日曜日ーー東京駅
時刻は午前9時30分まだ肌寒いが何とか我慢できる。
私と金次君はここで10時に待ち合わせをしている。
ただ待ち合うのもつまらないので、ちょっと意地悪しようと思う。
おそらく、金次君は約束の時間よりも15分前に来るだろう。
なので私はそれよりも30分早くここいるのだ。
彼は律儀な男子だからね。女子を待たせたと知ったらどうなるか。
「さて金次君は......」
「どんな顔して来るか?だろう」
突然背後から声をかけられた。
思わず振り返ると、
「いつからそこにいたのさ?金次君」
「お前のことだから、俺より早く来て『女子を待たせるなんて酷いぞ』とか言うつもりだったんだろう?お見通しだ」
金次君がいた。
いつの間に背後に⁉︎おまけに私の考えを読むとは!成長したね〜
「よくぞ見破ったね金田一君」
「それを言うなら明智君だろうが」
探偵科で今、流行っているギャグなんだけどなー。
金次君は笑ってくれない。
彼の服装は上は黒のシャツ、下は黒のジーパンを履いている。何だか服のセンスが父さんに似ているね。
ちなみに私の服装は白のシャツの上にフード付きの紫ジャンパー、下にはブルーのミニスカートを履いて、肩に鞄をかけている。
うん?金次君が私から急に視線を逸らしたぞ?
「どうしたの金次君?」
私が尋ねると、彼は「な、何でもねぇよ!」と少し顔を赤くした。
あっ、なるほどね〜
「私を見て興奮でもしたのかな?」
「馬鹿なこと言うな!誰がするか......!」
そう言って金次君はそっぽを向いて、ズカズカと走っていた。
ははは、どこへ行こうというのかね?
ちなみにそっちは新国立劇場とは反対ーー秋葉原方面だぞ。
駅改札口を通り、新宿線の電車に乗り込んだ。
まずは新宿駅まで行って、そこから乗り換えないと。
幸い席は空いており、ボックス席に私達は座った。
ただ駅まで到着するのも退屈なので、辺りを観察してみる。
これは探偵科で最初に教わったことで、「如何なる時も気になったものは観察してみろ」との事だ。
「なあ、零。さっきから何を見ているんだ」
「全てだよ。この電車、乗客を観察しているんだよ。あっ、もちろん金次君のこともね。私と会うまでの間、何があったか当ててみようか?」
「勘弁してくれ......」
しょぼーんと、落ち込んだね。本当に金次君は喜怒哀楽がはっきりしているよ。
「まあまあ、そんなに落ち込みなさるな若者よ」
「お前はどこの老師だ」
うん!いいツコミだね。100点、パーフェクトだ。
そんな金次君にはご褒美をあげないと、
「はい、金次君。喋っていて喉が渇いているでしょう?唇が乾燥しているのが証拠だよ」
私は鞄から缶コーヒーを出して、金次君に手渡す。
これは私がコンビニで購入しておいた物だ。
「なあ、零。これいくらだ?」
「100円だよ」
どうしてそんな事を聞くのかな?
疑問に思っていると、金次君はポケットから財布を取り出して、
「ほら、払うよ。コーヒー代」
「えっ、いいよ別に」
100円玉を私に渡してきた。
どうして?何故渡すの?わからない......
「女に奢ってもらうワケにはいかない。払うから貰ってくれ」
そういうことか......これは不意を突かれた。
本当に彼は律儀な人だなー。でもそこがいい。
「男子が女子に奢ってもらうのはダメって、決まりはないよ」
「何だか格好がつかないんだよ。女に奢ってもらったと家に知られたら俺が殴られる」
おー、鉄拳制裁ありの家なんだね。
だったら、ここは遠慮なく......
「じゃあ、これは頂くとするよ」
私は100円玉を貰った。
こういった心遣いはいいね。将来は人望ーー特に女性から多く集めそうだね。
「そういえば、まだ金次君の家の事を詳しく聞いたことがなかったね。よかったら聞かせてくれない?」
「お得意の心理学で当ててみろよ」
おや?何だか挑戦的だね〜。
よし、なら当ててあげよう。
「ただ当てるだけじゃあ面白くないからゲームをしよう」
私が提案すると、金次君は「ゲーム?」と言って、
「そう。もし私が一つでも当て間違えたら、一つだけ金次君の質問に何でも答えてあげるよ」
「いいぜ。後で後悔するなよ?」
提案に乗ってきた。
チャレンジャーだね。何だか今の彼を見ているとワクワクしてくる。
「じゃあ早速、金次君はおそらく、父方の祖父母の家でお世話になっている。お家は代々、警察か検事・弁護士などの役職に付く家柄」
律儀で義理堅いーーこれは周りの環境、家庭が彼をそういった人間とした将来だ。
お父さんとお爺ちゃんから厳しく育ててもらったかな。
「そして最後に上にお姉さんがいる」
金次君は甘えん坊な所があるからね。これは小さい頃、異性のキョウダイに可愛がってもらった証拠。
「残念だったな零。最後のはハズレだ」
何ですと⁉︎おかしいな......私の見立てでは、確かにキョウダイーーお姉さんがいる筈なんだけどな。
年はそこまで離れてはいないーー離れていても3〜4歳ほど。
「じゃあ、お兄さん?」
「あー、そうだな」
う〜ん、何か引っかかるな。
金次君の態度から嘘は言っていないが、微妙な反応をしている。
もしかして......
「お兄さんって、コッチ系?」
私が頬に手を当てると、
「頼む!兄さんの前でやらないでくれ!色々な意味でヘコむ。特に兄さんが」
どういう意味だろうか?
まあ、いつか彼にお兄さんを紹介してもらおう。その時にハッキリするだろう。
その後、東京駅から新宿線を使い、新宿駅から京王新線に乗り換え、初台駅に到着した。
駅を出れば新国立劇場はすぐ目の前だ。
零の質問は次回に持ち越しました。
金次の心理状態が聞ける状態ではないので(苦笑)