私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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ジャンヌ編はもう少しお待ちください。




外伝:ミスコン殺人事件 相棒金次&カナ編

東京シティホテル

東京都文京区にそびえる地上43階建ての超高層ホテル。

都内主要5線4駅より徒歩6分圏内と言う好立地で、ビジネス・レジャーでのアクセスとしても便利。9階~41階に位置する客室からの眺望が非常に高評価。

イベント宣伝の効果を狙ってか、3階スーパーダイニングの外から『東京シティホテルの美人コンテスト』と明記された弾幕がデカデカと貼られている。

 

「おお〜見てごらんよ金次君、天まで届きそうだ」

 

私は爽快な青空に向かってそびえ立つ、件のホテルを裏口から眺めがら感傷に浸っていた。

現在の私の服装は何時もの武偵高校のセーラー服ではなく、黒のスーツを着ている。

これはただのスーツではなく、様々なギミック満載の特注スーツなのだ。

スーツが男だけの戦闘服だと誰が決めたのかな?

 

「建設中のスカイツリーほどじゃないだろう。それに高さなら『東京ドームホテル』と大して変わらん」

 

右隣に立つ金次君が悪態をつきながら同じくホテル周辺を眺める。

ホテルの裏口にはミスコンの出場者がステージで着るのであろう、汚れ防止の保護シートに包まれた、様々な衣装が業務用のハンガーフックに掛かっている。

衣装だけじゃない。ステージの照明器具やコイル状の配線、トラックから運び込まれた衣装をホテルに運び込む大勢のスタッフの姿も確認できる。

そして、ホテルに似つかわしくない人達の姿がーー警察だ。

人が死んだと通報を受けてか、ギラついた目で周辺を散策兼警戒している。

軽く見た限り20人くらいはいるね。隠してはいるが、全員不満と疑問に満ち溢れた顔をしているのが分かる。

ホテル側のミスコン続行のせいで、こうも慌ただしく現場を荒らされたんじゃ、捜査に当たる警察からすれば堪ったものじゃないだろう。

 

「確かにね。キンジの言う通り、このホテルは向こうと同じーー双子ビルの様なモノだし」

 

そして、忘れてはいけない人がここに1人。

私の左隣には悪態をつく金次君を見て、くすくすと可笑しく笑う女装した金一さんもといカナさんが立っていた。

服装はふっくらした質感が自慢のモックネックサンドスリットニットワンピース。

色はライトオレンジで、安定したモックネックで膝下丈の安心感とスリットの色っぽさがグッドだ。

厚みがあるため保温性も抜群でゆるいフィットで体型もカバーし、デイリーにはもちろんアンクルブーツとベルトも完璧にマッチしている。

 

「そうですよね〜。カナさんの言う通りでした〜」

 

愛想笑いを浮かべ適当に受け流しながら、カナさんをじーっと観察する。

女の私から見ても女性にしか見えない。

落ち着きと大人特有の色気が合わさった完璧な女性だ。これなら、誰も男とは思わないだろうーー私と金次君を除いて。

 

「ねぇねぇ、金次君」

 

「何だよ?っーか、引っ付くな。スーツ越しに胸が当たるんだよ」

 

金次君の肩を掴んで私の方に寄せる。

その際、私の胸が彼の二の腕に当たるが、これは決して当たってるのでない‼︎当てているのさ。カッコつけてネ。

 

「カナさんって、本当に男なの?改めて観察してみたけど、私の目から見ても女性にしか見えないんだけど」

 

後ろからカナさんが見ているが、私は口元を背中で隠して声音は最小限まで落としてヒソヒソ声で喋る。

 

「そりゃな......大概兄さんの女装姿を見れば誰でもそうなるさ。後、間違っても本人の前でその話題を持ち出すなよ。今はカナだからいいが」

 

視線をソーッと後ろにいるカナさんに移す。

ははぁ〜ん。さては変身解除後の金一さんに戻ってからが怖いんだね。

 

「いや〜本当に女性にしか見えないね。性別が男って嘘じゃないの?」

 

「ば、馬鹿⁉︎何言ってんだッ!」

 

わざとカナさんに聞こえる声で喋ってみる。

おお〜慌ててる。慌ててる。

チラッと後ろにいるカナさんを見るが、本人はコテンと首を傾げて何を言っているのか、分からない様子だ。

 

「しかし、あの胸ってどうなってるんだろう?実に興味深い。私の分析では......」

 

カナさんにふっくらとした胸がある。男である以上、作り物である事は確かだが、うーむ、大きさはB以上はあるネ。

 

「くだらんことを分析せんでええ」

 

ビシッ!

分析結果を言い渡そうとした瞬間、金次君にチョップをお見舞いされた。

痛っ⁉︎よくもやったな〜。よーし、いいだろう。

私は彼にお返しとして、まだまだ試験的なアレをすることにした。

 

「金次君。君はいつから金一さんが兄もとい男だと錯覚していた?」

 

「突然、何を言い出すんだお前は。正真正銘、兄さんは男だ。弟の俺が保証する」

 

「本当に?君は騙されているんだよ。今のあの姿こそが遠山 金一の真の姿なんだよ。普段は男装して、弟である君を騙していたのさ」

 

くいくいと親指でカナさんを指し示す。人を指で指すなとは言わないでね。

 

「そんなワケあるか。仮にそうだとして、男装する理由が分からん」

 

「金次君、本当は知ってるはずだ。思い解してごらん。金一さんが君と一緒にお風呂に入った事があるかい?一緒に海水浴は?お手洗いは?疑問に思う不審な行動があったはずだ」

 

「生憎だったな。兄さんと風呂に入った事はあるし、海水浴に連れってもらった」

 

金次君はハッキリと宣言した。

うーむ、言葉責めの催眠術を試してみたが、うまくいかなかったか。

これで彼が金一さんを姉だと錯覚すれば、どうなったんだろう〜。

やばい!思わずヨダレが......拭かないと。

 

「さっきからずっと二人で何を話しているの?」

 

カナさんがピョコと私と金次君の肩の間から顔を出してきた。

うわっ⁉︎ビックリした〜。全く近づいてくる気配を感じ取れなかったよ。これがプロの実力か......

 

「何でもねぇよ。ただコイツが馬鹿な事を言ってただけだよ」

 

「馬鹿とは何だ!私はただ君の為になる重要な話をだね......」

 

「ハイハイ。二人とも喧嘩しない。早くホテルに入りましょう」

 

カナさんが仲裁に入る。コレが大人の対応ってやつか。

これなら絶対に男女関係なくモテるわ〜。もしかして武偵庁にカナさんに惚れてる人がいたりして......そうなったら、金次君がやきもちを焼いたりするかも。

そんなことを考えながら、ホテルに向かって足を踏み出した。

 

 

裏口からホテルに入る際、入り口を見張る警察官から呼び止められたが、そこは武偵章を見せることでパスした。

その際、警官からすご〜く嫌そうな軽蔑の眼差しを向けられたけど。

そのまま1階のフロントの窓口で来訪目的を伝え、自分の武偵章を眺めながらホールを歩いていると、この前見た時代劇のあるシーンが頭によぎった。

 

「改めてコレいいネ。どこかの印籠みたいで。ひかえ!ひかえ!ひかえ!この武偵章が目に入らぬか!こちらにおわすお方をどなたとこころえる。恐れ多くも先の......」

 

「「くだらない事やってないで早く行くぞ(わよ)」」

 

有名時代のご隠居様を真似てみるが、隣を歩くキョウダイに途中で遮られた。

珍しくカナさんがノってこなかった。注意するその姿は母親そのものに感じられた。

ここから見せ場って時にさ......場を和ませるジョークくらいはいいじゃないか。

文句を垂れながらも、エレベーターに乗り込みミスコン会場がある43階サウンドステージ&ダイニングエリアを目指す。

 

 

エレベーターから降りると、そこは正にミスコン会場と呼ばれるに相応しい場所だった。

広さは武偵高校の第1体育館くらいだろう。

天井には大量の照明器具に会場全体を挟むように左右には大量の音響装置。奥にあるメインステージは扇状で、背後には大型のフルカラーLEDスクリーン画面が『東京シティホテル主催の美人コンテスト主催』という文字を映して3つ並んでいる。

メインステージ前には来客専用のパーティーテーブルがステージ全体を見通せるようセッティングされ、イベント主催者が如何に力を入れているかが感じ取れる。

しかし、そんな会場に似合わないモノが確認できるーーメインステージの中央の降ろした照明だろう。その上にスパコールを着た若い女性が仰向けで倒れていた。

目立った外傷はなく、目を見開いて天井を眺めるようにダランと力無く両腕をステージに垂らしているーー明らかに死んでいる。

その女性の死体を囲うように、ステージ上に2つのグループがーー武偵と警察だ。

キッとした張り詰めた現場の空気がこちらに伝わってくる。

お互いに睨み合って仕事に励んでいるネ。

警察と武偵は仲がよろしくない。警察は武偵を現場を荒らして手柄を横取りするって、思ってる節がある。

本来、警察と武偵は共同で仕事をする事はないが、依頼人の要望でこのような事態になったのだ。

 

「ミスコン殺人事件とはイイね〜」

 

「コラッ!レイ、不謹慎なことは言わないの」

 

カナさんから注意を受ける。

殺人は起きるべくして起きるモノさ。

まぁ、こういった現場で起きた事件は''また''起きてもおかしくないけど。

 

「うん?おい、アレって『家族はツライよ』の夫役で出てる田中アキラじゃないねぇか。何でここにいるんだ?」

 

金次君が眺める先には、ステージ前でタキシードに首には派手な蝶ネクタイの若い男が警察官に事情聴取を受けている。

あっ、本当だ。金曜の夜ドラ『家族はツライよ』に出演している俳優の田中アキラじゃないか。

妻と元恋人の間で揺れる1人の男の心情を描いたドラマで、私は毎週欠かさず見ているよ。妻を取るか、見捨てて元恋人を取るか苦悩する場面が見所なんだよね〜。

でも、最近になって役を演じきれなくなった節がある。そこが少し残念でならない。

 

「どうやら、ミスコンの司会者として呼ばれてるみたいよ。彼のドラマ毎週欠かさず見てるわ」

 

「ほほぅ〜。実は私も彼のドラマ見てるんですよ。妻か元恋人どちらを取るか苦悩する彼の姿は見ものだと、カナさんも思いませんか?」

 

「あら残念。私は苦悩する彼を見て、自分から身を引こうとする元恋人の潔さが素晴らしいと思うわ」

 

カナさんは私とは好みが真逆だった。

元恋人の方が好みですか。カナさんとはドラマ全体では話が合うが、見所では合いそうにないな。

 

「2人してあのドラマを見てんのかよ。って、それどころじゃない。早く現場に行くぞ」

 

金次君を先頭にステージに上がる。

新しく来た私達の姿を見て、ステージ上の武偵と警察が一旦手を止める。

警察の方は私達が何者か気になってるご様子だ。対して武偵の皆さんは見慣れたーー何名かカナさんに面識があるみたい。

その内の武偵の1人がこちらに向かって歩いてくる。

 

「おう、きん......カナさん、お疲れ様。うん?そっちの2人は......」

 

「私の弟とそのパートナーよ」

 

気さくに話しかけてきた武偵はどうやらカナさんと面識があるようだ。

 

同じ職場の同僚か、或いは他所の武偵事務所で会ってるのかな?カナさんだけに会ってるカナなんちゃって♪寒いか......

そんなカナさんが私と金次君に目配りする。挨拶しろって事だろう。

 

「初めまして武偵高校1年の玲瓏館・M・零です。未熟者ながら探偵科に所属してます」

 

「あー、その遠山 金次です。武偵高の1年で強襲科に在籍してます。あとカナの弟です」

 

「おう!よろしくな、弟とそのパートナーちゃん。俺は江戸川区の武偵事務所に所属してる多田島ってモンだ」

 

軽く頭を下げて挨拶する私に対して、金次君はぶっきらぼうに挨拶する。こらこら、金次君?こういった場面では第一印象が大切なんだよ。状況によっては一生相手の記憶に残るんだからさ。

 

「早速だけど状況は?」

 

私達が挨拶を終え、カナさんが武偵に現場の状況説明を求める。

 

「コンテストマネージャーの石田ナルミに話を聞いたところだ」

 

彼が「ほれあそこに」と指差す先にはステージから少し離れた所で武偵に事情聴取を受ける女性の姿が。

年は40代前半、紺色のドレス姿の堂々とした立ち姿が美しい、何処かキャリアウーマン風の印象を受ける。

遠目からでも武偵の聞き取りにも臆するなく、ハッキリと喋っているのが分かる。

 

「被害者は21歳の美空マミ」

 

そう言って歩きながら状況説明する彼について私達は行く。

ついでに持参した手袋をはめる。

 

「ミスコン美女たちがコンテストのリハーサルをしていた。途中で照明器具を降ろした所......彼女の遺体が上に乗っかっていた」

 

状況説明が終わると同時にステージ上の照明器具に乗っている被害者と対面した。

被害者を前に私達は手を合わせる。

そして、改めて遺体を観察する。

女性の見開いた目には生気は感じられず、ダランと下がった両手は風でも吹けば振り子の様に動きそうだ。肩にはタスキの様なモノを下げている。

遺体の側では数名の鑑識が現場を調べている。

 

「衝撃的だな」

 

「鑑識さん死因は判明したの?」

 

カナさんが鑑識の1人ーー遺体に一番近い鑑識武偵に質問する。

 

「あぁ、キン......今はカナさんか。後ろからタスキで首を絞められた事による窒息死。恐らく、昨日の夜の11時から1時の間」

 

スラスラと死因と死亡推定時刻を伝える。

カナさんは顔が広いな。色々な武偵と面識がありそうだ。

 

「どうして死体は照明器具の上にあったんですか?」

 

私は質問してみる。シャシャリ出るなって言われそうだ。

 

「どうやら照明器具は昨日からステージの真上に置きぱなしになっていたらしい。きっと犯人が上に乗せて引き上げたんだろう。時間稼ぎの為に」

 

カナさんの同行人とあってか、現場の状況説明をしてくれた多田島武偵が丁寧に教えてくれた。

あー、ぱっと見た限り親切そうな人で助かった。

 

「つまり何だ?犯人は機材を扱える奴か?」

 

「いや、金次君そうとは限らないよ。機材の操作は誰にでも簡単にできる。このタイプの照明はタッチパネルだ。ピッと押してハイお終いってネ」

 

照明器具ーー誰にでも操作可能。

 

「一目見ただけで分かるのかよ?俺らでも操作パネルを見て初めて分かったのに。なぁ、カナさん、この子って何者だよ。学生って嘘じゃねのか?」

 

「いいえ、正真正銘彼女は学生武偵よ。そして、私の自慢の弟のパートナー」

 

私の説明に付け加え、カナさんはちゃっかりと金次君を褒める。

 

「最後の目撃は?」

 

「昨日の夜。美女たちはホテルオーナーの馬場氏主催の夕食会に参加していた。終わったのは10時30分。全員、タクシーでホテルに戻った。キーカードの記録だと美空マミは10時44分に入り、どうしてか今に至る」

 

夕食会後、一旦部屋に戻り、その後被害者は会場に来た?ーー本人の意思で?目的は何だ?

 

ホテルオーナー主催の夕食会ーーホテルオーナーの馬場氏に聞き込みする必要あり。

 

「あと、こんなのがあった。調べてみるといい」

 

そう言って鑑識武偵がカナさんに渡してきたのは、黒のスパンコールの一部だった。

『スパンコール』ーー光を反射させるために使用する服飾資材で、穴の空いた金属やプラスチックの小片のことを指すが、表面に光を反射する加工のされた布のことをスパンコールと呼ぶ場合もある。

衣服や装飾品に縫い付けて使用するが、洗濯にはあまり向かず、特にドライクリーニングを行った場合に色落ちや変形が生じる。

 

黒のスパンコールのカケラーー加害者のモノ?

 

「一部欠けてる。被害者の髪の毛に付いていた」

 

「犯人の服のスパンコールね。殺した時に付いたのかしら?昨夜、この会場に誰が入れたか調べてちょうだい」

 

現場責任者というワケでもないのにカナさんが指示する。

それを聞いて武偵達は反論することなく指示に従う。

凄いね〜ある種のカリスマ......いや、単に慕われているだけか。

 

「あっ!ついでにコンテストマネージャーも呼んでくれませんか。このスパンコールを着ていた人がいないか、マネージャーに聞いてください」

 

カナさんに続く形で私も武偵達に指示ならぬ要望する。

私の要望に多田島武偵が「任せとけ」と言ってくれた。素直に聞いてくれて嬉しいよ。

 

「ああ、そうだ。ここに来る前に依頼書で確認したんですが〜被害者には身内の方ーー父親がいるそうですネ。今はどうしているんですか?」

 

「ああ、父親ならあそこに来てるぜ」

 

多田島武偵がクィと顎でしゃくる先には娘の元に駆け寄ろうとしているのだろう、コンテストマネージャーの石田ナルミに引き止められている男性の姿が見て取れた。

様子からして彼が被害者美空マミの父親だろう。

どっしりとした体格だがオドオドした様子が見てとれて何処か頼り無さを感じる。

彼がそうですか〜、警察だけじゃなく武偵にも捜査依頼して現場をギクシャク状態に陥らせた元凶は。

 

 

 

私達は被害者の父親に話を聞くため、一旦ステージから降りて来客専用のパーティーテーブル席に座りながら、彼に事情聴取をする事にした。

 

「この度はお悔やみ申し上げます」

 

カナさんが開口一番にお悔やみの言葉を告げる。それに合わせて私と金次は目を瞑って頭を下げる。

 

「......娘がミスコンを始めたのは10歳の時だった。私は最初反対していたんだが、妻が......熱心でね。妻が死んでからも娘は止めなかったーーきっと妻が懐かしかったんだろう」

 

父親は顔を真っ赤にし涙を堪えながら、自分の娘がミスコンを始めた経緯を語り出した。

娘を失ったことが余程ショックなのだろう。

ああ、成る程ネ。これなら警察だけじゃなく、武偵にも捜査してほしくもなるワケだ。

 

「娘さんに敵はいませんでしたか?」

 

私はズィと座っている椅子から身を乗り出す形で尋ねる。

 

「まさか......!みんなから好かれていたさ」

 

好かれていた、ねぇ?

貴方の見えないところではどうだったか。

 

被害者に敵はいたーー父親の確認できないところでライバルあり?

 

「出場してた女達の中にライバルとかいたんじゃないか?」

 

今度は金次君が少々乱暴気味に質問する。実に彼らしい質問の仕方だ。しっかりと訓練して磨けば尋問科でもやっていけるね。

 

「殆どの子とは付き合いがあったさ。娘が準決勝に進んだ時なんか、みんなハグして喜んでくれた。絶対に優勝できるって」

 

純粋に被害者を祝福してくれた仲間はいたようだ。

 

「このコンテストで優勝することが娘の夢だった。なのに......なのに、何でこんなコトに......!」

 

言い終えると父親は堪えることができなくなったのだろうか、一気に泣き出してしまった。

 

「最後に娘さんと話をしたのはいつですか?」

 

泣き出す父親を気遣うように優しくカナさんが尋ねる。

 

「昨日の朝だ。夜も頑張れって、伝えたくてホテルオーナーの馬場さんの夕食会が終わる時間を狙って掛けたんだが......娘は電話に出なかった」

 

「それは何時頃ですかネ」

 

「11時ちょっと前だ。てっきり眠ってしまったのかと思ってたが、自分の部屋を抜け出して、ここに来てたんだ。理由があって......!」

 

最後にコンテスト会場を見渡しがら答える。

 

「マミ君のお父さん......!」

 

突然、私達の後ろから誰かがやってきた。

振り返ってみると、スリーピースのダークスーツにぴっしりと身を包んだ白髪の少老の男性がそこにいた。

 

「この度はお悔やみ申し上げるよ。犯人は必ず見つける。約束だ」

 

「あぁ、馬場さん、ありがとうございます......!」

 

やってきて早々、父親と握手を交わすこの男がどうやら東京シティホテルのオーナー馬場氏らしい。

会いに行く手間が省けた。

 

「武偵さん方、ちょっと来てくれるかな?」

 

馬場氏が私達3人に来るよう促す。

私達は顔を合わせて頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

 

馬場氏に連れてこられた応接室は、ドアを開けると贅を凝らしたような空間が目の前に広がっていた。

部屋の中には高級品ぽい天蓋付きベッドにソファ、床にはペルシャ絨毯......壁に掛かってるのは油絵、天井にぶら下がってるアレはシャンデリアか?

高級品で埋め尽くして落ち着かないなー。私はこの部屋が好きなれそうにない。

おまけにマスコミだろうか?部屋の中でカメラを回す男達がいる。

 

「まったく、何たることだ!私のホテルの美人コンテストに悲しい歴史が刻まれた。おお、メイサ」

 

「ああ、アナタ。大変ね」

 

入室して暫くして私達を出迎えたのは、金髪のブロンドヘアーにブルーのパーティードレスを着た40代風の女性だった。

誰だろう?馬場氏とかなり親しげで、おまけにアナタって呼んでたし、奥さんかな?

 

「妻のメイサだ。アメリカの美人コンテストの優勝者なんだ」

 

「もちろん知ってますよ」

 

「初めまして」

 

「こちらこそよろしく」

 

そのまま一歩進み、出会い頭に挨拶と、握手を交わす。

その際、私はメイサ夫人の左手薬指に注目した。夫婦の証である結婚指輪をしている指が変だ。

チラッとだが指輪の日焼け後がない。どうやら夫がいないところでは頻繁に外しているようだね。

 

「みんな美空ちゃんの死を悲しんでいるわ。勿論、私達も出場者たちも......だって家族だもの」

 

「彼女とは親しかったんですか?」

 

カナさんが一番にメイサ氏に質問する。

彼女が家族と呼ぶほど出場者たちを大事にしている様子が気になったようだ。

あ、ちょっとカメラマンさん。カメラを回さないでください。気が散る。

 

「まぁな。優しい子で、バイオリンが上手い」

 

「そうだったわね」

 

しかし、カナさんの質問に答えたのは夫の馬場氏だった。

何故、貴方が答えるの?オマケにかなり詳しいみたいだね。

 

「約束するよ。東京ホテル従業員一同、全力で捜査に協力する。必要なことがあれば何でも言ってくれ。だだし、此方からもお願いしたいことがある。ああ〜その......何だ」

 

「何だよ。ハッキリと言ってくれ」

 

「つまり、その月曜日にコンテストの生放送があるんだ。それで美空君の代役を立てたいんだが、君たち武偵の方で代わりを見繕ってほしいのだ。それとマスコミを最小限にしてほしい」

 

成る程、このホテルが武偵にミスコン出場を依頼してきたのは報道による世間体を気にしてか。ホテルで死人それも殺人があったとあっちゃね。

 

「それなら心配には及びません。代役なら既に貴方達の目の前にいます。ご紹介します。遠山 カナさんです」

 

私はコンテスト司会者風にカナさんを紹介する。

拍手〜拍手〜なんちゃって。

 

「何と⁉︎彼女がそうなのか。いやー、助かった。それにしても中々の美人だ。メイサもそう思うだろう?」

 

「ええ、本当に綺麗ね。彼女なら一発で採用よ。宜しくねカナちゃん......あらやだ、カナさんの方がよかったかしら?」

 

どうやら夫婦揃ってお気に召した様子だ。

ふっ......本当は男だとも知らずに。知らぬが仏とは正しくこの事だ。

もしも男だとバレたら......どうなるんだろう〜♪

 

「呼びやすい方で結構ですよ。私の呼び名は兎も角、被害者の為にできる事をしないと。それにマスコミといえば撮影はやめてくれます?リアリティショーじゃなく、殺人の捜査なんですよ?」

 

カナさんがカメラを睨みつける。撮影はお断りのようだ。

下手したら一生残る。本人からすれば羞恥プレイの数々が。

 

「こういうモノも撮影しないと。コンテストの裏側も全部、出場者がお互いの事をどう思っているかとか、彼女達の本音が聞けるだろう?煌びやかな女の子の素顔が見えると視聴者は喜ぶ」

 

「その通りね」

 

それを聞いた金次君とカナさんが揃って馬場氏を睨みつける。

隣で眺める私でも思わずぶるっと震えるほど迫力満載だ。

 

「......だが今はやめたほうがいいな」

 

2人の迫力に気圧されたのか、馬場氏はカメラマン達を部屋から追い出した。

 

「出場者たちはこのホテルに?」

 

ピリッとした金次君とカナさんに変わって、私が馬場氏に質問すると彼は「そうだ」と一言で答える。

 

「被害者の部屋を調べます。あと、防犯カメラの映像をください。昨日の夕食会も撮影してましたか?」

 

「勿論さ」

 

「その映像もください。あと、出場者たちに話を聞きます」

 

「マネジャーの石田に準備させよう」

 

それを最後に私達は馬場氏の部屋を後にする。

 

 

部屋を出た私達3人は暫くして、ホテルのスタッフから出場者たちから話を聞く準備が整ったと知らせを受け、ホテル3階のスーパーダイニングに向かう為、エレベーターに乗り込んだ。

 

「たく......あの支配人なんなんだ。人が死んだってのにコンテストは続行。おまけに生放送だと?ふざけんなっての」

 

「キンジ、あの手の経営者はあんなモノよ。だから気にしないで捜査しましょう」

 

カナさんの言う通りだ。

あの馬場というオーナー、風評を気にし過ぎてる節がある。

私の目から見て、アレは一種の脅迫観念に囚われてるようにも思えた。

 

「被害者の美空氏は煌びやかミスコンを夢見て、出場したのに最後はホラーで終わった」

 

「レイ、ミスコンは夢見る場所じゃなく、人間の長所と短所を引き出すもの凄いプレッシャーのかかる場所なのよ」

 

カナさん、やけにミスコンに詳しいですね〜。まるで出場したことがあるような言い草だ。

さては私と金次君の知らない所で出場したことがあるな。

 

「......それって経験者が言うようなセリフだな。まさか......カナ、出てたのか⁉︎」

 

「違うわよ。ローマ武偵に留学してた頃、ルームメイトの子が出場してたの。お化粧して凄かったのよ」

 

へぇーそうなんだー。ローマでもミスコンをやってるのか。

一瞬アナタも出てたと思ったよ。

そんな会話をしているとエレベーターは3階に到着した。

 




fgoでアラフィおじさんを最終レベルまで上げました。
聖杯を使うか、使わないべきか......やっぱり大好きなキャラだから使おう!
願わくば名探偵も来て欲しい。

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