貞操観念が逆転したアイドルマスターミリオンライブ!   作:Fabulous

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本作はミリオンライブのアイドル達を全員扱うつもりですが作者の好みにより出演シーンが増減します。


純黒のCEOと残念な美人をリクルート

 激しい頭痛によって目を覚ます。

 私はこの感覚を知っている。二日酔いだ。

 

 ズキズキと痛む頭と全身の倦怠感はいつまでたっても馴れない。大学卒業祝の飲み会で、かねてから気になっていた数少ない同輩の男性が結婚更には相手の妊娠も発表し私は独り酒に逃げた。どれだけ飲んでも悲しみは消えずむしろ悪化していく始末。

 私の人生、思えばこの23年間の人生に春が訪れたことがない。でも私だってただ突っ立ってた訳じゃない。容姿にはそれなりに自信があったし勉強だって頑張った。オシャレにも気を使ったし男の子が喜びそうな仕草も研究した。だけどもそれが実った試しがない。友達からは莉緒は美人で性格も良くてモテるでしょと言われるがそれが役立ったことはないしモテたこともない。

 

 最近はこのまま独り寂しく老後を迎えてしまうと本気で思っている。そこに来て昨日のあの告白だ。

 

 生きてくのが嫌になった。もうアルコールと結婚してアセトアルデヒドを産もうと思った。

 

 さすがに昨日は自分でも飲み過ぎたと反省した。店で飲んでた記憶はあるがそれ以降の記憶がないのだ。あれだけ飲んでよく自宅まで帰れたなと私は昨日の自分に感心すらした。

 

 ひとまずシャワーを浴びよう。メイクも落としてないし髪もごわごわだ。

 そう思い莉緒はベットから身を起こし固まった。

 

 

 

「あれ?ここどこ?」

 

 私が帰った家は自分の家ではなかった。私が寝ていたのは自宅のベッドではなかった。

 

 後頭部を殴られたような衝撃を感じたが断じて二日酔いの痛みではなかった。

 

 

 嫌な汗が出る。どう見てもラブラブなホテルだ。まさかこんなコッテコテな大人のホテルがまだあるなんて驚きだわ。つまり私は酔って近くのホテルに泊まっちゃった?

 とにかくまだ頭が痛むけど家に帰らないと。

 

 その時私はトイレが流れる音を聴いた。

 

 

 ぼやけた思考でもはっきりと認識する。この部屋には自分以外の誰かが存在している。

 

 

 え?どゆこと?

 

 何故自分以外の存在がここに?いや、私がいるのも自分で納得はできないがとにかく意味がわからない。

 

 

 その時部屋のドアが開かれる。

 

「っ!……、」

 

 

 

 ドアを開けた人物は私を見て目を見開いていた。だが私はもっと驚いた。

 

 お…男…っ。

 

 男がいた。二日酔いの幻覚ではない。明らかに人が、それも私と同世代位の若い男がいた。

 

 

 お互い黙り見つめ合う状況。

 

 なんでこんなところに男がいるのよ?しかもよく見たらけっこうカッコいい……!…。

 

 やばっ…うぇ…、

 

 

 極度の緊張と不安が彼女を襲いアルコールの抜けきらない彼女の食道を刺激し急激な逆流現象を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し経ち、

 

 盛大にぶちまけてしまった私は謎の男と一緒に掃除をしたあと謝罪した。

 

 男は気にしないでくださいといってくれたが私は気にした。男の前で戻してしまうなんて一生トラウマものだわ。きっと内心軽蔑されてしまった。やっぱり私は男に縁がないんだわ…。

 

 私が自己嫌悪に陥っているとそれまで沈黙していた彼が口を開いた。

 

「き…気がつかれましたか。ところで昨夜のことを覚えていますか?かなり酔っていらっしゃったと思いましたが」

「ご、ごめんなさい…私、お店を出てからの記憶が…」

「そうですよね。泥酔してましたから」

 

 うげ…やっぱり昨日の私そんなに酔っぱらってたの?だとしたら何か彼に失礼なことを…?

 

 

「あの、私…昨日あなたに何かしちゃった?」

 

「え?いや~確かに大変でしたけど…あはは…。」

 

 何故かお茶を濁す彼。やっぱり私なんか仕出かしちゃった!?

 そこで私はある最悪の想像が頭をよぎった。実を言うと掃除している間も私は少しこの状況を冷静に考えて、ひとつのとんでもない結論から目を逸らしていた。

 

 

 泥酔。見知らぬベッド。見知らぬ男。欠落した記憶。

 

 

 ‥‥‥‥。

 

 

 

 

 いやーまさか私がねー。しかもあんなカッコいい男となんてねー。奇跡ってあるんだなー。

 

 神様は私を見捨てなかったんだわ!ありがとう神様!

 

 

 んなわけないでしょ!?

 

 

 ……あれ?ひょっとして私、ヤっちゃった?間違い起こしちゃった?

 いわゆるワンナイトラブってやつ?

 

 私はまたも後頭部に衝撃を受けた。ヤバい…ヤバいわよ…酔った勢いで男に手を出すなんて…私昨夜本当に何してたっけ??

 

 どうするのよこれ!?私みたいな女とこの(ひと)が昨日初めて会って合意であはんうふんしたなんて誰が信じるの!?私だって信じられないのに!ここはまず確認しないと…。

 

「あの!私…昨日あなたと…その…本当に…」

 

 言えないぃ!何て言えば良いのよ!?

 

「あはは…確かに昨日はその…凄かったです」

 

 止めてえぇぇ!目を逸らしながら言わないでえぇ!てゆーか凄かった!?私凄かったの!?

 

「とても印象的で…多分昨日の夜のことは一生思い出になりますよ」

 

 何で!?何で顔を赤らめながら言うの!テクニック?!私って結構テクニシャン!?

 

 お、終わった。私の人生。きっとこのあと警察に連れられて監獄送りになるんだわ。お父さんお母さんごめんなさい。孫の顔も見せれずに新聞に載る親不孝な娘を赦して…。

 

 あ、ヤバい、お酒が抜けてないから涙腺が…。

 ポロポロと涙が溢れる。思えば私の人生男に全然縁がなかったわ。でも最後にこんなカッコいい男と出会えたからオールオッケー?残りの人生生きていけるかも…?

 

 私が一人覚悟をしていると、男が私に近づく。なにかと思うと彼は私に跪きハンカチを差し出しこう囁いた。

 

「どうか涙を拭いてください。貴女のような美しい(ひと)にそんな涙は似合いません。今回のことは私も不注意で非があります。私に出来る謝罪なら何でもします」

「そ、そんな…私が悪いのに…」

「女性に責任を押し付けるのは好きではありません。そんなことをしたら家族に顔向けできませんから」

 

 暖かい。男性にここまで優しい言葉をかけられたのは父以外にない。

 

「さあこれで涙を…。謝罪します。貴女の涙が止まるまで」

「ち、違うわ。これは嬉しくて…」

 

 悲しい涙はとっくに枯れて感動の涙がさめざめと溢れた。

 

 

 

 

 ようやく涙が止まり落ち着く。我ながら大泣きした。

 

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は春日と申します」

 

「春日…さん」

 

「春日で結構ですよ。改めまして今回のことは大変申し訳ありません。お巡りさんや救急車を呼ぶのはどうかと思った私が軽率でした」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 春日さんから詳しい事情を聴き恥ずかしく情けなく死にたくなった。どうやら私は昨日の夜お酒に酔って動けなくなった所を彼に助けられたとのことだった。

 

 彼は「私も軽率でした」と言ってくれたがそもそも彼が助けてくれなかったら今頃自分がどうなってたかわからない。自業自得の私を助けてくれるなんていったいこの人は何者なの?天使?

 

 

「こんなときになんなのですが、実は私、こういう者なのです。よろしければ貴女のお名前も教えてはいただけませんか?」

 

 

 春日さんは名刺を取りだし私に差し出す。手に取り見ればなんとあの765プロの社員と記載されている。

 

「莉緒…百瀬莉緒よ」

 

 すると彼は少し考え込んで…、

 

「どうでしょう百瀬さん。貴女、アイドルになりませんか?」

 

 いきなりなんてことを言うのよこの(ひと)

 

 

「む、無理よ。私にアイドルなんて…」

 

「不安になるお気持ちは分かります。ですが貴女には他の人にはない魅力を感じました。それは私が保証します。」

「魅力…どんな…?」

 

 気が遠くなる。魅力なんてあるはずがない。今までモテた試しがない私にアイドルが務まるとは思えない。私の不安を知ってか彼は私に更に近づき語る。背…おっきいなぁ。

 

「‥‥‥‥‥これは受け売りですが…アイドルとは宝石のように星のように輝き、人を引き付け魅了します。私と貴女は出会って一日も経っていません。ですが百瀬さんのことを私は恐らくこれから一生忘れることはないでしょう。それは断言できます。もちろん良い意味で」

 

「!!‥‥‥」

 

「百瀬さん。貴女にはそれが有ります。人を惹き付ける輝きを、貴女をもっと知りたい思わせる力を私は感じるのです。ここで貴女を手放したらきっと後悔してしまう。だからもう一度お願いします。アイドルになりませんか?」

 

 

 撃ち抜かれちゃった。彼の言葉に…私の…。

 

「もちろん今すぐにとは申しません。貴女の人生は貴女のも…」

 

「…ます」

 

「は?」

 

「私、春日さんのアイドルになります。」

 

「…ありがとうございます?」

 

 その時のことを私は今でも忘れない。私の人生に天使が現れた。優しくてカッコいい天使…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で誰かが私に語り掛ける。

 

 

「ちーひっひっひっひっ。あなた彼女が欲しいって言いましたよね~?そんなあなたに朗報ですよ~チーヒヒヒヒヒヒッ」

 

 私は謎の声に尋ねる。

 

「あなたは何を言っているのですか?そもそもあなたは誰なのですか?」

「ちひひひひっ、そんなのどうでもいいことじゃないですかぁ。とにかく私はあなたの力になりたいんです。人助けがぁ好きなんですよぉ私は~チヒヒッ」

 

 

 私はしばし考えた。確かに恋人が欲しいとは思っている。自慢じゃないが私は年齢=彼女いない歴の寂しい男だ。多分これは夢の中だが頼んでみても損はないかもしれない。

 

「損なんてありません!特にあなたのような男にお金なんて請求しませんよぉ。お金はね…チヒヒ」

 

「え?お代はいいのに私に恋人を授けてくれるのですか?」

 

「なんだ結構乗り気じゃないですか~もちろんですよ。この契約書に署名捺印してくれればあら不思議。目を覚ませばR-18指定コース直行です。エロm@sも孕m@sも真っ青なハーレム主人公になれますよ~。」

 

「…ちょっと何言ってるか分からないですね。とにかくハーレムは胃が痛くなりそうなので遠慮させてください。」

「え~楽しいと思いますけどね。それなら幼馴染との純愛コースにしましょう。ただそのかわりちょっとお願いしたいことがありましてぇ。実は私映画が趣味でしてあなたに主演男優として出演して頂きたいんですよぉ。女優の方々はこっちで用意しますので~。チヒッチヒッ。」

 

 

 あれ?なんだか不穏な空気になってきたぞ…。両親からうまい話は信用するなと教わったが私は以前読んだ本を思い出す。お金に困ったヒロインが優しいおじさんに援助してもらう代わりに自宅やホテルに連れられ部屋の扉を開けるとそこには沢山の優しいおじさん達が……、

 

 

 

 不味い…。きっとこの声の主は私を助けるふりをしてどこぞのタコ部屋や地下に送る気なんだ!そうでなくとも只より高い物はないと昔から言われている。夢の中とはいえ悪夢は御免だ。そうと分かれば私のとる手段は1つ。『現代意訳悪魔祓い。鬼も悪魔もマニー次第』に従い、

 

「あ!あんなところに石油王が!」

「えっ!?どこですか!どこどこ!」

 

 私は急いでその場を離れる

 

「あ~!騙しましたね!待ちなさーい!」

 

「助けて―!消費者相談センター!」

 

 

「はっ!?」

 気が付けば私は汗だくでベットから転げ落ちていた。手には見覚えのない『広川せんち 著 マニーのためならなんでもするズラ』を握り締めていた。

 

 

 携帯で時刻を確認すれば3:45

 少し早く起きたか。しかし悪夢のせいで二度寝する気は起きなかった。何故か頭が痛い。手で頭を触るとコブが出来ていた。何故だろう?

 

 まあいい。少し早いが起きるか…。

 そう考えまずはベットを直そうとするが手が止まる。

 

 ここはどこだ?

 

 見たことがないシーツ。明らかに自宅ではない部屋。しかもドギツイピンク色の蛍光配色のギャグのような()()()()ホテルの一室。しかも…。

 

 

 

 動いていた。ベットのシーツの中で明らかに人と思われる物体がもぞもぞと動いているではないか!

 …きっとこれはまだ夢の続きなんだ。ベットに戻って寝よう。目を覚ませばいつもの現実に…。

 

「う、う~ん…」

 

 前言撤回。夢じゃない。人がいる。それも女性が…。

 

 落ち着け。こんなことがなんだ。こうしてる間にもアフリカのどこかで子供が泣いており太陽消滅の時は刻々と近づいているのだ。

 

 思い出せっ…昨日は確か…、

 

 

 

 

 あの衝撃の就職面接から少し経ち、765プロから書類が送付されてきた。中身は765プロの正式な内定決定を伝える書類。私はその書類を何度も見返しこの待ち望んだ幸福を何度も反芻した。

 これだ。この薄っぺらいたった1枚の紙に私は今まで人生を生きてきたのだと言っても過言ではない。ついに、ついに手に入れた。内定。就職。おめでとう私。Congratulation(コングラッチュレーション)Congratulation(コングラッチュレーション)!いやぁ素晴らしい。

 なんだか目の奥から熱いものがこみ上げそうになっているときに突如携帯が鳴り響く。私はこの至福の時を邪魔され無視しようかなとも思ったが着信を見れば就職面接の最期に面接官から「電話で連絡することもありますから」と言われ登録した番号であった。祝賀ムードから一転慌てて電話に出ると765プロ事務員からであった。

 

 やっぱりあの内定ナシで。とか言われやしないかとヒヤヒヤしたが電話の内容としては以下の通りであった。

 

 1つ 送付した必要書類に記入してほしい。

 2つ 私のことを知り興味を持った765プロ社長が是非会いたいといっている。

 3つ 上のふたつを遂行するため近日もう一度765プロに来てほしい。

 

 とのことだった。

 

 

 

 1と3は問題ない。それくらいは想定済みだ。だが2は違う。さらっと電話越しに伝えられたがよくよく考えると尋常ではないイベントだ。入社もまだの内定者に企業のトップが会いたいと言っている。ここで社長に気に入られれば今後の会社でのおぼえもめでたくなるが万が一失礼があったら内定取り消しのバットエンド直行だ。

ここまで来て神はまだ私に試練を与えようとしているのか。だが負けられない。

 

 

そして765プロ。

 

 

 

 765プロの扉を開けると以前の面接官の隣にいた事務員さんがいた。

 

「先日はどうも。」

「いえいえ私も()()()()()()…ピヨピヨ」

 

 

 

「改めまして音無小鳥です。今、社長を呼びますね。社長ー!」

 

 事務員もとい音無さんがそう叫ぶと事務所の奥から男性が勢いよく現れる。

「おお!君が春日君か!待ってたよ!」

 

 

 それは社長と言うにはあまりにも黒すぎた。黒く、不鮮明で、謎で、そしてやっぱり黒すぎた。

 

 

 

「ど、どうも春日です…。社長…?」

 何かのドッキリかなにかだと思いもしたが周りの様子を見るとそうでもないらしい。

 

「男の身でありながら芸能界の仕事に就くなんて気に入ったよ。さぁさぁこっちで男同士あつーく語ろうじゃないか!」

 

 そのまま社長室に連れられて私は社長の話を嫌と言うほど聴かされた。分かったことはこの黒すぎる社長の仕事に対する情熱は本物と言うことだ。明らかに私より社長の方が喋っていたが社長曰く私が社長の従兄のようで、私の入社にとても喜び期待しているとのことだった。(私は黒くはないのだが)

 

 

 あれから社長と話が盛り上がり帰る頃にはすっかり外は暗くなってしまっていた。

 

「どうだろう春日くん。今夜は男同士飲まないかね?」

 

 早速ノミニケーションがやって来たか。

 

「はい。喜んで。」

 

 私は酒に弱いが自社の社長に誘われて断るわけにはいかない。

 

 

 酒の席で社長は更に熱く自分の理想を語った。私は最初のビール一杯で既にへべれけだが社長の話に相づちをしながら付き合った。

 

 

 店を出た頃には既に辺りは煌びやかなネオンに彩られ夜の街に変わっている。社長は上機嫌であり私もアルコール特有の作用で気分が明るくなる。

 

「遅くなってしまったな。タクシーを呼ぶから春日くんはそれで帰りなさい。」

「御気遣いありがとうございます。ですがここからなら駅も近いですし結構です。」

 

 人の行為は素直に受けとるものだが受け取り過ぎるのもどうかと思いここは断る。飲み代を奢ってもらったうえにタクシー代は貰いすぎだ。

 

「いやはや君は実に謙虚な若者だ。会長にも君を会わせたい。きっと気に入るはずだよ。最近では珍しい若者だがそれは誇れる美徳であると共に欠点にもなることも忘れないことだよ。」

「心得ています。それでは。」

 

 

 社長と別れ駅に向かう途中、私はなにかうめき声のようなものを聴いた。

 

「う...うぇぇ...、」

 聞き間違いではない。

 耳を澄ませばそれは近くの路地裏から聞こえる。

 九分九厘酔っぱらいのサラリーマンか何かだろうと私は思ったが万が一急病人であった場合一刻も争う可能性も捨て切れず、私は『死亡確認こそフラグ、これであなたもスーパードクター』を頭の中で思い出しながら声のする路地裏に進む。

 

 路地裏は夜ということもあり明りに乏しく携帯の明かりを頼りに進んでいく。少し進むと足元に缶酎ハイや缶ビール、おまけに一升瓶が転がっておりあたり一面に強烈なアルコール臭をまき散らしていた。

 やはり酔っぱらいかと引き返そうかとも思ったが急性アルコール中毒であった場合も考えてここは臭いの中心に足を進めていく。それと同時にうめき声もどんどん大きくなり間違いなく近くに人がいることがわかる。

 とうとう路地の行き止まりにたどり着く。携帯の明かりで照らすとそこで私が見たものは、

 

 

 大量の酒瓶と共に寝っ転がっている女性だった。

 

 

 

 

 私はしばし目の前の光景が信じられず固まっていたがすぐに気をとりなし女性の状態を確認する。

 

 

「すみません。聴こえますか?大丈夫ですか?」

 

 肩を叩きながら女性の意識の有無を調べる。そうすると、

 

 

「...どうせぇ私はぁ...モテない女よぉ、」

 

 酒の臭いプンプンさせながら答えた。

 

 なるほど。どうやら殆ど私の当初の予想通り酔っぱらいのようだ。ただ違っていたのはサラリーマンではなくウーマンであったことだが...、

 

 しかしどうしたものか。この女性...意識はあるようだがとても一人では歩くこともままならないだろう。仮に私が介助してもどこにあるとも知れない彼女の家まで送るのは無理があるしタクシーを呼んで乗せたところでこの泥酔具合ではまともな会話すら不可能だ。一番確実なのは警察あるいは救急車を呼びあとは公的機関に任せることだが見る限り彼女の体には外傷は無いしただの酔っぱらいだ。そんな人物を日々国家の平和の為に働いているおまわりさんの手を煩わせたくはないし同じく救急隊員の方々にも酔っぱらい程度で出動して他に救急車を必要としている人の所に行けない、なんてことにはさせたくない。

 

「死ぬぅ…お酒で死んでやるぅ、」

 

 だがこのまま捨て置けない。私は考える。女性を運ぶのはいいが完全に酩酊状態でありどうしたものかと困っていたらなんとなく目の前にホテルがあった。私自身も酔っていたこともありフラフラとチェックインをした。そして部屋まで行き泥酔女性をベットに寝かせようとしたとき、

 

「えへへ~♪いい匂い~はむぅ。」

 

泥酔女性に後ろからいきなり抱きつかれ首筋を舐められた。私は驚き飛び上がりベットの上部に頭を…。

 

 

 

 …思い出した。思い出したくなかったけど。

 

 

 

 

 

 一応言っておくが手は出していない。神と悪魔に誓ってもいい。

 いくら女性に縁の無い人生を送ってきたからといって寝込みを襲うほど堕ちてもいない。

 しかしあんな路地裏で寝ていたらそれこそ犯罪に巻き込まれかねない危険な行為だ。起きたらそれと無く注意しよう。そしてホテルを出よう。うん、完璧だ。

 

 

 

 違う。そうじゃない。

 

 

 

 

 泥酔していたとはいえ彼女にしてみれば自分を無断でホテルに連れ込んだ(ケダモノ)だ。言い訳したいがかなり苦しい。我ながらなぜあんなことを?私自身酔っていたとはいえ浅はかすぎる。しかもバランスを崩して頭をぶつけ気絶とは…滑稽だ。切腹ものだ。

 

 

 社長に期待していると言われたその日の内に不祥事なんて笑えない。酔っていたとはいえ彼女が会社や警察に訴え出たらクビにされても文句は言えない。ひょっとしたら両手が後ろにまわるかもしれない。

 

 いやだ。そんなことは断じて避けなければならない。ここはなんとか彼女に私の正当性を訴えなければ。

 

 胃が痛い。頭痛も吐き気もしてきた。とりあえずトイレにいって全部出そう。頑張れ私。

 

 

 

 

 

 なんとか全部出し切り一応スッキリして部屋に戻ると彼女と目が合った。なんで起きてるの???

 

 待て。まだ慌てるような時間ではない。

 

 ここはなんとか彼女に説明して理解してもらおう。『謝まり方で万事を決めるできる男』にも載ってるやり方だ。まずはやんわりと相手方の非を伝えよう。

 しかし小心者の私は相手を責めるような言い方はなかなかできない。ついつい口ごもってしまう。なるべ~くなるべ~くオブラートに‥‥、

 

「ふぇ‥‥!」

「え?」

「ふぇええええええ‥‥‥‥!!」

 

 泣かしちゃった。

 

 目の前で泣きじゃくる女性を見て私の思考は過去に遡る。思い出すのは小学校。あれは体育の時間のドッチボールだった。好きだった女の子の顔面に思い切りボールをぶつけてクラス中の女子から非難轟々の的となりめでたく失恋し、暫くの間男子からもハブられ孤立した暗黒のトラウマ。

 

 まずい。やっぱり強く言いすぎてしまったか。こうなったら作戦変更だ。さっきの作戦は16ページ目。今回は312ページ『ひたすら紳士的に謝り倒そう。仏国貴族みたいに。』だ。

 

 なんとか落ち着かせることには成功した。

 しかし失礼な話だが先ほどの泣いている彼女の顔は実に様になっていた。はっきり言ってとても綺麗だ。未来とはまるで違う美しい大人の女性だ。アイドルだってやれそうだ。

 

 そこで私は天啓を授かる。そうだ、スカウトしよう。

 

 

 社長曰くティンときた!だが私の場合は頭にガンガンきた。断じて二日酔いの頭痛ではないと信じたい。

 

 

 こんな時の為にと765プロを出る際に音無さんから貰った私の名刺を取り出し彼女に渡す。

 しかし彼女は半信半疑。当然か。それもそうだ。どんな美男美女もアイドルなんて高校大学の進路相談で先生から進められる職業ではない。

 しかし社長の思いを聴き私は考えた。アイドルも捨てたものじゃない。彼の見た目は黒いが夢は輝いていた。嘘のような巨大な夢を本気で考えているのだ社長は。これまで芸能界などまるで興味はなかったが何故か私は社長の夢を笑うことはなかった。力になりたいと思った。

 

 

 だからこそ目の前の彼女はその夢を叶えるための一人になるのではないのかと感じた。

 

 社長が私に語ったこと私の言葉で彼女に伝えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は待ちに待った765プロ初勤務日だ。長かった。本当に…長い就活だった。これからは会社員としてリストラの憂き目に遇うことがないよう頑張らなければならない。

 

 またも765プロ前にスーツを着て慣れないワックスでセットした髪でやって来た。電話では普通に入り口から入ってくださいとのことだが一つ注意事項を言われた。今回は事務員や社長以外にも在籍アイドル達が数名いるので注意して下さいとのことだがなるほど。在籍アイドル達に失礼があっては確かにお互い今後の仕事で多く接触するのだ。ギクシャクしては確かに良くはないな。

 

 

 

 二階の扉から入ろうとするため階段を上がる。その途中上方で人の声が聞こえた。女性の声…?それも複数…二人いや三人か?二階に上がると扉の前で三人組の見知らぬ少女達が楽しそうに会話をしていた。

 少女達は扉の前に陣取り会話を続けており私はどうしようかと階段手前で逡巡していた所少女達の中の一人が私に気づいてくれた。

 

「琴葉~緊張してるの?」「アハハ♪ここまで来たら絶対男の新入社員さんに一番乗りで会うヨ!」「やややっぱり止めましょう二人とも!新入社員の方に失礼よ…っ!?」

 

 私の存在にいち早く三人組の中央の少女が気づき、続いて両脇の少女達が私を認識する。一気に六つの瞳が私に向けられる。ムム…どうやら会話の腰を折ってしまった。彼女達が恐らく765プロのアイドルかその候補なのだろうと推測する。彼女達の見た目は妹の未来より年上に見える。JKというものだろう。これは私の偏見もあるかもしれないがJKというのは魅力的な響きだが同時に恐ろしい存在だ。彼女達がその気になれば私のようなしがない男は一瞬で社会的に抹殺されてしまう。そして必ずと言っていいほどJKは徒党を組む。集団JKはもはや男一人では到底勝ち目などなく対抗しうるのは国家権力ぐらいだ。彼女等の機嫌を損ねてしまうのは私にとって不都合しかない。以前JKに囲まれカツアゲされた苦い記憶が蘇る。なんとかことを荒立てないようにしなければ。私は彼女たちに近寄り…、

 

「お話の最中にすみません。私はこの春から765プロに入社します春日と申します。」

 

 

「ワオ!ホントに男の人だよメグミ♪」「でしょでしょ♪事務所でも噂になってたからね~。」「二人とも彼の前で失礼よ!すみません。私は田中琴葉と言います。」

 

 あれ?意外と掴みは好印象?

 

「お気になさらず。ご丁寧にありがとうございます。それでは私は事務所に出社しなければ。さすがにいきなり遅刻はまずいので。」

 

「あっ、すみません。入り口の前で私達邪魔でしたよね。」

 

「あなた達、なにやってるのよ?」

 

 面接官…ではなく秋月律子が事務所のドアを開けて此方を睨んでいた。

 

 

「新入社員の春日さんに失礼があったら駄目だって言ったでしょ!」

 

 フム…私のせいで彼女らが怒られてしまった。ここはフォローしなければ。

 

「まあまあ、彼女達も悪気があったわけじゃないのですからここは穏便にどうか。」

「それに初出勤で緊張していましたが彼女達のお陰でリラックスできました。」

 

「春日さんがそう言うなら…。では事務所にどうぞ。社長や他のみんなも貴方を待っていますから。」

 

 

 

 

 

 新入社員が扉の向こうに消えた後、残された少女達は姦しく各々の感想を述べた。

 

「うわぁ…あの(ひと)、紳士だよ。琴葉。」「これが二ホンダンジってものだよネ。コトハ♪」

「もぅ、二人ったら…。でも確かに優しい方だったと思うわ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場を収め気を取り直して私は765プロのドアを開ける。そこには――――――

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

「へ?」

 

 

 扉を開けるとそこには妹がいた。

 

 

「未来…な、何故ここに?」

「でへへ~実は私アイドルになるため765プロのアイドル募集に応募したんだよ♪」

 

「アイドル!?未来が!?」

 

 

 私は驚愕した。あの未来がアイドル。しかも私が働く765プロの…。

 

「父さんや母さんは…、」

「未来の好きにしなさいって言ってくれたよ♪」

 

 実際は息子を守るため母親の強烈な要望によって父親が折れた。

 

 

 

「未来…どうしたの?っあなたはうどんの!?」

 

 

「なになに~、あ!王子さま♪」

 

 

 未来の後ろから以前出会った少女達が表れる。と言うことは彼女達も…、

 

 ざわ…ざわ…  ざわ…ざわ…

 

 

「おおっとぉ!あの(ひと)が茜ちゃん達のプロちゃん!?」

「私は事務員さんって聴いてるけど…病院だとあんまり男の人とは関われなかったし緊張します…。」

「う~ん…ザ・普通な見た目の(ひと)ですね♪」

「ままま、ましゃかアイドルちゃんだけでなく男の人も撮影できるなんて天国です~。」

「あ、あの程度の男性ならわたくし、ま‥毎晩のように社交界で会っていますわよ!」

「ふーん。あんな若い男の人が芸能界でやっていけると思ってるのかな?」

 

 なんだか色んな視線や気配や悪寒を感じるのは気のせいだろうか。いやいやきっと気のせいだろう。

 

 

 私が固まっているとそこに社長が現れる。

 

「春日くん待ってたよ。紹介しよう。彼女達こそ我が765プロが今期より手掛けるアイドル達だ!」

 

 

 

 

「これからよろしくね♪お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 早速カウンセラーに相談したくなった。




莉緒さんを秘書にして仕事がしたい(願望)

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