それでは本編どうぞ
時刻は12時半。俺とオーフィスは遊園地ないの噴水広場にて昼食の弁当を食べていた。ただ、今日の弁当はいつもの弁当とは違う。なにせ、最初から最後までオーフィスの手作りなのだから。
「咲良、美味しい?」
「うん。美味しいよ」
感想を聞かれたので、俺は素直に思ったことを答える。一通りの家事をこなすことができるオーフィスは、実は料理も得意だったりする。普段は特別なことがない限り俺が作っているが、今日はせっかくのデートということで、オーフィスが自分がつくると言ってきたのだ。
どのおかずも味付けはしっかりしており栄養バランスもしっかり考えられている。最近、良妻になるためにとか言っていろいろ勉強しているようだが、すでに良妻の資質を開花しつつあると俺は思う。
「オーフィスの作ったものならいくらでも食べられそうだ」
「そう言ってもらえると嬉しい。けど、それでも咲良には敵わない。咲良の料理の方がずっと美味しい」
「それは嬉しいことを言ってくれる。けどまあ、うん・・・・そうだな。俺はオーフィスに会う前から料理してたから、料理の腕だけはオーフィスにはまだ負けるわけにはいかないな」
俺には才能というものがない。俺は何をやらせても平凡な普通の人間。だが、料理にだけはそれなりに誇りを持っていた。はじめは料理ができない爺さんに少しでも美味しいものを食べてもらいたいと思って始めたことだけど、今は爺さんだけじゃなくてもっとたくさんの人を喜ばせるために俺は料理を作っている。その一人、というか最たる存在がオーフィスだ。オーフィスに喜んで貰い続けるためにも、俺はもっと料理の腕を上げなければならない。だからこそ、まだまだオーフィスには負けられないんだ。
だがまあ、それはそれとして・・・・・今はオーフィスの作った料理を存分と堪能しなければな。
「咲良、あーん」
「ん、あーん」
オーフィスに差し出された料理を口にし、俺は料理の味だけでなく幸福も味わった。
「さて、ご飯も食べた。またアトラクションを楽しもうか」
「うん」
昼食を食べ終え、次はどのアトラクションで遊ぼうかと右に左にと視線を動かす俺とオーフィス。すると、オーフィスがあるアトラクションを指差した。
「我、あれがいい」
オーフィスが指差したのはラビリンス・・・・・すなわち迷路であった。アトラクション前の看板の説明文によると、この迷路というのはどうやら二人で楽しむもののようだった。別々の入口から迷路に入り、中で合流してゴールを目指す。そして、合流した時間が早ければ景品がもらえるそうだ。
「うん、面白そうだな。よし、あれにするか」
俺とオーフィスはアトラクションの受付へと向かった。
受付を済ませ、俺とオーフィスは迷路へと入った。もっとも、別々の入口から入ったため傍にはオーフィスはいないのだが。
「10分か・・・・」
俺は受付でもらったタイマーを見やる。タイマーの表示は10分からだんだんカウントダウンしていっている。受付の人が言うには、これと同じタイマーをもつオーフィスとの距離が1mを切るとカウントダウンが止まるらしい。つまり、10分以内にオーフィスを見つけられれば景品がもらえるということだ。
「オーフィスは向こうかな?」
俺はオーフィスがいるであろうと思われる方へと目を向ける。気配というかなんというか・・・・・とにかく、よほど距離が離れていない限りはオーフィスの位置は大まかにだがわかるのだ。ちなみにこれを前黒歌や白音に言ったら人外扱いされた。解せぬ。
まあ、そんなことはさて置いてだ。オーフィスのいる位置はだいたいわかるといっても、そこに向かって歩いていけばオーフィスに会えるというわけではない。迷路の構造によっては遠回りしなければならないかもしれない。だからこそ迷路は厄介だと言えるかもしれない。
オーフィスを見つけるためには動いたほうがいいかもしれない。だけど、下手に動けばオーフィストの距離が離れる可能性もある。なので、動かずにその場にとどまるという選択肢もある。
「さて、どうするかなぁ」
「咲良、見つけた」
「うおっ!?」
どうしたものかと考えを巡らせている俺の前に突然オーフィスが現れる。あまりにも突然だったから驚いて変な声が出てしまった。
「咲良、どうした?」
「いや、ちょっと急だったからびっくりしてな」
確かに迷路をどう攻略しようか考えを巡らせていたせいでオーフィスの位置に気を配ってはいなかったが、それはほんの1分程の間だ。まさかその1分の間で俺を発見するとは・・・・
「というかオーフィス、お前どうやってここに?」
「咲良のいる位置はだいたいわかる」
「いや、それにしたって迷路なんだから迷ったりはしただろ?」
「頑張った」
いや、頑張ってどうにかなるものでは・・・・・いや、オーフィスならなるか。
「すぐに見つかってよかった。見つからなかったら壁を壊して咲良のところに来てた」
「マジかー・・・・」
なんでも無いように言うオーフィスであるが、流石にそれはいささかヴァイオレンスすぎだ。しかもオーフィスなら実際にやりかねない。俺のためにそこまでしてくれるのは嬉しいが、そうなったら言い訳のしようがなかったから本当に直ぐに見つかってよかった。頑張ったのオーフィスだけど。
「あ、そうだ。タイマー」
タイマーを確認すると、8分47秒で止まっていた。だいぶ余裕をもってクリアしてしまったが、これはこれで問題があるような気がする。なにせいかんせん早すぎるのだ。こんなにも早くクリアしまっては、受付の人に怪しまれてしまう。いや、というよりタイマー壊したとか思われかねん。
「咲良、顔色悪い。大丈夫」
「あー・・・・うん、大丈夫大丈夫」
心配そうに声をかけてくるオーフィスに、とりあえず虚勢を張って大丈夫だと俺は答える。実際問題受付の人次第だから大丈夫かどうかは知らんが。
「まあともかく、こうしてオーフィスに会えたんだからあとはゴールを目指すだけだな」
「ゴールならさっき見かけた。こっち」
どうやらオーフィスはすでにゴールの場所が分かっているようだ。そこまで連れて行こうと、俺の手を引いて歩き出す。
結局、この迷路で俺がしたことはほとんど何もないのだが。まああまり気にしないでおこう。ちょっと情けないような気がするけど・・・・・シカタナイシカタナイ。
「これ、可愛い」
「うん、そうだな」
迷路での景品を見ながらご満悦な様子なオーフィス。そんなオーフィスが愛らしくて、俺は思わず頭を撫でていた。ちなみに迷路での景品はこの遊園地のマスコットキャラのストラップ4つだ。モチーフは犬と白猫、黒猫、そして龍。なんか絶妙に狙った感があるような気がするが気のせいだろう。
ちなみに、タイマーを返却したら受付の人は目を丸くしていた。どうやらあのタイムは前代未聞だったらしい。一応、互いに適当に走ってたら会えたと説明したら納得はしてくれたが・・・・・やはり危なかったようだ。
「咲良、これ」
オーフィスは4つのストラップのうち、龍のものを俺に渡してきた。
「咲良は龍、我は犬、黒歌は白猫で白音が黒猫。これで完璧」
ぐっとサムズアップしながら言うオーフィス。うん、可愛い。
けど・・・・
「普通は俺が犬でオーフィスが龍、黒歌が黒猫で白音が白猫なんじゃないのか?」
「それじゃあダメ。自分と同じのを持ってても意味ない。相手のを持ってるからこそ意味がある」
なるほど、まあ言ってることはわからなくもないかな。というか、オーフィスの中ではすでにこのストラップは犬が俺で龍がオーフィス、黒猫が黒歌で白猫は白音ということになってるのか。まあ俺もそうかなと思ってたけど。
ただ、問題があるとしたら・・・・
「・・・・なあオーフィス、俺って犬っぽいか?」
龍でも猫でもないというのはわかるが、果たして自分は犬っぽいのかどうか、俺は気になったので聞いてみた。
「どっちかというと犬っぽい」
何と比較してどっちかというとなのかはわからないが、どうやら俺は犬っぽい模様。
「でも大丈夫、この犬よりも咲良の方が可愛いから」
オーフィスは自分の手にしている犬のマスコットをさしながら言う。
「オーフィス、俺も男だから可愛いって言われるのはちょっと・・・・・」
「我、咲良に可愛いって言われると嬉しい。咲良は違う?」
「いや、嬉しくないわけじゃないけど・・・・」
俺だって男だし、どうせ言われるなら格好良いの方がいいんだけど・・・・わかってる、わかってるんだ。俺の容姿は格好良いに分類されるものじゃないってことは自分でもわかってるんだ。まあ別にいいけどさ。
「とにかく、これは咲良の。大切にして」
「ああ、オーフィスだと思って大切にするよ」
「・・・・・それは嫌。それよりも我を大切にして欲しい」
「わかってるよ。ちょっと意地悪したくなってな」
「むー・・・・」
頬を膨らませてむっとするオーフィス。この顔が見たくて意地悪してしまったのだから俺も大概だな。
「だったら我だってこれを咲良だと思って大切にする」
そう言いながら、オーフィスは犬のストラップを手で包み込む。
「それは困るな。それよりも俺のことを大切にして欲しい」
「わかってる。我も意地悪したくなっただけ」
「ははは、そっか」
あまりにもオーフィスがいじらしく、愛らしく感じてしまったので思わずその頭を撫でてしまう俺。
「オーフィスほどじゃないけど、このストラップ大切にするよ」
「我も。咲良ほどじゃないけどこのストラップ大切にする」
微笑みを浮かべながら、俺とオーフィスは互いにストラップを大切にすると誓い合った。
実際問題しらみつぶしは迷路攻略法としてはまっとうだと思っております。まあ時間はかかるけど・・・・・オーフィスちゃんぐらいのスペックあれば速攻だね!
というか咲良さんのために弁当作るオーフィスちゃんとか想像するとマジ可愛い
それでは次回もまたお楽しみに!