GGO-魔剣士と女神.side story- 作:ソル@社畜やってます
MS娘よろしくデュナメスorケルディムorサバーニャ装備のシノン、ありだと思います!
「メイチュウ、メイチュウ」
「ハロのサポートのおかげよ」
ビルの屋上で迫りくるバタラを正確にヘッドショットで落とし続けるシノンは、30機目を撃墜したところで一旦スコープから顔を離して腕を伸ばす。
いくらGGO随一のスナイパーといえど、永久に集中力を保っていられるわけがないため、当然休息をとる必要がある。[ほら、水]
「ん、ありがと」
8から伸びたアームを介してペットボトルを受け取ると一気飲みして溜まった空気を吐き出す。魔改造されたことにも慣れてきたのか、8は戦闘以外でのサポートも始めつつある。
本来ならば通信で敵の情報をリクのインカムや特殊バイザーに送るのが8の仕事だが、今回はハロと共にシノンの周辺の索敵と狙撃の誤差修正といったサポートをしている。
「さて、いくわよ…」
再び伏せるような体制になってスコープに右目をつけ、トリガーに指をかけた瞬間、突然8からけたたましい音が鳴り響いて、シノンは慌てて起き上がった。
「ちょ、いきなり何よ!」
[リクがヤバい!HPがいきなり減って部位欠損してる!]
「リク、ピンチ!ピンチ!」
「え…?」
8のメッセージとハロの機械音声を聞いたシノンはすぐさまヘカートのスコープ倍率を最大にしてリクが向かった方向を見る。
砂煙が次々と舞い上がっている中、やがてその中から右腕が失われているリクが飛び出して、残った左腕だけで砂煙の中にいる何かへとビームの雨を浴びせる。
巨大な手が砂煙から現れると、リクはバックダッシュでかわして距離をとる。
残念ながら表情を読み取ることはできないが、悪戦苦闘しているであろうことはシノンは容易に推測できた。
「リク…!」
ヘカートのバイポッドを折りたたんでハロをアイテムウインドウにしまうと、8を片手で持ったまま屋上から飛び降りる。
[お、おい!なにしてるんだ!]
「決まってるでしょ!リクを助けに行くのよ!」
上手く着地して落下ダメージを軽減させると、バタラがいる中でもなりふり構わずリクの下へと全力で走り始める。
「(リク、お願い…!無事でいて!)」
「ちっ…!」
自身の10倍はあろうかというその巨体の攻撃にリクは舌打ちをしながら、動きづらい砂の上で右腕が欠損してバランスが取りづらい中で回避を続ける。
幸いというべきか、一定以上の距離がない限り無数の羽による攻撃をやってこないことはこれまでの流れで掴んでいるため、ギリギリの距離で戦闘を続ける。
しかしながら羽による範囲攻撃がないとは言っても、その巨体を生かした単純であるが故に強力極まりない腕のなぎ払いや体当たり、頭部からのメガ粒子砲と、決して楽なものではない。おまけに装甲がありえないほど堅牢なせいでリクの射撃はほとんどダメージが通っていない。すでにおよそ100発は当てたであろうビームのダメージは、HPゲージ5本ある内の10%も削れていない。
リクはその堅牢さから射撃ではなく近接戦闘でなければまともにダメージを与えられないことを理解した、まではよかったのだが現状近づく手立てが無かった。
レイドイベントの性質上、こういった膨大な力を持つ敵に対しては複数人で協力して立ち向かうのが最も安全かつ効率の良いやり方なのだが、リクの周辺にプレイヤーが誰一人として存在せず、救援を求めようにも離れた地点にいるグループは目の前にいる同様の敵に苦戦を強いられており、チームを組んでいるメンバーは遥か後方で別動隊として動いている状況だ。
「っ!!」
常に脳が焼けそうなほどに打開策を思考し続けながら戦闘を続行していた影響で、巨大な握り拳を間一髪のところでかわしはしたが、とってはいけない距離が開いてしまった。
化け物じみた姿に似つかわしくない天使のような背中の羽が展開されると、内部から無数の小さな羽が一直線に、それも凄まじいスピードで迫ってくる。
物理的な攻撃である以上多目的兵装グローブの防御では意味がないことは既に把握している。
リクは飛来する羽だけに視線と意識を集中させ、その場にとどまって足に力を込める。
「(……………今だ!)」
わずかでも間違えれば直撃するというタイミングで、リクはサイドステップで羽を避ける。無数の羽は後方へと飛んでいき、リクはここぞとばかりに左手にビームザンバーを構えて化け物へと突進する。
一歩間違えればHPが全損してしまう中で一か八かの博打にうってでたのは、技後硬直を狙うためだった。
先程の攻撃をくらった直後、化け物は攻撃を続けることはなく回復剤を使用する時間があったため、HPが回復したならば再び羽による攻撃を誘導し、多少の反撃は覚悟の上で攻撃することが可能なはずだと推測を立てた。
残念ながらまだ右腕の欠損が戻ってはいないが、HPは約8割まで回復しているためこの状況なら行けるとリクは思い実行に移した。
実際羽の攻撃による硬直で目の前の化け物は何もせずにとどまっている。
-これならいける。そう確信したリクは少しでも相手の攻撃手段を潰そうと、高くジャンプしながら頭部を狙ってグローブからワイヤーを発射、そして命中した。
あとはそのままワイヤーを引き戻す力を利用して接近、頭部を潰すだけ。
そう考えたリクの目の前で、突如化け物が両腕を胸の前で交差させる、防御と思わしき姿勢をとった。
しかし巨体のせいで頭部は隠しきれていない上に、ワイヤーは千切れることなく存在している。
「どういうつもり…………!」
防御の意図を理解しかねたリクは、背後から聞こえる風切り音に振り向いた瞬間…回避したはずの無数の羽が全身を襲い、ズタズタに切り裂いた。
そう、無数の羽はただの物理的兵装ではなく化け物自身の手で遠隔操作可能な特殊兵装だったのだ。先の防御姿勢は迫り来る羽から身を守るためにとった行動であり、もとよりリクの攻撃になど意にも介していなかったのだ。
実際に化け物のHPはリクを攻撃したままの勢いで自身に当たった羽によって確実に減少しており、もし防御姿勢をとっていなかったらどうなっていたかなど容易に推測できる。
羽の直撃を受けたリクは右腕だけでなく両足も欠損、残りHPは10%を下回り全身に痛々しい赤いダメージエフェクトが現れている。ワイヤーも切り裂かれたことでリクはボロボロの体で砂の上へと落下した。
「くそ、野郎…誘導兵器なんか使いやがって…」
リクを嘲笑うかのように見下ろしていた化け物は、やがて巨大な手を握って振りかぶった。
リクは潔く敗北を認めると、怖じ気付くことなく拳を振り降ろしてくる化け物を闘志を失ってはいない目で見据えながら言った。
「待ってろよ…すぐにそのふざけた体バラバラにしてやるからな…!」
まるで流星のような拳が直撃し、その衝撃で辺りに風と砂が勢いよく巻き上がる。
そしてその跡には、カットラスの柄をもしたビームザンバーだけが残った。
「なによ…この大きさ…!」
全速力でリクのもとへと駆け付けたシノンはその場にいた禍禍しい巨体の化け物を見てそう呟く。
こんな化け物とたった一人で戦っていたのか、と思うと同時にシノンはその場にいるであろうはずの姿が無いことに気づいた。
「リク…?リク!どこにいるの!?」
[シノン、アイテムが落ちてるぞ!]
ヘカートを抱いたまま焦った表情で辺りを見回すと、8の言葉で砂の上に見覚えのある物体があることに気づき、シノンはソレを拾いに走った。
シノンの存在にようやく気がついた化け物は頭部から粒子砲を発射するが、それは直撃することなくシノンの前で見えないバリアによってはじかれるように無力化される。
シノンは目的のものを拾い上げると、ソレがなんなのか、そして何が起こったのかをすぐに理解した。
「よくも…リクを…!」
SAOとは違いこの世界でHPが0になっても死ぬことはないため心配はないが、それでも愛する人を助けることができなかったことでシノンの中に怒りがふつふつと込み上げてきて、拾い上げたものを無意識の内に強く握りしめる。
ソレを腰にマウントし、8を無造作に投げ捨て、ボルトハンドルを引いたヘカートを両手で構えると目の前の得体のしれない化け物へシノンは吠えた。
「来なさいデカブツ!あんたは、私が倒す!」
主人公死す!(本当に死んではないけど)
あそこからどう勝てと…?というよりディビニダド(話に出てる化け物)相手にアレ無しで1対1とか…ねえ?
というわけで次回の合言葉《セーフティ解除!》