも驚いただろう。何故か体は動かない。僕の元気を付けに来たのに、全く話が噛み合わない。何せ人的資源(ナタリ)も、エルメも、僕の見せた裏切者のパルメの幻影としか話していないのだから。

 

 僕の持ってる通信機を人的資源(ナタリ)に渡し、完全に裏切りを確信させた後。それでもコイツらは、パルメを信用できるのだろうか? それが出来るなら、ロシェンヌについて行くのも考えてやっても良いだろうか?

 

 そう言ったテストのつもりだった。その結果、パルメの首は憐れにも親友だったエルメにへし折られてしまったのだが。やはり、コイツらに“絆”なんてものは存在しなかったのだ。コレで、迷うこと無くロックにつくことが出来る。

 

 さて、今日はもう寝ようか。今までは、僕はベッドなんて使えなかった。常に人的資源(ナタリ)を僕だと認識させ続けるため、いつどこでも僕が人的資源(ナタリ)の傍に控えていなければならなかったのだ。必然、人的資源(ナタリ)のベッドの下の床で寝る羽目になっていた。あの埃まみれな生活とも、やっとおさらばだ。

 

 

 

現在の所持品

使用人服(三日月の紋章入り)

水入れケース(空)

肉を包んでいた布

身分証明書(奴隷)

人的資源(ナタリ)

 

健康状態:正常

精神状態:正常

LP:13700




次回、第一部最終話。
更新予定は未定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。