Jack the Ripper ~解体聖母~   作:-Msk-

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お待たせしました。
これ以上待たせるとまずいと思い、ダイジェストでお送りします。
解明しきれていない部分や、納得できないところも増えてしまうかもしれません。
安心してください、もう一度「幕間」はあります。
今度はリアルでの話になりそうです。

今回は基本的にジャックの一人称で物語が進んでいきます。
「」を使用しているところは三人称です。

それではどうぞ。


幕間:SAO

 ジャックは呆然と立ち尽くす面々を見据える。

 

 

「とりあえず座りなよ。それなりに長い話になる」

 

 

 はっ、とした様子でジャックの言う通りにイスに座る面々を見ながら、ジャックはシノンのアイスティーを半分ほど飲む。

 

 シノンが少し不満そうな顔をするが、そんなこと関係ないとばかりに視線をずらす。

 

 

「さて、それじゃあ――取り残された俺の話をしよう」

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 ――ゲームがクリアされました。

 

 そうアナウンスされた時、どれだけ救われたと思っただろうか。

 

 やっとこの生活が終わる。

 

 やっとこのルーティンを終わらせることができる。

 

 やっと現実に帰れる。

 

 周囲の人間が次々にログアウトをしていく姿を見ながら俺はそう思った。

 

 一人、また一人と笑顔で消えていく。

 

 そして――誰もいなくなった。

 

 俺以外のプレイヤーは全員アインクラッドから姿を消した。だが俺は未だにアインクラッドにいる。

 

 もしかしたら何等かの手違いでまだ残っているだけなのかもしれない。そう思って一日だけ始まりの街でぼーっとしていた。

 

 夜が明けた。

 

 俺は未だにアインクラッドにいた。

 

 たった一人で、鋼鉄の城に取り残された。

 

 アインクラッドに取り残された俺は、さらにもう一日だけ始まりの街にいた。やはりバグか何かで一時的に取り残されているだけかもしれないと思ったからだ。まぁそんなことはなくて、何日経ってもログアウトできる気配はなかったのだが。

 

 ログアウトできないとわかった俺は、ログアウトするにはどうしたらいいのか考えた。

 

 このまま外からの救出を待つ。

 

 ログアウトボタンを連打して奇跡を願う。

 

 第100層までクリアしてみる。

 

 この三つから俺は「第100層までクリアしてみる」という選択肢を選んだ。

 

 何でかって? そんなの決まってる。じっとしているのは性に合わないし、ログアウトボタンの連打なんて気が狂ったようなことできるわけないだろう?

 

 そういうわけで第76層へ足を踏み入れた俺は、早速フィールドに出た。

 

 本当は街を見て回ったりする方がいいのかもしれないが、俺はさっさとボスを倒して次の階層へ向かうつもりだった。

 

 この時の俺のレベルは確か……115だな。マージンも取れてるから大丈夫だろうと思ったし、何より地下迷宮のボスが第90層クラスの奴らばかりだったから余裕すら感じていた。

 

 しかしこれが間違いだった。

 

 フィールドにでてMobを狩ってる最中にちょっとした違和感が生まれた。第75層以下の階層でMobを相手にしたときよりも手間取ったのだ。

 

 このことを気のせいだと思って忘れるなんて愚かなことはしなかった。だが、階層が一つ上がったのだからこの程度は当たり前だと思ってしまった。

 

 それが間違いだった。

 

 第76層のボスにはナイフで挑んだ。

 

 一番使い慣れている装備で、最高の状態で確実にボスを殺しにかかった。

 

 そして驚いたよ。いくらナイフで攻撃してもダメージが1以上入らないのだから。流石にボスのHPゲージ五本分をダメージ固定では倒すのが辛いと思ったからすぐに対策を考えた。

 

 弱点を見つけてそこを重点的に攻撃する。

 

 これはアリだと思ったけど、もっと単純なことに取り掛かった。

 

 そう、武器を変えることだ。

 

 第1層の地下迷宮にいるボスからドロップした大鎌の武器――デスサイズに変えた。

 

 身の丈を超える大鎌だが、重さはほとんど感じない。筋力値が高いわけではない。デスサイズがそういう仕様だっただけだ。

 

 デスサイズに変えてからの初撃。しっかりとダメージを与えることができた。ナイフでの攻撃はほぼ通らないのにデスサイズは今まで通りのダメージを与えることができたのだ。

 

 この二つの武器の差は何だと考えた。出てきた答えはプレイヤーメイドかドロップかの違いだ。

 

 ここから俺が導き出した答えは、相応の階層の武器を使わないとダメージを与えられないということ。

 

 ナイフの素材は75層以下でモンスターからドロップしたものを使っているが、デスサイズは推定90層以上のボスモンスターからのドロップしたものだ。差は一目瞭然だろう?

 

 デスサイズとユニークスキルでどうにか戦えるようになった。ダメージはしっかりと入るし、ボスのHPも目に見えて減るようになった。

 

 パターン化した攻撃を完全に読み切った俺は、デスサイズとユニークスキルのおかげで第76層を一日でクリアすることができた。

 

 その日のうちに第77層に移動した俺は、まず始めに武器屋に行った。

 

 主装備であるナイフが使えないのがとてつもなく痛い。よって、さっさと階層に適応できるであろう武器屋の商品を買うことにした。

 

 納得できるレベルの品はなかったが、癖が少なくて扱いやすそうなものを六本ほど買った。どれも特別なスキルなんてついていないものだ。

 

 カタログスペックなら今まで使っていたナイフの方が圧倒的にいい。だが結果として第76層で役に立たなかったのだから諦めて買ったものを使うことにした。

 

 その日は一先ず迷宮には行かずに宿で一泊することにした。

 

 今までの俺からしてみれば、この選択はありえないことだ。

 

 昼夜を問わずにレベリングをして、地下迷宮に潜り込んでボスを倒していく。これをルーティンとしていたからゆっくり休むなんてことはしなかった。せいぜい安全地帯で小休憩を取るぐらいだ。

 

 だがここからはそうとは行かった。

 

 第76層のボスで今まで使っていたナイフが使えないという事態が起きた。不測の事態だ。

 

 これから先、何があるかわからない。情報屋はいない、武器屋もいない、アイテム屋もいない。特に情報がないっていうのが一番辛かった。

 

 今まで金を払えば手に入っていた当たり前の情報(もの)が手に入らなくなるんだぞ? 

 

 フィールドモンスターの性質、ボス部屋までのマッピング、ボスの容姿に行動パターン。これがわからないのがどれほど大変なのかはお前たちでもわかるはずだ。

 

 武器を買い替えた翌日、フィールドに出て早速試し切りをした。

 

 違いを一目瞭然だった。第76層で感じた違和感は完全に無くなっていたし、ダメージもしっかりと入っていた。

 

 そのまま調子に乗って第77層のボスを倒しに行ったんだが……まぁ余裕だった。

 

 恐らくだが、宿に一泊したのが良かったんだろう。張りつめていた気持ちが少し緩んで余裕が生まれたおかげで動きに違いが出た。当時の俺もそう思い、それから毎晩宿でしっかりと睡眠をとることにしたし。

 

 そこから第79層まではトントン拍子に上っていった。レベリングもボスを倒した経験値だけで事足りていたし、武器もとくに強化することなく進めた。

 

 第76層でのピンチが嘘のように上手くいっていたよ。そしてこのままとんとん拍子で第80層もクリアできると思っていた。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 ふぅ、と一息吐いて、ジャックは首を回してこりをほぐした。

 

 

「ここまでで質問は?」

 

 

 シノンたちを見て、面倒くさそうに言う。

 

 

 

「えっと、じゃあいいかな?」

 

 

 キリトが恐る恐る手を上げ、ジャックが先を促す。

 

 

「第75層はクォーターポイントだった。だから武器の使用が制限されたってことか?」

「恐らくそういうシステムだったんだろうな」

「……なるほど、そういうことか」

 

 

 キリトは自己解決することができたのだが、他の人が理解できていない。

 

 それを察したのか、ジャックは説明するように言う。

 

 

「恐らく茅場は第75層という最後のクォーターポイントをクリアしたプレイヤーたちに軽い絶望を与える気だったんだろう。最後のクォーターポイントを突破し、少し浮かれたところに釘を刺す。クォーターポイント以上の絶望がお前たちを待っているぞ、とでも言いたかったんだろうな」

 

 

 キリト以外もなるほど、と言った様子で納得した。

 

 他には、とジャックが促すと、シノンが手を上げた。

 

 

「第76層で初めて宿を取ったってことはそれまで一切宿には泊まらなかったってことよね?」

「そうなるな」

「昼夜問わずにレベリングしてったって……本当なの?」

「そうなる。まともな睡眠は一切取らず、昼でも夜でも関係なく最も効率のいい狩場に行って根こそぎMobを倒していた」

「よく死ななかったわね……。いくらゲームの中とはいえ、長時間頭を働かせ続けていたら些細なミスだって出るはずだし……」

「俺も色々と必死だったからな。この体にも関係することだ」

「……そう」

 

 

 ジャックが体のことを言った途端、シノンの声のトーンが少し下がる。

 

 彼に気を使ってなのだろうが、彼の体のことを全く知らないキリトたちは何が何だかわからない様子だ。しかしそれを自分たちから尋ねるのは流石にデリカシーがないと判断したのか、深く突っ込むことはしなかった。

 

 

「さて、もういいか?」

 

 

 ジャックの問いに、全員がうなづく。

 

 

「それじゃあ続きを話そう。と言っても第98層まで特に何もなかったから飛ばすけどな」

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 第98層まで来た。

 

 正直もう無理だった。

 

 第89層までは良かった。ほぼ一日に一層ペースでクリアしていき、そのおかげで心も壊れずにゲームクリアという目標を達成できると信じ切っていた。

 

 第90層からだ。本当の地獄だったのは。

 

 まずMobの強さが異常に上がった。例えるなら第75層のフィールドボス程度まで引きあがっていて、今まで通り速攻で片づけることが不可能になっていた。

 

 Mobでこの強さだ。ぞろぞろ湧いて出てくるMobでこの強さだ。

 

 しんどいなんてもんじゃなかった。

 

 頭から戦いが離れないんだ。

 

 警戒が解けないんだ。

 

 緊張が解けないんだ。

 

 心が休まらないんだ。

 

 食事をしているときも、アイテムを買っているときも、荷物を確認しているときも。

 

 いつでもどこでもすぐそこにモンスターがいるんじゃないかと頭にチラついて警戒が解けなくなった。

 

 宿で寝ているのにもかかわらず、夜は十数回目を覚ます。

 

 街中で変な視線を感じたと錯覚して体が勝手に動く。

 

 安全地帯にいても常に武器を持っていた。

 

 そんな状態でも俺はフィールドに出てMobを倒してレベルを上げ、ボスへ挑んだ。

 

 この時のレベルは180を超えていたはずだ。

 

 今までの安全マージン何て役に立たないと思ったから、ここまで狂気的にレベルを上げたんだと思う。

 

 そして挑んだ第98層。

 

 まずギミックがとんでもなく面倒だった。迷宮区にいくつか隠されたスイッチを一つずつ起動しないと先に進めないんだ。

 

 それが俺をさらに苛立たせた。

 

 ボス部屋にたどり着いた俺はもう我慢の限界だった。

 

 今までのストレスを全て吐き出すかのようにデスサイズを構えてボスに突進していた。

 

 あの時はかけらも冷静ではなかった。とにかくストレスを発散したくてがむしゃらに突っ込んでいった。野生の獣みたいだったと思う。

 

 ボスはドラゴンだった。

 

 二種類のブレスを攻撃で使ってきたのだが、どちらも麻痺や出血などの状態異常効果が付与されていた。

 

 そのブレスを辛うじて残っていた理性の一部で、武器防御のバトルスキルを使って防いでいた。

 

 ブレスも頻繁に撃ってくるので、リズムよくスキルコネクトを使って連続攻撃を放つことはできなかった。

 

 それも相まって俺のストレスはさらに加速して――気づいたら倒れ伏していた。

 

 正直、死んだと思った。

 

 恐らくブレスが掠ったんだと思う。麻痺と出血を貰って、体は動かないし出血のせいでHPはどんどん減っていく。バトルヒーリングスキルがあっても減っていくほどの出血だった

 

 その場には俺以外のプレイヤーもNPCもいない。麻痺と出血を解除してくれる仲間はいない。

 

 流石にもう無理かと思ったんだが……その時一人の少女が現れたんだ。

 

 何の前触れもなく、突然に現れた。

 

 綺麗な白髪に、赤い瞳。前髪を結っていて、それぞれの耳の後ろから三つ編みにされた髪が垂れていて、でもそんな綺麗な素材もフードを被っていて完全には見えなかった。

 

 白いフードのあるケープを着ていた彼女は、今にも殺されそうだった俺の前に飛び出してボスの攻撃から俺を守ってくれた。

 

 白銀の盾を両手で支えて、ボスの一撃から俺を守ってくれた。

 

 少女は俺の方に視線を向けて何かを話したが、俺には聞き取れなかった。

 

 だが次の瞬間、俺に掛けられてた状態異常が全て解除された。

 

 俺が彼女に礼を言うと、彼女は後ろに下がって歌を歌い始めた。

 

 すると俺に攻撃力強化のバフがかかった。

 

 視線を向けると、少女は目で「行け」と促してきたのを今でも覚えている。

 

 そこからは一方的にボスを叩いた。

 

 攻撃パターンも読み切ったし、何より冷静になることができた。

 

 そして一番の原因は突然現れた少女との会話だろう。

 

 一方的に話しかけ合う、話のつながりがない、とても会話と呼べるものではないのはわかっている。それでも一人取り残されてから初めて街にいるNPC以外と会話することができた。

 

 それが何よりも俺に活力をくれたんだと思う。

 

 いつも決まった通りに返してこないNPCとは違う会話の仕方に何よりも救われた。

 

 一人は辛いっていうのを俺は嫌ってほどSAOで学んだよ。

 

 無事にボスを倒した俺は、少女にもう一度お礼をしようと思ったんだが、もう少女の姿はどこにもなかった。

 

 その代わりに、録音クリスタルが一つ落ちていた。

 

 それを拾って再生させると、ボスと戦っているときに少女が歌っていた歌が入っていた。

 

 もちろんそのまま持って帰った。

 

 そして何度も聞いた。

 

 彼女の歌は俺の支えの一つになってくれた。

 

 

 

 ✝ ✝ ✝

 

 

 

 話を切ったジャックは、エギルに頼んだコーヒーを一口飲み、質問を促した。

 

 誰よりも先に手を上げたのはシノンだった。ジャックはそれを予測していたのか、少し口元を緩ませながら先を促す。

 

 

「その少女はプレイヤーだったの?」

「そんなわけないだろ。プレイヤーが突然現れて突然消えるなんてことはないだろうし」

「うぐっ……。あと、その……」

 

 

 少し気まずそうにどもるシノン。

 

 

「その先は言わなくてもわかるからこう答えよう。別に好きでもないし、惚れたとかではない。言うなら、たった一人になって壊れていった精神を見事に救ってくれた救世主(メシア)ってところかな」

「なるほどね……」

「そう深く考えるな。きっと茅場が隠していたAIか何かだろう。サーバーが残っていれば手がかりの一つや二つ、簡単に見つかるさ」

「それを聞くと今すぐサーバーを壊してほしいと思ってしまう私がいるのだけれど」

「気にするな。俺からはそうとしか言えない」

 

 

 コーヒーを飲みほしたジャックは、エギルにジンジャエールを頼む。

 

 エギルは険しかった表情を緩めて、あいよと一言。テーブルの上にはグラスに入ったジンジャエールが置かれた。

 

 ジャックが質問を促すが、誰も手を上げない。

 

 ジンジャエールを一口飲んだ彼は続ける。

 

 

「それじゃあ続きを話すとしよう」

 

 

 

✝ ✝ ✝ 

 

 

  

 第99層は通路を通って迷宮区に入ったらいきなりボス戦だった。

 

 これにはさすがに驚きを通り越して呆れた。

 

 そして同時に不信感を抱いた。

 

 ボスとして部屋にいたのは第87層にいたボスだった。

 

 もちろん問題なく倒した。一度戦っているだけあり、相手の攻撃パターンも完全にわかっていたし、なにより第87層で戦った時よりも弱かった。

 

 ここで終われば簡単だったな、ラッキー。で済んだ。

 

 俺はすっかり忘れていたよ。茅場の性格の悪さを。

 

 二体目のボスが出てきたんだ。

 

 今度出てきたボスは第94層で戦ったボス。

 

 こいつも、もちろん倒した。弱体化していたし、攻撃パターンも知っていたから問題はない。

 

 ただ第94層のボスということもあって、一体目よりも手間取ってしまった。

 

 流石にもうないだろう、と思ったのだが……もう一体ボスが出てきた。

 

 これもどうにか倒した。

 

 三体目のボスは第97層のボス。流石に余裕なんてものはなくて、回復結晶を使う羽目になった。

 

 ボスの三連戦で流石に疲れた俺は、もう出てこないことを祈った。だが現実は無常だ。

 

 茅場は容赦なく四体目のボスを用意してくれた。

 

 出てきたボスは第92層のボス。

 

 三連続90層クラスのボスが出てきたのには流石に恨みたくなった。それと同時に、もしかしたらそろそろこの連戦が終わるんじゃないかという淡い期待も抱いた。

 

 そしてそれは、期待から現実に代わった。

 

 四体目のボスを倒した俺は、少し思考回路がイッたのか新しいボスが現れるのが待ち遠しくなっていた。

 

 早くボスをよこせ!

 

 さっさと獲物を用意しろ!

 

 闘争を!

 

 戦争を!

 

 命のやり取りを!

 

 なんて馬鹿なことを考えていた。

 

 五体目として出てきたボスは初めて見るものだった。

 

 思考回路がイッていた俺は、多分普通の人間が傍から見たら「馬鹿じゃないの!?」と叫ぶような攻撃方法をとっていた。

 

 鎖を部屋に張り巡らせて、その上を跳躍して立体機動をしていた。GGOでステルベンと戦っているときに見せたアレだ。

 

 鎖から鎖へ跳躍を繰り返して、すれ違い様にデスサイズで攻撃をする。今考えてみると、よくデスサイズが鎖に引っかからなかったなと思う。

 

 その後に確か一度、ボスの広範囲かつ全方位技を喰らって麻痺と暗闇の状態異常を貰った。

 

 麻痺はどうにかできたんだが、暗闇が厄介だった。

 

 目を閉じても開いても真っ暗で視界はゼロ。それでもボスは構わず攻撃をしてくる。

 

 音と風圧で攻撃を予測してパリィを成功させることもできたが、ほとんどの攻撃を掠ったり喰らったりした。

 

 暗闇が解けるころにはもう回復結晶は無くなっていた。それでもHPのゲージはオレンジに入っていた。

 

 この最高に高まっている集中力が切れたら死ぬ。

 

 そう思った俺は死が近くに迫っていることに焦りながらもボス攻略を進めていった。

 

 ボスはHPが残り僅かになった時にスキルを連発してきた。

 

 おかげで組み立てた鎖の足場は全壊。フィールドもクレーターだらけで自慢の高速機動が使いにくくなった。

 

 だがそこは集中力が最高に高まった状態の俺だ。攻撃をしっかりと見切って、ソードスキルを確実に当てにいってどうにか倒した。

 

 ボスを倒したあとの俺のHPは残り数ドット。町娘にパンチを貰っても死ぬ程度しか残っていなかった。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 ジンジャエールを飲み切ったジャックは、エギルにコーラを頼む。

 

 エギルは、先ほどと同じようにコーラの入ったグラスをテーブルに置いた。

 

 

「さて、質問は?」

 

 

 ジャックの問いに誰一人手を上げる者はいない。

 

 話を聞いている者たちの心は一つになっていた。

 

 

 

「了解した。それじゃあ最後の階層だ」

 

 

 コーラを一口飲んで、彼は続けた。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 やっとの思いで第100層にたどり着いた俺は、準備をしっかりとしてボス戦に挑んだ。

 

 紅い花を模した宮殿――紅玉宮。そこがボスがいるであろう場所。

 

 その紅玉宮に続く道はとても綺麗で神秘的だった。

 

 花があり、小川があり、橋があり。

 

 楽園と言っても過言ではない光景がそこにはあった。

 

 少しばかりその景色を楽しんだ俺は、小川に掛かる橋の上で録音クリスタルを取り出して少女の歌を聞いた。

 

 最後のボスに挑む決心がつき、紅玉宮の扉を開け放った。

 

 俺を待っていたのは今まで一番大きい人型のボスだ。

 

 両手に剣を持ち、額に閉じた目のようなものがあった。

 

 今までのモンスターといった感じではなく、神聖なもの――神のような見た目だった。神を見たことがないからあくまでも想像だが。

 

 このボスは本当にひどかった。

 

 何が酷いってダメージが一切与えられないんだ。

 

 ボスの手前で不可視のバリアに阻まれてボスにまで刃が届かない。

 

 何度も何度も攻撃してもバリアが破れる気配はない。

 

 ナイフを使った――だけど駄目だった。

 

 デスサイズを使った――だけど駄目だった。

 

 ソードスキルを、ユニークスキルを、ありとあらゆる手段を。

 

 俺の使える全ての力を出し切ったが――ダメージが入ることはなかった。

 

 その代わりに俺は地面から生えた樹木に捕らわれて、ボスの額にある目から放たれるレーザーの餌食になった。

 

 死んだと思ったよ。

 

 あの攻撃は即死級だって直感で分かった上に、身動きも一切取れなかった。

 

 何より目を瞑ってしまった。

 

 だが気づいた。

 

 いつまでたっても意識があることに。

 

 目を開いて確認すると、録音クリスタルが宙に浮かび、不可視のバリアを俺の回りに張ってくれていた。

 

 そのおかげか、俺を捉えていた樹木は粉々になって地面にばら撒かれていた。

 

 俺を包み込むように球状に張られたバリアは、俺を乗せてゆっくりと地面に落ちた。そして俺が地面に足をつけると、バリアは霧散してバリアを張っていた録音クリスタルは砕け散った。

 

 それと同時に、『Warning』の文字が目の前に浮かんだ。

 

 続いてこういう文字が浮かんだ。

 

『強制ログアウトを行います。セーブされていない情報は失われてしまいます。あらかじめご了承ください。』

 

 それは待ちに待った、俺が最も見たかった文字列だった。

 

 

 

✝ ✝ ✝

 

 

 

 コーラを飲みほしたジャックは、目じりを親指で弾くと口元を緩ませた。

 

 

「まぁこんな感じで何故かログアウトできたわけだ。きっとどこかの剣士が姫様を助けたからだろう。礼は言っておく、サンキュー」

 

 

 ジャックからの突然の礼に戸惑うキリトだが、すぐに状況を理解したのか苦笑いを返した。

 

 

「素直にその礼は受け取っておくよ」

「あぁ、そうしろ。貸し一つだ。俺の貸しは貴重だからな、本当に必要な時に返せって言った方がいい」

「そうするよ」

 

 

 使うことあるのかなー、なんて思っているのが顔に出ているキリトをよそに、ジャックはシノンへ視線を向けた。

 

 

「俺がSAOで過ごした日々はこんな感じだ。何の面白みもなかっただろう?」

「うん……」

「そんなに素直に言われるとちょっとな」

「でも……」

「でも?」

「ますますあなたのことが好きになったわ」

「……それは良かった」

 

 

 ジャックの目の前まで来たシノンは、そのまま彼に飛びついた。そしてその胸元に顔を押し付け、耳元へ移動する。

 

 

「あなたが生きていてくれて本当によかった……。これからもよろしくね」

「……あぁ。俺もお前と出会えてよかったよ」

 

 

 静かに紡がれた二人の言葉は、二人以外に聞こえることはなかった。

 




ちなみに今話で私が伝えたかったのは、

1.ジャックの精神はSAOを一人で生きぬいたから強い。
2.ジャックの戦闘方法はSAOで研ぎ澄まされた。
3.ジャックの体には秘密がある。

ってことです。

未だにジャックの容姿が出ていないのですが、作者の中では決めました。
このままいけばジャックくんになると思います。

これからALO編に入ります。
ユウキとの絡みもあります。
キャリバーは正直どう絡ませようか悩んでいます。

最後になります。
OS編、書きますよ。
セリフも大体覚えることができたので問題はあまりなさそうです。


こんな感じですが、これからも妄想120%で頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

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