人理修復に芸術家を入れてみた   作:小野芋子

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芸術家編

「ちょっといいですか?」

 

「どうしたマシュ?何か困りごとか?」

 

「いえ、実は所長たちから学校に行ってみたらどうかと言われまして。せっかく体も良くなったんだから一度それらしいことをしてみるのも良いだろうって」

 

「ほう、学校か。まあ確かにオルガマリーの言うことも一理ある。経験とは存外バカに出来ないものだからな。それで?困りごととは今手に持っている数学のことか?」

 

「はい。実はこの問題が良く分からなくて…」

 

「貸してみろ……この問題はここにある公式を使ってだなーーー」

 

 

カルデアの廊下を歩いていた時偶然だがマシュとあの芸術バカが会話をしている姿が目に入った。

どうやらマシュがあいつに質問しているらしいがマシュのもつ教材は一介の学生で出来るようなものではない。

っと言うのもなんだかんだで天才のオルガマリー所長と、あのダヴィンチちゃんが手がけた問題だ。

俺も一度だけ見せてもらったことがあるけれどだんだん数学が現代文に見えてきたのでやめた。

それぐらい一学生には手に余る問題だ。

 

っと言うことはだ。

その問題を見て特に頭を悩ませることなくスラスラと解いていくあいつって一体どれだけ賢いんだ?

いや、あいつが優秀であることは知っている。

魔術師の腕も時計塔で確固たる地位を築いているオルガマリー所長をもって自分より優れていると言わしめるほどだし。

芸術家としての腕だって万能の天才であるダヴィンチちゃんが認めるほどだ。

おそらく売りに出せばそれだけで一生遊んで暮らせるくらいの莫大な資金が集まることだろう。

 

ん?

あれ?

もしかしてあいつってめちゃくちゃスペック高くね?

 

いや落ち着け。

勉学も魔術師の腕も、芸術家としての腕前も確かに優秀、と言う言葉すら生温いレベルであることは分かった。

だが他はどうだ?

別に他人の粗探しが趣味だとか、あいつの欠点をあげて優越感に浸ろうと言うわけではないがあんな変人に劣っていると素直に認めるのは癪だ。

それに別に無理に欠点を挙げずとも普段のあいつの行いを振り返れば勝手に浮き彫りになるに決まっている。

なんだかんだいっても結局あいつは変人なんだ。

 

思い出してみろ

 

朝、外の景色を眺めてボーっとしているあいつ。

そういえばそのとき隣を歩いていたダヴィンチちゃんが

「いやー、絵になるねぇ。手元にキャンバスと筆がないのが恨めしいよ」

なんて言ってたな。

 

……ん?

 

昼、絵を描くか子供達と粘土を使って遊んでいるあいつ。

そういえばその真剣な表情に何人かの女性サーヴァントは骨抜きにされてたな。

 

……あれ?

 

夜、【風影】の傀儡を弄って何やら細工をしているあいつ。

細工がうまくいったて楽しそうな笑みを浮かべた時。

そう言えばそれを見た何人かの女性サーヴァントが母性本能を刺激されていたな。

 

………おやぁ?

 

 

おかしいな。

いや確か黒ひげも同じことやってたしな。

それと比較すれば意外と大したことないかも……

 

朝、外の景色、というより早朝トレーニングを行っている女性サーヴァントを見て

 

「眼福でごじゃる」

 

と呟く黒ひげ。

と、それをゴミを見る目で睨みつけるオルタ達。

 

昼、あいつの粘土を借りて何やら卑猥なものを作る黒ひげ。

と、それを生ゴミを見る目で睨む女性サーヴァント。

因みに黒ひげ製作の作品は完成間近で爆破された。

一応あいつに悪意はなく、ただ外で作品を爆破させた際に巻き添えをくらって爆破したとだけ言っておく。

 

夜、エロ本をもって何やら弄っている黒ひげ。

もはや周囲に人はいなかった。

 

 

うん、これは黒ひげが悪いな。

つまり比較対象が悪い。

そうだな……我がカルデアが誇るイケメン、ランスロットと比べてみよう。

 

 

 

朝、外の景色、というより早朝トレーニングを行っているマシュを見て

「逞しくなったな」

と涙ながらに呟くランスロット。

と、それをゴミを見る目で睨む騎士王。

 

昼、あいつに借りた粘土を使って割とクオリティの高いマシュを作るランスロット。

と、それを生ゴミを見る目で睨む獅子王。

因みに黒ひげ同様製作間近で爆破され、

「マシュゥゥゥゥウウウウ!!!」

と叫びながら血涙を流していた。

そのあとあいつに食ってかかろうとして円卓組とアルトリアズ、挙げ句の果てにはバーサーカーの自分にすらボコボコにされていたが今は良いだろう。

 

夜、マシュ相手に

「1人で眠れるか?」

「子守唄を歌ってあげようか?」

「なんなら一緒に眠ってあげようか?」

と付きまとい養豚場の豚を見る目でマシュに睨まれたあと

「うざい」

の一言で切って捨てられ意気消沈するランスロット。

 

 

 

因みに俺が全く同じことをやろうとしたら周りから生暖かい目で見られたあとマシュから

「先輩には似合いませんよ」

と慈愛を込めて言われた。

 

あれ?

なんだろう、比較対象が悪いせいか、まともなサーヴァントがカルデアにいないせいか相対的に見てあいつって結構まともなんじゃないかと思ってしまう。

 

……………いや待て!!

正直この流れには身に覚えがあるが結論を急いじゃいかん!!

そうだ!!

もっと身近なものを考えてみよう!!

例えば……料理!!

 

いや、でも確かあいつ料理できたよな…。

この前

『料理を食っているその姿が美しい女がいてな。ならその料理が美味ければもっと美しくなると思って一時期料理ばかりを作っていた時期がある。まあ3年である程度までいって辞めたんだがな』

とか言ってたしな。

因みにある程度ってのは我がカルデアの料理長たるエミヤが舌を巻くレベルだ。

つまり世界レベルといっても遜色ない美味さだ。

 

………うん別のやつ探そう。

 

掃除!!

……はあいつなんだかんだで綺麗好き、っというよりも汚れが見逃せない性格だからいつも身の回りは清潔になっているし。

洗濯も同様だ。

 

変人だが気に入ったものにはとことん甘い性格をしている上に、女性を芸術的な意味では見ているが、いやらしい目で見ることもない。

多くの女性サーヴァントを口説いてきたがそれも下心なく純粋な気持ちで行ってることだし………。

いや待て!!

認めるのはまだ早い!!

……そうだ!!

カルデアには最終兵器たるエミヤにプロトアーサーがいるではないか!!

 

 

 

そうだ、あの2人の方が優しいし…

 

『苦しそうな顔はお前には似合わん。話せ、それでお前が美しくなるのなら悩みくらい聞いてやる』

 

 

 

……ふ、2人の方が強いし、

 

『お前がいるだけであいつの美しさの妨げになるんだ。そういうわけだから今ここで消えてもらう』

 

 

 

…………

 

『睡眠不足は美容の天敵、つまり美しさの妨げになる。それでお前が眠れるならば、いくらでもそばにいてやる』

 

『荷物くらいは俺が運ぶ、無駄な筋肉がついてその整った体型が崩れたら大変だからな』

 

『おい、口元に食べかすがついているぞ。………やはりお前は照れている顔がよく似合う』

 

『俺に惚れたか?それも良い。女ってのは恋をすればさらに美しくなるものだからな』

 

 

 

 

なんだこのイケメンは!!!!

どこの少女漫画の主人公だよ!!

そのうち

『芋けんぴを頭に付けた方が、お前らしくて美しいな』

とか言いそうで怖いわ!!

 

 

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

マシュ?!

 

「?」

 

質問は終わったのか、どこか満足げな表情を浮かべるマシュだが、突然話しかけるのはやめて欲しい。

いや、この場合は廊下で立ち止まってボーッと考え事をしていた俺が悪いのか?

うん、絶対俺が悪いな。

今度からは気をつけよう。

 

それで何か用か?

 

「いえ、特に用があるわけでは……。ただボーッとしてる先輩も珍しいのでつい話しかけてしまっただけです」

 

そうか、それはごめんね。ちょっと考え事をしてたんだよ

 

「考え事、ですか」

 

そう言えば女の子の目線から見たらあいつはいったいどう映るんだろうか?

俺1人で考えるよりも別の視点から見たあいつの様子を聞いて見るのも良いかもしれない。

そう考えて早速マシュに問いかける。

マシュの目から見てあいつはどういった存在なのかを

 

 

「そうですね。はじめは変な人だと思いましたけど、関わってみると面白い人でしたね。あの人が私に宣言した通りまさしくお兄ちゃんって感じで、いつも私のそばに居てくれました。今じゃこのカルデアに人が増えて構ってもらえる時間か減ってしまったことは寂しいですけど。それでも、私が本当にいて欲しい時は決まって隣に居てくれました」

 

なんだよただのイケメンじゃねえか。

性格はいいけどどこか控えめなマシュをしてここまで言わしめるなんて相当なもんだぞ。

悔しすぎて文句の1つも言えないじゃないか。

軽くショックを受けている俺にけど、と小さいけどよく響く声で呟いたマシュはいつもと違う優しげな笑顔をこちらに向ける。

 

 

「それは先輩も同じです。先輩もいつも私のそばに居てくれます。いつも私に笑いかけてくれます。あの人とは違う太陽のような笑顔を見せてくれます。だから、私は、先輩のことがーー」

 

マシュ………ちょっと待って。

 

「………へ?」

 

惚けた顔のマシュも可愛いな、なんて思いながら先程から俺とマシュの様子をそれはもうマジマジと遠慮なく見ながら絵を描く芸術バカに顔を向ける。

 

…おい

 

「気にするな。続けろ」

 

そこで漸く気付いたのか、顔を真っ赤にして俯くマシュを尻目になおも手を止めない芸術バカに思わず手が出そうになったが、マシュの手前なんとか堪えて睨みつけるだけにとどめる。

 

……おい!!

 

「気にするなといっているだろ?せっかく俺の作品にお前が描かれるというのに、そのチャンスを不意にするのか?」

 

白々しくもそれは当然のことのように俺たちの絵を描くこいつに、ついに堪え切れなくなったのか真っ赤な顔のまま堪らずマシュがこの場から逃げるように駆け出す。

さすがにそれを止めるようなことはせず姿が見えなくなるまで見送ったあと今度は先程よりも気持ち凄みを増した目で睨みつける。

だがあいつはそんな俺の視線を飄々と受け流し、ムカつくことにその顔によく似合うニヒルな笑みを浮かべて歩き出し、すれ違いざまに耳打ちする。

 

「よかったな、好きな女から告白されずに済んで。やはりこういうことは男からするものだからな。俺に感謝しろよ?」

 

思わず唖然とするが、そんな俺の様子に特に気にするそぶりも見せずに歩き出す。

そのまま数歩歩いたところで振り返りやはりムカつくニヒルな笑みを浮かべて

 

「俺が、気付いていないとでも思ったか?バカめ」

 

そういってまた歩き去っていくその小さな背をしばらく眺めやがて見えなくなったところで天井を見上げる。

 

 

 

 

 

クソイケメンが!!!!!

 

 

 

 

 

 




主人公
地味に人の感情の機微に聡い男であり、それをみてそれを傍目から見て楽しむいい性格をしている。愉悦愉悦

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