藤堂京太郎に存在する最後の記憶は、自分の体が炎に焼かれて骨だけになるシーンである。
あそこは恐らく、死体の焼却場だったのだろう。棺桶に入れられた自分は、丁寧に白装束を纏って足袋を履き、手甲を身に着け数珠を持ち、六文銭に幾つかの米と華を添えられて、大した感慨も抵抗も無く――逝った。
享年、二十三歳――病死だった。
何千度という熱に犯されたというのに、死ぬ間際は随分と安らいでいたと思う。走馬灯らしい走馬灯も見えず、面白みに欠ける最後だと自分でも思う。
人生とは呆気ないものである。
どれだけ屈強な男だろうが、頭の良い人物だろうが、金持ちだろうが、死ぬ時は死ぬ。抵抗なぞさせて貰えない――人生の最後にしては呆気なかったと落胆するべきだろうか、それとも自分は精一杯生きたと胸を張るべきなのだろうか。京太郎にはどうすべきかも分からなかった。
そして京太郎は三途の川を渡った、六文銭のプリント紙が通行証として受理された時は、死後の世界もハイテクになったものだと少しだけ驚いた。尤も、死後の世界があった事自体が驚きだが。
思考はクリアだった、自分が誰かも覚えている、どうにも魂と言う奴は存在していたらしい。京太郎は肉体を捨て、魂のみで死後の世界に存在していた。三途の川の見張り番も、周囲に存在する全ても、京太郎と同じ人間だった。あの世という奴は人間にのみ適応されるルールなのかもしれない、そう思った。
「藤堂京太郎、二十三歳、死因は病死――ふむ、何ともまぁ」
その名の通り、死者のその後を決める存在だ。自分達の言う神と言う奴に近いかもしれない、ソイツは顔が無かった、体も無かった、まるで光そのものだった。
正直直視するのも難しい、しかし声だけが聞こえて来るという。その声は威厳に満ちていて、全能を司る存在が居るとすれば、こういうものなのだろうと京太郎は漠然と理解した。この存在が「もう死ぬしかない」と言えば、京太郎は何の疑いも無く死を選ぶだろう。
それだけの威圧感――カリスマという奴を感じた。
光は唐突に京太郎の前に現れ、京太郎の人生を一通り読み終えた。
「徳と言う徳を積んだ訳でも無く、しかし悪道を成したと言う訳でもない、中道、凡庸、善悪相殺、否、それ以前の問題と言うべきか――裁くには値せず、しかし召し上げるにも少々物足りぬ、汝の道は隔世再生、もう一度チャンスを与えよう、汝は少々運が悪い、次世ではもっと頑丈な肉体を与えよう、これは前世補填である」
つまりは中途半端。
京太郎が神様とやらから告げられた総評は、何ともどっちつかずだった。
それもそうだろうと自分でも思う、何かを成す前に死んだのだ、善とか悪とか、それ以前の問題である、何せ生まれてから二十三年、その半分以上を病院のベッドの上で過ごして来たのだ。そんな状態で何を成せよう? 京太郎は少しだけ笑ってしまった。
兎にも角にも、隔世再生、という刑を与えられるらしい。
隔世とは何を指すのか、京太郎には分からない。しかし、もう一度チャンスを与えると言う言葉から存外悪い扱いでは無いと分かった。聞けば丈夫な体も与えられると言う。
「三千世界、汝の世から最も遠い場所よ、慣れるまでは辛かろうて、そうさな――一つの魂を贔屓するのも憚られる、しかし機会も無く悪道、善道決めつけるには酷だろうて、汝の些細な願い事を一つ叶えよう、あくまで――些細な――であるが」
神様は京太郎を前に、そんな事を宣った。些細な願い事を一つ叶えてみせようと、些細な事柄の基準が分からないが、それが次世における何らかのギフトの様なモノだとは分かった。
願いを叶える、それは例えば金持ちの家に生まれるとかだろうか?
京太郎が問えば、神様は首を横に振った。恵まれた環境に生れ落ちるのは、徳を積まずには成せぬ事らしい。あくまで京太郎の場合は温情処置、少々「些細な」という部分からは脱してしまうらしい。
ならば何だろうか、京太郎は考えた。
そして少し考えた後、取り敢えず損にならない事柄を選んだ。
「なら、イケメンに生んでください」
神様は快く承諾してくれた。
ヤンデレが書きたくて仕方なかったんだ。
もうこれはヤンデレ美少女と結婚するしかないね。
ヤンデレ美少女と結婚したい。
する。
した。