人理修復に芸術家を入れてみた   作:小野芋子

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番外編 呼ばれてますよ芸術家さん

とある館の一室に凛とした声が響き渡る

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

ゲンを担ぐ意味合いも兼ねて遠坂の家に代々伝わる魔石を握りしめ

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

自身が描いた魔法陣を強い意志を持った瞳で捉え

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

少女は叫ぶ

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

まばゆい光とともに輝き始める魔法陣を前に成功を確信して思わず握りこぶしをつくってしまう。

 

………………

 

魔法陣からの光がようやく収まったことでそれまでそらしていた視線を戻す。一体どんな強力なサーヴァントが召喚できたのか、そんな期待とともに向けられたその視界には初め描いた時とまるで変わらない魔法陣とその周辺の景色が浮かぶだけだった。

力が抜けて尻餅をついてしまうがそれを気にしている余裕はない。《常に余裕を持って優雅たれ》という家訓すら忘れてしまうほどに少女は精神的にも魔力的にも消耗していたのだ。

 

っとその時ドスンという音が下の部屋から聞こえた。

 

もしかして?

 

淡い期待を込めつつ思わず走り出してしまったがそれを注意する人間は誰もいない。部屋から階段までの道がやけに遠く感じてしまい魔術を使用しそうになったがさすがに控える。飛ぶようにして階段を駆け下りいつ付けたのか光が漏れでている部屋の扉を力いっぱい開き中を覗く。

 

が、散らかった後はあるとはいえそこに人の影はおろかネズミ一匹いなかった。

 

「何よ!!期待して損したじゃない!!」

 

思わず叫んでしまったがそれも仕方がないことだろう。なんせ彼女はこの度の聖杯戦争に参加するため血の滲むような努力を続けてきたのだ。それが蓋を開けてみればどうだ?膨大な魔力を消費したにも関わらず召喚は失敗。物音が聞こえたからもしやと思いきてみればなぜか散らかってるとはいえそこにはネズミ一匹いない始末。さしもの聖人君子ですら思わずため息を吐くくらいには手酷い仕打ちである。今も握りしめている魔石を思わず叩きつけたい衝動に駆られるがなんとか理性で食い止める。

 

「うるせえな」

 

耳に入る少し低めの声に思考が止まる。ありえない。一瞬とはいえ部屋全体を注意深く見渡したはずだ。触媒を使用していないためどのサーヴァントが来るのかは分からないがそれでも普通召喚されるのは英雄だ。反英雄というものも召喚されると聞くがどちらにせよ過去に偉業を成し遂げるなり神話にのるなりした英傑達だ。果たしてそんな存在を見逃すだろうか?気配遮断を持つアサシンなら或いはその可能性もあるが初対面のマスター相手に姿を隠すなど信頼に関わるような真似はしないはずだ。じゃあ一体どんな英雄なのか期待と不安がない混ぜになって荒ぶる心を抑え込み俯いていた顔を上げる。

 

「せっかく人が芸術鑑賞していたのにそれを邪魔するとはどういう了見だ?」

 

子供だった。

自分と大体同じくらいの160前後の身長に赤い髪と中性的な童顔をして、黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特のマントを身に纏った子供だった。

取り敢えず今見たあまりにも特徴的すぎる外見に類似する英雄を記憶の中から探り出すが該当する人物がまるでいない。

もう一度今度はさっきより顔を近づけてよく観察する。

逆に観察されているような気もするがそれは今はいいだろう。

腕を組みその賢い頭脳をもう一度フル回転させるがやはり該当する英雄はいない。そこで、そういえばまだ真名どころかクラスすら聞いていないことに気づく。

 

「あんた、自己紹介くらいはしなさいよ!!」

 

つい強く当たってしまったことに反省するが、まあ自己紹介の1つもしないこいつが悪いと思い直す。

 

「お前、なかなかいいな。素材としても十分だしそのどこまでもまっすぐな目、本当に美しいよ」

 

「は、はああああああ!!!!い、いきなり何言ってんのよあんた!!バカじゃないの!!」

 

「その照れた顔も美しいな。どうだ?お前俺の作品(もの)にならないか?」

 

「だ、だから」

 

「安心しろたとえ絵に描いたものだとしてもお前の美しさが変わることはない」

 

「あ、あ」

 

「いや待てよ?確かに今も美しいが……どうやらまだ開ききってはいないようだな。ふむ、だとしたらもう少し待つのもいいかもしれないな」

 

「………れ、令呪をもってーーーーーーーー」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーー

 

ーーーー

 

 

「全く、危うく貴重な令呪をくだらないことで使用しそうなお前をわざわざ止めてやったというのになぜ俺はこうして紅茶を注がないといけないんだ?」

 

うるさいわね!!あんたがあんなにガツガツ来るのがいけないんでしょ!!

 

「仕方がないだろ?お前は照れれば照れるほどその美しさを増していくのだ。なら照れさせようとするのは当然の行いだとは思わないか?」

 

そう言ってマスターである自分よりも先に紅茶を口に運ぶ姿に思わず自害を命じそうになるがなんとか堪える。

 

遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ、遠坂たるもの常に余裕を持って優雅たれ

 

「なんだそれは?自己暗示か何かか?」

 

あんたには関係ないでしょ、そう言うとはなから興味が無かったのか特になにを言うでもなくまた紅茶に口付ける。その際やはりうまいなと聞こえたがいちいち反応していたらきりが無いので勤めて無視する。

目の前においてある紅茶を口にいれそのあまりの美味しさに思わず美味しい、呟いてしまい急いで口を塞ぐが遅かった。

ムカつくことになぜか似合うニヒルな笑みを浮かべながらその顔もいいな、と囁きその突然のセリフに顔が赤くなるのを自覚しながらなんとか話題をそらそうとして、結局目の前で紅茶を啜る男についてなにも知らないことを思い出す。が、素直に聞いても答えないことも容易に想像できるので正直打つ手がない。だがこのまま名もクラスも知らない男に命を預けるわけにもいかない。ならどうするか、散々悩んだが結局は無難に自分から自己紹介をすることに決める。

 

私の名前は遠坂凛。遠坂家当主を務める魔術師よ

 

「なんだ藪から棒に。まあいい、それにしても凛、か。名は体を表すというがなかなかどうして、似合っているじゃないか」

 

やはりダメだ、まるで会話になってない。もしかしてこいつはバーサーカーなのだろうか?だとしたら色々納得もいくが、だが見たところ理性を失ってるようには見えないし……って

 

え?

 

「どうした?惚けている顔はお前には似合わんぞ?」

 

じゃなくて!!なんであんたのステイタスが分かんないのよ!!

 

「知らん。………嘘だ。だからそう睨むな」

 

説明しなさいよ?!

 

「このマントには認識阻害の術がかかっているからおそらくそれのせいだ。思い出してみろ?あの部屋で俺が声をかけるまでお前は俺に気づかなかっただろ?」

 

あっ

 

そういえば、とあの部屋で最初こいつの姿が発見できなかったことを思い出す。これほど目立つ外見をしているのだ今にして思えば発見できない方がおかしいというものだ。

 

「マスターというのはサーヴァントを見ただけでそのステイタスが分かると聞かされていたから自己紹介なんて面倒なことは避けられると思ったんだがな……まあいい、また令呪を使われそうになるのも面倒だし取り敢えず名乗っておこう。サーヴァントアーチャーだ、取り敢えず絵を描きたいから鉛筆と紙を貸してくれ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

穂群原学園のいくつかあるうちの1つの校舎の屋上で遠坂凛は突如声をかけてきた男に視線を向ける

最悪だ。目の前の降り立った全身青いタイツで真っ赤な槍を肩に担いだサーヴァント、ランサーを見て思わずそう呟く。

目の前立つその男は口調こそ軽いがその目は油断なくこちらを伺っており、遠距離からの狙撃を警戒してか常に迎撃態勢を取るその姿からかなりの経験を持つ英雄だと推測できる。

その気になれば自分の命などすぐにでも葬り去るであろうその男に嫌な汗が背中を伝うのを感じながら逃げるタイミングを計る。

校舎に入るのは不可能だ。ちょうど男は唯一の出入り口の前で陣取っている。ではどうするか決まっている逃げるためには、生き残るためにはもうそこしかない。

加速の魔術を足に施し、駆ける。

なるべく男から離れて尚且つ近場にあるフェンスに向けて駆け抜ける。

悪寒を感じとっさに転がると先ほどまで自分がいた床が大きく削れていた。思わず止まりそうになったが気合で乗り越えフェンスに近づき飛び越える

 

「アーチャー!!着地は任せた!!」

 

なにもない空間に叫ぶ姿は間抜けに見えるかもしれないが自分には分かるそこに自身のサーヴァントがいると。

僅かに空間が歪んだと思えばそこから現れる赤い髪に独特なマントを身に纏った己がサーヴァント。そのままお姫様抱っこの要領で自分を抱き上げ音もなく着地。上空から襲いかかって来るランサーを警戒してその場からすぐに離れ一言

 

「重いな」

 

思わずぶん殴りたくなったが今はダメだ。ムカつくがこいつがいないと冗談抜きで死ぬ恐れがある。

そのままボソボソと文句をいう自身のサーヴァントを無視してアーチャー同様音もなく着地したランサーを睨む。っというかいい加減下ろしてほしい。こいつはいつまで抱き上げているつもりだ?

 

「ん?いやなに、見ているだけではわからないものもあるだろ?だからこうして………わかった、下ろすから手に持っている魔石を離せ」

 

ようやく下ろしたアーチャーをジト目で睨むが当の本人はまるで気にしていない様子。そろそろ本気で自害を命じるか悩むところだがそれはここを切り抜けてからでいいだろう。

とそれまでこちらの様子を伺っていた男が口を開く

 

「随分小せえ身なりじゃねえか。お前ほんとにサーヴァントか?」

 

「そういうお前こそついぶん奇抜な服装じゃねえか。参加する大会間違ってんじゃねえのか?」

 

「服装云々についてはお前もとやかく言えねえだろうが。似たようなもんだろ?」

 

「流石に全身青タイツと一緒にされたくはない」

 

「この戦闘服を侮辱したな?どうやらよほど殺されたいらしいな?」

 

「元々聖杯戦争はそういうもんだろ?」

 

「へっ違いねえ。………そう言えばお前さっきそこの嬢ちゃんにアーチャーって呼ばれていたな。てっきりキャスタークラスだと思ったがまあいい。そら、弓を構えな!!それくらいは待ってやる」

 

ついていけない。

いや、だがこれは己のサーヴァントの実力を計るいいチャンスではないか?認識阻害のマントによってステイタスこそ分からないもののついさっきまでの行動を見ても戦いに慣れている様子はうかがい知れる。

だとしたら

 

「アーチャー!!援護はしないわ!!あなたの実力、私に見せて!!」

 

『……無理』

 

「………は?」

 

突然念話で話しかけてきたと思ったらまさかの戦闘拒否に思わず間抜けな声が出る

 

『だから無理だと言ったんだ。相性を考えても立地を考えてもこちらに分が悪すぎる』

 

「え、でも…」

 

『校舎が更地になってもいいならやるが?』

 

「え?」

 

更地って、え?どういうこと?

 

「おい、さっきから何コソコソ話してやがる!!さっさと弓を構えろ!!アーチャー!!」

 

「……忘れた」

 

「は?」

 

「家に忘れた。取りに帰るから5時間ほどここで待ってろ」

 

「いやいやいやありえねえだろ!!百歩譲ってお前の弓を忘れたという戯言信じるとして、サーヴァントが往復で5時間もかかるわけがーー」

 

「うちのマスターはな………重いんだよ」

 

「は?」

 

「ちょっ!!」

 

「さっき抱き上げた感じだとそうだな、だいたいーー」

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

「痛いな。いきなり石を投げつけるな」

 

「あんたがいきなりそんなこと言うのが悪いんでしょ!!」

 

「なにを言う?お前のその体型で体重が「ああああ!!」なら別におかしなことはないだろ。むしろ理想の体型と言ってもいいくらいだ。なにも恥ずかしがることはないと思うが?」

 

「あんたにはデリカシーってもんがないの!!」

 

「おいアーチャー、流石に女の体重をバラすのはまずいだろ?」

 

「そうか?十分誇っていいもんだと思うが、やはりその辺の女心とやらは理解に苦しむな」

 

「もういい!!私帰る!!」

 

「だ、そうだがどうするランサー?」

 

「今から戦闘ってノリでもないしな、まあいい今回は戦闘は無しだ。ただし次はねえからな?今度会った時は容赦なく殺すから覚悟しておけよ?」

 

「まあいいだろう。その時は俺も相応の覚悟を持って挑むとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続かない

 

 

 




本当なら勝手に学校についてきて桜に対して興味を持つところとか
「お前は美しい。だが何かがその美しさを汚している。言ってみろ、お前の美しさを邪魔するものはなんだ?それがお前の美しさを汚すのなら、俺は世界だって滅ぼしてやる」とか言って間桐家に十八番ぶち込んで一夜で滅ぼすシーンとか書きたかったですが、最後のシーンを見てわかる通り地の分がログアウトするんで断念しました。

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