そしてさらに・・・・・
それでは本編どうぞ!
「・・・・・どうするかなぁ」
爺さん達との話を一旦終え、俺は自分の部屋の布団に寝転がり、見慣れた天井を見つめながら自分がどうすべきなのかを考えていた。
爺さんとアザゼルさんの頼みを聞き入れ、様々な種族、神群との和平の仲介役となるか
俺のことを心配してくれているオーフィスや黒歌の気持ちを無下にしないためにも爺さんとアザゼルさんの頼みを断るか
きっとどちらが間違っているということはない。どちらも・・・・俺にとっては大事なことなのだから。
「咲良、まだ悩んでる?」
「ん・・・・まあな」
オーフィスが俺の顔を覗きこんで尋ねてくる。
・・・・うん、まあこういう時って普通は一人で考えるものだっていうのはわかってる。だけどまあ、正直オーフィスが居ても考えに支障はないし・・・むしろ、最近はお風呂も寝るときも一緒だからオーフィスがそばにいてくれた方が落ち着くし。
というわけでオーフィスがここに居ることに関しては何ら問題ない。まあ黒歌は空気を読んで自室にいるが。
「・・・・我、咲良が危ない目に遭うのは嫌」
「わかってるよ。俺のこと心配してくれてるんだよな。俺戦う力なんてないし・・・・・こんなことになるんだったらもっと鍛えておけば良かったかもなぁ」
「鍛えても意味ない。咲良、戦いの才能ないから」
・・・・・戦いの才能が一切ないのは自覚はしているが、いざバッサリ言われるとそれなりにダメージでかいな。まあオーフィスに悪気はないんだろうけど。
「咲良は強くなんてなくていい。力なんてなくてもいい。何かあったら我が絶対に守る。だけど・・・・・それでも危ない目に遭うのは良くない。伊槻とアザゼルの頼みなんて聞くことない」
俺に縋り付くように寄り添ってくるオーフィス。小さな小さなオーフィスの体・・・・そんな小さな体の中に、世界最強とも言われる程に強大な力が秘められている。
そんなオーフィスが、俺のことを心配してくれている。俺のことを何よりも大事にしてくれる。それは俺にとってたまらなく嬉しいことだ。そんなオーフィスの気持ちを無視することは出来るはずない。
けど・・・・だけれど・・・・・
ごめんなオーフィス。俺はやっぱり・・・・・
「オーフィス・・・・・オーフィスはさ、俺と爺さんどっちが好きだ?」
「咲良」
迷うことなく、即断言したオーフィス。
「そっか・・・・ありがとな。俺も爺さんよりもオーフィスのことが好きだよ。だけど・・・・」
「だけど?」
「俺は・・・・爺さんの頼みを聞こうと思う」
俺はオーフィスの頭を撫でながらそう告げる。
「どうして?咲良、我の方が伊槻よりも好きなのに・・・・・伊槻の頼みの方が大事?」
「いや・・・・これはオーフィスと爺さんのどっちが大事とかそういう話じゃないんだ。ただ・・・・俺はどうしても爺さんに恩返ししたいんだ」
「恩返し?」
「そう。俺には・・・・血の繋がった家族がいない。いや、あるいはこの世界のどこかにはいるかもしれないけれど・・・・そんな顔も名前も知らないような奴ら家族とは思えない。俺の家族は、俺のことを拾ってくれた爺さんだけなんだ」
俺にとって家族とは血の繋がりのことではない。俺にとって家族とは共に過ごした日々、思い出によって築かれる絆だ。
今現在の俺にとっての家族は爺さんだけ。オーフィスともかれこれ10年一緒にいるが、それでも今の関係は婚約者であるから、まだ家族とは言えない。
「爺さんがいなかったら俺は今頃天涯孤独の身だったかもしれない。家族も友人もいない・・・・それどころか、オーフィスと出会う事さえなかったかもしれない。だから、俺を家族にしてくれて、オーフィス達と巡り会わせてくれた爺さんに俺は感謝してる」
爺さんがいるからこそ、今の俺がいる。爺さんがいるからこそ、こうしてオーフィスの存在を、愛おしさを感じることができている。それは間違いなく大恩だ。
「まあつまり、たった一人の家族の願いを叶えてあげたい・・・・・他の誰でもない俺がそう願っている。だから爺さんの頼みを聞く」
「咲良・・・・咲良がそこまでしないとだめ?ほかのことで伊槻に恩を返せばいいと我思う」
あくまでも、俺が危険な目に遭うのは嫌なようで、オーフィスは食い下がってくる。
「まあ、オーフィスの言うこともわかるよ。でも・・・・・そういうわけにはいかないんだ。多分もうそこまで時間はないから」
「時間がない?」
「ああ・・・・・オーフィスも知ってるとおり爺さんは強い。誰よりも強大な力を持っていて、それことオーフィスやグレート・レッドさえ打ち負かしていまうほどだ。だけどな・・・・それでも爺さんは『人間』なんだよ」
たとえバケモノ扱いされていようと、人外と呼ばれようと、爺さんは正真正銘の『人間』。それ以外の何者でもない。
「若々しく見えるけどもう80歳・・・・こんなこと言いたくないけど、もういつ寿命で死んでもおかしくない年だ。そしてそのことは爺さん本人が誰よりも理解してるだろう」
爺さんの頼みを聞いたとき・・・・爺さんらしくないと思った。爺さんは俺に無理なこと、無茶なことを一度も言ったことがなかった。俺が考えて決めたことに関しては特に文句入ってこなかったが、俺が危ない目に遭うようなことを勧めてくることは絶対にしなかった。
だからこそ今回の爺さんの頼みはらしくないのだが・・・・その理由を俺は察した。
「たぶん爺さんは焦ってるんだろうな。自分が生きているうちに平和な世界にしたい・・・平和な世界にしなければって。平和な世界は爺さんの夢だから」
何度も何度も聞かされた。この世界を平和にしたい。平和であって欲しい爺さんは何度も俺に話していた。なぜそこまで拘るのかはわからないけれど・・・・・話している時の爺さんはどこか子供っぽくて・・・・俺はそんな爺さんの夢が叶えばいいなって思っていた。
そして今・・・爺さんはその夢に俺を巻き込んでくれている。爺さんからすれば焦りからの不本意な頼みなのかもしれないけれど・・・・実は俺にとっては嬉しいことだった。
爺さんの夢の手助けになれる・・・・・家族としては喜び以外何ものでもない。
「オーフィス・・・・・俺はお前がなんと言おうと爺さんに協力するよ。お前の心配はわかるけど・・・・本当にすまない」
俺はオーフィスに謝罪する。オーフィスの願いをこんなにもはっきりと無下にしてしまったのはもしかしたら初めてかもしれない。
・・・・許してもらえないかな?
「咲良・・・・我、咲良が危ない目に遭うのはやぱり嫌。だけど・・・・咲良がしたいことができないのも嫌」
「え?」
「咲良が伊槻の頼みを聞きたいっていうなら・・・・伊槻の夢の手助けがしたいっていうなら、我はもう止めない。何があっても絶対に咲良は我が守る。だから・・・・・咲良の好きなようにすればいいと思う」
「オーフィス・・・・」
あくまでも、俺が危険な目に遭うのは嫌だというけれど・・・・それでもオーフィスは俺の気持ちを尊重してくれた。俺のわがままを受け入れ、その上で俺を守ると言ってくれている。
ああ、もう・・・・本当に俺は果報者だな。こんなに強くて可愛い婚約者をもてたんだから。
「ありがとう・・・・ありがとうオーフィス」
「・・・ん」
俺はオーフィスの体を抱きしめた。抱きしめる腕に少々力が入りすぎてしまったが・・・・オーフィスは気にする素振りもなく、心地よさそうに俺に擦り寄ってくる。まあ、俺の腕力程度オーフィスにとっては大したものではないのだろうが。
・・・・・やっぱり、戦いの才能がないにしても少しは鍛えないとな。せめてある程度は自衛できるようにはなりたい。そうすればオーフィスの心配を多少は和らげさせることができるかもしれないし
「でも・・・・いいの咲良?」
「いいって・・・・何がだ?」
「我は咲良の気持ちを大事にしたいから何も言わない。けど黒歌は・・・・多分怒る」
「あ~・・・・うん、まあだろうな」
黒歌もまた、俺を心配してくれている。なにせ爺さんとアザゼルさんに食って掛かるほどだからな。そんな黒歌に爺さん達に協力するだなんて言ったら怒られそうだ。
「しかもその上・・・・だもんなぁ」
「その上?」
オーフィスは俺の呟いた一言の意味が気になったのか尋ねてくる。
「実はな・・・・爺さんやアザゼルさんたちに協力するつもりではあるんだが、せっかくだから一つ条件を付けようと思ってな。その条件っていうのが・・・・・黒歌を怒らせちゃうかもしれないんだよなぁ」
「・・・・どんな条件?」
「ああ、それは・・・・・」
俺はオーフィスに爺さんとアザゼルさんにだそうと思っている条件のことを話した。
「咲良・・・・・答えを聞かせてくれ」
一夜明け、居間に集まった俺、オーフィス、黒歌、爺さん、アザゼルさんの5人。爺さんは俺はどうするのかと聞いてくる。
「爺さんとアザゼルさんの頼み聞くよ。協力させてくれ」
「こっちから頼んでおいてなんだが・・・・いいのか?」
「俺達としてはありがたいが、別に無理に聞くことはないんだぞ?」
アザゼルさんと爺さんは本当にそれでいいのかと念を押してくる。この二人も、俺の身を案じてくれているんだろう。
「うん。一晩考えて決めたことだから・・・・これが俺の答えだよ」
「そうか・・・・咲良、ありがとう」
爺さんが俺に礼を言ってくる。その表情は本当に嬉しそうだ。
「はあ・・・・・やっぱりそうなったにゃ」
俺の答えを聞き、怒ると思っていた黒歌だったが、怒りをあらわにすることはなく、どこか諦めたように嘆息する。
「黒歌、怒らない?」
「まあ、なんとなくこの結果は予想できてたし・・・・・咲良が考えて決めたことに文句言ったって野暮にゃ」
オーフィスに問われ、黒歌はそう答えた。どうやら黒歌もまた俺の意思を尊重してくれているようだ。
本当に黒歌っていい子だよな。だからこそ・・・・・理不尽であるかもしれないけど許せなくなる。
「・・・・爺さん、アザゼルさん。あとになって悪いけど、二人の頼みを聞く代わりに一つ聞いて欲しいお願いがあるんだ」
「なんだ?お前の身の安全なら言われるまでもなく保証するが・・・・」
「そうじゃありませんよアザゼルさん。いえ、それも大事なことなんですけど・・・・・・俺が聞いて欲しいのは別件です」
ぶっちゃけ和平とはほとんど何も関係ない。これは俺の個人的な事情だ。交換条件にするのは筋違いかもしれないが・・・・・それでも聞いてもらわないと困る。
「お前の身の安全のことでないとするなら・・・・なんだ?」
俺の頼みがなんなのか検討もつかないといった様子で爺さんが聞いてくる。
「・・・・・・魔王と話がしたい。会わせてくれ」
「「「・・・・・は?」」」
俺の頼みを聞き、昨日話して知っていたオーフィス以外の3人が間の抜けた声をあげた。
伊槻爺さんは超絶チートキャラですが、寿命は並の人間と変わりません
外見年齢が若くても実年齢は80歳なので・・・・・・寿命がいつ尽きてもおかしくはありません
咲良さんがなぜあんなことを頼んだのかは次回にわかると思います。おそらく。
もちろんちゃんと意味があることなので・・・・・お楽しみに
それにしても咲良さんの意思を尊重したうえで守ろうとしてくれてるオーフィスちゃんマジかわいい良妻
それでは次回もまたお楽しみに!