強気な先輩からパンツを召し上げる話   作:まさきたま(サンキューカッス)

3 / 5
パンツ食べたい。・・・食べたくない?


高級品(白、新しめ)

 ・・・ん? 来ていたのか後輩。

 

 あぁ、すまない少しぼぅっとしていた。声を掛けられるまで君に気が付かなくて悪かったよ。

 

 では掛けたまえ、今日も部活を始めようでは無いか。

 

 ああ、私かね? 気にしないでくれ給え。少々考え事をしていてね。別に体調が悪いと言ったような話では無いんだ。心配を掛けてすまないね。

 

 うむ、そうか・・・いや。そこまで言うなら話しておこうかな。何だ、少し心配事が有るのさ。

 

 その、聞いたかい? 最近、学校で妙な事件が起こっているそうじゃないか。

 

 その件についてだよ。何でもだね、我が校の中で部活の時間中に、わざわさ鍵を開けて更衣室に忍び込み、女生徒の下着を盗み出した不届き者がでたらしい。実に嘆かわしいことだ。

 

 幸いな事に、我が部は着替えを必要としないため、私は被害に遭わずに済んだのだがね。

 

 ただ女性として、自らの下着を持ち去られると言う状況の不快さは良く理解出来ているつもりだ。とてもとても、良く理解出来ているとも。

 

 それでだね、ふと、思い至ったのさ。私には、パンツに異様な執着を示す生徒に1人、心当たりが有ることに・・・ね。

 

 あー。・・・その、いや、私は決して疑っているわけではない。無いのだが、その、なんだ。

 

 

 

 君では無いんだよね?

 

 

 

 そう怒らないでくれ給えよ。何せ君は私から見ると、それはそれは疑わしき状況に居ることは分かるだろう。

 

 部長としてだね、一応、最低限の確認はしておくべきだと思ったから聞かせて貰ったんだ。違うというならそれで良い、そこで終わる話だよ。ああ、君に不快な思いをさせてしまいすまなかったね。

 

 ・・・ん? もうパンツなら間に合っている?

 

 ああ、成る程ね。結構、大変結構! 私としては全く結構とは言えないのだが君は満足なご様子だ!

 

 それに新しいのが欲しければ部活に顔を出す?

 

 ちょっと待ちたまえ。それは一体どう言う了見だ!

君は部活に何をしに来ている? 君はまさか、この部室には私のパンツの収穫をしに来ているのかね!

 

 ああ、また頭が痛くなってきた。君が入部してくれた事を無邪気に喜んだのがもう数年も前のことのようだ。

 

 もう良い、私は諦めよう。ともかく下着泥棒が君では無いのなら他のことは一切気にしないでおく。私の精神衛生の為にもね。

 

 さて、部活を始めようか。

 

 

 今日は、そうだな。人は嘘を吐くときどのような行動を取るのかを検証してみようか。初心者向けのやりやすい議題だろう?

 

 まず、私が君に何かを問うから好きに嘘をつきたまえ。

 

 君は、どんな食べ物が好きだい?

 

 ふむ、君は実に涼しい顔で嘘を吐くね。だが、この質問に対し嘘を吐く事は非常に容易だ。何故なら、今の答えが“嘘だと気付かれてしまった所でリスクは無く”、“そもそも嘘かどうかを判断する事が非常に難しい”為だ。言ってみれば君は麻雀でいう安全牌を切った訳で、これに緊張する訳が無い。

 

 じゃあ次の質問だ。

 

 君は、女性から告白されたことは有るかい?

 

 ほほう、まだ表情を変えないのか。君はなかなかポーカーフェイスが上手いな。

 

 この質問に嘘を吐く事は、最初の質問より少しだけ敷居が高い。ひょんな風聞から簡単に嘘が露見するし、それにより君は女性関係についての余り良くない噂を流されてしまうリスクを負ってしまう。

 

 そう、嘘がバレた時のリスクと、その嘘の露見のしやすさ。この2つが、まず嘘を吐く際に心を揺らす要因だろう。

 

 では、ここまでを踏まえ今度は君が質問を考えたまえ。私に嘘を吐きにくい質問を、ね。

 

 ふむ、まぁそこだと思った。

 

 ならば答えよう、私は誰にもパンツなど与えていない。それは君の妄想だよ。

 

 確かに、今の質問は私にとって嘘を吐きにくいモノであった。だが、前もって嘘を吐くと心の準備しておけば動揺が少なくてすむ類の質問でもある。

 

 3つ目の嘘を吐く際の心を揺らす要因、それは咄嗟であること。前もって心の準備ができる嘘は平然と答えられるのだ。

 

 現に私にとってこの嘘は、万一が起きた時に教職員の前で涼しい顔して言えないとならないからね。彼が私のモノだと自宅に飾っている下着は恐らくは、自分で女性下着売り場に行き買ってきたものだろう、全ては彼の妄想だと切って捨てねばならない。

 

 それでは君がまるで変態みたいだと?

 変態(きみ)は一体何を言っているんだ?

 

 さて、今度は再び私が質問させて貰おう。

 

 君は君のお好きな女性のパンツが誰のものであろうと手に入る時、誰を指名する?

 

 

 ・・・即答で私、か。成る程、私のモノはもう所有されてしまっているからな。質問が悪かったか。

 

 

 なら、言い換えよう。君は誰でもお好きな女性と交際出来る権利を得た時、誰を指名する?

 

 ふふ、迷っているね。これは、嘘を吐く事には緊張しない質問だ。だが答えてしまうと、誰かへの好意を嘘とは言え宣言してしまう。

 

 この場合も、安全牌となる答えは私だが・・・どうだ、面と向かって本人が居るのに宣言するのは恥ずかしかろう。

 

 4つ目の要因、それは自身の感情に起因する解答の場合だ。人は無意識に自身の本音を隠そうとする。心の奥底を見通される事を恐がるのさ。だからこそ、問われた時に本音がちらついて、心が揺れてしまう。

 

 何故、人間は嘘を吐く時にこのような心理的な脆弱性を発揮するのか? 私の考察はこうだ。

 

 人間という生き物は、コミュニケーションにより発展したと言っても良い。他の種族である、例えば猿であったり、イルカであったりと言った動物の操る鳴き声を用いたコミュニケーション手段と、我等人間が操る「言語」と言うコミュニケーション手段では情報量が圧倒的に違う。

 

 だからこそ、人間は優れた文明を構築するに至った。

 

 そう、人間とはコミュニケーションの化け物と置き換えても過言では無い。この地球に存在するあらゆる生命体に、コミュニケーション能力においては圧倒的な差を付け、まさに君臨しているのだから。

 

 そんな人間だからこそ、嘘を吐くと言う行動に対し心理的にブレーキをかけるのだろう。我等の君臨に必須であるコミュニケーション能力に、致命的なまでに有効な反撃手段は虚構なのだから。それは自らの弱点を、身を以て晒す行為に他ならない。ひょっとしたら人間としての本能の1つかもしれないな。

 

 さて、話がそれてしまったね。

 

 つまり私はこう言いたいのだよ。例え君が誰かに嘘を吐かれてしまっても、キチンと心理学的な分析が出来ればそれは見抜く事が出来る。何せ、嘘を吐く側の人間は多少に関わらず“嘘を吐かぬ時と行動や表情が異なる”のだから。

 

 ただ1つ注意して欲しいのは、これは初対面の相手には通用し無いということだ。普段から嘘を吐き続ける“虚言癖”の人間にとっては無意味だし、そもそも嘘を吐いた時と正直に話をしていた時の比較が出来ないと分析は難しい。だからこそ、普段からの観察と分析が大事だと私は思うよ。

 

 どうだい、今回の部活も中々、君の今後の人生の役に立つような内容では無かったかい? 今日の訓示はつまり、君に気を付けて欲しいのは、今後の人生で君が嘘を吐く事は想像以上にリスクが高いと言うことだ。

 

 何せ、バレる人にはあっさりバレる。嘘がバレたところで証拠は無いから、一応は君は嘘を吐いていないと扱われるだろう。でも、その人から信用を得る機会を永久的に失うんだ。

 

 正直であれ、後輩。

 

 それは誰にでも出来る事で、凄まじく有効な自己防衛手段に他ならないのだよ。

 

 さて、君に最後にもう一つ質問をしていいかい?

 

 

 

 

 下着泥棒の件、本当は君がやったんじゃ無いのかい?

 

 

 

 嘘だ!

 

 やはり君は嘘を吐いているな、私に嘘は通じないんだぞ!

 くくく、迂闊にも君は私の前で3回も嘘を吐いただろう?その際、私は君をジックリと観察していたんだ。そして普段の君の受け答えとは違う、とある共通の仕草を見いだした。

 

 君は嘘を吐く時に、“私と正面から目を合わせた後、少しだけ右を見る”癖がある!少なくとも、先程の3回は全てそうしていたぞ後輩! これは君が嘘を吐く時以外に見たことが無い仕草でもあるな。

 

 何を! 私は騙してなんかいないさ! キチンと部活を行い、その内容を部員として実践しただけさ! 君が嘘を吐くのが良くないんだ!

 

 いーや、嘘を吐いているだろう? 私の分析力を侮ったな後輩。部内から犯罪者が出るのは心が痛いが、下着を盗まれた女生徒は更に苦しんでいるんだ! 大人しくお縄に付くといい!

 

 証拠? そんなもの幾らでも出て来るだろう。警察沙汰なんだぞ? 君はいかにとんでもないことをしでかしたか分かっているかい?

 

 自分から自首した方が罪は軽くなるぞ、これは君の為にも言っているんだ。さぁ、私も付いていってあげるから一緒に職員室に──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、近頃学校に忍び込んでは女生徒の下着を狙っていたと言う下劣な泥棒は無事に逮捕されたのだった。

 

 意外にも、犯人は学校関係者。何と教職員だったのだ。

 当然、彼はその日付で謹慎となり、彼が受け持っていた生徒から当面の間、“容疑者”とあだ名される事となった。

 

 

 

 空が茜色に染まる頃。

 

 通学路を不安げに、片手でスカートを抑えながら歩く女生徒は、やや不機嫌そうな男子生徒と並んで歩いていた。

 

「悪かったと言っているだろう・・・。と言うか、その、また私のパンツ召し上げた癖に何がそこまで不満なのだ君は・・・」

 

 つーんとそっぽを向く男子生徒はいつもの如くポケットに手を突っ込んでおり、微妙に白い布が見え隠れしていた。女の先輩が後輩に、勘違いを謝罪する際に差し出した誠意らしい。

 

「君が捻くれた答え方をしたのも、原因じゃないか。機嫌直したまえよ・・・。」

 

 彼は今日、()()()()()()()()()()()()()()()。最初に“嘘を吐きたまえ”と言われた言葉に対して嘘を吐いただけなのだ。つまり、他の全ての問いに正直に答えていた。彼としてはちょっとした悪戯のつもりだったが、見事に先輩の方が騙されてしまっていた訳である。

 

 ちなみに、彼が不機嫌に見えるのは色々と気を遣って謝ってくる先輩をコッソリ楽しんでいるだけだったりする。

 

 微妙にギクシャクとした空気を後輩は1人楽しみながら、今日もノーパンの先輩と共に帰路へ着いた。




本日の戦利品
白く肌触りの良い高級パンツ。手持ちの下着が減った先輩が新たに購入したもの。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。