愛しき龍神と過ごす日々   作:shin-Ex-

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今回はこの小説始まって以来おそらく初めてオーフィスちゃんが登場しない話となります

あと、私の思慮の浅さが目立っていると思いますのでご容赦を

それでは本編どうぞ


たとえ理不尽だろうとも身内は大事

「粗茶ですがどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「どうも」

 

俺は目の前の客人・・・・・魔王サーゼクス・ルシファーと彼の眷属のグレイフィア・ルキフグスに茶を振舞う。

 

爺さんとアザゼルさんに魔王と会わせて欲しいと頼んだのが今朝のことで現在は夕方・・・・・まさか頼んだその日に会えるとは思わなかった。たまたま三種族会談が始まる前に別件で用事があったようでこの町に来ていたそうだけど・・・・・それにしたって早すぎるだろう。おかげで心の準備するために今日学校休んでしまった。まあ感謝はしているけど。

 

ちなみに、この部屋には今俺とサーゼクスさんとグレイフィアさんしかいない。本当は魔王であるサーゼクスさんとだけ話がしたかったのだが・・・・まあ、グレイフィアさんはサーゼクスさんの女王(クイーン)みたいだから仕方がないか。あと、オーフィスたちは別室で待機している。内容が内容なので俺ひとりで話したかったのだ。オーフィスはだいぶ渋っていたが・・・・オーフィスがいると、これから話すことが脅しになりかねないから我慢してもらった。爺さんはオーフィスのことサーゼクスさんたちには話してなかったみたいだし。

 

「それにしても、伊槻から孫がいるとは聞いていたが・・・・」

 

サーゼクスさんは俺のことをじっと見つめてくる。その隣のグレイフィアさんもだ。

 

「えっと・・・・なんですか?」

 

「いや、こう言っては失礼かもしれないが・・・・あまり似てないと思ってね」

 

「そうですね。彼ほど破天荒でないようで安心しました」

 

「破天荒って・・・・・爺さん何をしたんですか?」

 

非常に・・・・・非常に嫌な予感がする。

 

「初めて会ったときのことなんですが・・・・・伊槻さんはどうやったか魔王の居城に侵入してきまして」

 

「警備の悪魔を全員無傷で制圧して私の前にものすごくいい笑顔で現れたんだ。そして『お前が現ルシファーか?ちょっと話でもしようぜ!』って言ってきたんだ」

 

「本当にもうご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

俺は思わず二人に頭を下げて謝罪した。あの爺さんなんてことしてくれてんだよ・・・・・というかそんなことしてよく捕まらなかったな。まあ、捕まえられなかったのかのかもしれないが・・・・なんにせよ、今日の晩飯、爺さんの分は生椎茸にしてやる。

 

『それは勘弁しろよおい!?』

 

「「「・・・・・・・」」」

 

突然どこからか聞こえてくる爺さんの叫び声。爺さん・・・・人外なのはわかってたけど、モノローグまで読めるの?しかも距離離れてるのに・・・・

 

「・・・・咲良くん、今伊槻の声が聞こえたような気がするんだが・・・・」

 

「気のせいです」

 

「いえ、ですが・・・・・」

 

「気のせいです。お気になさらず。その件にはもう触れないでください・・・・・わかりましたか?」

 

「「あ、はい。わかりました」

 

どうやら二人はわかってくれたようだ。良かった良かった。

 

「なら本題に入ろう。伊槻に聞いたが君は私と・・・・魔王と話がしたいそうだね。それは一体どういう内容なのかな?」

 

きたっ・・・・ここからが正念場だ。

 

「サーゼクスさん。あなたは黒歌という名の悪魔をご存知ですか?」

 

「・・・・・ああ。知っているよ」

 

俺が尋ねると、サーゼクスさんの表情が険しくなる。先ほどまでは笑顔で、優しそうな印象を受けたが・・・・今の彼からはプレッシャーを感じる。これが彼の魔王としての顔なのだろう。そして隣のグレイフィアさんの表情も同じように険しくなっている・・・・というより、俺に向ける視線が鋭くなった。

 

俺が魔王に話したかったこと・・・・・それは黒歌のことだった。今朝、そのことを話したら黒歌にこっぴどく叱られてしまった。魔王と話なんてしなくてもいい。そんなこと自分は望んでいないと。

 

だけど・・・・黒歌が望んでるとか望んでないとかそんなことは関係ない。これは俺が自分で決めた、自分のためのことなのだから。そう告げたら・・・・黒歌は涙を流しながら俺にしがみつき、何度も何度も繰り返し俺を馬鹿と罵ってきた。

 

・・・・もうあとには引けないな。

 

「なぜ咲良くんはその悪魔の名を知っているんだい?」

 

「・・・・・二ヶ月ほど前、俺はうちの門前で負傷し倒れていた黒歌を保護しました。現在、黒歌はこの家で暮らしています」

 

「・・・・・それは本当かい?」

 

「はい」

 

「彼女は危険な悪魔です。あなたはそれをわかっているのですか?」

 

グレイフィアさんが、俺に尋ねてくる。彼女は知っているのだろう。黒歌が犯した罪を。

 

だが、彼女は知らないのだろう。黒歌が罪を犯した理由を。

 

「黒歌は危険な悪魔ではありません。あいつは確かに自分の主である悪魔を殺しました。ですが・・・・それは家族を守るためのことです」

 

「どういうことだい?」

 

「・・・・は?」

 

サーゼクスさんが俺の言葉の意味を尋ねてくる。それに俺は・・・・軽い怒りを覚えてしまった。

 

「本当に・・・・・本当に何も知らないんですね。何も知らずに黒歌にだけ罪を・・・・・あんた何様のつもりだよ?」

 

とうとう言ってしまった・・・・・自分の言葉がサーゼクスさんを蔑むものだということだというのはわかっている。わかっているけど・・・・・止められない。

 

「サーゼクスさまを侮辱するような発言はやめてください。それ以上は私も黙っていられませんよ?」

 

「よすんだグレイフィア」

 

主への侮辱を許さないグレイフィアさんは俺に向かって軽く殺気を向けてきた。俺はその殺気に飲まれそうになるが、その前にサーゼクスさんがグレイフィアさんを制する。

 

「さっきの言葉の意味を教えてくれないかい?」

 

「・・・・・黒歌が主の悪魔は黒歌の猫魈の力を利用して眷属やその身内の能力強化を強制していました」

 

「「なっ!?」」

 

やはりこれは知られざる事実だったようで、サーゼクスさんもグレイフィアさんも驚いていた。

 

「その悪魔は黒歌だけでなく、黒歌の妹まで利用しようとした。黒歌は力に飲まれ、暴走することはなかったですが・・・・・黒歌の妹は暴走してしまったかもしれない。だから黒歌は・・・・」

 

「妹を守るために・・・・殺した?」

 

「そうです」

 

表向きでは、黒歌は力に飲まれて暴走した挙句、主である悪魔を殺したということになっているらしいが、それは誤りだ。実際は・・・・黒歌は妹を守るために・・・・黒歌が優しかったから殺してしまったんだ。

 

「・・・・・咲良くん、今の話は黒歌から聞いたのかな?」

 

「はい」

 

「なら、それが真実であるという証拠はどこにも無い。彼女は君に嘘をついている可能性もある」

 

「俺は黒歌を信じています。あいつが嘘をついているとは思いません。もちろんそんなものが証拠になるとは思っていませんが・・・・・聞きますが、黒歌が暴走した挙句に主である悪魔を殺したという証拠はありますか?」

 

「・・・・・」

 

俺が逆に聞き返すと、サーゼクスさんは黙り込んでしまう。

 

「明確な証拠もないまま黒歌に一方的に罪を押し付けた・・・・・それは殺された悪魔が生粋の悪魔で、黒歌が転生悪魔だからですか?黒歌は眷属で、殺された悪魔の方が(キング)だから黒歌に罪があると決めつけたんですか?何もかも全て・・・・黒歌だけが悪いってことにしたほうが都合が良かったから黒歌にだけ罪を押し付けたんですか?」

 

「・・・・・」

 

「だとしたら・・・・・ふざけんな!ろくに調査もせずに黒歌を罪人にしてんじゃねえよ!そのせいで黒歌は妹と・・・・・家族と会えなくなってるんだぞ!黒歌の辛さ、あんたにわかるのかよ!」

 

俺は激情のままに机に手を叩きつけながらサーゼクスさんを責め立てた。理不尽なのはわかってる。相手が悪魔のトップである魔王だとしても、黒歌の罪を彼一人が決めたわけではない。それをわかっていても俺は・・・・自分を抑えることができなかった。

 

だけど・・・・・正直取り乱しすぎた。要反省だな。

 

「・・・・すみません、言いすぎました」

 

「いや、今の君の怒りは君の優しさ故のものだ。謝ることはないよ」

 

謝罪する俺を、サーゼクスさんは咎めることなく許してくれた。

 

「話を戻しますが・・・・確かにあなたの言う通りならば主を殺したことの罪に関しては確かに我々の調査不足であるといえます。ですが、彼女は追撃部隊の多くの悪魔を返り討ちにしています。その罪はまぎれもなく彼女の罪です」

 

「それは俺もわかっています。ですが追撃部隊の悪魔だってその調査がちゃんとなされていたなら・・・・黒歌に返り討ちに遭わずに済んでいたかもしれません。違いますか?」

 

「・・・・否定はしません」

 

グレイフィアさんの言うとおり、黒歌は追撃してきた悪魔たちを返り討ちにしてしまった。だけど、そもそもそんなことする必要もなかったのかもしれないんだ。

 

・・・・ダメだな。身内だから贔屓目に見てるって思われても俺は黒歌が罪を重ねてしまった原因が悪魔たちにあるようにしか思えない。

 

「・・・・咲良くん。君の話したことが全て事実であるとして、なぜそれを私に話した?君は一体何を望んでいるんだ?」

 

俺が望むこと・・・・それは・・・・

 

「俺は・・・・・黒歌と一緒にいたい。あいつは自分は野良だからすぐにどこかに行ってしまうかもしれないと言っていたけどそれでも二ヶ月もここに残ってくれた。俺にとって黒歌は大事な同居人なんです。だから一緒に居たいん」

 

「だったら、彼女のことを私に話す必要はなかったのではないかな?私は彼女がここに居ることを知らなかった。君が話さえしなければこの先も知らずにいたかもしれない。君が彼女と一緒にいることを望むのなら、君の行動は矛盾しているように私は思うよ」

 

確かに俺の行動は矛盾している。自分からみすみす黒歌がここに居ると教えているのだから。

 

けど・・・

 

「ええ、そうでしょうね。俺もそれはわかっていますよ。でも・・・俺は自分勝手だから。怒りが抑えられなかった。黒歌に一方的に罪を押し付けた悪魔のトップ・・・・魔王に一言言ってやりたかった。だから俺は爺さんにあなたに会わせて欲しいと頼んだんです。そしてなにより・・・・」

 

「なにより・・・・?」

 

「俺は・・・・・黒歌の罪を軽くして黒歌がまた妹と会えるようにしたいんです。黒歌にとってその子はたった一人の家族なんだ。俺に爺さんしかいないように・・・黒歌にだってその子しかいないんだ。だから・・・・」

 

俺が黒歌の妹と会ったことを話したとき・・・・・黒歌は寂しそうな顔をしていた。きっと、あいつは妹に会いたいと願っているのだろう。だけど、今のままでは会えない・・・・そんなの辛すぎる。

 

どうにかして会わせたい・・・・それが俺の一番の願いであり、こうしてサーゼクスさんに話をし一番の理由だ。

 

「そうだね・・・・・君の言っていることが事実であるなら、情状酌量の余地はある」

 

「サーゼクスさん?」

 

「彼女の主である悪魔の暴挙を知らず、さらに調査をしっかりと行わなかった私達にも非はある。それを考えると・・・・・本人から事情聴取はしなければならないだろうけど、条件付きでこの家にそのまま滞在させることもできなくはないかな?もちろん、何らかの償いはしてもらうけれど。事情を説明すれば妹にも会わせてあげることは可能だ」

 

サーゼクスさんの口から語られるのは、どれも黒歌にとって有利なものであった。

 

「もっとも、他の魔王や悪魔たちと協議する必要があるから・・・・確約はできないけれどね。それについては申し訳ない」

 

「・・・・・いいんですか?あなたは魔王・・・・・責任のある立場だ。こんな一介の人間の言うことを信じて・・・・その願いを叶えるようなことをしようとして」

 

「君の言っていることが本当かどうかは調査すれば分かることだ。私は君の話を聞いて自分なりに判断しただけだよ。私の判断には君の願いは介在していない」

 

「・・・・サーゼクス様、この家に滞在させることができると言ってる時点でそれは通じないかと」

 

「おっと、私としたことが」

 

グレイフィアさんに指摘され、サーゼクスさんは誤魔化すように笑みを浮かべた。

 

正直・・・・ここまですんなりいくとは思わなかった。もっと話がこじれて面倒なことになると思っていたのに・・・・・悪く言ってしまうと、サーゼクスさんは魔王としては優しすぎる気がする。

 

だけど・・・・・そんな優しい魔王に、俺は深く感謝の念を抱いた。

 

「サーゼクスさん・・・・・ありがとうございます」

 

俺はサーゼクスさんに頭を下げ、感謝の言葉を口にした。

 

 

 




咲良さん自身、自分が滅茶苦茶言ってるのは自覚しています

だけど、咲良さんにとって身内である黒歌さんは大事な存在なので・・・・・我慢できなかったのです。たとえ理不尽かつ支離滅裂であったとしても

ちなみにオーフィスちゃんは隣の部屋でそわそわしながら待機しています。そわそわしているオーフィスちゃんは間違いなく可愛い

それでは次回もまたお楽しみに!

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