私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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fgoの夏イベントは最高だった。


何事もイメージトレーニングから

翌朝7時。

生徒会長としてアドシアードの運営・来賓歓迎準備・清掃etc......上げるだけでもキリがない仕事をこなし、ある程度の区切りがついた所で見回りも兼ねて校内を歩いていると、

 

「あっ!金次君はっけーん」

 

学校のハズレに位置する通称『看板裏』。

レインボーブリッジに向けて立てかけてある看板の裏であり、体育館との間に挟まれた細い空き地に立ち尽くす金次君の姿を

挨拶をしようと彼の元に歩き出すと、

 

「げぇ、アリア......」

 

金次君の背後から忍び寄るピンク頭が。アリアだ。

金次君の背後をとったアリアは背伸びをし、挨拶代わりなのか?彼に目隠しをした。

しかも、武偵高のチアガールーー黒を基調にしたコスチュームを着用してる。対して私はいつもと変わらず武偵高の制服だ。

 

突然のアリアの登場に金次君はあまり驚いた様子がない。

まさか、ここでアリアと待ち合わせしていたのか?

しかも、チアアリアに見とれて......

そんな光景に居ても立っても居られなくなり、

 

「おはよう金次君‼︎」

 

「あっ、れ......ぐぼぁ⁉︎」

 

「ちょっ......キンジ⁉︎レイあんた初っ端から何すんのよ!」

 

挨拶がわりにボディブローをお見舞いする。

突然の不意打ちに金次君は抵抗の間もなく、一撃をモロにくらい前のめりになる。

 

「易々と背後をとられたお仕置きだよ」

 

「もっとやり方があるでしょうが。私でも奴隷にここまでしないわよ」

 

身長差の関係でアリアを見下ろす形で睨む合う。

しないって、嘘つけ。感情に任せて叩くでしょうが。

それに対して私のは愛の鞭ってやつだよ。

 

「腹パンはねぇだろうがオイ。危うく朝飯吐くとこだったぞ」

 

痛む腹を抱えながら金次君がふらふらと立ち上がってきた。

ほう......私の腹パンを食らっても立ち上がるとは君も強くなったね。嬉しくて涙が出てきそうだよ。まぁ、嘘だけどネ♪。

 

「背後を取られる君が悪いんだよ。武偵たるもの警戒を怠るなってね」

 

「コソコソと人の事を見るなんていい趣味ね」

 

と、アリアは私がやってきた方角を見渡す。

いつも?この辺りで喧嘩になるが、今日の私は機嫌がいい。何故なら、

 

「何だ。そのいい事ありましたよ感ありありの顔は?急にニヤついて気味悪いぞ」

 

気持ちが思わず顔に出ていたようで、その事で金次君に指摘される。

女子に対して気味が悪いなんて失敬だぞ。また腹パンを喰らいたいのかい?

 

「ふふふ、教えてあげよう。実は昨日、私のもとに新車がね......」

 

顔を真顔に戻して説明してあげる。

そう、ハイジャック事件でりこりんに廃車(アリアにも)された私の愛車ポルシェ356aが新車になって帰ってきたのさーーアリアに弁償させてネ♪

あの時、私に対し弁償するのが屈辱とばかりに代金の支払いを渋る姿は何とも滑稽だったよ!

 

「結局あの後、ちゃんと弁償してやったんだな」

 

「あたしは貴族よ。車の一台や二台しっかりと払ってやるわよ」

 

「あれれ〜?その割には支払いの時、カードを出す手がプルプルと震えてたような」

 

「そこ!払ってやったんだから、余計なことを言うんじゃないわよ!」

 

アリアは足蹴りを放つが、そこはひらりと躱してみせる。

危ない......こいつは考え無しに突発的な行動に出るから考えーー攻撃パターンが読めない。

 

「車の件はここまでにして。なんなのアリア、そのカッコ」

 

「見て分かんないの?チアよ。これはキンジを調教する間に、あたしがチアの練習をする準備なの。同時にやればムダにしないですむでしょう?」

 

成る程。確かに理にかなっている。

仕事の効率化は武偵には必須だしね。しかし、金次君を調教とな。

私もやってみたい......

 

「......で、具体的にはどうやるの?」

 

「おい。お前まで交ざるのかよ」

 

「へー。珍しく気が合うじゃない」

 

チアリアはもったいぶって姿勢を正すと、わざとらしい咳払いの後、説明を開始した。

アリア曰く、金次君はSランク武偵の才能を持ってる、やればできる子。金次君は二重人格で覚醒の『鍵』ーー戦闘時のストレスによって切り替わるそうな。

 

戦闘時のストレスによる二重人格ね〜。

ふふん。その二点はハズレだよ。

ヒステリアモードは、心因性の獲得形質じゃない。神経性の遺伝形質なのだ。

話題の金次君に視線を向けると、感心したような態度で、相づちを打っている。

適当に受け流してやったな。

 

「だからーーあんたを戦闘のストレスにさらしまくるのが、特訓の第一段階」

 

と言うとアリアは、いきなり、チアのカッコでも背中に隠していたらしい寸詰まりの刀を抜いた。

 

「ーーお、おい待てっ!」

 

「なるほど......それを使って金次君にストレスを与えて覚醒させるのだね」

 

「覚醒ってどういう事だよ」

 

俺のヒステリアモードが何なのかお前知ってるだろ、とばかりに助けを求めるが敢えて無視を決め込む!

アホなほどシンプルではあるが、それ故にどんな結果を招くか気になる。

 

「君は実に馬鹿だな〜。噛み砕いて言うと......アリアの攻撃時に君が覚醒し、その場で反撃する。でしょう?アリア」

 

「そう。だからあんたが覚えるべき技は、カウンター技なの」

 

「カウンター技......って何だよ」

 

「君はこの状況下でまだ分からないのかい?刀イコール......」

 

「真剣白刃取りよ」

 

言うとアリアは、刀を振り上げた。あっ、やっぱりね。

 

「待ーー」

 

て!と金次君が叫ぶより早く、ヒュッ‼︎という音がなり、彼の肩に刀を振り下ろしーーかけたところで、寸止めしたらしい。

金次君には全然、見えなかっただろう。

 

「はい。今のタイミングを500回、まずは頭の中でイメージする。制限時間は10分」

 

「......イメージ?」

 

「要するに今の動きを元に、刀を挟み取るイメージを作るんだよ。シャドーボクシングみたいにさ」

 

分かりやすく、シュッ、シュッとジャブを打ってみせる。

 

「イメージだけやれるもんかよ」

 

金次君は深ーく溜息をつく。

イメトレを馬鹿にしてはいけないぞ。

イメトレがパフォーマンスを向上させるという事はすでに科学的に証明されている。

脳は「実際の経験」と「頭の中で鮮明に描いた想像上の経験」を区別するのが苦手だ。

想像上の経験でも、実際の経験でも脳は同じような領域を使って情報処理を行う。脳をだまして成功体験を生み、それによって得た自信や感触によってパフォーマンスが向上するだ。

アップルだって仕事をする前に、想像するのは最強の自分だって言ってたし。

 

「イメージすれば簡単にできるよ」

 

「じゃあ、お前がやってみろよ」

 

お姉さんぽい口調で言うと、手本を見せてみろとばかり。

あちゃー、カナさん風に喋ったのがカンに触ったか。

 

「OK。じゃあ、アリア早速やってよ」

 

「いいの?あたし車の件で''少ーし''だけアンタにイラッとしてるから、思わず力が入り過ぎるかもしれないわよ」

 

「御託はいいから早くきなよ」

 

挑発的な口調で言ってやる。

肉体性能では向こうが有利。精神的にはこちらが有利。

怒りに身を任せた攻撃でも流石はSランク武偵。大きな振り下ろしを見切って受け止めてみせる。

攻撃のシュミレーションを終える頃に、ヒュッ!

という金次君の時よりも早く、空気を断ち切る音が目の前で鳴った。

アリアが私の額に目掛けて刀を振り下ろしーーたところで、パシッ!

イメージ通り、両手で刀を受け止めた。

 

「ほらね。簡単でしょう」

 

「ーーじゃねぇよ!お前くらいだよ。初っ端からそんな事ができる奴は」

 

何をそんなに怒っているのだろうか?あっ!さてはヤキモチかな。

攻撃をイメージし、相手の手を読むのは初歩の初歩。私にできて自分ができない事が悔しいのか〜。

彼の心情を察し、手を離そうとしたところで、あることに気づく。

 

「......ねぇ、アリア。そろそろ力緩めてほしいんだけど」

 

「アンタが先に手を離したら緩めてあげるわよ」

 

「そしたら君、絶対に私の脳天に刀を叩き込むでしょうが」

 

「あら。そしたら、ショックで頭が冴えて良くなるかもね」

 

「なワケないでしょうが。力をゆ・る・め・ろ」

 

「アンタが先には・な・し・な・さ・い」

 

ググッとお互い一歩も引かず、金次君を余所に意地の張り合いが続く。

『看板裏』でお互いの攻防が終わりを迎えたのは、一限目の授業開始を知らせるチャイムが鳴ってからだった。

 


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