人理修復に芸術家を入れてみた   作:小野芋子

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後半部分がごっそり抜けていたので訂正しました。



ネロ・クラウディウス編

あの芸術バカが気に入っているのはいったい誰か?そう聞かれたら全員が全員こう答えるだろう。

マシュであると

 

事実気に入ったもの全てに甘いあの男だがマシュに対してはその差が目に見えて明らかなほどにはドロドロに甘やかしていると言えるだろう。

もっとも、甘くすることだけを良しとしないあの男は時に厳しく接することもするが、比率で言ったら8:2ぐらいには甘やかしている。

それは偏にあの男がマシュに期待をしているのもあるだろうが、その境遇が似ていることがその理由の大半を占めると個人的には思う。

あいつのマシュに向ける愛情とでもいうものが家族愛のそれだからあながち間違いということもないだろう。

 

話が逸れたな。

 

ではあいつの一番気の合う存在は誰か?

もっと言えばあの男がもっとも気を許せる存在は誰か?

そう聞かれた場合、おそらく全員が頭を悩ませそれぞれ異なる存在をあげると俺は思う。

あくまでこれは俺の個人的な見解だが、あいつが一番心を許しているのは恐らくネロだと思う。

 

いくつか理由はあるが、やはり一番の理由はあの男とネロの美的感覚とでもいうものがもっとも似ているからだ。

事実基本鉛筆による絵を描くことが多いあいつが、たまに絵の具を利用してキャンバスに景色を描く時そばには必ずネロがいる。

それもただいるだけじゃなく普段なら作品が完成するまで食事や睡眠すら忘れるあの男が時々手を止めてはネロに意見を求めていたのだ。

 

天上天下唯我独尊とまでは言わないが、それでも基本自己解決するあの男が時々とは言え意見をもらう存在。

当然そんな存在はいくらカルデアに有能かつ万能の能力を持つサーヴァントが多いとは言え片手で数えられるくらいしかいないだろう。

 

さて、別にあの男の交友関係に興味がない俺がなぜ今こんな話をしているのか。

ついにデレたか、などという馬鹿げた声が聞こえた気がするが別にそんな理由ではない、これはただの現実逃避だ。

 

目の前の光景から目をそらしたいがための防衛本能だ。

 

そう、豪華な食事が並んでいたテーブルの向こう側で酒の肴にとエミヤが作ったスルメや枝豆を適当につまみながら、恐らく新しく作る作品の構想でも考えているであろう芸術バカに

「いつになったら余のヌードを描くのだ」

と詰め寄るネロから必死の思いで目を逸らしている俺の努力の結晶なのだ。

ってかそれってヌードを描くだけで終わるやつだよね?

明らかにその先の魔力供給(意味深)まで狙ってそうだけどそうじゃないよね?

俺はただ純粋に自分の肢体を描いて欲しいだけだと、そう信じてるよ?

 

「セイバーオルタだけズルイ!!余もお主とまぐわりたい!!」

 

……(ローマ)は死んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は俺と芸術バカが珍しく並んで歩いている時のことだった。

会話という会話こそないが、不快ではない沈黙の中を歩きながらダヴィンチちゃんの工房の前を通り過ぎた時、

「このままじゃカルデアがヤバイ」

とどこか焦りを感じる叫びに近い声が聞こえてきたのだ。

 

つい最近人理修復が終わったばかりだと言うのにまた何か発生したのかと焦る俺をよそに、特に驚く様子も見せないあいつは迷わず工房の中へと足を進める。

慌ててそれについていき中に入った俺の視界にはその整った容姿を歪め涙目になりながら頭を抱えるダヴィンチちゃんと険しい顔で資料を眺める所長が座っていた。

 

何事かと聞く俺に答えたのは所長だった。

曰く、これまで金銭面をサポートしてくれていたパトロンが突然契約を打ち切ってきたとのこと。

その後まるで図ったようなタイミングで、魔術塔にいるとある名のあるお家柄から

金銭を免除する代わりに特異な魔術を操る芸術バカとデミとは言えサーヴァント化したマシュを差し出せ

と言われたらしい。

どう考えてもその名のある家とやらが一枚噛んでる様子だが残念ながら証拠はない。

それにどのみち金がなければカルデアを存続できないのも事実だ。

狡いが有効な手を打ってくるあたり魔術師というのは碌でもない存在だと改めて思う。

当然目の前で悪どい笑みを浮かべる芸術バカを含めてだ。

 

何か思いついたのか?

 

「別に。ただ、俺1人が差し出されるのはいい。何かしようものなら魔術塔もろとも十八番をぶち込めばいいだけだからな。だがマシュに手を出そうというなら話は別だ。まずはその浅はかな作戦を正攻法で粉微塵に変えたあと、とっておきのプレゼントを届けることにしよう」

 

あっ、死んだな

 

ラスボスも裸足で逃げ出すであろう残虐な笑みを浮かべるあいつを見て、俺は静かに顔も知らない犠牲者のご冥福を祈った。

ざまぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからわずか2週間という日数で問題は全て解決した。

が、それはもう酷かった。

スキル直感を持つアルトリアズを使って株を行い、始めつぎ込んだ10万という種は大量の0を養分に花を咲かせ

黄金律を持つギルガメッシュが外を歩けばそれだけで家1つ買える莫大な資金が手に入り。

名目上その金全てを抱える所長の家、アニムスフィア家は世界的に見ても5本の指に入る資産家へとその姿を変えた。

しかもその影で地味に自身の作品を売り出していたあいつは俺が一生をかけても稼げないであろう金額を手に入れており、それを使って2つ目の目的、即ち喧嘩ふっかけてきたバカを叩き潰す計画を実行していた。

 

 

 

 

計画の詳細はこうだ

主犯の身元を洗い出し、そこにある女性関係の情報を主犯の妻に密告。

そのあと口八丁手八丁、挙げ句の果てには魔術を使った軽い洗脳すら行い主犯との離婚を決意させる。

 

が、あえてそれを押しとどめ暫くの間こちらで手配した屋敷で暮らすよう進言。

当然洗脳も行なっているため相手はこれを快諾。

主犯の妻にその息子、果ては使用人すらも洗脳したあいつは主犯が暫く留守にしている間に引越しを決行。

その能力で作り出した主犯の妻そっくりな傀儡を玄関に吊るし主犯の自室にその他屋敷で生活していた人間の傀儡を撒き散らし終了。

後日泡を吹いて倒れる主犯に対して脅しと言う名の洗脳をかけセルフギアススクロールに一筆書かせゲームセット。

 

 

色々言いたいことはあるが、取り敢えず契約の内容が地味にえげつなかったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

そんなこんなで事件は無事解決し。

どうせならと今日、そのお祝いパーティーのようなものを決行していたのだ。

始めの方こそみんなで楽しくワイワイやっていたのだが、だんだんと酒が回って来たためか酔いつぶれて部屋まで介抱してもらうものが増え、最後には未成年ゆえに酒が飲めず、必然酔うこともない俺、マシュ、芸術バカと厨房で後片付けをしているエミヤとキャス孤。

芸術バカにくっ付いて離れないネロが残った。

ちなみに時間も時間なんで子供達はすでに自室に帰してあるし、酒を飲んでいないサーヴァントもそれに付き添う形で帰っていた

 

余談だが酔いつぶれたサーヴァントはあいつが作った何体かの鳥型の起爆粘土に運ばれており、嬉々としてそれに乗り込んで帰っていく子供達の姿にほっこりした。

 

 

ここまでは良かった。

 

いや、あいつに抱きつくネロに対して思うことがないとは言わないが、今の状況に比べればここまでは許容できた。

問題はその先だ。

酔い潰れてこそいないが、ろれつが回っていない程度には酔っ払っているネロはそれはもう絡み続けた。

はじめこそ肩がぶつかるだけで赤面していた王様は、今ではあいつの腕に抱きついて上機嫌なくらいには酒に飲まれていた。

だが、そんな羨ましい状態でも表情1つ変えず適当につまみを食べるあいつに流石のネロも怒ったのか

 

「余を見ろ!!」

 

「余を構え!!」

 

「余にも食べさせろ!!」

 

と食ってかかる。

いや、本人としては怒っているつもりなんだろうが側から見たらただ甘えているだけだ。

 

その微笑ましい光景にマシュ共々暖かい目で眺めていたら冒頭の爆弾が投下されたと言うわけだ。

 

「余の裸体を描きたくないのか?」

 

その豊かな双丘を押し付けながら詰め寄るネロをその口に手に持っていたスルメを咥えさせることによって黙らせたあいつは、あいも変わらぬ無表情で

 

「また今度な」

 

とだけ言って新しいツマミに手を出す。

 

それに対してスルメを咥えたまま抗議するネロだが何を言っているか分からない。

暫くしてようやく飲み込んだネロは再度詰め寄る

 

「余を描け!!」

 

「今度な」

 

「今すぐ余を描け!!」

 

「今度な」

 

「なら余を抱け!!」

 

「今度な」

 

「………」

 

「今度な」

 

表情はいつも通りの無表情だし、体がふらついている様子もない。

が、どうも様子がおかしい。

今だって

「今度な」

としか喋っていないようだし、もしかしてこいつは酔っているんだろうか?

酒を飲んでる様子はなかったが俺だっていつもこいつを見ているわけではない。

未成年に酒を飲ませるわけはないと思いたいが英雄にその常識があるとは思えない。

ケルトあたりならむしろ水の感覚で勧めてくるだろう。

だとしたら、だ。

 

おい

 

「なんだ?」

 

お前、酔ってるのか?

 

「酔ってない」

 

……体に異常はないか?

 

「頭がふらつくことと、体温が高くなっていること、判断能力が低下していることを除けば特に異常はないが?」

 

OK酔ってる。

確実に酔っぱらってる。

むしろそこまで分かっていて酔っていないと言うこいつが分からない。

まあ酔っ払いほど自分は酔っていないと言うものだし案外そう言うものなのかもな。

 

どうでもいいな。

 

取り敢えず目の前に座る芸術バカが酔っ払っていると言うことはわかった。

ならば心優しい俺がやることは1つだ。

この機会に弱みを握ってやる!!

 

お前、好きな人はいるか?

 

「俺は美しいもの全てが好きだ」

 

その中で一番は誰だ?

 

「美しさは千差万別だ。そこに甲乙を求めるのはくだらない凡人のやることだ」

 

なんだこいつ、ほんとに酔ってんの?

なんでこんなキザなの?

爆発してくんねえかな?

だが、そんな俺の心情が伝わるわけもなくもはや作業のようにつまみを食べる芸術バカ。

その様子を見て漸くあいつが酔っていることに気付いたのか勢いを取り戻したネロがここぞとばかりに攻め立てる

 

「余を抱け!!」

 

「今度な」

 

撃沈。

ってかネロはバカなのか?

もう少し頭を使って遠くから徐々に徐々に外堀を埋めていけば或いは

って俺は何を考えているんだ?

別にあいつの味方をしたい訳ではないが、だからとってネロの味方をする必要もない。

 

むしろネロの発言の刺激の強さにキャパオーバーしているマシュを宥めることを優先した方が絶対いいに決まっている。

まあ、このままだとネロが可哀想なのも事実なので、もう少し遠回しに攻めるようにと助言してもはや気絶しているマシュをお姫様抱っこの要領で抱えて食堂を出る。

時刻はもう11時をすぎた時間帯だ。

仮にナイチンゲールさんに見つかれば拳で眠らされてしまう。

 

全く俺も甘くなったものだと自嘲しながらマシュを部屋まで送る。

幸いにしてパスワードは教えてもらっていたのですぐに鍵を開け部屋へと入ろうとしたところで視線を感じ、そちらに目を向ければそれはもう美しい笑みを浮かべた清姫と目が合い、現状の自分の姿を思い出す。

 

マシュを抱えている

 

まあ気を失ってるから仕方ないよな。

 

マシュの部屋に入ろうとしている

 

まあ気を失ってるから仕方ないよな。

 

年頃の男と女

 

………あれ?まずくね?

 

「ますたぁ?」

 

いや待て待て違うんだ!!これには海より深い事情があってだな!!

 

「ますたぁ?」

 

下心はないし、やましいことをしようとしている訳でもないんだ!!

 

「ま・す・た・ぁ?」

 

おやすみなさあああああああああい!!!

 

幸いにして近場にあったベッドにマシュを放り投げて猛ダッシュ。

途中上機嫌なネロとそれに連れられておぼつかない足取りで歩く芸術バカがいたが無視だ。

 

こんなことなら今朝令呪によるブーストをかけたらライダーはどれだけのスピードでチャリを漕げるかなんてやらなきゃよかった。

 

後悔するがもう遅い。

礼装によってる出力を上げているがそれでもサーヴァントには及ばない。

徐々に距離を詰めてくる清姫に恐怖しながら限界突破する俺。

そして前方から接近してくるナイチンゲールさん

 

あっ、おわた。

 

 

 

 

 

 

 

 




その後ぐだ男を見たものはいない

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