【完結】藤丸立香のクラスメイトになった 作:遅い実験
高校受験も無事終わり、日々穏やかに過ごしております。
人理焼却まで、後一年。
◆
クリスマス。
正確にはクリスマス二日前。
私は立香と共に食材の買い出しに来ていた。当日やイヴは家族や友人達とのパーティーを行うので、その為にたくさん食材やお菓子とかを買っておくのだ。ちょっとギリギリなスケジュールな気もするが、鮮度とか保管場所の関係もあるので、しょうがないことかもしれない。
明後日に迫った聖夜に向けて街はクリスマスムード一色だ。イルミネーションが巻き付けられた大きな樹木がピカピカと瞬き、至るところでクリスマスソングが流れている。
私は買い出しのついでに美味しそうなケーキ屋さんにあたりをつけて、クリスマス後に安くなったケーキを買うためにメモをとっていた。
「…何してるの?」
「メモだよ?」
「なんの?」
「ケーキ」
「…んん?」
頭の上に大きな疑問符を浮かべた立香は、そのメモの内容を覗き込んできた。
「…買うの?」
「まだ買わない」
「…んんん?」
立ち止まって悩み始めてしまった立香に種明かしをする。安くなるのを待つんだよ。主婦のお得テクニック的な?…主婦ではないな。むしろ独り者のテクニックだった。
「へー」
じっと店名を見つめた後に、納得したように離れていった。
「ごめんね、待たせて」
「うん、もういいの?…じゃあ行こうか」
ゆっくりと、寄り道をしながら、私たちは買い出しを終えていったのだった。
◆
12月26日。クリスマスパーティーの余韻が抜けきらない朝のこと。
布団の誘惑から逃れられずにぬくぬくと怠惰を貪りながら、腕の中のぬいぐるみをぎゅうと抱き締める。
先日のクリスマスパーティーで立香から貰った山羊のぬいぐるみは、寒い冬の朝にはぴったりだと思う。抱き締めていると温かくなってくるし、肌触りももこもこと心地よいから。…冬とか関係なく一緒に寝てるかもしれないけれど。
「…ふふ」
暖かな微睡みに身を委ねる。このまま二度寝に移行するのも魅力的かもしれない。
私がそんな悪魔の誘惑に屈しようとしていた時に、スマホがピコンと音をたてた。
誰だ。私の至高の眠りを邪魔するヤツは。
『今大丈夫?』
立香からの連絡で、意識が一気に覚醒する。今何時だろう。時計を慌てて掴み、時間を確認すると、…。え?
「もうじゅういちじだ…」
立香に今起きたと返信し、大慌てで身支度を開始する。もうこんな時間とは。
もう一度鳴ったスマホを確認して、顔色が三段階ほど変化した。
『そっか。起こしてごめん。今からそっちに行こうとしてたんだけど、止めたほうがいい?』
どうしよう。どうしようか。立香の家からここまで何分だっけか。ええい、ままよ!
『大丈夫』
さあ、タイムリミットはあとどれだけか。自分を追い込み私史上最速で身支度を整えた。
「ふう」
そこまで慌てることもなかったかもしれない。しばらく経つが立香はまだ到着していない。
もうそろそろ昼食時だし一応二人分用意しておこうかな。いらないなら夕食にすればいいだけだしね。
昼食の準備も半ばを過ぎた頃に家のチャイムが鳴った。玄関を開けると寒そうにしている立香が立っていた。
「おお、エプロン装備だ」
「…いらっしゃい」
「お邪魔します」
勝手知ったる私の家とばかりに荷物をゆっくりと床の上に置くと、洗面所に手を洗いに向かって行った。清潔なのはいいことだ。ナイチンゲールさんもお喜びだ!
キングゥごっこを脳内で行っていると、立香が持ってきた荷物、買い物袋に記載された店名が目に入る。
あれ?これって…。
「私がメモをとっておいたケーキ屋さんの…」
自分の頬がゆるんでいくのが分かる。そうかそうか、メモをじっと見ていたのはそういうことだったのか。
こうなれば立香には、私特製の昼食をいただいてもらうしかないな。
私は気合いを入れて台所に向かうのだった。