うちの女子バスケ部がヤバイ   作:小野芋子

2 / 6
前回書き忘れていたので
時系列は中学2年の6月です


球技大会

『ドキドキ!!恐怖の女バス見学!!』から早くも1週間が経過した今日、待ちに待った球技大会が始まった。こらそこ、待ってないとか言わない。

 

 

そんなわけでクラス対抗の球技大会が始まったのだが、俺と灰崎の顔は優れない。

なぜこんなにも気持ちが沈んでいるのか、その理由を話すには少々時間が遡る必要がある。

 

 

 

あれは今朝の朝練での出来事だった。

 

いつもどおり(3倍になった)メニューをこなし、灰崎と特に中身のない会話をしていたら、突然何をトチ狂ったか灰崎の野郎が『そう言えば今日の球技大会、チーム決めどうする?』などと訳のわからない事をほざきやがってくれたため、耳ざとくもそれを聞き付けた我らがキャプテンであらせられる虹村先輩が

 

『2年は今日球技大会なのか?じゃあアレだな、お前ら2人はアシストだけで優勝な。得点とかとりやがったらペナルティな。勿論連帯責任で』

 

と、なんともありがたいお言葉を頂戴して下さったのだ。

微妙に出来そうで出来なさそうなノルマを課すなんてワー、ナンテヤサシイセンパイナンダ。コレカラモツイテイキマス。トリアエズハイザキクンハくたばれ。

 

マジで灰崎くたばれよ。何してくれちゃってんだよ!みんなで楽しくワイワイやるはずが俺らのチームだけ殺伐とした何かになるじゃねえか!

シュート外して『おいおい何やってんだよ(笑)』とか言って楽しむはずがもう笑えねえよ!!

 

っと言ってやりたいのは山々だが現在隣で

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」

 

こんな感じで壊れたカセットテープよろしくごめんなさいと失敗したを繰り返しているのを見ては流石に追い打ちをかけるのも憚られるため、文句の代わりにため息を一つ吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

ってかこいつの中での虹村先輩ってどんな感じになってるんだろ?もはや恐怖を超えた何かだろ。バイブレーション顔負けに震え始めたぞ。

 

 

 

 

 

 

まあ、なんだかんだ言っておいて何だが、普通にイージーモードだった。

 

要は相手に得点を取らせなければ一本だけでもシュートを入れたうちのチームが勝つ訳だし、ボール運びを俺か灰崎で行えば、例えバスケ部が2人でかかって来ようが余裕で躱してゴール下まで持っていけるためむしろ拍子抜けだ。

それに我がチームにはアシストのプロである黒子がいるため、素人であるクラスメイトですら簡単に点を取れている。もちろん百発百中というわけでは無いが、それでも素人にしてはなかなかに高い確率で決めているだろう。

 

いや、マジでチョロいな。シュートを打てないことにはストレスが溜まるが、それもちょっとバスケを齧った経験があるくらいで粋がっているリア充(笑)や、良いところを見せるチャンスだとばかりに張り切っているバスケ部員のシュートを叩き落としたり、ドリブルのフェイントで転かしたりしていたら自然と晴れると言うものだ。

特に『この試合で勝ったら付き合ってくれ』などと観客席で見ていた女子生徒に向かって喚きやがって黄色い歓声を浴びたイケメン君を、灰崎と二人掛かりで叩き潰した時は超スッキリした。

 

そのあとなぜか俺だけが盛大なブーイングを受けたがあれは何故だ?

灰崎も一緒になってやってたよね?これがただイケ(ただしイケメンに限る)ってやつか?そうなるといよいよもって俺は世界に宣戦布告をしなければいけないんだが?

 

「安心…しろよ………ププッ、お前は………男前の部類に……プッ…入る方だから………クハハハハ」

「おぅコラ灰崎、目ぇ見て話せや」

「無理」

「後で体育館裏な?」

『決勝戦を始めるから、該当するクラスの選手はコートに入れ!!』

「チッ、マジで覚えてろよ灰崎」

「え?何だって?」

「叩き潰す♪」

「バカなことやって無いで早くコートに入ってください」

 

黒子に背中を押される形で渋々コートに入る俺と灰崎。

優勝までがノルマのため足の引っ張り合いをするつもりは無いが、何かしてやりたいと思うのが人情だろう。

ってか足かけてやりたい。むしろやる。カッコつけてターンとかしやがったら絶対に足かける。そして転ばす。何ならその後顔面にボールぶつけてやる。その後黒子にイグナイトかまされそうだからやらないけど。

 

そんなことを考えていると、ふと、そう言えば決勝戦の相手って誰だろう?と思い整列している相手チームの顔ぶれを見る。

 

見事に全員が全員バスケ部員だった。それも俺と灰崎を除いた最高戦力のメンツ。

付け加えれば俺と灰崎に課せられたノルマについて知っているメンツでもある。

 

どう足掻いても絶望である。それもそうだろう、ノルマの事を知っている以上こいつらは俺と灰崎を除く素人のみを警戒してくれば良いのだから。本来であればバスケ部である黒子も警戒するだろうが、あいつにシュートが無いことも当然こいつらは知っている。

もちろんなかなかに観客の集まった中で素人相手に2人がかりでマークして俺と灰崎はノーマーク、なんて可笑しな真似はしないだろうが、それでもシュートを打たないことを知っている以上必要以上に警戒することも食らいついてくる理由もない訳で…。

 

あれ?詰んでね?

 

俺と灰崎の二人掛かりで相手のシュート全てを防ぎきる自信は無いため0-0に持ち込める可能性は低いだろうし、仮に持ち込めたとしても、球技大会のルールだと引き分けの場合、最後はフリースロー勝負(メンバー5人がそれぞれフリースローを打ってより多く決めた方の勝ち)であるため勝ち目はより薄くなる。

つまり、こちらが勝利する条件は相手の警戒の僅かな隙をついてドフリーになったチームメイト(素人)に最高のアシストを決め、なおかつチームメイト(素人)がシュートを入れる。だけでなく相手(バスケ部)のシュートは一本でも多く叩き落とさなければならないと言う訳だ。

さらに加えるとディフェンスは実質俺と灰崎のみで、だ。

 

うん無理ゲーだ。

虹村先輩からのペナルティを甘んじて受け入れた方が、よっぽど気が楽だと錯覚してしまうくらいには無理ゲーだ。

 

 

だが俺は知っている、それはただの錯覚でしか無いと。

普段の練習でのペナルティならまだしも、たかだか球技大会で全国優勝を果たした帝光中男子バスケ部レギュラーである俺と灰崎が負けたとあっては、あの人の怒りは天元突破どころか宇宙空間すら突破し、その怒りのままに振るわれたペナルティと言う名の理不尽は、俺と灰崎を原型すら留めないほどの圧倒的質量をもって襲いかかってることだろう。

 

『フッ』

 

思わず溢れた声に別の声が重なる。

誰が出したかなんて顔を見ずともわかる、まず間違いなく俺と同じ結論に至ったであろう灰崎だ。

 

「なあ灰崎、しねぇな?」

「ああ、まるでしねぇな」

『負ける気がしねぇ!!』

 

 

 

 

 

 

っと大見得を切ったは良いがもちろん突然不思議な力に目覚めたり、『バスケって楽しいじゃん』とか言って発光し出したりするようなこともなく試合は拮抗を保っていた。

 

現在得点は6-6

残り時間は5分を切った。

 

隣に立つ灰崎が今日初めて汗を拭う。

これまでの試合では汗どころか息切れ一つしていなかったのに、だ。

そう言う俺も万全の状態とはいかない。一軍レギュラーでは無いとは言えそれも帝光中での話、地方に行けばそれなりの強豪校でもレギュラーを張れるだろうバスケ部員を相手に、隙をついてパスを出すには針の穴を通すような、とまでは言わないがそれでも中々に集中力がいる。

それにパスを受け取る相手は素人だ。常にボールを見ている訳でも無いし、速すぎるパスを出せばキャッチミスだってする。

その中で6点も取れたのだから普通にMVPくらい貰ってもおかしくは無いだろう。

それに、相手の6点は言ってしまえば全てマグレだ。俺と灰崎のプレッシャーで完全に体勢だって崩れていたし、指のかかり具合だって可笑しかった3Pシュートが何の偶然か入ってしまっただけのこと。まあそれも2本も入ってしまえば、流石にくるものがある訳だが。

 

まあ、俺が疲れている一番の理由は相手チームへの歓声が凄いということだろう。

何でも灰崎を含めた6人は帝光2年の中でも群を抜いてかっこいいとか。『その上バスケもうまいし、身長も高いなんてちょー素敵!!』とか言われているらしい。

当然だがそのカッコ良いメンバーの中にも、バスケ上手くて身長高いと言われる中にも俺は入っていない。

ちなみに言っておくが俺はバスケ部、どころか全校生徒を含めた中でも一番背が高いし、何なら3年でセンターのゴリ松(あだ名)先輩のシュートを、ハエ叩きよろしく叩き落としたことだってある。加えれば2年にして既にレギュラーメンバーだし、灰崎相手に負けたことだって一度も無い。

 

そう、身長もバスケも2年では俺が一番なんだ、No. 1だ。それは虹村先輩のお墨付きだし、監督だって言っていることだ。

にもかかわらずこの扱いはなんだ?別にコミュ障を患っている訳でも無ければ、顔だって整っている方だ。先ほどの灰崎の言葉を借りるなら男前(笑)だ。いや、何(笑)付けてんだよクソヤローが。

 

まあそれは置いて、じゃあなぜそんな大活躍中(願望)の俺を無視して歓声が全てあっちにいっているんだ?

いや、チラホラとこちらのチームに対する歓声も聞こえてはくるが、それも8割は灰崎で残り2割は黒子に対してだ。因みにその2割は全て桃色の髪の美人さんだが、まあそれは今はいいだろう。

 

流石に歓声のあるなし程度で実力が出せないほど軟弱なメンタルはしていないが、俺が相手のシュートは叩き落とすたびにちょっと静かにされるのは流石に堪える。

いや、一部男子からは熱烈な歓声が上がるが、お生憎様それでモチベーションが上がるような特殊体質はしていない。

 

まあ何が言いたいかというとだ。

 

ちょっとカッコいいからってチヤホヤされてんじゃねえよクソが!!マグレで3Pシュート入ったくらいで歓声浴びやがって!!こちとら重すぎるリスク背負って戦ってる上に何かするたびに『お前じゃねえよ、ちょっとバスケ齧ってるからって粋がるなよ』と言わんばかりの威圧感浴びせられてんだぞ!!

 

「どうしました白鳥くん?何というか、雰囲気が刺々しいですよ?」

「おう黒子。いや何、粋がっているガキどもにお灸を添えてやろうと思っただけだ」

「え?ほんとにどうしたんですか?それにガキって、同い年ですよね?」

「HAHAHAHAHA、細かいことは気にすんな。それより俺にボールを回せ」

「何か作戦があるんですか?」

「相手の顔面にボールをぶち込んで、跳ね返ったボールがゴールに入るようにする」

「へ?……は、灰崎くん!!白鳥くんの様子がおかしいです!!」

「いつものことだろう?」

「黒子、作戦変更だ。灰崎の顔面にボールをぶち込むことにする」

「どこを変更しているんですか!!先生が見ている前でそんなことしたら生徒指導されますよ!!」

「おいテツヤ、それは先生が見ている前でなければ俺の顔面にぶち込んでもいいように聞こえるし、何ならぶち込まれる俺らのことを一切心配していないようにも聞こえるんだが、気のせいか?」

「気のせいですね」

「テツヤくん、目を見て話そうか?」

「デュエル開始ィィイイイ!!」

「落ち着け白鳥ィィィィ!!」

 

顔面にぶち込んでやろうかと思ったが寸前でボールを奪われてしまった。チッ

 

「まあ冗談はさておき、言うほど勝つことは難しく無いぞ?」

「その冗談で俺は顔面スパーキングされかけたんだが?」

「………相手チームを見てみろ。俺たちのプレッシャーをかけたディフェンスで息も絶え絶えな様子だ。あの感じじゃ、あと一回でもシュートを決めればそのまま逃げ切ることだって容易いだろう」

「味方の2人も、あなたたち2人の無言のプレッシャーで息も絶え絶えな様子ですけどね」

「うぐっ。………まあそれは置いといて、取り敢えず勝ち目ならある。残り時間もそう長くも無いからなるべく早く決めに行くぞ」

「おう」「分かりました」

「まあ決めるのは俺たちじゃ無いんだけどな」

「「おい」」

 

呆れた目を向けられるがだって仕方が無いだろ?虹村先輩にシュートは禁止されているんだもの。

 

 

 

 

黒子からのパスを受け取った俺は周囲に目を向けながらフロントコートに足を入れる。相手が積極的にディフェンスに来ないのも、もはや体力的なものが原因だろう。

本来であれば実質2人でこいつらのディフェンスをこなしていた俺と灰崎が倒れているのだろうが、普段から3倍(の3倍)のトレーニングを積んでいる俺らをあまり舐めてもらっては困る。息切れこそしているが、あとフルゲーム1回はこなせるだけの体力はまだ残っている。

 

まあ、今回に限って言えば俺らの体力があっても余り意味は無いけど。何度も言うようだが、今回俺らはシュートを打つことを禁止されているのだから。

そんなことを考えながらも気を緩めることはしない。

仲間の体力を考えても仕掛けられるのはあと3、4回。その上シュートまで決めるとなれば1回あるか無いかくらいだ。

 

だからこそ、本番の試合の様な集中力を発揮する。

ポイントガード的な仕事は俺本来のポジションでは無いが、そのいいわけで負けを認めてくれる虹村先輩では無い。

それに悪いことばかりでも無い。相手が積極的にディフェンスに来ないおかげで、パスに集中することができるという利点もある。

それに加えパスの中継役である黒子もいる以上、多少は無理なボールになっても修正してくれるだろうと言う信頼もある。仮に相手にボールが移っても自陣に下がらせた灰崎がいるため速攻も無い。我ながらよくもここまで知恵が回るものだ。

まあ、この作戦の核となる部分、責任重大な位置に自分を置くあたりどこか抜けている感はあるけどね。

 

「チッ」

 

リングにボールを当てて手元に返すという荒技を使い、何とか時間を稼いではいるが決定的なチャンスがなかなか来ない。

時間は既に2分を切っており、体育館内の歓声もヒートアップし始めている。

流石に俺1人でボールを所持し続ける訳にもいかず、何度か敢えて相手に渡すこともしたが今の所お互いに点は入っていない。もうこの際プランA(顔面シュート)を発動してやりたいが、やったら最後俺が殺られるので我慢。

 

っと僅かに相手の足並みが乱れる。

 

その瞬間、形だけ俺のディフェンスをしている男子を右側からノーフェイクで抜き去り、そのまま誰もいない右隅の方向に向けてバウンドでパスを放つ。そのままスピードを落とすことなく逆サイドへと向かい、呆然とこちらを見つめる味方に向けて、無言でゴール下を指差す。

それで伝わったのか、少し遅れて走り出したそいつと、それを止めるために動き出した相手選手の間に立ち進行の邪魔——即ちスクリーンをかける。

突然の俺の行動に驚いた顔でこちらを見る相手選手を無視し、今度は残ったもう1人の味方の元へ走る。因みに、最初に抜き去った奴は俺を見失って今も呆然と立ち尽くしている。

仕上げにもう1人の味方のマークについている相手選手にもスクリーンをかけて、囮役として相手チームの目を欺くために適当な方向へと走ってもらい、最後にセンターラインまで下がった俺は

 

「パスよこせ黒子!!」

 

大声を出してこちらに注意を向けさせる。

当然黒子が俺にパスするようなことはなく、ゴール下でフリーになった味方に音もなくパスを出してそのままゴール。

 

まさに完全勝利。

あとは残り時間1分を守り切るだけだ。

 

「なあ白鳥、叩き潰していいよな?」

「ああ、全力で潰すぞ!!」

 

ディフェンスに徹した俺と灰崎を前に、もはや戦意を失ったのか相手から覇気が感じられない。

全く嘆かわしいものだ。最後まで諦めないのが我らがバスケ部の信条なのに。ま、それで勝てるんだから文句はないけどね。

 

奪い、叩き、弾き出す

あいも変わらず俺に対する声援は無いが、もうどうでもいい。

視界に映ったタイマーが10秒を切ったタイミングで目の前でボールを所持する相手からボールを奪い、ストリート顔負けのドリブルテクを決めて、残り1秒のところでコートから出ない様に注意しながら思いっきり投げ上げる。

 

ビー!!

 

ブザーが鳴り響くと同時に俺たちの勝利が決まる。

たかだか球技大会とは言えなかなかに楽しめたものだ。笑いながら拳を差し出してくる黒子と拳を合わせながら、そう思う。まあ、ハイリスクすぎるから手放しでは喜べないけど。

 

パスッ

 

何処からか聞きなれたボールがリングを通る音がする。

恐る恐る出どころを見ると、案の定敵陣のリングの下をボールがバウンドしていた。

 

おや?これはまずいパターンじゃ?

 

得点板を見る

 

11-6

 

あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はこの小説頭の中では既に落ちとか決まってるんですよね。
ただそのための過程を描くのめんどくゲフンゲフン…文章に表し辛い。

あっ最後の方はシリアスになるのでご注意ください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。