それでは本編どうぞ
桐生も巻き込んだ黒歌のちょっとした仕返しを受けたあと、桐生を交えて俺達は四人で祭りをまわることにした。
「あ、射的あるじゃん。やってみようよ」
桐生が射的の屋台を見つけて俺たちに促してくる。景品は菓子類オンリーだったが、それでも普段スーパーやコンビニでもお目にかからない高級菓子も混ざっている。
「そうだな。せっかく祭りに来たんだしやってみるか。すみません、四人分お願いします」
「はいよ」
屋台のおじさんに四人分の料金を払い、射的用の銃と、コルクの弾を受け取った。
「あれ?私の分も出してくれるの?」
「ああ。まあこれぐらいはな」
「ありがと。それじゃあ・・・・」
俺に礼を言った後、桐生は銃を構えて狙い撃つ。弾は合計四発。桐生は比較的重量の軽いものに狙いを付け、四発中二発を当ててみせた。
「うん、まあこんなもんでしょ」
景品の菓子を受け取る桐生。高価なものはなかったが、それでも射的一回分以上の値段はしそうな菓子を取れたようで満足気だ。
「なら次は私がやるにゃ」
桐生に続いて次は黒歌がやった。黒歌は迷うことなくそこそこ重量のありそうな高級菓子に狙いをつけて撃つ。弾は全て当たるが、当たり所が悪かったのか、倒れることはなく残弾が尽きてしまった。
「・・・・・この銃、威力低すぎない?」
「いや、さすがにあれはそう簡単に落とせないだろ・・・・」
不満げにぼやく黒歌と交代する俺。俺は黒歌のような失態を侵すつもりはない。確実に落とせそうなのを選んで・・・・・
「・・・・あ、あれ?」
確実に落とせそうなのを選んだ・・・・・はずなのだが、俺の撃った弾はものの見事に空を切ってしまった。
「・・・・・咲良、正直かっこ悪すぎるわよ?」
「私よりもひどいにゃ」
「・・・・・返す言葉もございません」
女子二人からの冷たい視線に、恥ずかしくなってしまう。確かにこれはダサすぎる・・・・・
「・・・・咲良、任せて」
「オーフィス?」
「咲良の仇は私が取る。あとついでに黒歌の仇も」
「オーフィス・・・・・」
「私はついでなのかにゃ・・・・」
オーフィスの言葉に、胸がジーンと熱くなるのを感じた。ついで扱いで苦笑いを浮かべる黒歌のことはとりあえず気にしないことにする。
「大丈夫かいお嬢ちゃん?撃ち方わかる?」
屋台のおじさんがオーフィスに尋ねる。見た目が幼女なので気を遣っているのだろう。だが・・・・
「・・・・心配無用。この程度余裕」
自身満々な表情(パッと見は無表情)で銃を構え、撃つオーフィス。弾は黒歌が狙っていた高級菓子に向かって放たれる。一発目では倒れなかったが、それでおおよその狙いどころにあたりをつけたようで、二発目、三発目でバランスを崩す。そして四発目で見事に景品を落としてみせた。
「お、おお・・・・・・まさかこいつが落とされるとはなぁ」
「これが我の実力」
まさか落とされるとは思ってなかったおじさんは表情を驚愕に染め、対するオーフィスは見事なドヤ顔(やはりパッと見は無表情)を披露する。
「お嬢ちゃんすごいねぇ・・・・ほら、もってけ」
「ありがとう」
悔しそうにしながらも、おじさんはオーフィスを賞賛しながら景品の高級菓子を手渡した。
「咲良、我やった」
「ああ。すごいなオーフィスは」
オーフィスの頭を撫でると、俺の方に体を擦り寄らせてくるオーフィス。少々周囲からの視線が気になるが、まあオーフィスが可愛いから良しとするかな。
「と、もうすぐ花火の時間だな」
時計に目をやると、花火の時間が迫っていることに気がつく。この祭りの花火は結構力を入れている。なので毎年、人が少なくてなおかつ花火が綺麗に見える穴場で見ていたので、今年もそこに行こうとしたら・・・・
「あ、私は桐生と二人で見てくるから。咲良はオーフィスと二人で見てくるといいにゃ」
「え?」
「それじゃあ咲良、また学校でね」
「ちょ、二人共・・・・」
急なことで黒歌と桐生を止めようとする俺だったが、二人共そそくさと俺とオーフィスの前から去ってしまった。どうやら気を遣わせてしまったらしい。
「全くあの二人は・・・・」
「けど我、咲良と二人きりで嬉しい」
ギュッと俺の手を握り、上目遣い気味で言ってくるオーフィス。本当にもう・・・・俺をときめかせる天才だなオーフィスは。
「んじゃ・・・・行くか」
「うん」
俺はオーフィスを伴って、穴場へと向かった。
「お?誰もいないな」
穴場となる場所を訪れてみると、そこには俺たち以外誰もいなかった。これは人目を気にせず花火を堪能できそうだ。
「・・・・・咲良」
誰も居ないとわかった瞬間、オーフィスは俺にギュッと抱きついて来て、顔をすり寄せてきた。
「どうしたオーフィス?」
「ここなら人目がない。だから存分に咲良とイチャつける」
これまでも十分人目がある中でイチャついてたと思うのだが・・・・・まあ、あまり深くは突っ込まないでおこう。今はオーフィスを堪能するのが最重要事項だ。
ただ・・・・正直今はあまり密着されても困ることもある。なにせオーフィスが下着を着けていないことを知っているからな・・・・・理性を押さえつけるのが大変だ。本当にあのクソジジイは余計なことしてくれやがって。
「咲良・・・・・お祭り楽しかった?」
「ん?そりゃまあ楽しかったよ。黒歌がいて、桐生がいて、何よりオーフィスが居たしな」
「我も。咲良が居て楽しかった。お祭りだけじゃない。咲良と行った遊園地も楽しかったし、冥界に行った時も楽しかった。やっぱり咲良のいる世界は楽しい」
「・・・・急にどうした?」
楽しんでくれたことはなによりだが、少々様子がおかしいような気がした俺はオーフィスに尋ねてみた。
「もうすぐ咲良の夏休みが終わっちゃうから・・・・また咲良と一緒に居られる時間が減る」
あ~・・・・なるほど。確かに夏休みも残りわずかだ。夏休みが終わればオーフィスといられる時間は激減する。それは俺にとっても・・・・・寂しく、残念なことだった。
「咲良・・・・どうしても学校行かなきゃダメ?学校なんて行かないで我と一緒に居て欲しい。ずっとずっと一緒にいたい」
オーフィスの言っていることは理解できる。俺だって学校に行くよりもオーフィスといる方が楽しく、幸せだ。
だけど・・・・・
「オーフィス・・・・・学校はやっぱり行かなきゃならないって思うよ」
「どうして?」
「オーフィスと一緒にいる時間は俺にとっては何よりも大切な時間だ。それは間違いない。だけど、学校で学んで、友達と過ごす時間があってこそ、オーフィスと一緒にいられる時間の幸せをより実感できている・・・・俺はそう思うんだ」
「・・・・我、よくわからない」
俺の言っていることがあまり理解できていないようで、オーフィスは首をかしげる。それだけオーフィスにとって俺の存在は大きくなっているということなのだろう。
「ごめんなオーフィス。これはきっと俺の我侭だ。だけど・・・・それではオーフィスには俺の我が儘を聞いて欲しい。学校を卒業して、大人になって結婚するまで待っていて欲しい。お願いだ」
「咲良・・・・・」
オーフィスは少し考える素振りを見せ・・・・・そして返事を返してくる。
「・・・・わかった。我は良妻を目指してる。夫になる咲良の本気の願いを聞き入れるのも良妻の勤めって本に書いてあった。だから・・・・もう少しだけ我慢する」
「ありがとうオーフィス」
「その変わり・・・・咲良が学校を卒業したらもう我慢しない。そこから先はずっと一緒。何があっても・・・・我と咲良は一緒」
「・・・・・ああ。一緒にいよう。何があってもずっと」
「うん。約束」
ひとまず納得し、そして変わりの条件を提示するオーフィス。俺はその条件を聞き入れるが・・・・それでもひとつだけ守れそうにないことがあった。
何があっても一緒にいる。俺としてもそれは望むべきことだ。けれど・・・・それでも俺はオーフィスとちがってただの人間だ。人間である以上、いつかは必ず死ぬ。そうなれば・・・・オーフィスと一緒にいることはできなくなる。
そうなったらオーフィスは・・・・・
(・・・・今はまだ、それをオーフィスに告げることはできないな)
今ここでそれを告げてしまえばオーフィスがどうなってしまうかわからない。だから・・・・今は告げることができない。
「咲良、花火上がった・・・・綺麗」
気がつけば、花火が打ち上がる時間になっていたようで、夜空に綺麗な花が咲き誇る。
「ああ・・・・・綺麗だ」
俺は心に複雑な思いを抱えながら、オーフィスと一緒に花火を眺めていた。
人間である以上はどうしてもね・・・・・・後でこれが原因で大きな事態が?
それにしてもどんどん咲良さんに依存していくオーフィスちゃんマジで健気で可愛い
それでは次回もまたお楽しみに!