朝起きると、既に新撰組の姿は無く代わりに朝食が用意してあった。古代米で炊いたご飯・沢庵・味噌汁(?)という内容だったが…味噌が無いからって蟹味噌で代用すんのは如何なものか。
「食えるから良しとしよう」
胃の中に飯を収めた俺達は拠点を出て町を歩く事にした。
「色々あるな。昔の文明ってこんなに発達してたんだな」
「俺達のよく知っている物もあるしな……」
市場のある大通りをぶらぶら歩いていた時……俺は人混みの奥にこちらを見据える者が居る事に気が付いた。殆ど顔が見えない程にローブで体を覆い、その瞳には明らかな敵意が滲み出ている。
「モードレッド…戦闘態勢」
「ッ!?」
そう指示した直後、ローブを纏った何者かは手に持つ杖を鞘のように握りながら突撃を始めた。それに気付いた市民達が悲鳴をあげて脇へ逃げた。
「ここにまで来ていたか───魔神柱!!!」
「なんだッ!?コイツは!?」
一瞬でモードレッドの懐に潜り込んだローブの戦士は杖の先端を握り抜刀の動作をした。直後に鞘と思われる部分が地に落ち、白銀の刀身が現れた。
「仕込み杖か!?」
「仕留める!」
辛うじて/クラレントでフェイルセーフしたモードレッドは蹴りで距離を取るとプリドゥウェンと/クラレントを土の上に刺し、モルデュールを抜刀した。
「やってやろうじゃねぇか!!!」
「人間体の内にカタをつける……擬似宝具展開『
対してローブの戦士は仕込み杖をバトンのように手の平で高速回転させると胸の前で掲げ魔術を詠唱する。直後に俺達と自身を覆うように結界が展開された。この術式…!?
「止めろ!愛識!!!俺達は味方だ!仲間の顔すら認識出来なくなったのかよ!」
「問答無用!」
仕込み杖を胸元で構えたローブの戦士…愛識と思われるソレは再び肉薄する。迎撃しようとしたモードレッドだったが、自由がきかない事に気が付いた。
「体が……鈍…ッ!?」
「それはそうだ。この結界に入った物は僕が解くまで永遠に魔力を吸い続ける!分かりやすく言えば消費する魔力の2倍のエネルギーを吸い上げるんだ。サーヴァントには最も有効な固有結界…それがこの『
星見の円規…偶然とはいえ、カルデアの名を冠する奥義…間違いない、アイツが最後の生存者だ。
「クソッ!?」
跳躍して振り下ろされた仕込み杖の一突きを体を転がして回避したモードレッドは威嚇するようにモルデュールを向ける。が、勝負の流れは完全に愛識に流れてしまっていた。俺は何とか阻止する為に馴染み深いものを見せる事を思い付き、カルデアのスタッフが所持するパスカードを愛識の足元に投げた。
「愛識!!!コイツを見ろ!カルデアのパスカードだ!分からないのか?」
効果はあった。漸く真面目に見る気になった彼はそれをジッと見つめ……結界を解除した。が、元の景色になった直後…愛識は突然膝をついた。
「────ごふっ」
そして、血を吐いてそのまま気絶した。
「大丈夫……!?」
慌てて駆け寄り、フードを脱がせた時…そこには愛識の体は無く、代わりに白銀の髪を持つ女の体が入っていた。
****************
「すまなかった……君達がカルデアからの救助者だとは思わなかった」
意識を取り戻した愛識は俺の用意した水を椀一杯飲んだ後、素直に頭を下げた。恐らく、俺達が避難した後で何らかの出来事があったのだろうか?
「救助が遅れたのは悪かった。全然見つけられなかったんだ」
「神代から救難信号を発信する事は困難だからね。責めはしないさ」
と、ここでモードレッドが気になっていた事を尋ねた。
「なんでオレを魔神柱と思ったんだ?言ってみろ」
「魔力量から想定すれば造作も無い。が、魔神柱の力を逆に取り込むなんて考えもしなかった。そもそも魔神柱を炉心として組み込んで強化する発想そのものが無かった」
「はは…」
愛識は大きくため息を吐くと、俺達の知りたかった情報…愛識が何故女になったのかを教えてくれた。
「あの爆発で肉体が死に魂だけが冬木に強制転送された時、僕の魂は弱り切っていた。必死に逃げ回っていたが…それも限界になった。乗り移れる肉体も無かった僕は止むを得ず…死の一歩手前のサーヴァントの肉体に巣食った…それが間違いだったんだ」
「間違い?」
「巣食うべき相手を間違えたんだ。汚染されたシャドウサーヴァント一歩手前の肉体に乗り移った為に急速に記憶や意識が次々と壊れた転々と魂を移植しながら彷徨い続けた所為か…もう色々と記憶が抜け落ちている」
『例えば、自分の家族の顔とかカルデアでの生活とかな』、と自嘲気味に話す愛識は痛々しかった。こうしている間も息絶え絶えという状態で、いつ死ぬかも分からない状態だ。
「それどころじゃない。余命も短い」
「なっ!?」
「ウルク1番の名医に診てもらった、巫女にも診てもらった…が、結果は同じ。あと2週間で魂は燃え尽きる…」
「あの固有結界なら魔力だって吸い上げられるだろ!なんで──」
「だが、汚染された肉体は僕の魂を腐敗させていた。今は神性を持つサーヴァントの体を借り受け今まで魂喰らいで誤魔化しているが…それも限界だ」
愛識は仕込み杖を突いてヨロヨロと立ち上がった。生気の殆どが抜けた…俺があの日見た天才の姿などどこにも無かった。
「偵察をサボってしまった…ギルガメッシュ王に怒られる……」
止めようとしたが、すごい剣幕で制して出て行ってしまった。もう愛識を助ける事は出来ないんだ………俺はその背中を見て嫌でも確信してしまったのだった…。
愛識 蓮
愛称:レン
年齢:18歳
趣味:魔術研究・音楽鑑賞
特技:固有結界の展開
概要:魔法の域に達するとも持て囃された若き魔術師。だが、レフの起こしたテロによって肉体が死んでしまい、偶然魂だけが冬木に飛び、死にたくない一心でシャドウサーヴァントの肉体に巣食った結果、魂が腐り続ける不治の病にかかってしまった。
因みに、現在は北米戦線で召喚され人知れず死にかけていたブリュンヒルデの肉体に巣食った為に腐敗の進行は鈍っている。