反省はしているが後悔はしていませんので悪しからず
帝光中学といえば全国でも有数のバスケット強豪校である。
特に最近ではキセキの世代と呼ばれる10年に1人の逸材が5人集まるという謎の現象を起こしている女子バスケットボール部が有名だ。
それも全員が美人ときたもんだから、そこに目をつけたバスケ雑誌の記者たちがひっきりなしに現れる始末。
おかげで同じく全国優勝を果たしているはずの男子バスケットボール部がまるで目立たないのだから少し面白くない。「え?あ、そう。おめでとう」はもう聞き飽きた。
まあ、うちのキャプテンであり【兄貴と呼びたいランキング2年連続1位】である虹村先輩が気にしていないから俺も特に気にはしないが。
少し遅れたが一応自己紹介をしておこう。
俺の名前は白鳥蓮。一応帝光中学男子バスケットボール部の副キャプテン(と言う名の奴隷)をやらせてもらっている。
近くにストリートがあったおかげか幼い頃からバスケをやっていて、自分で言うのもなんだがかなり上手いと思う。
少なくとも男バスで俺に勝てるのは虹村先輩くらいだろう。
灰崎のやつも上手ことは上手いが1on1の勝率はまだ6:4で俺の方が優っている。
まあ自己紹介はこれでいいか、あまり長々と話してもつまらないしな。
そんな俺だが、今は灰崎とともに女子バスケ部の体育館に向かっている。
俺の名誉のために言っておくが、別にキセキの世代を見て見たいとかじゃない。来週行われる球技大会のバスケについて打ち合わせたいことがあるから行くだけだ。
じゃなければ、わざわざ『邪な気持ちで覗きに行った男子が赤い髪の少女によって記憶を奪われる』などと言うおっかない噂の立つ女バスになど会いに行くものか。
因みにだが帝光中学には体育館が4つあって1つは女バス専用。1つは男バス専用。残りの2つは日によって変わると言った感じで利用されている。金の無駄遣いだと思うが、そのお陰で毎日室内でバスケができるのだから文句はない。
話が逸れたな。
そんな感じで俺は今女バス専用の体育館に向かっているのだが隣の灰崎がヤバイ、顔色が死んでいる。
普段ヤンチャ(笑)ぶって彼女取っ替え引っ替えしてますよアピールをしているこいつが、美人で有名なキセキの練習風景を合法的に見るチャンスなのにこれほど顔が死ぬとは何かあったんだろうか?
噂によればキセキにも手を出そうとして壮絶なダメージを負わされたらしいが、この様子を見るにその噂は本当で、尚且つ噂以上のトラウマを植え付けられたのだろうか?
俺は良かれと思って灰崎を連れてきたが、それなら悪いことをしたかもな。
まあどうでもいいけど。だって灰崎だし。
ようやくたどり着いた体育館を前に、隣で真っ白になる灰崎を無視して中に入る。
幸いにしてマネージャーらしき桃色の髪の少女が、入り口のすぐ近くにいたので声をかける。
「すいません、男子バスケットの白鳥ですけど。今度の球技大会について打ち合わせたいことがあるんで赤司さんを呼んで貰っていいですか?」
「分かった。ちょっと待っててね。ところでそこの入り口で顔色は真っ白になってる人がいるけど」
「気にしないでください。あれが彼の普通です」
「はあ。まあいっか、じゃあ呼んでくるから」
「ありがとうございます」
おそらく赤司さんの元へ走っているであろうマネージャーの背中を見送りながら、考えるのはさっき見た彼女の容姿について。
マネージャーも美人とは最近のバスケは見た目も重視されているようだ。そういえば虹村先輩は男前だし灰崎は普段にイケメンだよな。
いや別に悔しくないし。高校入ればきっと俺もイケメンになるし。
あとどうでもいいが美人を相手にすると敬語になるのは何故だろう?
因みに俺は生存本能的なサムシングだと思う。
「やあ待たせてしまってすまないね、白鳥くん」
どうでもいい事を考えていると、赤い髪にツインテールの小柄な女の子が俺に声をかけてくる。
いや、中学生にして180後半はある俺の方がおかしいのかもしれないけど。
「いえ、用があってきたのは俺の方ですから気にしないでください」
「そうか。ならそう言うことにしておこう。それじゃあ早速だが打ち合わせといこうか」
「分かりました。まず当日の———」
「ああそれなら———」
「———こんなもんですね。何か今聞きたいことはありますか?」
「そうだね。強いていえば君が敬語を使うことかな?同い年なんだからもっとフランクに会話してもいいと思うけど?」
「……善処します」
無理に決まってる。
目の前の彼女は気付いていないかもしれないが、立ち上るラスボス臭が半端ない。
RPGで魔王に挑む勇者の気持ちが今ならよく分かる気がする。まあ彼女なら魔王すら捨て駒として使えそうな気がするが。
「……」
「どうしました?」
「…いや、これでも私は男の下衆な視線というものに敏感でね。それがまるでない君を珍しいと思っただけだ」
「…そうですか」
これでも、っていうかどう見ても敏感そうですよとは言えない。言ったら最後東京湾あたりに沈められそうな気がするし。
後、俺は別に女子に興味がないわけではない。
ただそっちに向かう矢印を、虹村先輩の手によってへし折られ強制的にバスケと勉強に向けさせられているだけだ。
さて、話も終わったしもう帰ろう。
そろそろ灰崎を回収してやらないと真っ白に燃え尽きそうだ。
正直もう手遅れな気もするが
「あれ?白鳥君じゃないですか?どうしてここに?」
「あれ?黒子さん?」
「はい、黒子は僕です」
今俺に話掛けてきたのは黒子さん。敬語がデフォルトのボクっ娘で、水色の髪の儚い系美人な小柄な女の子であり、同じ図書委員で知り合った仲だ。
なんでも兄である黒子テツヤ同様、影が薄くて気づかれにくい体質だからよく俺がよくフォローしている。
「意外だな、部活に入っているとは聞いていたがてっきり文化部だと思っていたよ」
「失礼ですね。これでもバスケ部で番号を貰っているんですよ。見てくださいよこの力こぶ」
「ごめん、俺の目には見えないや」
「なん……だと………!?」
こんな感じでちょくちょくネタを挟んでくる面白い女の子だ。
ただし手を出せばキセキセコムとシスコンの兄が来るらしいので、絶対にやましい気持ちを持ってはいけない。
まあ30センチ以上ある身長差もあってか、妹のようにしか見えないから俺は大丈夫だけど。
あっ、間違っても妹のようだと口にしたらシスコンの兄に問答無用でイグナイトかまされるから気をつけた方がいい。経験者が言うんだまず間違いない。
話が逸れたな。
取り敢えずそろそろ帰ろう。
あまり遅くなったら最悪ロードワークが3倍に増える可能性がある。
朝練の時に今日遅くなることは伝えておいたが、虹村先輩の時間軸はどこかおかしいから練習開始から3分遅れただけでも「遅すぎる。フットワーク3倍な」と言われそうな未来が容易に見える。
うんヤバイな、すぐ帰ろう。
この際灰崎を捨て置いても……
「灰崎遅刻か。連帯責任、お前もフットワーク3倍な」
仲間を置いていけるわけないじゃないか!!
「それじゃあ俺はここで失礼するよ」
「そうですね、平日の練習時間はそれ程長くは有りませんが、お互い頑張りましょうね!!」
「………そうだなぁ」
へえ、平日の練習時間ってそんなに長く無いんだ。
おかしいな、俺は8時までだと聞いていたんだけどな。それも9時までの延長ありで。これって短いのかな?
あれ?帝光中って男バスだけ独立してたっけ?いや違うな。6時以降残ってるの俺と灰崎と虹村先輩、あと黒子くらいだよな。
それに朝は7時開始。もはや軍隊のような鬼の所業。
それを知った日ほどバスケ部に入った自分を呪ったことはない。おかげでバスケが上達しているのだから何も言えないけど。
え?勉強ですか?帰宅と同時に先輩から『今勉強してるよな?』ってメッセージが届きますが何か?
ちなみに11時になったら『まだ起きてねえよな?』ってメッセージが届く鬼畜っぷり。初めてもらったその日は恐怖で気絶して気づけば朝になっていた。おかげで規則正しい生活リズムが遅れています(血涙)
「どうしました白鳥くん?」
「いや、ちょっと人生って何かなって思っただけだ」
「え?本当にどうしたんですか?」
黒子さんは優しいなぁ
そら、頭を撫でて……あぶねっ!!死ぬところだった!!
何だこれ!!何でただの学校生活の選択肢にデッドルートが存在してるんだよ!!
「あれれ、黒ちんどうしたの?」
「紫原さん。ちょっと知り合いと話をしていただけですよ」
「へぇー。うわぁ、学校で私よりおっきい人初めて見た」
紫の肩まで伸びたセミロングにどこかゆるふわな紫原さんと呼ばれた彼女は、珍しいものでも見るようにキラキラしたの瞳で俺を見る。
これだけ聞けばさもおモテになりそうな外見だが、いかんせん先ほどの彼女が言った言葉から分かるようにこの少女かなり身長が高い。
俺の方が高いと言っても1、2センチの差。まあ大体185くらいはある。
何を食ったらこんなに大きくなるんだ、と思うが女性にそれを言うのは失礼なので流石に自重する。
「ねえねえ、肩車してよ」
失礼なのことを考えたバチでも当たったのかとんでもない災難が降りかかって来た。
「紫原さん、いきなりそれは白鳥くんも困りますよ」
「ええ、でも久々にやって欲しいし〜」
「はぁ、……白鳥くん」
無理です。っと即答できたらどれだけ楽だったか。
期待した眼差しで俺を見る紫原さんを無下にできるほど残念ながら俺の人間性は腐っちゃいない。遠巻きで見ていた女子部員たちも話を聞いていたのか期待半分面白半分といった感じでこちらを見ている。
ふっ。
思わず笑みが出てしまう。
いくら身長が高かろうが相手は女子だ、体重なんてたかだかしれている。それに毎日何かに理由をつけて筋トレ3倍(の3倍)を行なわされている俺だ。それに比べれば何が185センチ、小さく見えると言うものだ。
そうだ俺ならできる出来るに決まってる。あの頭脳は大人な名探偵で警部を務めるあの人と同じ名字をしている俺なんだ!
いける!!やってやる!!俺の本気を!とくとみよ!!
「任せろ、肩車してやる」
「わあーい!!」
「白鳥くん、なぜそんな無茶を」
おい黒子さん、なぜフラグを立てた。
あの警部ってさ、なぜか最後は締まらないよね?
っと現在肩で息をしながら体育館と盛大な口づけをしている俺は思う。
取り敢えず言わせてくれ
「もう…ゴールしても……いいよね?」
「ダメですね」
黒子さんが鬼すぎて全俺が泣いた。
あの後全ての力を振り絞って肩車をした俺は、生まれたての子鹿のように震えそうになる足を根性で耐え忍び、何とか立ち上がることに成功した。
巻き起こる拍手。
頑張ったと俺を褒めてくれる黒子さん。
「じゃあ体育館一周して」とのんきに命じる紫原さん。
何だ、彼女はトトロではなく巨神兵の方だったのか。
そのあとはよく覚えていない。
気付けば肩車は終わっており、気付けば灰崎は帰っていた。
「白鳥のやつ、マジでやりやがったぞ」「信じられないのだよ」「赤ちん楽しかったよ〜」「そうか、それは良かったね」
そんな声が聞こえる気がするが脳がうまく動かず処理できない。
今は顔の近くに座っている黒子さんの言葉すら聞き取りにくい。肩車程度にこう言うのもなんだが、正しく全てを使い果たしたことによる疲労がヤバイ。
「大丈夫ですか?」
「……だい…じょうぶ……じゃ……ない」
「そうですか、じゃあ膝枕してあげましょうか?」
「全然大丈夫だから部活戻るよ」
いつだって人間の原動力とは恐怖である。それさえあれば疲労困憊のこの体だって案外動くものだ。
「流石の僕も傷つきますよ?」
「いや、誘いは嬉しいけどリスクが高すぎる」
死ぬか膝枕で膝枕を選ぶのはバカだ。よく美女に膝枕して貰えるなら俺死んでもいいとか言う間抜けがいるが、普通に割りに合わない。
時計を見るとすでに最終授業が終わってから30分が経過している。
すでに体力的にはフルゲーム2セットやりきった感はあるが、これ以上遅れたら今日だけで後5セット分の体力もごっそり(虹村先輩によって)もってかれそうなので急いで立ち上がる。
立ち上がったことにより、先程までは光の加減で影が出来ていた黒子さんの顔がよく見える。物凄く不機嫌そうにこちらを見ている。
「…………」
「明日マジバのシェイク買ってやるから」
「……しょうがないですね。それで許してあげます」
「じゃあ今度こそ帰るから」
「はい、色々頑張ってください」
「うん、ホント色々ありすぎてそろそろ過労で倒れそうだけどな」
「頑張ってください」
「割と無責任だなおい」
軽くを手を振って外に出て、ダッシュで男バス専用の体育館へと向かう。
この学校の見取り図を長方形としたら、ちょうど対角線に男バスと女バスの体育館は存在するため意外に遠いのだ。
せめて灰崎がいい感じに言い訳をしてくれているのを祈るばかりだ
「すいません遅れました!!」
「おう、お前フットワーク5倍な」
「何でだ!!」
「灰崎から聞いたぞ、何でも女子を肩車して楽しんでたらしいじゃねえか」
「ある意味事実だから否定できない!!」
「はははははははは!!白鳥ざまああああwww」
「連帯責任で灰崎も5倍な」
「何でだあああああああああ!!」
「バカめ灰崎!!!ざまああああああwwwwww」
「何だ2人とも元気じゃねえか、なら10倍に——」
「「さあ今日も楽しくバスケットボールだ!!」」
「……現金なやつらだ」
「ねえ白鳥くん」
「ん?どうした黒子?」
「さっき妹からメールが来たんですが…」
「ほう、それで?」
「『明日は白鳥くんとマジバに行って来ます』って、コレなんですか?」
「HAHAHAHAHA。……ちょっと外周行ってくるわ」
「逃がしませんよ?」
「俺は無実だああああ!!!」