鎮守府は繁栄します   作:日々はじめ

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だいろくわ ごはんのあじはさいあくでした

 暗い―――。

 寒い―――。

 

 一人はいや―――。

 

 怖いよ、消えたくないよ、独りぼっちはいやだよ…。

 

 こんな寒いところで一人で居たくないよ。あの人と一緒にいたいよ。

 

 ―――、そうだ。ならコッチに来させよう。あんな屑のところではなくコッチに来たほうが絶対良いに決まってる。

 

 何よりも、ワタシがイるカラ。

 

 ダかラ、マッテてネ。

 

 「カガさン」

 

 *

 

 走る。走る。走る。

 

 私は、軋む床の音を耳に反芻させながら自分のか弱く細い足を懸命に前へ前へと動かす。

 

 「もぅ…すこ、し…ッ!」

 

 目指すべきところまではもう少しだ。

 

 自然と書類を持つ手に力が入ると同時に強い覚悟を持たなければいけないことにも気が付いた。

 

 今の時間は、夜の8時を少し過ぎた頃あいだ。この時間帯は艦娘たちの食事の時間帯になっていたはずだ。

 

 つまり、いまの食堂にはほとんどの艦娘が介していることになる。あの、人を憎む目。憐れむ目。蔑む目。様々な視線が自分の身に一日に何度も振りかかるのは精神的にもきつい。

 

 けれど、こればかりはどうしようにもない。艦隊の指揮の向上、なによりも―――。

 

 「私が、おいしいご飯を食べるためには!!」

 

 私は、勢いよく食堂の扉を開ける。

 

 私がいきなり入ってきて艦娘たちは少しの間驚くといつもの目へと遷り変わる。けれど、私はそれに何の反応を示さずにまずは自己紹介をする。なんせ、まだ私と顔を合わせていない艦娘が少なからずいるからだ。

 

 「皆さん、初めまして。今日からここで提督を務めることになった調停官事務所のものです。早速ですが、鳳翔さんはいますか?」

 

 「いきなり何しに来たの!?鳳翔さんに手を出しにでもきたの!?」

 

 またこの子ですか…。

 

 私は、少し呆れる気持ちを抑えなぜここに来たかを口にする。

 

 「瑞鶴さん。すみませんが私は今あなたとではなく鳳翔さんと話をするために来たんです。ドックの件で少しでも信用してくれたら嬉しいんですが?」

 

 「それよッ!いきなり来た人間がドックをあそこまで直すことが出来るはずないと思って話を聞いていたら妖精さんが直してくれたと言ったのよ。普通の人間が妖精さんと話しをすることができるはずないのに!!怪しさ満載の人間が来てはい信用してくださいって無理な話よ!!」

 

 それは、理論を確立し検証を繰り替えした結果でのものなんでしょうか?物事には絶対などありません。年月や時間、それらの不確定要素さえあれば物事など無限の確率を秘めているのです。そんな中世ヨーロッパのように魔女に対する強い偏見でもあるんですかねこの子は。

 

 「それは私が妖精さんとコミュニケーションを取れないという理由にはなりません。むしろ、そういう固定的概念に囚われているようじゃ戦場でも一瞬の迷いを生んでしまいます。何より、日ごろから妖精さんと関わっている貴方はもう知っているんですよね?妖精さんは概念のすぐ外側に位置するような超常的な生物だということを。」

 

 瑞鶴が何かを言い返す前に私が本来用があった人物が厨房のほうから顔を出してきた。みんなと同じくやつれた顔をしている鳳翔さんだ。

 

 ちなみに、皆さんが食べているのはご飯少量ともやしだけ。なんと質素の事か。

 

 「提督は、私に用があるんですよね?」

 

 「はい。とても大事な用です。食事費用についてなんですが」

 

 私がそう言うと室内が一層ざわつきひそひそ声が木霊し始めた。

 

 内容はというと、「これ以上費用を削つもりなのか?」「これ以上減らされたら私動けないデース…」「お姉さま、しっかりしてください!私のを分けてあげますから!!」

 

 …、薄々わかっていましたがどう考えてもプラス的な思考には壊れたメトロノームのように気持ちの幅が触れないようです。

 

 「…わかりました。では、厨房のほうへ来てください。」

 

 *

 

 ここが、厨房ですか。あまり部品が錆びてない様に見受けられるので日ごろからお手入れをなさっているんですか。

 

 「提督様、あの、その費用についてのお話でしたっけ…?」

 

 「あー、一部の方には言いましたがその『様』という敬称はやめてください。呼ぶとしたら提督か司令官でお願いします。あと、その件について話す前に一度私にご飯を作ってもらえませんか?」

 

 「では、提督。その、ご飯を作るとなればかなり質素なものしか作れませんが…。」

 

 「大丈夫です。」

 

 まずは、いつもどのような味付けでご飯を食べてどれぐらいの旨さかを判定しなきゃいけません。これで旨かったらあまり費用を増やすつもりはありません。なんせ旨い食べ物はすぐにお腹にたまるからです。まぁ、それでも今予定している金額よりも100万円は落ちるんですけどね。不味かったらやはり資産を投資し材料の確保などをしなければいけませんのでかなりの費用を充てるつもりです。

 

 お金は必要なものですからね。無駄遣いにならない様に気を付けなければいけません。

 

 「で、できました。」

 

 ふむ、やはりご飯ともやしだけですか。では、いざ実食と致しますか。

 

 「頂きます。」

 

 こっ、これは鮮度が最悪なもやしが少し匂うバターでしっかりと味付けされそれをカバーするかのように塩コショウを振りかけられている!?ご飯は少しでも量を増やすためなのか水分をたくさん含みそれの陰で膨らみ瑞々しさを感じることが出来噛むたびに水で口の中を奏でる色鮮やかな不協和音!一言で言うなら―――。

 

 とても、不味い。これは費用をたくさんつぎ込もうそうしよう。そうでなければ私の趣味であるお菓子作りにも手が入りません。妖精さんたちにも上げるためにも頑張って作らんといかんのです。

 

 「ど、どうでしたか?」

 

 「不味いです。」

 

 本音を言ったらすごい絶望感溢れる顔をされました。

 

 「お願いします!どうか費用を削減するのだけは!!」

 

 鳳翔さんや、そんな軽く土下座するものではありませんよ。

 

 「はぁ、私はいつ費用を削減するといいましたか?私はこの書類を渡しにきただけですってば。」

 

 私はそう言って艦娘に出費する食糧費用に対する書類を鳳翔さんに手渡す。

 

 恐る恐る紙に目を通すと次第に大きく目を開き始める。

 

 「こっ…これはっ!?」

 

 「おいしいご飯を楽しみにしていますねっ!」

 

 私の前で大粒涙を流す鳳翔。それほどまで辛かったのだろう。自分が作る料理を食べても不味いのはわかりきっているのだから。それに加え、日に日にやつれていく皆を見るのは精神的に追い詰められていくのだろうか。

 

 しかし、あれですね。傍から見れば私が鳳翔さんを泣かしているようにも見えますね―――あっ。

 

 「―――テメェ!鳳翔さんに何してやがる!!」

 

 一殴りで人一人殺せる拳が叫び声と共に私の背後から襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 




まさか日間ランキング(加点式・透明)で一位をもらえるとは…。

これも皆様のお陰です。本当にありがとうございます!!

ランキングで一位取れるように頑張ります!!!

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