隣人だから   作:ヤンデレ大好き系あさり

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今回地の文多めかも。


第五話

 「どうでもいい話なんだけどさ。俺、さっきの初めて(・・・)だったんだけど」

 

 我が家の食卓にて。朝田お手製の親子丼をスプーンですくいながら、大体一時間程度前から言いたかった事を口にしてみる。すると朝田はぴくりと体を震わせた後、何でもなかったように食事を続けてこう言った。

 

 「女々しいわね。私もよ」

 

 これでお相子ね、とでも言いたげにふんと鼻を鳴らす朝田。うん、そう言う問題じゃあないと思うんだ。

 

 「そうっすか。ところでさ。俺、今どんな顔してお前を見ればいいか分かんないだけど」

 

 「奇遇ね。私もよ」

 

 「……」

 

 いやいやいや。それはないでしょう、朝田さんや! ついさっき『ねぇ先輩。キス、しませんか?』とか甘ったるい声で囁いて(誘惑して)おきながら、返事を待たずに思いっきりキスしたのは誰ですかねぇ。しかも深いほう。さながら貪り尽すようなめっちゃ濃い奴。

 

 いやね、途中まで心臓がはち切れそうになるくらい純粋なラブロマンスぽかったのにね、最後の最後であそこまで激しいと風雅も糞もないんですよ。別にファーストキスに変な幻想を抱いている訳ではないが、あそこまで獣染みた蹂躙を経験してしまうと苦言の一つや二つくらいは言いたくなるのである。

 

 考えてみてほしい。大雨の中、一つの傘の中で二人の男女が身を寄せ合っている。そんな最中に後輩の「キスをしたい」という懇願。返答に困った先輩の口をその後輩が無理やり奪う。「結構よくね?」とか、そんな感じの感想を抱いたのならそれは認識が甘い。マジで甘い。

 

 いつもなら大抵の事は笑って済ますが、流石に反省の色が見られないようであれば俺にも考えはある。暫く無言になって、朝田をじっと凝視した。

 

 「……な、何? 急に静かにならないでよ」

 

 視線というのは非常に強力な物で、いつもは強気な朝田でも無言の圧力の前では委縮していた。自分でいうのもアレだが、これでもリングに立つとシンプルに「恐い」とか「ジャパニーズサムラーイ」と恐れられる俺である。これくらいは朝飯前である。

 

 こちらの視線に耐えきれなくなったのか、何か悟ったような真剣な顔つきで朝田はこう宣った。

 

 「勢いって大事だと思うの」

 

 「おい何口走ってるんだ落ち着け」

 

 朝田は若干、いやかなり混乱している。こんな状態の彼女を一目見れば、反省するしない以前にそもそも冷静ではないという事が分かる。因みに俺も結構テンパってる。

 

 というか、である。そもそも立場が逆ではないだろうか。俺の読んだラブコメディな漫画では普通、何かやらかした後にこうした場面で気まずくなるのは男の方だった筈だ。それがどうして女の子ほうが男側(主人公)の如く焦ってるのか。

 

 とはいえ。かれこれ半年近く同居に近い生活を送ってたわけだから、まぁ、朝田の好意には割と前から気づいていた。勿論、心の何処かでは恋愛経験ゼロのマセガキによる気のせいか願望ではないのかという思いもあったが、今回の件でそれが勘違いではないという事も証明された。(流石にディープキスまでされたら認めざるを得ないだろう、うん)

 

 そして、実のところ俺も朝田の事はかなり好ましく想っていた。ストレートに言うと好き、否、大好きである。大体半年も同じ屋根の下、彼女の分かり辛い優しさを認識すればすぐ落ちる。だから朝田と同じ感情を抱いていたことは素直に嬉しいし、なんなら俺の方からキスしたかった。

 

 しかし、そうもいかない理由もしっかりあった。

 

 「……お前、風邪引いたらどうするつもりだよ」

 

 よく考えてみれば分かることだ。朝田の身長が大体150センチ後半と考えても、俺の身長は大体175センチ程度なので、そこそこ頑張らないと彼女の唇は俺の顔まで届かない。つまりだ、その時彼女が取らざる得なかった行動は背伸びと手を首に回す(・・・・・・)ことだったのである。

 

 そして傘を持っていたのは朝田だ。当然傘を持ちながら手を回せる訳がないので、傘は落とされた。とすると朝田は雨に濡れる。しかもかなり長い間行為に及んでいたので、その時間に比例して俺達はびしょ濡れになる。いや、俺は元々濡れていたから別に良いとして、朝田まで濡れてしまったら彼女が傘を持ってきた意味がまるでない。

 

 だから、少しだけ怒ってる。

 

 「え、いや、その。そっちなの?」

 

 朝田はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。別におかしなことは言ってないと思うのだが。そっちも何も、ソレしかないじゃないか。

 

 「当たり前だろうが。折角お互い好き合ってる事に気づいたのに、その翌日に朝田が風邪ひいたら俺は凄く悲しい」

 

 言ってくれたら、超恥ずかしかったかもしれないが、それでも風呂上がりにキスくらい頑張ってやってみせた。あの雨の中というシチュエーションは確かに最高だったかもしれないが、やるんだったら俺からするべきだったのだ。これで朝田が風邪を引いたら俺は本当に自分のことを許せなくなる。

 

 そんな事を言うと朝田は「な、な、なっ」とわなわな震えて、次の瞬間にはグイッと顔を寄せてくる。シャンプーのいい香りが鼻に届くが、そんな感想を抱く前に朝田はぷくっと頬を膨らませて捲し立てる。

 

 「それを言ったら貴方だってぐちょ濡れだったじゃないっ!」

 

 「俺は鍛えてるから大丈夫。それよりも俺は朝田の方が心配だ」

 

 「そ、そんな筋肉理論で自分の体調をどうにか出来る訳ないでしょう!?」

 

 「そう思うんだったらせめて風呂上がりに、最悪アパートに戻るまでは我慢するべきだったな」

 

 「ぐむ、むぅ、それは、そう、かも、しれないけど……」

 

 歯切れの悪くなる朝田。思った通りその後の事は何も考えてなかったらしい。

 

 「俺は朝田が病気になるのは絶対嫌だ。朝田のご飯が食べられなくなるのも一緒に登校できないのも嫌だし、苦しむ朝田の姿を見るのはもっと嫌なんだ」

 

 「……よくそんな事、恥ずかしがらずに言えるわね」

 

 「恥ずかしくないもんか。それに、有無を言わさず俺のファーストキスを奪った朝田には負けるよ」

 

 俺が言いきると、朝田は「……言わないでよ」と顔を赤くして俯いてしまう。今まで何度も感じてきた事だが、今はより一層そんな彼女の仕草が愛おしく思えてくる。やっぱり、以前までは一歩引いて朝田と接していたからなのかもしれない。

 

 あのキスによって、俺が必死に超えないようにしていた一線を朝田の方から踏み越えてきた。あれだけ抑えていた感情が決壊したダムから飛び出す水のように激しく心を打ち付けるのを感じる。

 

 しかし、うすうす気づいていたが、とんだヘタレな上に面倒な男だ俺は。これだけ切ない思いをしておきながら、まだどこかこの事実を認め切れてない節がある。

 

 再度確認しよう。

 

 俺は間違いなく朝田の事が好きだ。そのことに間違いなんてない。好きな部分を挙げろと言われたらそれこそ星の数だって超えて見せる自信がある。それくらい、自分でも驚くくらい、陳腐な表現だとしても、俺は本当に彼女の事が好きなのだ。

 

 恋愛弱者の俺でもこれが恋であることくらい分かってしまえる。逆に将来これ以上の愛情を、家族以外の人間に向けることなんて俺には到底考えられない。その家族だって、恐らく、朝田に対する愛情の方が大きくなるだろうという確信がある。

 

 ―――でも、朝田はどうなのか。

 

 愛に見返りなんて必要ないという言葉はあるが、一度その人を愛してしまった以上は自分も愛されたいと思うのが人間として当然の欲求のはずだ。少なくとも俺は愛されたい。どれだけ醜く、意地汚いと思われようと、俺は朝田を愛すのと同様に朝田にも愛されたいのだ。

 

 だがその実、俺はまだ一度として彼女の口から好きだと告げられてない。

 

 だから、俺は確かめねばならない。幸いなことに、それ(・・)を確認する術を俺は知っている。以前まではやろうと思ってその度に諦めてたその手段、今の俺なら言える(・・・)

 

 息を大きく吸って、いろんな感情と共に吐き出す。

 

 

 

 「朝田、俺と付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 ……思った通りだ。これは羞恥心で死ねる。どんなボクサーのパンチだって捌ききって見せる自信はあるが、これはちょっと心が折れそう。

 

 何がいけないって、返事が来るまでの時間がメチャクチャ遅く感じてしまう事だ。時間が本当に遅くなってしまったような感覚。リング上でもここまで集中したことは無いかもしれない。

 

 

 

 

 

 「……こちらこそ喜んで。不束者ですが、よろしくお願いします。先輩」

 

 

 

 

 

 求めて止まなかった告白の返事は、この場で言うにはちょっと早すぎるようなセリフだった気がする。だが、そんな事なんて気に留めない程に、その時の朝田の笑顔は文字通り輝いていた。

 

 生まれて初めて泣き笑いと言うのを見たし、経験した。

 

 

 

 

 

 あ、因みにその後お互い恥ずかしくなって顔真っ赤にしながら親子丼を平らげました。

 

 

 




自分の技量ではこれが限界。
更新が遅れた理由も試行錯誤しまくったからです。
恋愛小説書いてる人って本当に凄いんだなって再認識しました。
やりきった感はあるんですけど、こうした方が良いっていう指摘が凄く欲しいです。
場合によっては修正も辞さない覚悟、特に最後らへん。

あ、あとヤンデレについて語りたいがためにTwitter始めました。ユーザー名は同じです。フォローしてくれると嬉しいですw

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