球磨川禊の憂鬱   作:いたまえ

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『古泉くんとキョンくんの名前をネットで気まぐれに検索してみたら、何故か女の子になってたりしたけれど……』

「んっふ、困ったものです」


五話 球磨川ドッキリ作戦?

  言いたいことがあるんじゃないか。

 キョン君はキメ顔でそう言った。

 

『キョン君、急にどうしたんだい?【言いたいことがあるんじゃないか?】だなんて!……さては。君ともあろうものが、深刻な顔をすれば自分の望む情報が得られるなんて、都合の良い、MAXコーヒーよりも甘い考えは持ってないだろうね?』

 

「MAXコーヒー?」

 

  誰もこない、屋上へ続く階段の踊り場。僕とキョン君は缶コーヒーの一つすら無い状況で向き合っていた。全くもって気が利かないよね……人に足労願うのならば、最低でもジュースは用意しておいて欲しいものだ。男の子との会話イベントなんて無価値なモノに付き合わされる、僕の気持ちも汲んでくれよ。なんなら、寛大な心で飲み物程度こちらで準備しても構わなかったけれど、こうも急ではそれも叶わない。結果として、僕は若干の手持ち無沙汰を感じつつキョン君に応じるのだった。【立ち話もなんですし】的な決め台詞でマックやらを奢ってくれそうな雰囲気でもないから、僕の意識としては早々にこの会談を切り上げる方向へシフトしつつある。ご褒美も無い男子との会話は、もはや苦痛でしか無いのだし。逆に料金を取りたいくらいだよ、僕と30分トークで1500円とか!おっと!これは安すぎるかな。

 

  さてと。今僕は人生で初めての呼び出しをくらっているわけだけれど。フラグの一つも立っていない状況での前触れも無い呼び出しに戸惑いながら、何事かと身構えてみたものの、逆に、呼び出した側であるはずのキョン君から説明を求められた。【言いたいことがあるなら言えよ】と。率直に、わけがわからない。僕はせいぜい頭上にクエスチョンマークを浮かべるのが関の山で。【ありのまま、今起こった事を話すぜ!】的な例の名ゼリフを言える状況を意図して作り出してくれたのなら、ジャンプファン的には感謝感激雨あられだ。でも。……どうせそうじゃないんでしょ?キョン君は素で僕が物申したいと思ったんだよね?

 

  本来であれば、呼び出した側が握るはずの主導権をこちらに委ねるような。なんとも気持ちの悪い問いかけをされてしまい、僕はといえば肩透かしをくらった気分でさえある。

 

  古泉君に、有希ちゃん。それからキョン君。ついでに、朝何とかさん。みんな、僕に色々質問し過ぎじゃない?しかも各々、質問の内容は漠然としてるときた。転校生が珍しいからってさぁ、質問責めの度がすぎるとそれは最早イジメだよ、イジメ。わからない事でも、聞くのはせめて自分なりに考えてからにして欲しい。ただ【なんで】とか【どうして】って聞くだけなら、もの心をつく前の子供にだって出来るし。

 

  この流れを読むならば、次はみくるちゃんかハルヒちゃんに質問される展開が予想されるな。やれやれ、先が思いやられるぜ。僕以外の団員プレゼンツ、球磨川禊ドッキリアワードでもしてるんじゃないだろうね。文化祭とかで、僕の間抜けなリアクションをビデオで流すのは勘弁だよ。キャラ的に、僕は逆ドッキリを仕掛ける二枚目が合ってると思うし。

 

  そんなこんなはさておき、キョン君への僕の返答は、苛立ちもあって、いささか厳しくなってしまった。

  せっかく友達になれたのに、これは嫌われてしまったかもしれない!

  ……とか。建前上、今後の付き合いを危惧したけれど。

 

「いや、すまん。俺の思い過ごしだったようだな。何もないならそれで構わん。……わざわざこんな場所まで歩かせて悪かった」

 

  意外な事に。僕が、特にキョン君に伝えるべき言葉を持っていない事実は、キョン君的には嬉しいようで。僅かに明るくなった表情で謝罪してきた。ん、待って。君は何か情報を得たかったんじゃないの??どころか、僕に言い分が無い方が嬉しいのかよ。まさかだよ。だったら初めから聞かなきゃ良くない?更にこの呼び出しの意味が消えていく。

 

  イマイチ、どこがお気に召したか把握出来ていないけど……なんにせよキョン君自身、この誘いが唐突だった事は認識しているみたい。

 

『へえ、迷惑だって自覚はあったんだね』

「そりゃ、そうだ。急過ぎたって気がしなくもないしな」

『確かに急だ。あとさ、これから下校で坂道を降るのがわかっていながら、屋上前まで階段の昇り降りを強いたってポイントも反省してくれよ』

「わかっているさ。それも含めての謝罪だったんだがな。生憎誠意を見せようにも持ち合わせがないんだ。次回の不思議探索の際には、喫茶店代くらい

 なら出してもいいが…今日のところは、勘弁してもらいたいね」

 

  何だろう。昨今の若者は、すぐにお金で解決しようとするんだから!悪い癖になる前に、改めた方がいいぜ。

 

『おいおい、やめてくれよ。何も僕はお金で解決して欲しかったわけじゃない。そういうの嫌なんだ。友達同士じゃないか、僕達はっ!』

「あ、ああ。俺としても、買収じみた真似は好むところじゃないが……確かに、友人への対応ではないな」

 

  全くもってその通り。お金で友情は買える?って聞かれれば、答えは否!だ。ただし例外で、僕との友情だけは買えると付け加えておこう。

 

「ん。なら、俺はハルヒとは友達じゃないのか…?」

 

  途端、ブツブツと小さな言葉を紡ぎながらふさぎだすキョン君。おやおや。今の言葉からして、ハルヒちゃんにはいつも金銭的な援助で誠意を見せていたようだね。これはいけないな。二人の間を割くのは意図しないよ。

 

  関係ないけど、男女間での金銭的な援助って聞くと少し嫌らしく感じちゃうのは、僕が思春期だからだろうか。

 

『でもまぁ、キョン君的に奢らないと気が済まないと言うのなら、甘んじようかな』

「一瞬でもお前の言葉に感動しかけた俺を殴りたい!」

 

  友人間での、お金のやり取りは嫌いだ。これに嘘偽りはない。ただ、ハルヒちゃんとキョン君にはまだ仲睦まじく、よろしくやっていて欲しい。僕ごときの戯言で喧嘩するようにも思えないけれど。折角ヘンテコな部活動までやる仲になったんだ。出来れば、来る日までドップリと仲良しこよしごっこに浸っていて貰いたい。

 

 だってさ。

 

 その方が。

 

 ……台無しにしがいがあるってものだから。

 

「……わかったよ。奢ってやるさ、近いうちにな。じきにハルヒが来そうだし、この辺にしとくか。お前に秘密が無いって証拠が足りて無いのは気がかりだが、取り敢えずは言葉通り受け取らせてもらうからな」

 

  腕を組み、階段を静かに降りだしたキョン君。不承不承、といった感はあるけれど、僕の返答に納得した様子。ちょっと待って、なんでキョン君が不満気なのさ。いきなり呼ばれた僕の立場がなくなるじゃ無いか!それと、部室に帰りそうなオーラを出すのが早くはないかな!こっちは、呼び出された意図さえも把握していないんだぜ?ヒントも無い状況で読者を置いてけぼりに、快刀乱麻の如く事件を解決してしまうコナン君か、君は。質問してからの自己完結は、僕がこの世で嫌いな物ベスト3には確実に入るね。何かを言いかけておいて、「やっぱ何でもない」、とかのたまうのもNGでお願い。

  せめて、どんなおバカな質問にも付き合ってくれる池上さんぐらい歩み寄ってくれたのなら、こちらとしても安心なのに。

 

  ……もう少し、さっきの言葉の真意を探りたい。それと、僕には全然秘密なんか無いってところも印象付けておいたほうが、今後動きやすそうだ。

  どうにかキョン君が口を滑らせるよう、少し戯けて見せようか。

 

「球磨川?戻ろうぜ」

『待って。わかったぞ!!』

 

  僕は右手で指ぱっちんをしてから、長年の謎が今まさに解けたと言うくらい大げさに声を張った。

 

「わかった……って、なにが」

 

『……もしかして今の質問は、何か壮大な前振りだったとかっ!?』

 

「ん、前振り?」

 

  キョン君はピクリと眉をひそめ、足を止める。

  ようし、興味は引けたみたいだ。

 

『君は実は秘密の組織のエージェントで、正体を隠しつつ、この学校に秘められたとある事件の手がかりを探す極秘ミッションに付いている……みたいな感じだったりしない?』

 

「………なにを言い出すかと思えば」

 

  話は少し戻るけど。

 僕の性癖はノーマル。女の子のパンツをこよなく愛する、健全な男の子だ。だから人気が無いこの場でキョン君に肉体的辱めを受けずに済んだのは僥倖だとはいえ、もしも彼が学校生活やプライベートのストレスを僕の肉体で癒せるのなら、この身くらい幾らでも差し出すつもりではいたさ。下品な話に聞こえるかもしれないけど、僕は友達想いの男なんだ。ましてや、同じSOS団の仲間なのだから、このくらいの愛情はあって然るべきだよね。ま、これは単なる例えに過ぎないわけだけど…

 

  キョン君が僕を呼びつけた理由は謎のままでも、彼がどうやら問題を抱えているのは確かなようだ。廃校にする目的を達成しやすくなる為とか、他意も存在するけれど、それを抜きにしても。

  友達想いの僕としては。身体云々はともかく、敢えて戯けて見せて、自分は特に秘密も持たない一男子高校生だとアピールし、キョン君の不安を取り除いてあげたつもりだったのだけれど。

 

「お前実は、知っていてからかってるんじゃないだろうな。だとしたら、球磨川。お前の人間性を疑わざるを得ないが」

 

『あれー』

 

  何故だかキョン君の僕に対する猜疑心がますます深くなってしまったらしい。どこか、彼の地雷でも踏んだかな。

  さっきは秘密が無いって言ったら喜んだ癖に、自分に容疑がかかると不機嫌になるのかよ。

 

  【知ってる】と、彼は言った。

 

  どうにも、僕の知らない重要っぽい事情がキョン君の周りを渦巻くように存在するらしい。でなければ、こんな意味ありげな返答が返ってくるはずないじゃん。仲間はずれにされるのは、いつもの事だからと割り切れるけれど。

 

  とはいえ知的好奇心って奴は抑えが効きづらく。とても気になって昼も寝られないぞ、困ったなぁ。一体、どんな謎がこの団には蠢いているのだろう。どこぞの魔人探偵ならば、ヤコちゃんの首根っこを掴んででも解明する筈だ。

 

  だけれど僕は摩訶不思議な道具も使えないし、キョン君に口を割らせるほど心理戦に長けてもいない。この場では、質問しようがはぐらかされて終わりそうだ。

 

『あ、キョン君待ってくれよ。手の一つも繋いで帰ろうじゃないかっ』

 

  さまぁ◯ず並みにモヤモヤしながらも、僕はキョン君を追いかけて一旦は部室に戻るしかなかった。

 




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