「よっと」
レイシフト先の風景は何とも言えないものだった。一面に砂漠や森、聳え立つ岩肌の山脈、遠くには海まで見える…不思議な気分がする。一見矛盾したような存在だが、本物である。モードレッドも魔力を感じているのか、同じく不思議な気分のようだった。
「近くに人の影は見当たらねぇな」
「うーん……」
一方で、マーリンは浮かない顔をしていた。不安からなのかブツブツ呟きながら杖で道を叩いている………と思った瞬間。綺麗な花が咲き始め、真っ直ぐ遠くへとそれが道のように連なった。
「これが、愛識が辿った道みたいだ。辿っていくとしよう」
「すげぇ………」
流石、親子2代に渡って仕えた魔術師だ。スケールが違う。ここで、薩摩から通信が入った。
『藤丸殿。現在、首都にて魔物が多数接近し交戦中。至急援護されたし』
「ウルクってどっちの方角だよ!?」
『座標を表示する。その方向に歩けばよい。幸い平地だ…すぐに着く。』
「分かった。すぐに行く」
『辱い』
通信を切った俺達は急いで道を走った。魔物…一体どんな怪物なのだろうか?そう思っていた俺の前に突然、人影が現れた。
「やぁ、急いでるみたいだね」
「誰だあんた?」
やや平和ボケしたような声で語るそれは女のような容姿をした何かだった。男なのか女なのかさっぱり分からないが…多分、男だろう。肩のあたりが男っぽいからな。
「その様子からするとウルクへ向かってる感じかな?」
「あぁ、すまないが今急いでるんだ。退け」
「退けだなんて…折角近道を教えてあげようとしたのに」
そう涼しげな表情で言う彼だが…モードレッドはすぐに引っ掛かりを感じたようだ。
「近道?嘘つけ。この周りは平地だ。近道する場所はどこにも無い───」
そう告げた直後、モードレッドの顔を何かが掠めた。それは……1本の鎖だった。
「勘のいい奴は嫌いだよ。全く、人間って奴は小賢しいったら──」
と言った直後だった。モードレッドは鎖を掴み、逆に引き寄せた。
「寝てろ」
「ぴんぐぅっ!?」
引き寄せた拍子に渾身の腹パンを咬まし、男の意識を一瞬で刈り取ってしまった。
「行こうぜ!」
「………お、おぅ」
気を失った彼を一瞥し、俺達は戦場へと向かった。
************************
ウルク 城壁西側
「怯むな!進め!」
俺達が到着した時にはウルクの兵士達は押され気味だった。薩摩達が暴れ回っている恩恵で追い詰められる事はなくジリジリ戦線を下げられている状況だ。
「藤丸殿か!応援、感謝する」
「敵の数は?」
「現在は巨龍1・獣5・海星7・蜥蜴10。戦線を一点集中させているようだ」
「オッケー、モードレッド!令呪一画使ってやるから遠慮せず暴れて来い!」
令呪を躊躇無く一画使うと、モードレッドはすぐに全身から魔力を放出した。
「漲ってきた!行くぜぇっ!!!」
スプマドールで地上を滑るように飛んだモードレッドは/クラレントを構え、粒子ビームを3発発射し蜥蜴型の魔物を3体仕留めた後、減速せず銃身に装備したクラレントの刃で獣型の首を掻き切る。ステップを踏むように蛇行しつつ魔物達の追撃を回避したモードレッドはノンルックで背面撃ちして海星型の魔物を3枚抜きして撃破。正面に立ち塞がり、頭に付いた刃を振り被った蜥蜴型の刃先を蹴って跳躍した直後に追撃するべく突っ込んで来た獣型が刃によって真っ二つにされた。
「スプマドール、フライトモード!」
──アルトリウム、認証。 スプマドール、フライトモードニ移行。飛翔 開始
跳躍の拍子に飛翔したモードレッドは上空から/クラレントを向け一斉に低出力のビームを機銃のように掃射し地上の魔物達を蜂の巣にしていく。
「あと一体──!」
巨龍型…所謂ファフニール型の魔物は城壁に迫ろうとして足止めを食らっていた。
「じゃあ、もう一形態見せますか!」
ビームを数発放ち、巨龍型の注意を引く。流石に頑丈な鱗には通じず、全て弾かれたが新たな脅威と認識した魔物はモードレッドに向けて飛翔した。対して更に上へと上昇したモードレッドは/クラレントの銃身を空に向ける。
「スプマドール、ダイナミックソードモード!」
──アルトリウム、認証。 スプマドール、ダイナミックソードモードニ移行。合体 開始
今度はスプマドールそのものが/クラレントに纏わりつき、その形状を変形させると…巨大な1本のクラレントとなった。刀身から魔力を放出した事で更に巨大ビームサーベルへと姿を変えた。
「一刀──!」
モードレッドを噛み砕こうと口を広げて上昇する巨龍型目掛けて彼女は一回転しながら幹竹割を食らわせた。クラレントが頭から尻尾までスライスし、縦方向に真っ二つにされた魔物は斬られた事を理解出来ないままに墜落した。フライトモードへとスプマドールを変形させたモードレッドは綺麗に大地へと着地した後、/クラレントで所謂「サンライズパース」をキメた。
「両断!!!」
その見栄切りと同時に残骸が派手に爆発した。この間、僅か10分………。
*******************
「ここが我等カルデア組の臨時拠点だ。ボロ屋であるが、その点は容赦いただきたい」
「いや、寧ろ短期間で住居まで用意してくれた新撰組の手腕に感謝したい」
堂々と新撰組の旗が掲げられた(曰く、「土方お手製」)臨時拠点の施設に入ると、俺達はようやく落ち着く事が出来た。
「三日三晩不眠不休で前線に出たところ王から認められた…というのが大きいですね。正直沖田さん死にかけましたけど」
沖田がぶーぶー文句を言っているが、タダで家を出してくれるには相応の活躍が必要だ。『
「さてと…飯でも食うか」
土方はそう呟くなり、勝手に拠点を出て行ってしまった。買い物らしいが…大丈夫なのだろうか?
「!…そうだ。薩摩、愛識は見なかったか?」
「愛識殿か。いけ好かない男だが……奴の反応は間違いなくこの街にある。恐らく何処かには居るはずだ」
「じゃあ、明日捜索しよう」
「では、拙者は前線に出る。藤丸殿は合流次第連絡を」
「分かった」
その日、俺は夢を見た。『死にかけた女が夜空を見上げながら助けを呼ぶ』という変な夢を……。
夢で見た女の正体とは?それは次回。新撰組、有能