人理修復に芸術家を入れてみた   作:小野芋子

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今回は文字数多めで御都合主義がある模様。


番外編 こっちでも呼ばれてますよ芸術家さん

激しい光と爆風の後描かれた魔方陣の中から1人の人間が現れる。

身長は160前後。

血のように赤い髪に中性的な童顔で、黒の生地に所々赤い雲が浮かぶ独特なマントを身に纏った少年。

その少年は今どこまでも冷たい目で私、間桐桜を睨む。

いや、よく見ればそこに私は写ってはいない。

ただの風景。

あるいは空気程度としか認知していないのかもしれない。

暫く無言を貫いた少年はようやく口を開く

 

「醜いな」

 

たった一言放たれたその言葉に体が震える。

そんなことは自分が一番分かっている。

いや、分かっていたつもりだった。

にも関わらず初めて出会っただけの少年に全てを見透かされたように言われただけで、これまでの頑張りが否定されたような気がして、これまで耐え忍んでいたいいたものを嘲笑われたような気がして心が砕けそうになる。

それでもやらなければならないことがある。

だから私は目の前の少年を睨んで声を上げる

 

「あなたは誰ですか?」

 

精一杯出した声はたったそれだけの言葉を紡いで終わる。

そんな自分が恨めしいが、これが私の限界だ。

私のような弱い女は1人では何もできないのだから

「生憎だが醜いものに名乗る名は持ち合わせちゃいない」

そういってこちらに手のひらを向ける少年。

それだけで体は硬直して指1つ動かない。

ああ私はここで死ぬのか。

どこかボンヤリとそう思いながらこれまでの人生を思い出す。

子供の頃は楽しかったはずなのにこの場所に来てから全ては崩れ去った。

悲劇のヒロインぶるつもりはないがせめてもう少しだけ楽しい時間が欲しかった。

たった一度でいいから自分だけを大切にしてくれる誰かと出会いたかった。

本当の愛情が欲しかった。

まあそれも今となっては遅いのかもしれないけれど。

込み上げてくる思いを感じていると唐突に吐き気を催して思わず吐き出す。

何度も、何度も吐き出す。

ようやくそれが終わり、心なしか力が抜けた感じがすると目の前にはこれまで私を散々苦しめて来た蟲の死骸が転がっていた。

 

「本当に醜いな。これほど美しい女にこんな醜いものを入れるとはどういう了見だ?なあ、おい、聞いているのか?」

 

少年の視線の先を追うとそこには本来私の頭に寄生している筈のお爺様の本体である蟲がそこにはいた。

 

「まあいい。返事なんて期待していないし醜いお前の声など聞きたくもない。早々に……死ね」

 

それで終わり。

抵抗する間も無くお爺様の本体である蟲は、いつからそこにいたのかわからないが黒いボロボロのマントを身に纏った人形の手によってバラバラにされてしまった。

 

「どうやらこの家にはまだ似たようなのがいるようだな。チッ仕方ねえ掃除するか」

 

それだけ言うと彼の周囲に20近くの人形が現れ、ゆったりとした動作で移動を開始して、やがて姿を消した。

遠くから聞くのも悍ましいような蟲の悲鳴が聞こえてくるがどうでもいい。

今はただ目の前の少年と話がしたい。だから私はもう一度問いかける。

 

「あなたは誰ですか?」

 

先ほどと同じ、でも先ほどより縋るような気持ちで問いかけた私の姿が初めて私を見た少年の瞳に映る。

 

「サーヴァント、ライダー。それが俺の名だ。美しい女よ、お前の名前を聞かせてくれるか?」

 

どこまでも私だけを見つめるその視線に先ほどとは違う意味で体が固まる。

けど、今言わないと恐らく2度とこの少年に名前を呼んで貰えそうにないから勇気を振り絞って答える。

 

「間桐…桜です。私のことは桜と呼んでくださいライダーさん」

 

「桜…か」

 

「どうしました?」

 

「いやなに、同じ名前の女を思い出しただけだ。といってもお前とあいつでは天と地ほど違うがな。特にスタイルが」

 

「……へ?」

 

「こちらの話だ。それより桜、紙とペンを貸してくれないか?お前の絵が描きたい」

 

何だろう。

この人グイグイ来る。

さっき無表情でお爺様を殺していた人と本当に同一人物なんだろうか?

どうでもいいか。

どちらにせよこの少年が私を救ってくれたことに変わりはない。

なら私は私にできる精一杯で恩返しをするだけだ。

例えそれが聖杯戦争という短い期間であったとしても……やっぱりそれはちょっと寂しいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお桜。サーヴァントを召喚したんだって?僕に貸してくれよ?」

 

いきなり部屋に入るなりそう言って来たのは私の義理の兄である間桐慎二。

私のことを道具か何かだとしか思っていないようだが彼も私と同じお爺様の被害者だ。

無下にはできない。

けど今の私は口以外動かすことを禁止されている。

現に今だって入って来たお兄様に条件反射で立ち上がろうとしたら止められた。

おかげで無視するような形になってしまったためお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていく。

 

「おい桜?僕を無視するとはいい度胸だな。そんなに殴られたいのか?」

 

「殴るだと?」

 

お兄様などいなかったように絵を描き続けていたライダーの手が止まる。

それと同時に部屋の気温が低下していくがお兄様は気づかずに自慢げに続ける

 

「ああそうだ。

何ていったって桜は僕の道具だからな。

僕の憂さ晴らしに付き合うのは当然のことだろ?

ああそういえばお前桜のサーヴァントだっけ。

ってことは桜の下僕だろ?なら僕の下僕でもあるわけだ。取り敢えず紅茶を淹れてくんない?そのくらいお前程度でも出来るだろ?」

 

この兄はバカなんだろうか?

ライダーの機嫌がみるみるうちに悪くなっていることになぜ気付かないのだ?

先ほどまで家中の蟲を殺していただろう彼の人形も帰って来て出口を塞いでいるし。

お爺様を殺した、彼が【風影】と呼んでいた人形もライダーの横に控えている。

お爺様になにを吹き込まれたのか分からないが随分とサーヴァントを下に見ているようだが、このままだと自分が死ぬかもしれないことに気付いていないのだろうか?

もし殺しそうになったら止めるつもりではあるがこれ以上機嫌を悪くさせれば令呪でも使わないと止まらないような気がする。

 

「壊れた人形か、つまらんな早々に失せろ。お前のような出来損ないでも一応は桜の兄だ。殺して桜の美しさが色褪せれば俺が困るからな」

 

どこまでも自分勝手なようで、それでいて私を心配してくれるライダーに思わず頰が緩む。

けどやはりその態度が気に入らないのか当然兄が食ってかかるが、先ほど同様ライダーが手のひらを向けただけで動きが止まる。

その後軽く指を動かすとお兄様が突然自分で自分の首を絞め始める。

当然私はそれを止めようとするがライダーは視線だけで私に待つように言うと苦しそうに呻き声をあげる兄に近づく。

そのまま耳元まで口を寄せ一言二言口にするとみるみるうちに兄の顔が青ざめていきそのまま飛び出すように部屋を出ていく。

その際入り口で待機していた人形を見て情けない悲鳴をあげるが一体ライダーはなにを言ったのだろうか?

確かめたい気もするが、もう興味もないのか再び紙とペンを持って真剣な眼差しで私を観察する彼を見てどうでもよく感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーさんは聖杯になにを望みますか?」

 

ライダーを召喚してから何日か経ったある日の夕方。

私の隣で夕食を作るライダーにふと気になって尋ねてみる。

因みに兄は今リビングで私の宿題の答え合わせをしている。

あの日ライダーに何かを言われてから私への態度がどこかよそよそしくなった兄だが最近では良き兄として私と接してくれている。

未だにライダーを見ると体を震わせることがあるがお爺様から解放してくれたことには感謝しているのか、ぶつくさ文句を言いながらもライダーに何かを言われたら即座にそれに従う兄を何度か目撃している。

 

「別に望みなんてものはない。第1芸術家とは自らの手で作り出していくものだ。誰かに願って手に入れたものなど必要ない」

 

「ライダーさんらしいですね」

 

ここ数日でライダーはかなりの変人だと言うことを理解した。

学校に行く日は毎日付いて来る。

護衛なら仕方がないと思うがこの前屋上で風景画を描いていたのを見るにもしかしたらただ絵の素材になりそうなものを探しているだけかもしれない。

あと時々兄の挙動がおかしくなるときは大抵ライダーの仕業だ。

突然掃除を始めた兄を見て悪い笑みを浮かべていたのでまず間違いない。

 

「そう言う桜はどうなんだ?」

 

こちらを見ずにそう言うライダーだが言葉の端々から興味津々なことが分かる。

それに今の私の願いは決まっている。

あの地獄のような日々から救ってくれたライダーに恩返しをしたい、ただそれだけだ。

けどそれには聖杯戦争と言う期間はあまりにも短すぎるから…だから私は

 

「私は…もっとライダーさんと一緒にいたいです」

 

それが私の願い。

あまりにもちっぽけで、それでいて大それた願い。

本来死人であるライダーと一緒にいたなんて余りにも尊大で、それでいて聖杯に願うには余りにも小さな願いだ。

 

「受肉か……悪くないな」

 

そんな私の心情を知ってか知らずか軽い感じでそう言うライダーに知らず張っていた力が抜ける。

本当に彼は聖杯戦争を分かっているのだろうか?

とてもじゃないがそんな風には見えない。

けどライダーはいつもこんな感じだ。

呆けているようでその実重大なことは見逃さない。

初めて私と出会ったときすぐに蟲の存在に気付いたのがいい例だ。

今もテキパキとお皿に盛り付けているライダーを見るとただの子供のようにしか見えないが。

 

「って何やってるんですか?!料理がとんでも無いことになってますよ!!」

 

「芸術的だろ?」

 

「いろんな意味で食べ辛いです!!あとどうやってリビングまで運ぶ気ですか!!」

 

「慎二にやらせる。少しでも崩れたらそのぶんペナルティだ」

 

「僕だけとんでも無いとばっちりなんだが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同盟……ですか?」

 

「ああそうだ。これでも俺は現実主義者でな。少しでも勝ち残る可能性をあげるために組んでおいて損はないだろう。誰か知り合いに参加者はいないか?」

 

真面目な顔でそう尋ねてくるライダーだが顔が近い。

ソファーの上で食後のまったりとした時間を味わっていた私に紅茶の差し入れをしたと思えば、隣に座り込んで突然質問をして来たのがつい先のほどの出来事で、今は半ば押し倒しそうな勢いでこちらに迫っている。

これで当の本人は無自覚なのだからタチが悪い。

別に期待しているとかそう言うことはない。

私はそんなにチョロい女では無い……と思う。

最近先輩の家に通う回数が目に見えて減っているがそれも別にライダーと料理をするのが楽しいからでは無い。

無いったら無い。

これはそう……目を離した隙に何をやらかすか分からないからそばで見張っているだけだ。

だからライダーと一緒に寝るのだっておかしなことでは断じてない!!

私は誰に言い訳しているのだろうか…

 

「桜?」

 

その言葉にようやく現実世界に引き戻されたが、ライダーの顔が先ほどよりも近くて思わず気が遠くなる。

少しでも顔を動かせば唇が触れ合いそうだ。

これは事故を装って……って何を考えているんだ私は!!

 

(違うんです!!これはライダーさんが悪いんです!!私は決してはしたない女なんかじゃ無いんです!!)

 

羞恥で悶える私だがこちらを妙に似合うニヒルな笑みを浮かべて見るライダーにハッとなる。

まさかこの人わざと…?!

 

「俺に惚れたか桜?なるほど聖杯に俺の受肉を願う理由はそう言うわけか」

 

「ち、違います!!そ、それよりも心当たりですが1人だけいます。私と同じ学校の生徒なんですが」

 

「ああ、あの遠坂っていうお前の姉か?随分と慎二のやつがお熱だったからよく覚えている。それともお前の尊敬する先輩のことか?令呪こそ無かったがあいつの体からは聖遺物とやらに近いものを感じた。そう遠く無い未来あいつもマスターとなるだろう」

 

「え?それはどう言う……って参加者がいることに気付いてたんですか!!それならなんで私にそんな質問を……。まさか?」

 

「たまには桜の照れた顔を拝みたくてな。いや、普段から俺が近づくだけで顔を真っ赤にしているのには気付いていたが、なかなか正面から見ることは珍しくてな。この機会にじっくりと眺めておこうと思っただけだ。やはりお前は照れた顔も美しいな」

 

なんでも無いように言うライダーだがその一言一言に顔が赤くなる自分が悔しい。

赤い髪に天然なところが先輩にそっくりだと思っていたがもしかしたら彼は計算してそれをやっていたのかも知れない。

だとしたら私は見事にその策にハマっていたのだろう。

なんだかムカつく。

 

「そう拗ねるな桜、せっかくの美しい顔が台無しだぞ。いや、だがこれはこれでいいな。よし、そのままじっとしていろ。いいな、動くんじゃ無いぞ」

 

………本当にムカつく。

 

「あれ?もしかして僕の存在忘れてる?僕はずっとリビングにいますよー。え?今すぐ紙を持って来いだって?ああはいはい分かりましたよ行けばいいんでしょ行けば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりあなたも選ばれたのね間桐さん」

 

「桜……」

 

「遠坂さん…先輩……」

 

あの日から数日が経過し、そろそろ同盟の話を持ちかけようと考えて遠坂さんに近づいたが少し遅かった。

すでに先輩と同盟を組んでいた遠坂さんは現在対峙するように私とライダーの前に立っている。

そのすぐそばに赤い外套のアーチャーが控えており、先輩の前にもセイバーと呼ばれる金髪の女性がおそらく剣であろう不可視の武器を構えてこちらを油断なく見ている。

絶体絶命のピンチであるが隣で面白そうにその様子を眺めているライダーを見ると安心する。

 

「兄弟、姉妹がここまで揃うとはなかなか絵になるな」

 

そうこぼすライダーの呟きにアーチャーが肩を震わせる。

 

「急いで倒すぞ凛!!あの男はまずい。私の第六感がそう囁いている!!」

 

「はぁ?」

 

取り乱すように叫ぶアーチャーだが何かおかしなことでもあったのだろうか?

確かにこの状況で笑うライダーは相手側からすれば脅威に映るだろうがそれでも三騎士のうちセイバーとアーチャーが揃った状態でここまで取り乱すのは少し不自然だ

 

「構いません凛。このままいけば面白いことになると私のスキル直感が囁いています」

 

「はあ?どうしたんだよセイバー?」

 

意外にもそれを止めたのは同盟相手のセイバーだったがこちらも少し不自然だ。

まるで誰かに入れ知恵されたようなその言動に私同様疑問を抱いた先輩が問いかけるが、そこでふとセイバーの口周りにクリームが付いていることに気付く。

まさか、いやそんなことはない筈。

確か昨日ライダーがケーキを作っていたがそれは関係ないだろう。

 

「あれ?セイバーお前は口に何かついてるぞ?これは……クリーム?」

 

「ち、違いますよシロウ。これは決して今日の昼に家で留守番していた私の元にライダーが届けてくれたケーキのクリームなんかじゃありませんからね!!」

 

見事に自供してくれたセイバー。

それを呆れたような目で見つめる先輩と遠坂さん。

アーチャーはその間にもなんとかしてライダーの口封じを考えてるようだが多分もう無理だと思う。

事実ライダーの顔が兄を弄って楽しんでいる時のそれになっている。

 

「どうした?早くも内部分裂か?まあいい。なら微力ではあるが俺もその手伝いをしよう」

 

どこまでも悪どい笑顔でそう告げるライダーに聖杯戦争だからと肩に力が入っていた自分がバカらしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あらお帰りなさい桜。ちょうどクッキー焼けたところだから手を洗って待っていなさい」

 

「はーい」

 

色々あって先輩とお姉ちゃんと同盟を組んでから2日が経った今日。

珍しく学校について来なかったライダーを不思議に思いつつも帰宅。

エプロンを付けた青い髪で尖った耳をもつ美しい女性が言うことにはちょうどクッキーが焼けたようなので手を洗いに行く。

手を洗ったあとリビングに行くとそこには焼きたてで少し湯気が立つクッキーを頬張りこんでいるセイバーと、紅茶を淹れいてるアーチャーと上機嫌にそれを飲む姉さんがいて、外を見ると紫の髪の長髪を後ろで1つに束ねた、長身で美形の男性が先輩相手にやけに長い刀のようなものを構えて剣術の指南をしていた。

 

「どうした桜?いつまでもそんなところで立ち止まっていたらクッキーを全てセイバーに食べられてしまうぞ?」

 

新しく焼きあがったクッキーを持ちながら問いかけてくるライダーに取り敢えず聞いて見る。

 

「あの人たち誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーまあそんな感じだ」

 

「ふーん」

 

なんでも昨日雨の中出かけたライダーが森の中で綺麗な青い髪の女性を見つけ、すぐさま保護したところその女性はキャスターのサーヴァントだったらしい。

 

その後簡単な手当てをしたライダーを、怪しんだキャスターがなぜ助けたか問いかけたところ

「雨の中血まみれで倒れるのはお前には似合わない」

と答え

「俺がお前が美しく輝く場所を提供してやる、お前に拒否権はない、ついて来い」

と強引に誘ってここまで来たらしい。

その日はまだ休養が必要だったとかで私は会っていないが昨日からキャスターが家にいるとか聞いていない。

あと勝手に口説くのを是非ともやめて欲しい。

しかも裏が無い分さらにタチが悪い。

おかげでキャスターはライダーにゾッコンだ。

さっきからクッキーを食べさせようとしている。

 

ムカつく。

 

因みに外にいるのはアサシンのサーヴァントらしく間桐の家を媒介に召喚したらしい。

 

どうでもいい。

 

今はそんなことよりライダーだ。

いつまでもキャスターにデレデレしていて面白く無い。

少し説教が必要だ。

 

「ライダーさん」

 

「どうした桜?」

 

「あーん」

 

「は?」

 

「あーん」

 

「あ、あーん……?」

 

うん、これでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい桜。今日はケーキを作ってみたから早く手を洗って来なさい」

 

「はーい」

 

「あれ?僕は?僕も帰って来てますよ?ちょっと酷く無い!!」

 

キャスターが家に住み着いてからさらに数日が経った今日。

同じ時間帯に学校が終わったはずなのになぜか私より早く家にいる姉さんと先輩はサーヴァントを連れて今日もこの家にいる。

随分賑やかになったことだ。

 

外を見るとアサシンと2mを超える大男が剣術の稽古をしているがこれは無視でいいだろう。

手を洗いリビングに行き自分の席に座る。

横にはライダーが座る私だけの特等席だ。

前の席には白い髪の子供とその後ろに控える従者のような女性が2人いて、優雅に紅茶を飲む少女の姿は洗礼されていて育ちの良さが伺える。

暫く眺めたあと手元に置かれたケーキを一口つまみその美味しさに舌鼓を打ったあとライダーを見て一言

 

「説明してくれるよね、ライダーさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはバーサーカーのマスターらしい。

ついでに言えば幼い見た目に反して私よりも年上だという話だ。

 

なんでも今日の夕飯の買い出しに行っていたライダーが偶然街で遭遇し連れて来たらしい。

いい加減頭が痛くなって来たが理由ならちゃんとあるようでそれを聞くために私が帰ってくるまで待っていたようだ。

 

「単刀直入に言うが、お前人形だろ?」

 

一切の迷いなくそう告げるライダーに2人の従者は肩を震わせるがイリヤは特に反応もなくそれを肯定する。

 

「それにその体は普通の人間よりも成長が早い、いや寿命が短いというべきか?まあそんな感じだ、どうだ間違っているか?」

 

その言葉には流石のイリヤも驚いたのか目を見開く

 

「なに、人形には少し詳しくてな。そのくらいお前を初めて見たときから気づいていたよ」

 

淡々と言うライダーを警戒気味に見据えるが彼はそれを無視して尚も続ける。

 

「どうだ俺に任せてみないか?儚く一瞬で散るのもまた美しいが、ライダークラスで呼ばれた俺には性に合わん。永久に変わらぬ美の方が今の俺は好きなんでな」

 

もちろん後ろの2人も合わせてな。

 

そう言って締めくくったライダーに今度こそ3人は驚愕を露わにする。

私にはよく分からないが魂の入れ替えは一流の魔術師でも不可能らしく、仮にできたとしてもそれを入れる器が存在しなければ消滅してしまうらしい。

彼女の実家であるアインツベルンにはホムンクルスという技術があるらしいが、それでできた肉体の寿命は極端に短いため事実上不可能であると半ば諦めていたらしいが、一体ライダーはどうする気なんだろう?

 

「なに、それはこの世界の話だ。俺の世界なら魂の入れ替えなんてザラだ。それに俺の宝具を使えば完全な肉体。それこそ妊娠すらできるほどの肉体を生成することができる」

 

よく分からないが1つだけ聞きたいことがある

 

「それって聖杯に願わずとも受肉が出来るってことですか?」

 

「ああ、それがどうした?」

 

ムカつく。

 

「一応言っておくがその場合戦闘能力が大きく下がる。そうなったらせっかく受肉できてもすぐに死んでしまうだろ?」

 

でもムカつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争は終了した。

いきなりすぎて驚くと思うが私も驚いている。

 

 

 

宝具である固有結界を発動させたライダーはバーサーカー陣営の彼女たちにより正確にすると言う名目で頭に触れて(ムカつく)暫くすると彼女たちとそっくりの人間がライダーのすぐそばに生成されいざそこに魂を入れていた時、それは起きた。

 

野次馬根性か私やお姉さん、先輩とランサーを除く全てのサーヴァントが見守るなか、念のためとイリヤより先にその従者2人が魂の移し替えをしてもらい。

安全性と確実性を確かめたあと、イリヤの魂を移し替え終わったところ、もともとイリヤの魂が入っていた肉体からよく分からないが気持ちの悪い何かが出現した。

が、

「なんだこれ?見るに耐えんぞ」

と言いつつ何処から出したのかライダーが十八番と呼ぶ爆弾を数発連射するとそれは消えた。

 

そして突然消滅を始めたサーヴァント達。

どうやらあの気持ちの悪いものが聖杯と呼ばれるものだったらしくそれが消えたことによってサーヴァントが現界出来なくなってしまったらしい。

幸いにしてこの空間がライダーの固有結界の内部だったためすぐにサーヴァント全員の肉体を作り出して魂を固定。つまり受肉を果たしたために全員が消滅を免れた。

なぜかその場に全身青タイツの男がいたことには驚いたが、あの人は本当に何だったんだろう?

 

「いやーそこの嬢ちゃんの監視をしていたおかげで助かったぜ。これは俺の幸運もD、いやCくらいに上がったかもなガハハハハハハハ!!!」

 

姉さんを指差してそこの嬢ちゃん呼ばわりして笑っていたが本当に何だったんだろう?

 

まあどうでもいいか。

 

そんな感じで呆気なく幕を閉じた聖杯戦争だが私の戦い、正妻戦争はまだ終わっていない。

キャスター、メディアと今も尚ライダーを巡って争っている。

いや、ライダーは私のサーヴァントなのだから私のものに決まっているのでこれは一種の出来レースだ。そうに決まっている。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー」

 

「そして…私の敗北だ」

 

「一番美味しいのはライダーの料理ですね」

 

「当然だな」

 

「「おのれライダァァァァァアアアアア!!!!」」

 

キッチンで料理対決をしている先輩、アーチャー、ライダー。そして審査員のセイバー。

 

出来る嫁としてライダー用の新しい服を仕立てている私とメディア。

 

イリヤと一緒に魔術の練習をする姉さん。

 

それを見守るセラさんとリーゼリットさん

 

庭で戦っているランサー、アサシンそれと狂化を解かれたバーサーカー、あとこれまたなぜかいるライダースーツの金髪の人。

 

それを眺めるランサーの元マスターであるバゼットさん。

 

 

 

 

平和だ。

 

すごく平和だ。

 

時計塔とか言う場所からは戦力が集結しすぎて危険視されているみたいだけど、常にサーヴァントが睨みをきかせているために何も出来ないでいる。

 

「まあ頭の固いビビリなんて2、3言脅せばすぐに黙る」

 

とはライダーの談である。

 

どうでもいい。

 

今の私にはライダーさえいてくれたらそれでいい。

 

これから先の長い未来、私の側にライダーがいればそれだけでいい。

 

だってライダーは私のもので、私はライダーのものなんだから。

 

今はまだ正妻の余裕としてよそ見をすることも許してあげるけど、私が高校を卒業したら、わかってるよね?

 

「ライダー♡」

 

 

 

 

 

「ッ?!」

 

「どうしたライダー?」

 

「いや、なぜか寒気が」




クラス ライダー
真名 サソリ
筋力E 耐久 D 敏捷B
魔力 C 幸運 A 宝具 EX
単独行動 A 気配遮断 A 騎乗 B
対魔力 C 心眼 A

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