クッソ遅れました。申し訳ございません。
しかも凶報です。仕事が始まったのでこれからは更に遅れる可能性大です。
それでも続けようと思いますので、どうかこれからも読んでくれると幸いです。
「いやあ、それにしても話を聞けば聞くほどあっちの世界と色々違いますね。まさかこっちのカズマがそんなに早く囚人になっているなんて予想外です。というかなんですか国家転覆罪って。よくまあ助かりましたね、それ。」
「いやホントにな。正直牢屋にぶち込まれた時はどうやってこの世界から逃げ出すか本気で考えたからな俺。」
「やめて下さいよ、こっちの皆が悲しみます。もう一人の私とダクネスは特に。勿論私だって悲しみますよ。平行世界とはいえ自分の夫がいなくなるなんて。」
「お、おう。・・・あの、サラッとそういう発言するの本当に心臓に悪いんで事前にそういう雰囲気とか作ったり手紙とか送ってくれると助かります。」
「前半は兎も角、後半は相当頭悪い事言っている事に気付いているんでしょうかこの男。」
大人めぐみんがこの世界にやってきて一日が経ち、今俺達はアクセルのとある喫茶店に居た。アクア達は屋敷に残ってもらった。この場に俺と大人めぐみん以外の人物が居ると面倒なのだ。
その時にめぐみんが大人めぐみんと一悶着があったようだが、俺はどんな会話があったのかは知らない。だが最後にはお互いに友情を深めるように握手をしていたから問題は無いだろう。
まあそれはそれとして、今は目の前でテーブルに突っ伏しているこの盗賊の姿をした少女から結果を聞かなければ。
「「それで、どうだったんですか?エリス様。」」
「あなた達はもう少し神様を敬って下さい!!私は便利屋ではないんですよ!?」
その点は申し訳ないと思う。というかその姿でその口調になる辺り、本当に大変だったのだろう。
何故こんな状況になったのかは昨日起こった召喚事件、その後の出来事まで遡る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ウィズの店から出た後、まず俺達は大人めぐみんをどうやって元の世界に帰す事が出来るのか、それぞれの伝手から情報を集めていた。
とはいえ元々異世界なんてものに詳しい人物なんて限られている。
そう、女神であるエリスだ。
死者の転生先の道案内をしてくれるエリスならこの問題もなんとか出来るかもしれない。
ちなみに一応元女神であるアクアは、
『はあ?このエリート女神である私が平行世界の調整や管理なんて面倒臭い上に地味な仕事をやる訳ないじゃない。そんなのは見習いの女神や天使のやる事よ。だから平行世界の移動方法なんて知らないわよ。』
なんて事ほざきやがった。相変わらずあの駄女神役に立たねえ。
なので俺はこの事をエリスに相談する為、クリスの元に行こうと思ったのだが・・・。
「なあ、別に屋敷で休んでてもいいんだぞ?とりあえずクリスから送り返す神器があるかどうかを聞くだけだし。」
「いえ、私もこの世界のアクセルや冒険者、一般知識などを知っておきたいので、折角なのでカズマについて行こうかと。それに私もクリスに少し用があるので。」
「そ、そうか。」
・・・なんか大人めぐみんまでついて来た。
正直エリスと二人だけの方が話がしやすいので悩んだのだが、実際に大人めぐみんを見せた方が説明も楽かと思い、同行を許したのだ。
しかし大人めぐみんがクリスに一体なんの用があるのだろう?そもそもこっちのクリスと大人めぐみんは面識が無い筈だし。
そんな事を思いながら俺達は冒険者ギルドに着いた。常にクリスが此処に居るとは限らないが、それでも居る可能性としては此処が一番高い。
そしてギルド内を見渡すと運良くクリスを発見した。どうやら少し遅めの朝食を食べているようだった。
「おーい、クリスー。ちょっといいかー?」
「ん?助手君じゃん。どうしたの一体。ていうかその人は?」
声をかけるとこっちを向き、隣の大人めぐみんを見て疑問符を浮かべる。
「実はちょっと話したい事があってな。此処じゃなんだし、前に行った事がある喫茶店に来てくれないか?」
「ああ、あそこの?それはいいけどどうしたの?何か相談事かな?」
「ああ、飛びきりの相談事だ。」
「?」
此処で話してもいいんだが、エリスと話をする為にも今無理に大人めぐみんの注目を集める状況は作りたくない。万が一ギルドの冒険者達にこの事が知られて騒ぎにでもなったら相談どころではなくなる。
クリスは疑問符を浮かべながらも俺達について来てくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・はああああああああ!?平行世界からめぐみんを呼び出したぁ!?何してんの君達!?」
「おいクリス、いくら人気が少ないと言っても全く人が居ない訳じゃないんだからもう少し静かにしてくれ。他のお客様に迷惑だろ。」
「あ、ごめん・・・って違う!!どうすんのさ!?平行世界に送り返す神器なんて聞いた事ないよ!?」
「うげ、マジか。出来れば神器を回収して送り返すのが一番良かったんだが。」
しかしまあこれは予想していた事だ。そうそう都合良くそんな神器があるとは思えないし。だからあまり期待はしていなかった。
・・・いや、ちょっとは期待はしていたけれども。
けれどこれで俺が思いつく方法はエリス様に丸投げ大作戦しかなくなった。
それをクリスに伝えようと思うが、大人めぐみんが同席している中でエリスと話をするのは少し面倒だ。
とりあえず大人めぐみんの用とやらを済まして早めに屋敷に戻ってもらおうと思っていたら、大人めぐみんがクリスに話しかける。
「まあそんな都合良く事が運ぶなんて思っていませんよ。そこでもう一つ聞きたいのですが。」
「う、うん。何かな?」
と、大人めぐみんが周囲を見回し、人が居ない事を確認してから続ける。
「・・・貴女が私を元の世界に戻す事は出来ますか?エリス様。」
大人めぐみんはそう言って-
おい、今この人なんつった?
俺も、そして当然クリスも硬直する。なにせクリスの正体を看破されたのだ。ちょっとこれは予想外にも程がある。
だが、よくよく考えれば有り得ない事ではない。大人めぐみんは平行世界からやってきたのだ。向こうでは他のメンバーがエリスの正体を知っているのだとしても不思議ではない。
クリスもその事に気付いたようだが、念には念を入れ、大人めぐみんに質問をする。
「・・・ちなみにどこまで知っているの?」
「神様についてはクリスがエリス様だって事、そしてアクアが本物の女神だという事でしょうか。」
「そっか・・・それなら話してもいいでしょう。」
深い溜め息を吐いて、クリス・・・いや、エリスが話し始める。
「・・・本当に困りましたね。確かに貴女を元の世界に戻す事自体は不可能ではありません。ですがそれは天界規定に引っかかるんです。『平行世界のモノを別の平行世界に移す事無かれ』。・・・本来なら平行世界に干渉する事なんて無理なんです。人の身ではそんな力を持つ事なんて出来ないし、神格を持っていても天界規定により手出し出来ない。今回めぐみんさんが召喚されたのは本当にイレギュラー中のイレギュラー。アクア先輩が規定を無視して無理矢理女神の力を使用したからこそ起きた事件なんです。」
・・・つまり結局あの駄女神が原因という事か。あんにゃろう、帰ったらあいつが大事にとっておいた高級酒全部飲んでやる。
「言っておきますけどめぐみんさんが召喚されたのはカズマさん達が全力で魔力を込めたからですからね?原因はアクア先輩ですが、そもそもそれ程の魔力を込めなければ神器の暴走なんて起きなかったんですから。」
「すいません。反省してます。」
いや、けどあれは仕方ないと思うんです。だってあのまま放っておいたら間違い無くあの駄女神がさらに駄目になるので。
「それで・・・どうにかなりませんか?流石にこのままだと大人めぐみんも困りますし・・・。」
「うーん・・・ですがこれは・・・。」
だがどうしたものか、思っていた以上に難色を示している。正直この頼みを断られたらもう俺に出来る事は無い。そして俺が考える限りこれが最も確実で安全な方法だ。それが駄目となるともう本当に新しい神器が出てくるまで待つしかない。
俺が説得を続けようとした時、大人めぐみんが頭を下げた。
「自分が凄く難しい事を頼んでいるのは分かります。けど、どうかお願いできないでしょうか。私は、まだ向こうでやり残した事が沢山あるんです。」
「めぐみんさん・・・。」
大人めぐみんが頭を下げたまま、必死に説得を続ける。
「まだ、ゆんゆんと決着がついていません。まだ、アクアに宴会芸を全部見せてもらう約束を果たしていません。まだ、ダクネスに食べられる食材やその調理方法を全部教えていません。まだ、カズマの子供を産んでません。」
それに・・・と続けて、顔を上げる大人めぐみん。
「・・・まだ、私は満足してません!まだ、皆と一緒に私は幸せに生きたいです!」
-その顔は、たとえ断られても絶対に諦めてたまるかとでも言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべていた。
その大人めぐみんの顔を見て、呆然としていたエリスだったが、しばらくするとハア・・・と溜め息を吐きながらも微笑みを浮かべる。
「全く・・・こんな事はこれっきりにして下さいよ?」
「!!じゃあ・・・!」
「最近は天界規定を破ってばっかりですね。私、これでも真面目な優等生と上の人達に通っているんですが。」
その言葉を聞いて顔を輝かせる大人めぐみん。なんとか上手く事が運び、俺も深い溜め息を吐き出す。
あー、ドッと疲れた・・・。つーか結局俺何もしていないな。説得したの全部大人めぐみんじゃん。
「ですが今回は流石に大事です。正直平行世界への道をコッソリ繋げるだけでも最低六日・・・いえ、一週間は掛かると思って下さい。」
「そんなに掛かるもんなんですか?呼んだ時は一瞬だったのでもう少し早く済むと思っていたんですが・・・。」
「無茶を言わないで下さい。これ以上急ぐとバレる可能性が大きいです。そうなって怒られるのは私なんですからね?」
俺の疑問に答えながらジトッとした目で見つめてくるエリス。まあ流石にこれ以上迷惑をかける訳にもいかないからここは納得しておくか。一番大事な所はなんとかなったんだし。
話は終わったので、このまま屋敷に帰ろうと席を立ち・・・。
「エリス様、その一週間とは貴女一人で繋げる作業に取りかかった場合ですか?」
「・・・?はい、そうですが・・・?」
大人めぐみんの急な質問に戸惑いながらも答えるエリス。
俺も大人めぐみんが何を言いたいのか分からずに動けないでいる。
「誰かに協力してもっと時間を短縮出来たりは・・・。」
「それは出来ません。今回の事が誰かにバレる訳にはいきませんから。・・・というか言っておきますけど、これって天界ではほとんど犯罪みたいなものなんですからね?」
「そうですか・・・。出来ればあっちの皆に心配かけたくはなかったのですが、仕方ないですね。」
少し落ち込んだ様子を見せる大人めぐみん。確かに、説明も無く大人めぐみんはいきなりこっちの世界に呼び出されたのだから、向こうでは大騒ぎになっているだろう。それをどうにかしたいと思うあたり、仲間思いのめぐみんらしい。
しかし流石にこれ以上の成果を出すのは無理だろう。そんな方法、あるなら教えて欲しい・・・。
・・・待てよ?
「あの、エリス様。つまりエリス様以外の人達にバレなければいいんですよね?」
「え、ええ。そうですけど・・・。」
「一人でやるより二人でやった方が効率が良いと思いませんか?」
「・・・あの、カズマさん、もしかして・・・。」
「向こうのエリス様にも道繋ぎを手伝って貰おうかと思いまして。」
「貴方は向こうの私にも規定破りをさせるつもりですか!?あの、いくら自分自身とはいえ巻き込むのはちょっと・・・。」
「エリス様、俺ってエリス様に神器集めとか色々協力していますよね。いや、別に深い意味は無いんですけどね?けどやっぱりああいう仕事って報酬とかも明確にあるとやる気って出るんですよねー。いや、深い意味は無いですよ?でもそう考えると俺ってそういう報酬ってあんまり貰っていないよーな気がするんですよねー。深い意味はありませんが、これって借りとかになりますかね?」
「ああもう!分かりました、分かりましたから!やりますよ!!ついでに今の状況を向こうの皆さんに伝えるように向こうの私に頼んでおきます!」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
白々しい・・・と呟きながら睨んでくるエリス。悪いとは思うけど、やっぱり大人めぐみんにも手を貸してあげたいからな。少しは役に立ちたいし。
だが言質をとれて良かった。正直何度も生き返っている事を見逃してもらっている事を引き合いに出されたらキツかった。
という訳で、エリスになんとか約束を取り付ける事が出来、大人めぐみんが元の世界に帰れる目処が立った。
すぐに準備に取りかかるので天界に戻ると告げて俺達と別れるエリス。明日、この時間にまた喫茶店に来てくれとも言っていた。
エリスと別れ、喫茶店を出てから屋敷に帰る途中、大人めぐみんがポツリと呟いた。
「・・・あの、ありがとうございます。こっちのカズマには関係のない事なのに、私の我が儘を叶えてくれて。」
「別に関係ないって事は無いだろ。元々俺達のせいなのに何もしないってのはちょっと筋違いだろうしな。それにアレだ。向こうの俺の気持ちを考えたら手伝わないと気が済まないからな。」
なにせ自分の嫁が朝起きたら行方不明になっているのだ。早く手を打たないと、正直自分でも何をしでかすか分からん。
「・・・やっぱりカズマは何だかんだ言いながらも優しいですね。結局、こっちのカズマにも助けられました。」
「い、いや、別に助けたって程でもないだろ。当たり前の事をしただけだ。」
そう、別にこれは当たり前の事の筈だ。俺達が勝手に呼び出したんだから手伝うのは当然だろう。寧ろそうしなければ色々とマズいだろう。
「いえ、最初は確かに少々混乱しましたが、今は結構楽しんでいますよ?向こうとは少し違う人達、スキル、歴史。恐らく向こうでは誰一人知る事が出来ないであろう可能性の一つを知る事が出来たのですから。ですからこっちのカズマ達には感謝すらしています。勿論、勝手に呼んで、帰し方が分からないなんて言われた事は怒っていますよ?けど、その事に関してはこうしてエリス様に会わせてくれて、説得を手伝ってくれた事でチャラです。私一人ではまず説得までの過程で手間取ったでしょうし。」
「そうか?正直大人めぐみんだけでもなんとかなったと思うんだけどな。」
「ですが、時間の短縮や、向こうの皆への状況報告はカズマが居たから出来たんですよ?私だけではきっと無理でした。本当にありがとうございます。」
「あー、それはアレだ。迷惑料として受け取ってくれればいい。大した事はしていない。」
そう言うと、大人めぐみんはクスリと笑い、何でもないように呟いた。
「貴方のそういう所も、大好きですよ。」
「もう一回言って下さい。今度は耳元辺りで。」
「本当に雰囲気をぶち壊すのが得意ですね貴方は!!」
しまった、あまりの衝撃と感動と気まずさからつい欲望が滲み出てしまった。
「いや待て、ちょっと選択肢ミスった!ていうかホラ、アレだ!コレって浮気とかになるんじゃないか!?ほら、同じ人物でもこんなの殆ど別人みたいなもんだし!」
「いいんですよ。向こうのカズマは私の召喚にも反応せずに熟睡してる薄情者です。これくらいの仕返しは当然でしょう。」
「え、そうなのか?まあ確かに隣の奥さんが助けを求めてんのに起きないってのは我ながらどうかと思うが・・・。」
「あ、いえ。あの時私は風呂場にいましたね。カズマは寝室でした。」
「それ理不尽だろ!?風呂場と寝室結構距離あるぞ!?」
「それでも声くらいは届きますよ!それなのに起きないカズマが悪いです!」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、俺と大人めぐみんは不毛な言い争いをしながら帰路についた。
少し損した気がするが、この方が俺達らしいような気もする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「全く・・・あの後私がどれだけ危ない橋を渡ったと思っているんですか。上司どころか後輩にも見つからないように平行世界の私へ状況説明、そこからの交渉。成立したらそこから更に綿密な打ち合わせ。そしたら今度は平行世界に干渉した痕跡の抹消。これだけでもバレたら一体どれだけ降格されるか・・・。下手したら神格すら剥奪されますよ?」
余程鬱憤が溜まっていたのか、溢れるように愚痴が出てくるエリス。ここまで疲労の溜まった姿を見せつけられると流石に悪い事させたなと思う。
「本当にその辺はすいませんでした。あの、それで結局どうなりました?」
「・・・向こうの私に協力を取り付ける事は出来ました。今日から準備を始めれば恐らく三日程で元の世界に戻る事は出来ると思います。向こうは向こうでパニックを起こして色々しでかしたカズマさん達を止めるのに手間取ったらしいですから、昨日はロクに準備が出来なかったんです。」
「お、おう・・・。一体何をやったのかが凄い気になるけど、まあこれで一安心って感じか。」
「どこがですか!!私はこれから三日間、ずっと休む暇なんて無くなるんですよ!?」
「すいません!今度何か埋め合わせしますから!」
全くもう・・・と言いながらも許してくれるエリス。本当にどこぞの駄女神に見習わせたい。
「ですが本当にありがとうございます。これで向こうのカズマ達にも余計な心配をかける事もなくなりました。」
「いいんですよ。元はと言えば神器の回収が遅れた私の責任でもあるのですから。」
そう言って頬の傷を掻きながら苦笑を浮かべるエリス。
しかし三日か。さっきまでは早く大人めぐみんを元の世界に帰さなければ、と思っていたが、そう聞くと大人めぐみんとの別れを名残惜しく感じる。我ながら面倒な性格しているなあと思う。
たった一日一緒にいただけで随分な入れ込みようだとは思うが、やはり俺を甘やかしてくれる美少女がいなくなるのは口惜しい。
「さて、それでは私はそろそろ準備に取りかかるとしましょう。」
「もう行くんですか?ここまでやってもらったんですから何か奢るくらいはしますよ?」
「いえ、いいんです。さっきはああ言いましたけど、こういった事をするのって結構ワクワクしますから。」
「悪い人ですね、エリス様。」
「貴方が言いますか。」
軽口を叩きながらテーブルから立つエリス。どうやら本当に行くようだ。今度会ったら絶対に何か奢ろう。
「それではめぐみんさん。あと三日間、この世界を堪能して下さいね。」
「ええ、本当にありがとうございます。」
最後に大人めぐみんに声をかけて、喫茶店から出て行った。これから天界に戻って道を繋ぐ準備をするのだろう。
「・・・それじゃ、俺達も帰るか。」
「ええ、そうですね。」
今日のミッションはひとまず完了。大人めぐみんと一緒に俺達は屋敷に戻る事にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
カズマと一緒に屋敷に戻って、自分の部屋に入って、ベッドに倒れるようにダイブする。うつ伏せのままだと少し息苦しいので、ゴロンと寝返りをうった。
「・・・あと三日ですか・・・。」
ポツリ、と独り言を呟く。
この世界に来て、なんだかとても濃い時間を過ごした。まあ元の世界でも色々濃い時間を過ごしていた事が多かったので、今更思う事もないが。
突然平行世界なんて所に呼ばれ、別の可能性を辿った自分と仲間達との邂逅。帰り方が分からず、困った時の神頼みとしてエリス様の説得。もう一人の私と一緒にやった爆裂勝負。その勝負で自分の爆裂魔法の威力が著しく落ちていた事の判明。
昨日だけでこれである。たった一日でよくぞまあここまで事件が立て続けに起きるものだ。
「しかし・・・予想以上に向こうの世界と違いますね。」
昨日の夜、カズマ達に今までの冒険譚を聞いてみたのだが、自分達の冒険譚とあまりにも違う。
キャベツの収穫、街の弁償、カズマの国家転覆罪、バニルとの出会い、アルカンレティアへ向かう動機、紅魔族ローブの有無など、挙げていけばキリがない。
魔王軍幹部ですら違う者達が配属している。なんだデッドリーポイズンスライムのハンスって。・・・いや、私達が冒険を始める前に既に魔王軍幹部は一人倒されていたらしいから、もしかしたらそいつがハンスだったのかもしれない。
そして何より、私の爆裂魔法習得の状況。ちょむすけなる猫の存在。
・・・邪神、ウォルバク。
「・・・複雑な気分ですね、自分の全く知らない人物が、自分にとって掛け替えのない存在だったなんて。」
平行世界なのだ。所々違って当たり前、当然の事だろう。
だが-
自分の始まり、根っこの部分が全く知らない人物によって構成されていると聞いて。その人物の出会い、別れがとても衝撃的で。結末は感動的ですらあって。
-そんな話を聞いて、そんな
意味の無い被害妄想だと分かっている。恐らく向こうの皆と離れてセンチメンタルな気分になっているであろうことも。
それでも、不安な事には変わりない。
「・・・いけませんね。こんな状態では、こっちの皆に迷惑をかけてしまいます。」
ベッドから起き上がって両手で頬をパンッと叩く。少し強く叩きすぎたのか、結構ヒリヒリと痛むが別に問題ない。ちょっと涙が滲んだ程度だ。
エリス様も言っていたではないか。この世界を堪能しておけと。
どうせ三日後には帰るのだ。それまでにうんと楽しもう。
「しかしまさかこの私が一人が寂しくて不安、だなんて自分でも驚きですね。もっとドライな性格だと自負していたのですが。」
まあ当然といえば当然か。一緒に居ると楽しい、と思える仲間達とずっと一緒にいたのだ。これくらいの反動は当たり前だろう。
それに、愛し合うという事を体験した時点で私は十分寂しがりになったのであろう。愛する人が側に居ないだけでこんなにも不安定になるなんて、いよいよヤンデレに片足突っ込んでいる。そのうち彼の側にいないと禁断症状がでるなんて事になるのだろうか。そんな事になったらずっと彼とくっついてなければいけないが。
・・・まあそんな退廃的な日々を過ごすのも、それはそれで悪くないかもしれない
そんな取り留めのない事を考えながら、私はリビングへと向かった。
これから始まるのは、私にとっての異世界ライフ。その一端である。