私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

59 / 63
うわぁぁぁぁ‼︎書き溜めを間違えて消してしまった。
ショックで暫く凹みました(大泣)


魔剣殺し編
会いたかったのは巫女さんで


薔薇園でのやり取りがどうなったかというと、金次君はモランから馬乗りにされ、パンチをもろに食らいまくった。

モランはそれはもう殴る、とにかく殴る。積年の恨みたっぷりとばかりに金次君を殴った。

怒りに身を任せたパンチとはいえ、ボクシング経験者の私から見てストレートパンチは見事だった。いいセンスだ。

100発殴った辺りで、このままでは流石に金次君が死んだしまうと思いアリアと一緒に止めに入ったがね。

それから暫くして、アリアは金次君のヒステリアモードの切り替えの鍵を探る名目の下、なんと金次君の部屋に戻ってきてしまった。

その夜ーーアリアから半ばパシリの形で桃マンを買いに行かされた金次君に何となく付いていった帰り道。

 

 

「イテテ......なんで俺が殴られなきゃならん?」

 

「さあね、自分の胸に聞いてみなよ」

 

松本屋の桃まんとうなぎまんの入った紙袋片手に、まだ痛むのか、金次君はモランに殴られて腫れた顔を撫でながら歩く。

そんな彼を尻目に私が隣を歩いていると、

 

「まさかお前、ヤキモチ焼いているのか?俺とアリアが抱きついたからって。前にも言ったが、あれは偶然が重なってだな......」

 

「聞こえなーい。聞こえませーん。ヤキモチ焼いてませーん」

 

わざとらしく話を振ってきた。

ヤキモチとな?この私がするわけないよ。ただ、あの光景が気に入らなかっただけさ!

 

「お前と薔薇園にいたあいつは誰なんだ?俺の事をやけに恨んでいたみたいだが」

 

「過去に振った女の子の1人じゃないの?」

 

モランの正体が気になっているご様子。

そんな金次君に、私はニィと嫌味たっぷりの笑みを浮かべる。

 

「あんな奴は知らん。会ったこともないし、付き合った事もねぇよ。っーか、絶対に知ってるだろう」

 

「あの子は私の戦妹だよ。理由は知らないけど、やけに君の事を嫌ってる」

 

「お前に戦妹がいたなんて初耳だぞ」

 

「君に戦妹がいるように私にもいるさ。そういえば、君の戦妹のヒナちゃんだっけ?あの子とはうまくやってる?」

 

金次君には風魔ヒナという戦妹がいる。

名前から分かるように風魔という忍の末裔だそうな。

忍の割にどじっ子ぽい所があって可愛いんだよね〜。今度会った時あん饅あげよう。

 

「あー、まぁな。向こうは俺の事を師匠って呼んでくるから迷惑してるが」

 

「そんな事を言わない。それだけ慕われてる証拠だよ」

 

慕われてる本人はこんなだけど。

 

「おい。今バカにしなかったか?」

 

「気のせいさ」

 

ムッ......最近、やけに鋭くなってきたな。

 

「それはそうと、アリアはやけに上機嫌だったね。なんかいい事でもあったのかな?」

 

買い物に行く前の事を思い出す。

アリアの晴れ晴れとしたあの顔は一体何だったのだろうか?

 

「話を逸らすな......何でもロンドンに帰る直前になって、自分の曽じいさんの無実が晴らされたそうだーーシャーロック・ホームズを知ってるよな?」

 

「勿論さ。私達武偵の始祖にして、世界唯一の顧問探偵」

 

探偵科で嫌という程、勉強したから知っているよ。

偶に彼の捜査方法を有意義に使わせてもらってる。

 

「そのシャーロック・ホームズがアリアの曽じいさんなんだが......」

 

金次君は歩きなが事の経緯を説明し出すーーイカサマ師の疑惑を掛けられた事、それでアリアがロンドンに帰ろうとしたなど、私はそれを適当に聞き流す。

なんでかって?それは勿論、全部知っているからさーー私がそう仕組んだ。

 

「ふ〜ん、そうだったんだね。学校での騒ぎの原因の身内だったか」

 

「原因って、ホームズを犯罪者のように言うなよな。当の本人ーーアリアには特にな」

 

「ホームズの無実はどうやって晴らされたんだい?」

 

そこが一番気になった話題だ。

ロンドンのルイスの働きかけにより、これでもかとホームズをイカサマ師に仕立て上げたのに、ここ一番になって無実が晴らされたるなんて、想定外のことだ。

ルイスはロンドンでなく、他国の報道機関にも影響力が強い。そんな彼の仕立てたネタを消してみせるなんて......

 

「さてな。だだの武偵の俺には分からんよ。アリアに直接聞いてみるか?」

 

「止めておくよ。古傷を抉る真似はしたくないし」

 

非常に気になるが、''今は止めておこう''ーー『イ・ウー』のこれからの動向が気になるし。

 

そんな風に話していると、男子寮に到着した。

金次君の部屋に上がると、リビングのソファで、

 

「遅い!ももまん買うだけで何分かかってるのよ。さては2人してイチャイチャしてたのね!」

 

コレだよ。

がーぅと子ライオンの様に吠えて、人が桃まんを買ってきたのに感謝の一言もないアリアがそこにいた。

 

「してねぇよ。お前な......それ食ったら帰れよな。ここ男子寮ーー」

 

「あたしに言う前にそこのレイに言いなさいよ。それに言ったでしょう。あんたの力の秘密を解くまで帰らないって」

 

アリアは数多の犯罪者を手錠にかけてきた武偵であるーー推理の方はからきしだけどね♪

このやり取りを見る限り、意地でも帰らないつもりだ。

金次君の秘密をアリアは知らず、私だけが知っているーーこれぞ、まさに愉悦‼︎

 

「まぁ、いいじゃないか金次君。好きにさせてあげればさ。アリアもコレ食べて機嫌直して」

 

ガサゴソと松本屋の押印が入った紙袋から適当に''饅頭''をアリアに手渡してやる。

 

「あら、気が利くじゃない」

 

口から鋭い八重歯を覗かせてパックっと齧り付くと、

 

「ん もごっ⁉︎こ......これ......ももまんじゃにゃい......!」

 

「あっ、それ俺のうなぎまんじゃねぇか」

 

「はははははは、ひっかかった!ひっかかった!」

 

ぷるぷると震えてマヌケな顔のアリアを指差す。

私が手渡したのは桃まんではなく、金次君の買ったうなぎマンだ。

 

「ちょッ......何ってモンを食わせんのよ!」

 

「金次君が買ってあげたんだがら有り難く食べなよ」

 

「いや、ソレは俺の分だからな」

 

「いいじゃないか。細かい事は気にしない。これでよし!」

 

「よくない!こんな磯臭いのよくも食べさせてくれたわね!」

 

「騙された君が悪いんだよ!バーカバーカ!」

 

武偵たる者騙された方が悪い。

桃まんを本当に好いているなら食べる瞬間に気づけ。

 

「うるさいうるさい!口答えするな奴隷2号のクセにッ!」

 

「いつ私が君の奴隷になったんだよ!」

 

アリアが身に覚えのない事を言い出したので反論する。

奴隷って、つまりは君のパーティーの一員って意味かい?断固お断りだね!

私達が睨み合いをする中、いつの間にか部屋の隅に避難していた金次君が携帯の画面を開くと急にガクガクと震え始めた。

 

「アリア、レイ、に、に、にに、逃げろッ!」

 

「な、何よ。なに急にガクガク震えてんのよ。キ、キモいわよキンジ......」

 

「そ、そうだよ。何さ狼を前にした子鹿のように震えて。大丈夫かい金次君」

 

「ぶ、ぶ、『武装巫女』がーーうッ。マズい......来た......!」

 

どどどどどどどどど......‼︎

猛牛が突進しているかのような足音が、マンションの廊下に響き渡っている。

近づいて、しゃきん‼︎

金属音と共に、玄関のドアが切り開けられた。

そこから姿を現したのはーー巫女装束に額金、たすき掛けという戦装束に身を固めたーー

 

「白雪!」

 

さんだった。

白雪さんは息をぜーぜー切らせながら、ばっつん前髪の下の眉毛をつり上げている。

 

「やっぱりーーいた‼︎神崎!H!アリア‼︎」

 

「ま、待て!落ち着け白雪!」

 

白雪さんはこうやって、パーサーカーになることがある。

そしてこういう時、金次君の周囲にいる女子が攻撃を受けるのだーー私は例外だよ。

 

「この泥棒ネコ!き、き、キンちゃんをたぶらかして汚した罪、死んで償え‼︎」

 

白雪さんは携えた日本刀を上段に構える。

 

「や、やめろ白雪!俺はどっこも汚れていない!」

 

汚れてないとな?本当に〜?

陥った状況とは裏腹に、そんな事が頭によぎった。

 

 

 

 

 

星伽白雪さんは、大和撫子だ。

つやつやした黒髪ロングのおしとやかで慎ましい、古き良き日本の乙女。

炊事・洗濯が上手で、私も大いに助けられている。特に洗濯に関しては彼女の知恵袋を借りるくらいだ。

......本来はね。

その彼女が鬼の形相で今まさに、日本刀を振り上げて、

 

「ア、ア、アリアを殺して私も死にますぅー!」

 

なんて叫ぶことは、決してしない子なんだけどなー。

しかし、アリアを殺すときたか......殺すなら勝手に殺しなさい!私は巻き込まないでね!なんちゃって♪

 

「だから何であたしなのっ!ヤるならレイにしなさいよ!」

 

神崎・ホームズ・アリアにも、白雪さんが自分の命を取りにきたのか、分からないみたいだ。

どさくさに紛れて、私に振らないでよ。白雪さん、私は殺さないで!アリアは殺していいけど。

 

「白雪!お前、なに勘違いしてんだっうおっ⁉︎」

 

がすっ!

 

弁明しようと前に出た、金次君の背中をアリアが思いっきり蹴っ飛ばした。

金次君は廊下の壁にぶつかり、転倒してしまう。

何故、そこで彼を蹴るの⁉︎

 

「キンジ、レイ、なんとかしなさいよ!あんた達のせいでヘンなのが湧いてきたじゃない!」

 

「俺(私)のせいじゃねーよ(ない)!」

 

心境は同じかーー金次君と見事にハマった。

 

「そう!キンちゃんと零さんのせいじゃない!キンちゃんは悪くない!零さんも悪くない!悪いのはーーアリア!アリアなんか、いなくなれぇーっ!」

 

あっ、コレはあかんやつだ。

私はこれと似た体験をしたことがある。

あれは去年、金次君とオペラ座を観た帰りの出来事だった。私と金次君を尾行し、その様子を見ていた白雪さんが暴走したのだ。

アレと状況が似ている。私の読みが正しければ、この後、起きる事といえば......

 

「天誅ぅーーーーッ!」

 

やっぱりね!

金切り声をあけだ白雪さんは、下駄をカカカッと鳴らして突進し、ぶうんっ!

いきなり、アリアの脳天めがけて刀を振り下ろした。

ああ、土足で上がっちゃダメだよ。

 

「みゃっ!」

 

ネコ科の珍獣みたいな声を上げたアリアは、ばちいいいっ!

白雪さんの日本刀を、左右の手で挟んで止めた。

ほぅ、真剣白刃取りか。

久しぶりに見たね。モランが実践してくれたのを見て以来だ。あの子は止める際、「がぅっ!」とイヌ科みたいな声を上げるが。

 

「この、バカ女!」

 

アリアは刀をホールドしたまま、だんっ!がしっ!

スカートを思いっきり跳ね上げつつジャンプして、両脚で白雪さんの右腕を挟んだ。

マズイ、このまま彼女の腕をねじり上げる気だ。

 

「加勢するよ白雪さん!」

 

「零さん!」

 

私は居ても立っても居られなり、即座にアリアの両脚を掴み、

 

「「せーの......おりゃぁぁぁぁぁぁーー‼︎」」

 

息ぴったりーー白雪さんと一緒にアリアに、バックドロップを決めた。

同時に、床に思いっきり凹みができたが、敢えて気にしない。

だって、スカッとしたんだもん!

 

「ちょっと!なにすんのよレイ‼︎」

 

手応えがあった筈だが、アリアは即座に立ち上がってきた。

チィッ!技のキレが足りなかったか。

 

「いなくなれ泥棒ネコっ!キンちゃんの前から消えろっ!」

 

「向こうで頭を冷やしてこいっ!」

 

白雪さんと私は両足でアリアを思いっきり蹴っ飛ばす。

プロレス技のオンパレードだ。

 

「きゃうっ⁉︎」

 

アリアは、ごろごろっ、がしゃしゃ!

居間のソファを瓦礫に変え、その下に埋もれてた。

ドロップキックがアリアに決まったー!

 

「や、やめろ!やめるんだ3人ともうおっ⁉︎」

 

ここでレフリーの如く、金次君が止めに入るが、ばすんばすん!

瓦礫の下から這い出たアリアが2丁拳銃をぶっ放した。

ギギンッ!

白雪さんはその拳銃弾を、さも当たり前のように刀で弾き飛ばした。

おお〜、切るのではなく、弾き飛ばすときたか。オマケに金次君に飛び火しないよう心掛けされている。ジャック君にもできるかな?

 

「キレた!も〜〜キレたっ!レイ!あんたにも風穴あけてやる!」

 

弾倉がカラになるまでばかすかと撃ちまくるがーー白雪さんが全部弾く。

フハハハハ、無駄だよ!私には白雪さんが付いている。

仁王立ちして眺めていると、今度はクロスさせた2本の小太刀で私に切り込みをかけたが、白雪さんの平突きに邪魔される。

そして、ぎりぎり、鍔迫り合いになる。

日本刀ーー接近戦主体の白雪さんに刀で挑むとは愚かな。

 

「零さんこの女を刺して!そうすれば全部見なかったことにするよ」

 

それはイヤだ。手を汚すことはしたくないし。

 

「レイ、本当にやったら許さないわよ!キンジ!あたしに援護しなさい!」

 

アリアは金次君にヘルプを要求するが、彼の反応は、

 

「......勝手にしろ。心ゆくまで戦えよ」

 

気疲れした様子で頭を抑えながら、トボトボ......とベランダの方に歩いて行った。

何故、ベランダに退避するの?あっ、分かった。防弾製の物置に隠れて嵐が去るのを待つ気だな。

 

「私も1抜けたー。それじゃ、2人とも存分に戦いたまえ」

 

私もダッダッダと金次君の後を追ってベランダに出る。

 

「ちょっと、何処に行くのよっ!」

 

......煩いな。

私はガラガラと窓を閉めて、アニメ声を完全にカットする。

そのままベランダに設置されている防弾製の物置をガチャと開放する。

 

「って⁉︎なにお前まで来るんだよ!」

 

イタイタ。

案の定、そこには金次君が隠れていた。

ベランダで隠れられそうな場所といえばここくらいしかないし、当たり前だけどね。

 

「お邪魔しまーす」

 

私は一言断りを入れて、物置の中に飛び込んだ。

 

「馬鹿ッ!入ってくんな!」

 

ぎゅうぎゅう。ガチャ。

1人用の設計なのか物凄く狭い。先客の金次君と向かい合い、密着する形でどうにか入ることに成功した。

彼の胸板に自分の胸が押し付けられる。

うっ!意外と胸が苦しい。知らぬ間に大きくなったのかな?

 

「なんで入ってくる?あの2人の喧嘩に巻き込まれたくなかったら、他所にいけよ」

 

金次君の顔がすぐ間近である。暗がりだが、ほんのりと顔が赤いのが丸見えだ。

ーードクンドクン。

おまけに金次君の胸の鼓動も分かる。ヒスるのかい?

 

「だって安全地帯といえばここくらいしかないし」

 

少し拗ねた様で答えてあげる。

 

「外に逃げるなり、お前の頭ならすぐに行動できたろう?」

 

金次君に行動を指摘された。

あっ!その手があったか。我ながら間抜けだった。

 

「まぁ、細かい事は気にしない。気にしない」

 

顔と顔との距離が更に近くなる。少し近づくだけでお互いの唇が触れそうな距離だ。

 

「待て待て。それ以上、近づくな」

 

両手で私の体を制するが、この狭い物置ではたかが知れている。

ぐにゅう。ぎゅう。

彼の両手が私の胸を掴む形になってしまった。

 

「おお〜。大胆だね。そんなに私の胸を揉みたかったのかい。このスケベ♪」

 

「ち、違う!これ、事故だ。そう、事故なんだ!ってか、お前の方から動いたせいで......!」

 

テンパってる。テンパってる。

間近で見ていて面白い。どれ、もう少しからかってあげよう。

暗がりで慌てる金次君に顔を近づけようとしたとき、

ガシャン!ドガァァァァー!

誰がベランダの窓を割り、物置を思いっきり倒した。

倒れる際、私は思いっきり頭をぶつけた。痛っ!記憶が飛ぶかと思ったよ。

ジャキジャキ!シャキーン!

物置のドアがバラバラに切られ、引っ張り出される形で金次君と私はごろごろとベランダに出された。

 

「ふふふふふふふふふ、何してるのかなー、レイさーん」

 

「あたしとこのバカ女がヤッてる最中、2人して何やってんの!」

 

R指定の笑みを浮かべ、日本刀を構える白雪さんと、歯を剥き出しにして2丁拳銃を構えるアリアがいた。

まだ決着がついてなかったのかい。

 

「け、決して疚しい事なんてしてないぞ!」

 

金次君、余計な事は言わないでよ。

 

「してない?してないって事は、今まさにしようとした瞬間だったんだ」

 

「このヘンタイ!あんたもそうだけど、レイも何しようとしてんのよ!ふ、2人で物置に隠れてッ!」

 

アリアは兎も角、白雪さんが敵に回るのは非常にまずい。

私はその場から逃げようと立ち上がるが、スゥと首筋に白雪さんが日本刀を添える。

い、いつの間に⁉︎添えられるまで気づかなったよ。

 

「どこに行くの零さん?」

 

「弁明してみなさいよレイ」

 

チャキ!

アリアが私の後頭部に拳銃を突きつける。ここは大人しくするか。

両手を上げて抵抗する意思がないことをアピールする。

 

「白雪さんもアリアも大袈裟だよ。私と金次君は2人の喧嘩に巻きれないよう隠れていただけさ。この防弾製の物置にね」

 

コツンコツン。

足で物置を蹴るが、防弾製のストッキングを履いてるだけなどで、頑丈な物置を蹴るのは少し痛い。

 

「2人して入る必要ないじゃない。物置を盾にするなりできたでしょうが」

 

「真っ暗な物置の中で一体、キンちゃんと何してたのレイさん?」

 

「別に何もしてないさ。ただ隠れていただけ。ねぇ、金次君?」

 

金次君に確認を取ろうとするも、俺に話を振ってくるなよ、とばかりに顔を逸らされた。

私を見捨てるの⁉︎

 

「キンジが答えないってことは、少なくとも何かしてたのね!このヘンタイ女‼︎」

 

「真っ暗な物置の中で......キンちゃんと......2人して......私を差し置いてヒドイよぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎この裏切り猫めッ‼︎」

 

白雪さんの過大妄想がヒドイことになってる。

早くどうにかしないと......私が白雪さんに斬り捨てられる。彼女の目には切り捨て御免を本気でする炎が宿っているし。

私は打開策を見つける為、辺りを入念に観察する。

 

「女の子がはしたなく叫ぶものじゃないよ」

 

ハハハハと、愛想笑いを浮かべ時間を稼ぐ。

何でもいい。この状況を打開する解決策を見つけるのだ。

目だけを爬虫類の様にキョロキョロと動かして......見つけた。

 

「ところでアリア......」

 

「何よ?命乞いなら聞いてやらないわよ」

 

ゴリゴリ

私の頭に更に拳銃を突き付けるのが分かる。コレは脅しの道具じゃないんだけどなー。

 

「そのペアルックはなんだい?」

 

私は真っ赤な瞳でアリアのポケットをジッと見つめる。

そこには......謎の猫科動物こと『レオポン』のストラップが露出していた。

このぬいぐるみは微妙に大きく、ポケットに入れると外にはみ出す。

 

「本来ペアルックとは、よほど親しい友人か、あるいは......恋人同士でするもの。何で君と金次君がしてるのかな?」

 

「ペ、ペアルックうううーーー‼︎やっぱりそういう関係だったの!」

 

「あたしもキンジはそういう関係じゃないわよ!こんなヤツとなんて、1ピコグラムもそういう関係じゃない‼︎」

 

よし......白雪さんの矛先をアリアに向ける事に成功。しかし、アリアは私から拳銃を離してくれようとしない。

ていうかピコグラムって、何故そこで重量単位が出てくるの?

 

「キンジ、何とかしなさい!そうしなきゃ後悔させてやるんだから!」

 

アリアは金次君に弁明するよう命令する。

よし、このまま私への注目を金次君とアリアに向ければ全て丸く収まる。

 

「......えーっとだな。おい......まず白雪」

 

「はいっ」

 

呼ばれた白雪さんは私の首筋から日本刀を離し、金次君の方に正座した。

緋色袴が汚れちゃうよ。既にアリアとの戦闘で少しボロボロだけど。

 

「よく聞け。俺とアリア、レイの3人は武偵同士、一時的にパーティを組んでるに過ぎないんだ」

 

「......そうなの?」

 

「そうだぞ白雪。だいたい俺がこんな小学生みたいなチビと」

 

「風穴‼︎」

 

ばきゅん!

 

「......そんな仲になったりするワケがないだろう?」

 

セリフの途中でアリアが発砲するが、サーッと真っ青な顔で無視して喋る。

肝が据わってるね。それとも残弾がないと高を括っていたか。

 

「じ、じゃあ......キンちゃん」

 

おや?

金次君に従順な白雪さんが、珍しく口答えしてきた。

 

「なんだ?」

 

「キンちゃんとアリアは、そういうことはしてないのね?」

 

「そういうことって何だよ」

 

「キ、キス、とか......」

 

キス、ですか。

最大の議題が降りかかってきた。

金次君とね〜私はまだしたことないが。

 

「「......」」

 

金次君とアリアは顔を見合わせ、同時に石化してしまう。

ほら、アリア君。弁明してみろよ。三分間だけ聞いてやるからさ。

 

「......し......た......の......ね......」

 

呟いた白雪さんの瞳孔が、すーっ、と何かに覚醒したかのように開いていく。

その顔はみるみる内に表情を失い、喉の奥からは、ふふ、ふふふと虚ろな笑い声まで聞こえてきた。

ホラー映画女優賞間違いなし。私が保証しようじゃないか。

 

「そ、そーーそういうことは、したけど!」

 

ぐぐい!

アリアが寄りも上がりもしない胸を、思いきり張ってみせる。

弁明する気かい?私は味方しないからね。

 

「子 供 は で き て な か っ た か ら‼︎」

 

ぽく・ぽく・ぽく......チーン......

という、お葬式の音が聞こえた。

こ、子供って、それは反則だよ。

 

「ぎゃーーっはっはっはっはっはっはっはっははは‼︎ぎゃはははははは」

 

アリアの予想だにしない回答に、私はお腹を抱えてみっともなく笑い出してしまった。

 

「ちょっと何がおかしいのよ!」

 

「だ、だって......キスして子供って、小学生以下の性知識に思わず......ブフッ!ふはははははは!ダ、ダメだ、た、助けて金次君。ヒッヒ」

 

メチャお腹痛い。おまけに涙まで出てきた。

私は耐えらず、ベランダをゴロゴロと転げ回る。

 

「あ、アリアっ!お前なッーーなんで、子供なんだよ!」

 

「だ、だってキスしたら子供ができるって、小さい頃、お父様がーー」

 

「ギャハハハハ‼︎ブフあッ!ブハハハ、ヒィ〜ははははははは‼︎」

 

バンバンバンバン!

更なる不意打ちの一発に床を叩いて、転げ回る。

ちょっと、ちょっとホームズ家の皆さーん、お子さんにどんな教育をしてるの?

ホームズ家は、アリアは私を笑い死にさせたいのかな?

ひひひ、探偵じゃなくお笑い芸人に転職すべきだよ。笑いで世界を取れる。

 

「きゅう」

 

白雪さんの身体から、魂が抜けていった。

慌てて私は立ち上がり、彼女の肩を叩いて魂を入れ直した。

危なかった......あとコンマ一秒遅れていたら、昇天するところだったね。

 

「ほら、起きてよ白雪さん」

 

ゆらゆら

彼女の肩を揺らして意識を取り戻させる。

 

「はっ⁉︎ここは一体、私は何をやってたの?」

 

あまりのショックか、記憶が飛んでいるようだ。

これはチャンスだ。私に刃を向けた罰ーーお仕置きしてあげよう。

 

「白雪さん。気付いてるかもしれないけど、アリアと金次君はそれはそれは暑〜くて、甘〜い夜を2人きりで過ごしたんだ」

 

「おいっ!零。お前は何を言って......!」

 

「デタラメも大概にしなさいよ!あたしがこんな奴と......!」

 

2人して顔を真っ赤にしながら、テンパってる。

見ているだけで滑稽だネ〜。

 

「でも、キスしたのは本当でしょう?」

 

「そ、それは......その......切迫した状況で」

 

状況で?パワーアップするためにキスしたと?よりにもよって、このピンク頭のチビと?

遠山金次に弁論の余地なし。

 

「先にキスしたのはどっち?もしかして、アリアとか?うわー、積極的だね〜」

 

「ち、ち、違うし!あ、あたしは......こ、こいつの方から......!」

 

「じゃあ、その後で電気を消したのは?」

 

「消してねぇよ!」「消す暇なんてないわ!」

 

「ベットに連れ込んだのはどっち?」

 

「連れ込んでない!」「ベットではしてない!」

 

「先に服を脱いだのはどっち?それとも着たまま......」

 

「脱いでない!」「嘘言いなさい!あたしの下着見たクセにッ!」

 

「もういいよ!それ以上、聞きたくない‼︎」

 

白雪さんは両耳を手で塞いでその場に蹲る。

シクシク。

泣き出してしまった。あちゃー、2人がどこまでやったのか勝手に想像して耐えられなくなったようだ。

そんな彼女の側に私は据えより、ポンと優しく肩に手を添える。

 

「これだけは言える。2人は......影で君のことを笑ってるんだよ!アーッハハハハハハハハハハ!アーッハハハハハハハハハハ‼︎」

 

悪人さながらの高笑いで締める。我ながらよく笑えるものだ。

 

「あああぁぁぁぁーーッ!死んでやるうぅぅぅぅぅ‼︎」

 

カカカッ!ドボーン!

盛大に下駄を打ち鳴らし、ベランダの柵を飛び越して真下に広がる海に身投げした。

 

「あのバカ女なにやってんのよ⁉︎」

 

「あー、あー。どうしてこうなったんだろう?」

 

「お前のせいだよッ!白雪ぃぃぃぃぃ‼︎」

 

金次君はベランダの柵に足を掛けて、

ドボーン!

白雪さん救出の為、躊躇いなく海に飛び込んだ。

おお〜、水泳選手顔負けの見事な飛び込みだね。彼なら特訓すれば金メダル間違いなし!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。