この平行世界の爆裂娘に祝福を!   作:大夏由貴

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この唐突な召喚に祝福を!

今日はとても良い日だった。

なにせ彼と一日中ずっと一緒に過ごせたのだから。

 

彼が魔王を倒しておよそ半年の時がたった。

その長くも短い時の中、ついに私は彼と結ばれる事となった。

 

当時の私は余りの感動でつい涙を流してしまったのを覚えている。

彼の特別になるという事実は私にとってとても幸せな事だった。

 

・・・まあ一ヶ月も経たずに真剣な顔で「この世界では一夫多妻ってアリなのか?」と聞かれた時は流石にはっ倒したが。

ずっと前から知っていた事だが当時も、そして今も変わらずあの男はチョロい。

どうせ街で知り合いの女性から告白っぽいものでもされたのだろう。

・・・実際に一夫多妻をされてもなんだかんだ言って最終的に許してしまいそうな自分も自分だが。私を正妻にするなら、とか言って。

 

まあそれはともかく、結婚したとはいえ私達の日課がなくなった訳ではないし、仲間の二人と会わなくなったという訳でもない。

いつも通り四人で冒険する事がほとんどだ。

 

しかし今日は仲間の二人は用事が出来てしばらく帰って来ないと言う。

そういう事で折角の二人きりなのでいつも以上に彼に甘えた。

 

朝起きて、朝食を一緒に食べて、クエストに行って、日課をこなして、報酬を貰い、家でダラダラ過ごす。

 

食事の時も風呂の時も睡眠の時もずっと彼にくっついていた。

彼は照れ臭そうに、でも「しょうがねぇな」と言って一緒に居てくれる。

 

ああ、今日も幸せだ。そしてきっと明日も幸福なのだろうと確信している。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ねえめぐみん、これを先に見つけたのは私なの。つまり私が発見しなければこれは誰も見つけられず、これを手にする事も出来なかったと思わない?つまりこれって私の功績じゃない?ならこれの所有権は私にあるべきじゃないかしら。」

 

「いえいえ、確かにこれを見つけたのはアクアかもしれませんけどこれは私が先に手に取ったんです。こういうのって早い者勝ちだと思いませんか?店の商品は先に手に取った人の物だと昔から決まっています。」

 

「まあ待て。こんな小競り合いをしていたって何の意味も無い。ここは皆が落ち着くまで私が預かっていくというのはどうだ?今のままだと平行線だし、中々悪くない提案だと思うのだが。」

 

「おいこらお前らいい加減にしろ。それを買う為に出費すんの誰だと思ってんだ。今現在ここにいるメンバーで財布握っているの俺だけだからな?店の商品はその商品を買った奴の物だ。つまりどの道それの所有権は俺にある。」

 

「あ、あの・・・お店の中で暴れるのだけは勘弁して下さいね・・・?」

 

 

今、俺達はウィズの店に来ている。

そこで何か便利なマジックアイテムは無いかと店の商品を物色していたのだが、そこでアクアが見つけたのがなんと俺より前にやって来たチート持ちが持っていたらしい神器であった。

アクアも神器の力を感じるらしいから本物だろう。

 

ウィズによると所謂召喚アイテムの一種らしく、魔力を注ぎ込むと発動するらしい。

なんでも魔力を注げば注ぐ程、自分が望む優秀な使い魔などが召喚されるんだとか。

見た目は少し大きめの絨毯に魔法陣が描かれているシンプルな感じだ。

 

しかし神器となればエリス様に見せればもう少し何か分かるかもしれない、という事でついでに買って帰ろうとしたのだが・・・。

 

「これを使えばきっと私が何もしなくても私の為に働いてくれる完璧な使い魔を召喚できるわ!しかもこの私の神聖な魔力なんだからその気になればきっと魔王なんかよりも凄い使い魔だって呼べること間違い無しよ!だから私にこれを渡して!」

 

「いいえ!これがあれば爆裂魔法をより強化してくれる魔法を使ってくれる使い魔だって呼べます!爆裂魔法を一日二発以上撃てるのも不可能ではありません!こんな便利な物絶対に手放しません!」

 

「こちらこそ譲れない!これはつまり私が好きな時にカズマのような、いやそれ以上の鬼畜な使い魔を呼び出せるという事だろう!?そのような話を聞いて引き下がれる訳が無いだろう!」

 

「ふざけんな!こいつさえあれば俺がいなくてもお前らを止められる使い魔が呼べるんだよ!こちとらお前らの暴走を止めるだけで毎回胃が痛くなってくんだよ!そろそろストレスで倒れるわ!」

 

・・・こんな感じでアクア、めぐみん、ダクネス、俺の四人の誰が所有権を持つべきかという話でヒートアップ。各々が神器の端を両手で掴んで離さない。

 

アクアは自分に従う完璧な従者を。

めぐみんは爆裂魔法の補助役を。

ダクネスはいつでも自分を苛めてくれる鬼畜を。

そして俺はこの馬鹿共を大人しくさせる使い魔を。

 

望む使い魔の為に全員が決して渡すものかとばかりに必死に食らい付く。

何故ならこの神器、一度所有者が決まればその所有者のみしか召喚出来ないという。

当然こいつらの誰かが所有者になってしまえば俺が望むこいつらのストッパーなど絶対に召喚されないだろう。

この戦い、絶対に負ける訳にはいかない・・・!

 

「こんのぉお!こうなったら強行手段よ!」

 

と、この硬直状態の最中、アクアがとんでもない暴挙に出た。

なんと神器に自分の魔力を注ぎ初めたのだ。

 

「ああ!?こんのアマやりやがったなオイ!!」

「ア、アクア!いきなりは卑怯だぞ!」

「ちょ、大人気ないと思わないのですか!」

 

俺達三人の非難の声にしかし開き直った駄女神が逆切れをおこす。

 

「うるさいわね!大体早い者勝ちって言ったのはめぐみんじゃない!だったら私のこの行動は全く悪くないわ!」

 

こ、こいつ調子に乗りやがって・・・!

 

「そっちがその気なら私にだって考えがありますよ・・・!」

「私にだって譲れないものがある!ここは引けん!」

「上等だ!絶対に泣かせてやる!」

 

俺達も遅れながらも全力で魔力を注ぎ込む。

だがこのままでは不味い。この中でMP総量が一番多いのはアクアだ。馬鹿正直に張り合えば間違い無く競り負ける・・・!

ならば・・・!!

 

「ドレインタッチィィイイイ!!」

 

アクアから魔力を吸いとる!!

 

「ギァアアア!?アンタなんてことすんのよ!この私の神聖なる魔力を勝手に吸いとるなんて!」

「何でもありの勝負で俺に挑むなんて百年早いわ!この駄女神!」

「ヒキニートの癖に生意気よ!いいわ!それなら女神の本気を見せてあげる!」

 

アクアは俺に魔力を吸われながらも構わず神器に魔力を注ぎ込む。くっそ!ステータスカンストは伊達ではないか!

明らかに注ぎ込む量が少なくなったがこのままいっても競り負ける可能性が高い。そもそもめぐみんはともかく俺とダクネスの魔力ステータスは決して高くない。残念だがどう頑張っても俺とダクネスでは所有権を取る事は出来ないだろう。

ならばこのままアクアに神器の所有権を譲り渡すか?否!そんな結果になる位なら・・・!

 

「受け取れぇえええ!めぐみぃいいん!!」

 

この中で一番勝率があり、尚且つ必死に頼み込めばある程度自重してくれそうなめぐみんにアクアから現在進行形で奪い続けている魔力を渡す!

 

「ひゃああ!?ちょ、いきなり首を掴まないで下さいよ!ビックリするじゃないですか!ですが感謝しますよカズマ!これならいけます!」

「ああああああ!?ちょっとそれはズルいわよ!?この卑怯者ー!」

「先に暴走したのはお前だろうが!悪いがこれで・・・!」

 

 

 

ボフンッ!!

 

 

 

・・・ボフン?

 

妙な音の発生源を見ると神器から黒い煙がプスプスと音をたてながら出ている。

・・・え、何これ。どうなったの?

 

「もしかして壊れてしまったのか?」

「何言ってるの、仮にも神器よ?魔力を注ぎ込み過ぎて壊れるなんてありえないわ。」

「いや、じゃあこれどうしたんだよ。」

「一応まだ魔力は吸っているみたいですが・・・。」

 

と、俺達が困惑していると・・・。

 

 

 

[所有者ヲ正シク認識出来マセンデシタ。リセットヲ行ウタメ、注ガレタ魔力ヲ全テ使イ、魔力ニ関係ノアルモノヲ召喚イタシマス。]

 

 

 

・・・神器が機械的な音を発した。

 

「「「「・・・へ?」」」」

 

全員が呆けた声を出すのと同時に、神器の魔法陣が輝き出した。

 

カッ!!

 

「うおおお!?な、なんだ!?」

「え、えーっと。多分神器の暴走じゃないかしら?なんかそんな声聞こえたし・・・。」

「多分っつーか絶対暴走だろこれ!おいこれ大丈夫なのか!?」

「と、とりあえずここから離れませんか!?何やらヤバげな雰囲気がプンプンするんですが!」

「わ、私はここに残るぞ!店に被害を出す訳にはいかないからな、うん!念のため爆発でもして危ないかもしれないから抱え込むとしようか!」

「お前はこういう時くらい自重しろ変態!くそっ!さっきなんて言った?魔力に関係あるものを召喚?」

 

それってどういう事だ?注がれた魔力って俺達の魔力だよな?つまりそれって・・・。

 

「んーと、多分ね?私達の魔力に関係ある何かがランダムで召喚されるって事だと思うの。なんかさっきから凄い量の魔力が消費されているみたいだから、とんでもないのが出るかもしれないわ!」

「随分とあやふやな説明だなおい。・・・ちなみにどれくらいとんでもない?」

「んーと・・・そうね、多分冬将軍四、五体分と同じくらいかしら?」

「うおおおい!?どうにかならないのかそれ!?」

「無理に決まっているでしょ!もう効果が発動しているのよ!今無理に止めたらそれこそ何が起こるか分からないわよ!」

 

ふっざけんなよ!?こんなところで冬将軍レベルの魔物がポンポン出たら大惨事だぞ!?頼むから無害なものが召喚されてくれええええ!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ふう・・・。さっぱりしました。」

 

朝早くに目が覚めた私はとりあえず先に風呂に入る事にした。

風呂から上がり、体を拭く為に脱衣所に向かう。

最近朝風呂になる事が多くなったような気がする。いやまあ、原因は分かっているのだ。間違い無く彼と一緒に寝たからだろう。そういう時はほぼ確実に夜明け近くまでハッスルする事になる。ステータスそんなに高くない筈なのにどうしてあんなに体力があるのだろうか。しかもこちらが先にヘバってしまったらウィズの店で売ってる体力を回復するが一切動く事が出来なくなるポーションなどを使って無理矢理にでも回復させるあたり鬼畜だ。おかげで中盤辺りからは一方的にやられた。泣いて謝っても止めなかったあたり、本格的にSっ気が出てきた気がする。

 

まあ要するに事後という事だ。おかげさまで毎度毎度朝風呂になる事が多い。

結婚してもう大分経ったというのに未だに落ち着く様子が見えない。

 

とまあそんなこんなで体を拭いている最中なのだが、今日は何やら朝から空気がおかしい。別に変な臭いがするとか、目に見える変化があるという訳ではないが違和感を感じる。

 

「・・・何なんでしょう、気味が悪いですね。」

 

ただ奇妙な事にこの空気には覚えがある。

このとびきりの不幸の前兆のような空気に。

いつの事だったか、確か・・・まだ駆け出しだった頃、アクセルで仲間達と出会ってしばらく経った時だったか?

・・・そう、そうだ。思い出した。

 

「確かデュラハンが攻めて来た時にアクアが起こした洪水の時と同じ魔力の昂りと危機感・・・」

 

 

 

ヴォオン・・・

 

 

 

「・・・ヴォオン?」

 

今、何か変な音が聞こえたような・・・

 

そう思考を巡らせた瞬間、私の周りに巨大な光輝く魔法陣が現れた。

 

 

 

「・・・はい?」

 

 

 

一目見ただけでも高度な魔法陣だ。陣の隅から隅へとまんべんなく行き渡る魔力は惚れ惚れする程無駄が無い。

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

「いやいやいやなんですかこれ!?え、ちょ、待って下さいどういう事ですか!?」

 

慌てて魔法陣から出ようとし・・・見えない壁にぶつかった。

ちょ、出れない!?

 

「待って下さい待って下さい!!カ、カズマー!!ヘルプ、ヘルプです!!貴方の可愛いお嫁さんがピンチですよ!!何かよく分からないけどヤバイです!早く助けて下さいいいいい!!」

 

寝室にいる筈の夫に救援を求めるが返事は無い。代わりに耳を澄ませればかすかにいびきが聞こえてくる。おのれあの甲斐性無し熟睡している!愛する者のピンチにくらい格好よく参上して下さいよ!

今度一回爆裂魔法を叩き込んでやると心に決めてどうするか考える。

というかあれだ。そもそも私は今全裸である。何故よりにもよってこんな時にこんな事が起こるのだろう。

とりあえずいつもの服を手に取り、着ようとしたところで体が急に浮き始めた。

不味い不味い不味い!経験上こういう訳の分からない事が起きた時は基本的にロクな事にならない!というか体が浮いてるせいで上手く服を着れない!

モタモタとしている内に体はどんどん地面から離れていき・・・魔法陣の光が強くなり、そこで私の意識は数秒の間途切れた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

これは後で知った事だったが

 

どうやらこの時の召喚はかなりイレギュラーな召喚方法だったらしい

 

アクアの女神としての力が異世界・・・というより平行世界への道を繋ぎ

 

めぐみんの膨大な魔力が自身と縁のあるモノを探し当て

 

俺とダクネスの魔力がその縁を補強

 

その結果、こんな事態を引き起こしたのだとか

 

・・・何故、毎度毎度俺逹はこういうトラブルに巻き込まれるのだろうと深く思った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

カッ!!!

 

ズドォオン!!!

 

 

「うおおおおお!?」

「いやああああ!?」

「のわああああ!?」

「皆、大丈夫だ!私が全て受け止めてみせる!」

「ああああ!!わ、私の店が・・・!!」

 

こんな時でもブレない変態は置いといて。

 

神器が一際強く輝いたと思った瞬間、強い衝撃が地面から伝わり、大量の煙が舞い上がった。それと同時に神器からの衝撃で思わず倒れる。

その時の衝撃で店の商品が少し棚から落ち、ウィズが悲鳴を上げる。いやまあ悪かったとは思うけど今はちょっと勘弁してほしい。

煙は思ったより多く出ていて周りが全く見えない。さっきまで近くに居た三人も今の衝撃で壁際まで吹っ飛んだみたいだ。

 

「っ痛・・・!クッソ!いったい何が召喚された・・・!?」

 

台詞は途中で途切れた。何故ならすぐ側に人影が見えたからだ。

煙のせいで詳細な部分までは分からない。しかしシルエットからして女性のような体つきをしている。が、だからといって安全な奴とは決まらない。いい例がここに山ほどいる。

 

すぐに立ち上がり、距離を取ろうとしたところで煙が晴れていき、その人物と顔を合わせる事になる。

 

 

 

 

 

まず目に映ったのはまだあどけなさのある、けれど女性としての色気も仄かに漂わせる綺麗な顔。髪は長く、大きく見開いた瞳は紅く輝いている。恐らく急に違う場所に移動させられて驚いたのだろう。困惑と驚愕の感情が容易に読み取れる。

 

次にほっそりとした華奢な肩。さっきまで湯編みでもしていたのか、まだ微かに湿り気を残した体は実に扇情的だ。

 

どんどん視界を下に移動させれば胸元で服を両手で握っている。そのお陰で(残念ながら)ギリギリ局部が見えなくなっていた。よく見ると腰周りまでその長髪が続いている。

 

 

 

 

 

えーっと、つまり、アレだ。

 

 

 

 

俺の正面には、服を着ていない全裸の綺麗な女性が座り込んでいた。

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

「きゃああああああああああああ!!!!」

「すんませんでしたああああああ!!!!」

 

俺は、すぐさま土下座した。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

数分後。

 

俺達は店の隅で顔を突き合わせ、緊急会議を行っていた。

 

「・・・なあ、どうするよ。俺こういう時の対応の仕方とか全然分からないんだけど。」

「私に聞かないでよ!だってこんな事になるなんて分かる訳ないじゃない!」

「というかそもそも呼び出すのは使い魔ではなかったんですか?彼女、どう見たって人間ですよ。」

「いや、たとえ人だろうと使い魔という枠から外れる、なんて事は無い。まあなんにしても今はまだそっとしておくべきだろうな・・・。」

 

そう言うダクネスの言葉に釣られ、チラッと店のカウンターに目を向ける。

 

「うう・・・何なんですか本当に・・・。いきなり公衆の面前で露出プレイってどういう事ですか・・・。」

 

俺達が召喚してしまった彼女はブツブツと文句を言いながらカウンターの裏で着替えていた。その台詞を耳にするだけで物凄く申し訳なく思う。

・・・大変眼福ではあったが。

 

それはともかくとしてこの状況は大変よろしくない。てっきり使い魔なんていうモンだから精霊やら魔獣やらが出てくると思っていたというのにどう考えてもどことも知らぬ土地に住んでいたであろう人間を召喚してしまったのだ。ぶっちゃけ誘拐と大差無い。

 

・・・いや、どことも知らぬ、という訳でもないか。

 

「なあ、あれってどう見ても紅魔族だよな?って事は紅魔の里からやって来たって事じゃないか?」

 

そうだとすれば余り大きな問題にはならないだろう。変わり者の巣窟である紅魔の里だ。上手い具合に説明すればなんとかなるかもしれない。主に厨二病を刺激させて暴走させる感じで。

俺の問いにアクアが頷く。

 

「ええ。多分合ってると思うわ。出会いが急過ぎて名乗れなかったみたいだけどあの紅い瞳は紅魔族で間違い無いわ。」

「という事は彼女を紅魔の里に送り届ければ問題無いというところか。御両親にも謝罪をしておかないとな。」

 

なんとか方針が決まりそうだな、と思っていたのだが・・・

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・?どうした?めぐみん。」

 

何やらめぐみんが困惑したような表情で黙っている。正直せっかく同郷の人物と出会ったのだからてっきり世間話でもしに行くと思っていたんだが・・・。

 

「いえ、そのですね・・・少しおかしいんです。」

「おかしい?」

 

正直紅魔族がおかしいのは当たり前だと思うのだが。

 

「・・・今何か失礼な事考えませんでしたか?」

「考えてないよー。」

「・・・まあいいでしょう。えっとですね、私、一応村の人達の顔は大体覚えているんですけど、あの人全く見覚え無いんですよ。」

「は?お前がか?」

 

めぐみんが知らないとは余程ではないか?こいつはこれでも紅魔族随一の天才と言われている。そのめぐみんが知らないとなれば相当影が薄かったか、それとも今まで一度も出会った事がなかったとかじゃないか?

 

と、ここで女性が顔だけカウンターから覗かせてポツリポツリと言葉を洩らす。

 

「・・・というかここウィズの店ですか?一体どうしてこんな所に・・・いや、それよりも少し聞きたいのですが。」

 

チラチラとこちらを伺いながら問いかけてくる女性。いやまて、今何やら聞き逃せない台詞を呟かなかったかこの人。

 

「・・・ウィズの店を知ってる?彼女は紅魔の里に住んでいたのではないのか?アクセルの住人でもない筈なのに何故・・・?」

 

ダクネスが俺達の疑問を代弁するように呟く。

そうだ。この女性が紅魔の里から召喚されたというならアクセルにひっそり建っているウィズの店なんて知ってる訳が無い。この時点で違和感を感じる。

だが俺はそれよりもこちらを覗く女性の顔に注目していた。

 

「・・・?」

 

・・・何故かその顔つきに既視感を感じる。何か、知っている誰かに似ているような・・・。誰だ?

 

「あの~・・・。」

「あっ、ああ。すまん、ちょっとボーッとしてた。」

 

いかんいかん。流石にいきなり顔をガン見するのは失礼だよな。

 

「で?聞きたい事って何だ?」

「はい、その・・・背、縮みましたか?」

「いやなんで初対面の人に背が縮んだかなんて言われんの俺?」

「・・・しょ、初対面?」

 

何やら驚愕の表情を浮かべる女性。続いてアクア、ダクネスを見て・・・めぐみんを視界に入れた瞬間に今度こそ固まった。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「・・・あ、はい。大丈夫、大丈夫です。ええ大丈夫ですとも。」

 

なんとかフリーズ状態から抜け出した女性はしきりに大丈夫だと言い続ける。あ、ダメそうだなこれ。

 

 

「・・・え、ていう事はつまりこれってアレなんでしょうか。つまりはそういう事なんでしょうか。私は過去に・・・?いや、私が皆に会ったのはもっと大きくなった時ですし・・・。という事は・・・。」

 

 

その後も何やらブツブツ呟いていた女性だったが、何か結論が出たのか、よしっと呟くとカウンターから出てくる。丁度着替えも終わったようだ。

 

こうして見てみるとやはり紅魔族で間違い無いようだ。

気だるげな、とろんとした眠そうな紅い瞳、そして黒い髪。

黒マントに黒いローブ、黒いブーツを身に纏い、トンガリ帽子は被ってはいないものの、典型的な魔法使いの格好だった。

その姿を見て、やはりどこか既視感を感じる。

 

「念のため聞きますけど、皆さん私とは『初対面』ですよね?」

「お、おう。お前らも会っていないよな?」

「はい。初めて見ますよ。」

「ああ、残念だが見覚え無いな。」

「そうね、私も初対面よ。んー、けどなんで皆会っていないのにこの人が召喚されたのかしら。」

「・・・そうですか。では次に・・・待って下さい、今なんて?『召喚』?」

 

全員が初対面と聞き、少し寂しそうな顔をして・・・急にアクアの台詞に反応した。

あー、うん。まあ気になるよな普通。

 

「あー、なんつーかな。ちょっとしたマジックアイテムが暴走してな?その結果がこれというか・・・。」

「いや意味が分かりませんよ!?それがどうして私が呼ばれるなんて事になったんですか!?」

「そこが分からないんですよね。召喚されるのは私達に関係する何かだったというのに・・・。」

「そうだな。なんの接点も無い彼女が呼ばれる理由が分からない。」

「しかもあの魔力を全部使ったのよ?少なくとも冬将軍クラスの大物が出てきたっておかしくないわ。それこそ世界でも越えない限り。」

「・・・あー、いえ、そうですか。そういう事でしたか。納得しました。どういう状況かは薄々気付いていましたが原因も今ハッキリ分かりました。」

 

俺達が疑問の声をあげていると女性が額に手を当てて溜め息と共に聞き捨てならない台詞を吐く。

 

「え?何?もしかして何か分かったのか?」

「ええはい。何かというより全部分かりましたよ。どうしてこんな事態になってしまったのかが。」

 

女性の台詞を聞いて驚愕の顔を浮かべる俺逹。そりゃそうだ。なんせ一番混乱しているだろう女性が一番早く状況を理解したというのだから。

 

「・・・さて、ではいい加減自己紹介でもしますかね。呼び名も無いのでは困るでしょうし。」

「あー、いや、別に普通に名前を教えてくれるだけでいいんだけど。」

「何を言っているのですか!紅魔族たる者、自己紹介がただ名前を呟くだけなんてありえませんよ!カズマはもう少し常識を身に付けて下さい!」

「お前らに常識外れなんて言われたくねーよ!大体お前が常識を語るならまずはその爆裂欲をもう少し抑えてからにしろこの爆裂狂!」

 

自己紹介をしようというところでめぐみんが口を挟む。こいつ本当に爆裂魔法以外に役立つスキルを覚えろとは言わないがもう少しその欲求をどうにかしてくれないかな。

 

「ふふっ。『こっち』でも変わりませんね、お互いに。では改めて名乗りましょう。」

「・・・?こっち?」

 

何やら意味深な台詞を呟く女性。そして紅魔族独特の自己紹介を始める。

 

 

-それは、かつて見た誰かの自己紹介にとてもよく似ていた。

 

 

 

 

 

「我が名はめぐみん!世界最強のアークウィザードにして、爆裂魔法を極めし者!」

 

 

 

 

 

その、予想外すぎる自己紹介に俺達は一人の例外も無く固まった。

 

そして、

 

 

「「「「はああああああああ!!??」」」」

 

 

これまた一人の例外も無く声を揃えて叫んでいた。


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