「さぁ、起きてください。早寝は三文、早起きは三文…つまり早寝早起きは六文も徳となります」
「いでで…その理屈はおかしいだろ……」
ナイチンゲールが近くにあった鉄骨に鉄板をぶつけ、その騒音で俺達を無理矢理起こした。見ると、彼女が用意したのであろう食事と即席の歯磨きセットが置いてあった。用意周到って奴だ。
「食前の歯磨きと食後の歯磨きをお忘れなく。幸い、水道がありますのでそちらをご利用下さい」
「ありがとう、ナイチンゲール」
内容は豆のスープ・トースト・目玉焼きというシンプルな物。俺がいつも持ち運んでいる調理器具で作ったようだ。全員で歯磨きと手洗いうがい・洗顔を済ませてから席に着いた。
「野菜が少ない事だけが悔やまれます」
「まぁ、それは仕方ない。ともかく飯にありつくとしよう!」
「「いただきます!!!」」
俺達が食べている間はナイチンゲールがライフル銃を担いで周囲の監視をしていた。気は休まらない。補給地点を確保しても何時気付かれるかを恐れている。いや、もう気付かれているのかもしれない…ただ、俺達に出来る事と言えば見つからない事を祈るだけだ。
「───機械兵を数機確認しました。進行方向で言えば全く別ですが警戒は必要です」
「マスターはこの状況でよく食うなぁ…」
「今食ってるこいつが最後の晩餐になるかもしれないだろ?だから美味しく戴くのさ!」
「…なんというか肝が座っていますね」
食事一式を完食すると、俺もライフル銃を手に物陰から様子を伺う。俺達は居ない…そういう事にしている。いや、してもらいたい。よく見ると、機械兵数機の後ろに馬車や馬に乗ったアメリカ人の一個中隊が駆けている。絶対に見つかってはならない。
「絶対に音を立てるな…!静かに…」
唇に人差し指を当て静かにするようジェスチャーを送り、全員いつでも射撃体勢に出られるようにしておく。ロマンが緊張した面持ちで敵の動きをモニタリングしていく…一隊はこちらを素通りして居なくなった。
「よし、武器も補充したんだ。次の補給地点を作るか?」
「止めた方がいい。次もまた霊脈が見つかるとも限らないし…」
「───!先程の部隊が戻って来ました!!!」
「やっぱ気付かれてたか!」
「オレが気を引く!全員脱出しろ!!!」
モードレッドは工場で生産された武器を担ぎ、体当たりでシャッターを破壊して飛び出した。
飛んで来る銃弾を躱しながらライフルモードのクラレントと軽機関銃を手にどちらも高速連射しながらヘイトを集める。一隊の注意が逸れた頃合いを見て俺達も脱出した。
モードレッドの方をチラリと見ると、複雑な軌道を描きながら銃撃を回避しつつ、ソードモードにしたクラレントを機械兵の一体に投擲し深々と刺さった直後に急速接近して剣を引き抜く要領で両断。鉄の塊となった機械兵を盾に敵の掃射を防ぎながらブースターを噴かせ、それを蹴り飛ばして機械兵をもう一体潰す。続けて後ろ跳びで銃弾を回避した彼女は突進してきた機械兵の頭を踏み潰し、機関銃を接射して撃破した。
「モードレッドの援護は私が!」
「頼むぞ!ベディヴィエール!!!」
先程開発したグレネードランチャーを手にベディヴィエールがモードレッドのカバーに入り、徹甲榴弾を撃って数機の機械兵を落とす。2人の射撃によって機械兵が全員落ちた事を確認した彼はスモーク弾を発射し、モードレッドに合図を送って共に戻って来た。
「後はあっちの方で私達の言う事を聞く機械兵を量産してくれるから気付かれて破壊されるまでは上手くいく筈よ」
「助かる」
後方を確認すると、工廠を確認しに行った一隊が機械兵の襲撃を受けていた。まぁ、この作戦は黒ジャンヌの手柄だな。
「そろそろガス欠か。無茶な動きもしてたしな」
「バッテリーは常に充電しておいてください。1個を遣り繰りするのもギリギリなのですから」
メーターが底に付く手前に来た事を確認したモードレッドは腰に提げていたバッテリーを補給口に装填してエネルギーを供給する。このバッテリーは面白い発明品で「サーヴァントの運動エネルギーの余熱を電力変換して充電する」というマスターの魔力さえあれば無尽蔵に電力を得られる代物だ。
他のメンバーもそれぞれに補給を行いながら前進を続けた。
走り続ける事10分…ロマンから通信が入ってきた。
「ロマン、どうした?」
『7時方向に敵を確認。この反応は…!』
指示された方角を確認すると、変な服装に真っ白な肌を持つ男が走ってきていた。サーヴァントに間違いない。だが……
「間違いねぇ…神性を持つ個体だ。出来れば出会いたくなかったんだけどなぁ」
「我々でも相手に出来るかどうか…」
「怖気付いてはいけません!ここは私が!」
アルトリアは進路を変え、サーヴァント目掛けて突撃する。シールド裏に新設した小型ミサイルを発射。板野サーカスのような軌道で突撃した火薬の塊はサーヴァントの持つ槍に薙ぎ払われ爆発した。だが、それは唯の爆発ではない。
「魔力拡散チャフです…チャフが舞っている間は魔力を纏えません!!!」
先程、ダ・ヴィンチが発明した化学兵器だ。サーヴァントの体から放出される魔力を拡散させる事で身体能力の向上や魔力を駆使した技を封じるトンデモ兵器である。
対してこちらは同じく槍を持っている上に推進器の塊であるおかげでかなりの機動力を確保している。後は実力の差で決まる。
「面白い…!」
対するサーヴァントはそれを理解したようで槍を構え迎撃の構えを取る。ブースター全開にしたアルトリアも承知の上でシールドを前面に展開して突撃する。
「───っ!」
「はぁあああああああああああっ!!!」
2つの槍が交錯する。だが、鍔迫り合いに持ち込むと馬上槍は不利になる為、すぐにシールドを動かして無理矢理引き剥がし距離を取る。そのまま大きく旋回し再び槍を構えて突進した。
「アルトリア強ぇな…」
「そろそろ決着が付くぞ」
シールドを傾けサーヴァントの突き出した槍を滑らせるようにして穂先を反らしたアルトリアがサーヴァントの腹目掛けて一撃を突き込んだ。だが、それは彼の咄嗟の動きにより肉に届く事無く槍の柄に阻まれる。
「まだまだ!!!」
アルトリアが槍から手を離す。しかし、その柄はシールド裏から展開したマニュピレーターに接続されしっかり固定していた。そのまま腰から鈍剣を抜き放った彼女は頭を叩き潰すようにそれを振り下ろした。
「──かはっ!?」
辛うじて離れる事に成功したサーヴァントだったが、左腕に直撃し骨を砕いた。膝をついた彼の首筋にアルトリアはロンの槍を向けた。
「決着です。投了してください」
「ふむ…よく分からずに負けてしまったが……腕の立つサーヴァントである事は分かった」
取り敢えず、事情聴取出来る人間を見つける事が出来ただけでも大きい。こいつからたっぷりと情報を吐いてもらうとしよう。
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なるほど、この世界の概要がおおよそ吞み込めたぞ。この特異点には2大勢力があり、アメリカ軍と「何故か無限に湧き続けるケルト人」の2つ。今全てを吐いてくれた男…カルナの説明ではそういう事らしい。
「かたやロボットを量産する勢力、かたや無性生殖で大量に生まれてくるおっさん勢力…か」
彼曰く、自身の所属しているアメリカ軍のリーダーはそうとう頑固らしい。頑固ならまだマシだろう。もう片方はドS痴女らしいからな。
「ふむ…事情は分かりました」
ナイチンゲールは腕組みをしながら俺の貸した本を読んでいた。借り物を戦場に持ってくるんじゃない!
「ではこうしましょう。我々は英雄カルナの活躍により敗北し、連行されます。そこで貴方は我々をそのリーダーの前に突き出すのです。彼の説得は私にお任せを。」
そう言うと、彼女はカルナの傷を癒した。因みにカルナを除く先頭にはナイチンゲールが立ち、カルナの背中にペッパーボックスピストルを押し当てていた。
「じゃあ、早速カルナのアジトへレッツゴー!」
味方は多い方が助かる。それにケルト人にアメリカを乗っ取られたら人理定礎修復後にシカゴピザが食えなくなるだろ?
キャメロット編の構想練りとアメリカ編のネタ切れ具合がすごい……