とある神父の布教活動   作:ブラジル

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第一話から評価を付けて下さった方、ありがとうございます。
これを糧に、引き続き執筆させて頂きます。




第二話:聖職者と魔術師

 

 無能力者、上条当麻は絶望していた。

 学生の至福の行事である『夏休み』に入ったにも関わらず、初日から合法ロリ教師からの補修宣告。否、それは百歩譲って許せる。

 上条が許せないのは、今朝起きた不幸のオンパレードだった。

 真夏の必須アイテム、エアコンの故障。それに引き続き、冷蔵庫も故障した弊害なのか水漏れを起こした為、制服や借りていた漫画が水浸しとなってしまった。

 常人なら陰謀か呪いかを疑うレベルだが、上条は違う。24時間365日、際限なく不幸に見舞われる体質の上条にとっては『軽いボディブロー』位である。

 とは言いつつも、それなりにショックは受けたのか目尻に涙を溜めつつ、いそいそと補修に向かう準備を行う。

 そんな中、ベランダに垂れ下がっている"二つ"の物体が視界に入り込む。

 

 

「あれ…?布団なんか干したっけ?」

 

 

 だが、ベットには皺だらけの布団がある。

 再びベランダにある物体に注意を向けると、物体の正体が判明した。

 ───ヒトだ。

 急いで窓を開け、干された布団の如く垂れ下がった人間に近付く。

 一人は純白の修道服を着た小柄な少女。もう一人は、漆黒の神父服を身に纏い、かなりの高身長で──何故か黒焦げだった。

 状況が掴めず、口を開けたまま硬直する上条の気配を察知したのか、二人はゆっくりと俯かせていた顔を上げる。

 

 

「おなか…へった」

 

 

 唐突にシスターの少女はそんな事を呟いたかと思うと、同じ様に垂れ下がった神父服の男──アダムは切ない瞳で上条を見つめる。

 

 

「し、新聞取ってください…1ヶ月で良いんで…」

 

「新聞屋さんなの!?」

 

 

~~~

 

 

 とある学区の裏路地、純白の修道服を着た少女は息を切らしながら走る。

 追っ手を撒く事が出来ず、追い詰められた先がこの裏路地となり、しかも袋小路──完全に追い詰められた。

 少女が息を整える暇も無く、影から人影が忍び寄る。

 

 

「おや、私以外にもこの街に聖職者がいたとは」

 

 

 影から出てきたのは柔和な笑みが印象的なアダム・ロクスバーグだった。そして、何故か頭の上にバナナの皮を乗っけていた。

 自身を追っている人物では無かったが、風貌から判断するに聖職者或いは魔術師の可能性も考えられる。

 見慣れた顔の追っ手では無かったにせよ、少女が警戒を解く事は無かった。

 

 

「あなた…だれ?」

 

「私はアダム・ロクスバーグ。この学園都市に『Love&Peace』の尊さを教える為に馳せ参じました……失礼ながら、貴女は?」

 

 

 少女はアダムが織り成す人畜無害な雰囲気につい警戒が緩んでしまった。

 

 

「イ…インデックス…」

 

「インポッシブル?可愛らしい外見ですのに、何とも手に汗握るお名前ですね」

 

「ちがうんだよ!インデックスなんだよ!」

 

「漫才はそこまでだ」

 

 

 その声にアダムが振り向くと、袋小路から唯一抜けられる道を阻むかの様に青年が立ちはだかる。

 炎の如く紅い髪、アダムよりも高く大木の様な青年は旨そうに煙草を吸うと空中に紫煙を吹き出す。

 インポッシ──インデックスという少女はすぐにアダムの背後に隠れると怯える様に青年を眺める。

 

 

「色々と手間取ったが…まぁ、いい。悪いが、その子を引き渡して貰えるかい?」

 

 

 口調や煙草を吸う動作は軽々しいが、目付きは違う。

 スキルアウトの様なチンピラレベルでは成し得ない鋭い眼光にインデックスは完全にアダムに隠れてしまう。

 対して、アダムは険しい表情で青年を見据える。

 

 

「いけませんねぇ。未成年である貴方が喫煙とは」

 

「…!ほぉ、よく分かったね」

 

「貴方の肌質、声色、手の甲の皺から判断しただけです。別段、難しい事ではありません」

 

「大した推理だね、名探偵さん。……それで、引き渡して貰えるかい?」

 

 

 再度、紫煙を吹き出し催促する青年にアダムは出した答えは───。

 

 

「断固拒否します!幼い少女を拐い、あんな事やこんな事…つまりは、不純異性交遊を目論む貴方の魂胆を見逃す訳にはいきませんッ!!」

 

 

『不純異性交遊』という単語を聞き、インデックスは更に縮こまり、小動物の様にガタガタと震えだす。

 先程まで余裕綽々な態度を見せた青年は取り乱してしまい、慌てて否定する。

 

 

「ち、違う!断じて違う!部外者には分からない深い訳があるんだ!」

 

「例えマリアナ海溝の如く深い理由があろうとも!貴方の見え透いたエッチィ行いは阻止してみせます!!」

 

 

 そう言うと両腕を天高く伸ばし、左足曲げて勢い良く上げた。

 俗に言う、『荒ぶる鷹のポーズ』である。

 

 

「さぁ、掛かって来なさい!この構えは絶対防御の構えにして最強の矛を併せ持った究極の構えッ!」

 

 

 と言いつつ、早くもグラグラと身体をふらつかせるアダムに流石の青年も目が点になる。

 

 

「いや…だいぶ隙だらけだと思うが?」

 

「いい…から…!早…く…早くして…バランスが…!」

 

「体幹弱すぎないかい?」

 

 

  『やれやれ…』と小さく呟くと、咥えていた煙草を地面に捨て、何やら詠唱の様なものを唱え上げる。

 すると、青年の右手に小さな火が芽生え、やがて蜃気楼を起こす程の火炎へと生まれ変わった。

 

 

「君には悪いが始末させ──」

 

「先手必勝!目眩ましッ!」

 

 

 すぐさま懐から350mlサイズの空き缶の様な物を地面に転がした。

 余談だが、『道具使うなら構える必要ないだろ!』と青年とインデックスが静かにツッコミを入れていた。

 アダムが放ったのは所謂、閃光手榴弾。青年が閃光により視界が封じられている間、逃走を計ろうと企てていた───ハズだった。

 

 

『Hand Grenade Made inア・ダ・ム♡』

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 そして爆発、吹き飛ばされる三名。

 アダムお手製の手榴弾は数倍の爆発力を持っていたせいで、魔術師は勿論の事、アダムとシスターも爆風により遥か彼方へ吹き飛ぶ。

 十数秒の飛行時間だったが、二人の中では途徹もなく長いフライトだと錯覚し、そのままとある一室のベランダの柵に腹から不時着した。

 後にアダムは『火薬の量を盛大に間違えちゃった☆』と語った。

 

 

「…神父様?」

 

「はい?」

 

「おなか…へったね」

 

 

 そう言うと、二人は事切れたかの様に顔を俯かせた。

 

 

~~~

 

 

 爆発から数分後、一人の女性がビルを飛び交いながら弾丸の如く疾走する。

 女性の胸中でざわめく不確かな不安感、杞憂であってくれと切に願いながら、目的の場所へ辿り着く。

 辺り一面が焦げ、硝煙に似た臭いが女性の鼻腔を刺激する。

 

 

「ステイル…ではないようね。いくら何でも、ここまで目立つ様な真似は──」

 

「か…神裂……」

 

 

 神裂という女性は弾かれた様に振り向き、声の聞こえる方へ顔を向ける。

 そこにいたのは、先程の赤髪で高身長の青年だった。

 

 

「ステイル!一体何が!?」

 

「ふっ…あの…神父……め…」

 

 

 赤髪の青年、ステイルはそう呟くと、一気に身体を脱力させた。

 神裂はステイルを強く抱き締め、必死に呼び掛ける。

 

 

「ステイル!何があったのですか!ステイル!?ステェェェェイィィルッ!!」

 

 

 腹の底から仲間の名を呼び掛ける。

 神裂に出来る事──それは仲間の労を労う為、聖母マリアの如く慈愛を注ぎ込む事のみ。

 しかし、神裂は気付いていなかった。自身の豊満な双丘によりステイルの顔を圧迫している事に。

 

 

(い、息が…!こんな形で殉教したくない…!)

 

 

 必死に神裂の背中を叩き、ギブアップ宣言するも当の神裂は更に強く抱き締めた。

 薄れ行く意識の中、神裂の叫びを子守唄にステイルの意識は呆気なく堕ちて行った。

 

 

 




ステイルは死んでないよ。ホントだよ。

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