鎮守府は繁栄します   作:日々はじめ

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 妖精さんが不在だ!


だいよんわ あいすけんでしんようはえられませんでした

『第一艦隊旗艦加賀、それに続く艦隊の旗艦が参りました。入室の許可を。』

 ―――、なんですかね。この堅苦しいものは。まぁ、やはりこればかりはしょうがありませんか。

 「はい。入っていいですよ。」

 私がそう言うと失礼しますと一拍置いて扉が開かれた。

 そこには、外で私に対し恐れをなしていた加賀に加え駆逐艦の朝潮・軽巡洋艦の神通・潜水艦の伊58が続いて入ってきた。4人とも顔に怯えを帯びてる。

 「では、早速ですが今回出撃してきた成果と遠征において得られた資源量の報告をお願いします。」

 「はい。では、まず出撃ですが―――。」

 そこから、加賀の戦果報告と朝潮たちにおける遠征についての結果概要について説明を受ける。

 ふむ。上々ですね。練度も申し分ない…。しかし、先ほどから皆さんの顔が浮かばれてないですね。え、いつもならこの後暴力を受けていたって本当ですか?というか、何故それを助手さんが知っているんですか。大淀さんから聞いた?助手さんは私と違ってもう仲良くなっているらしいです、はい。ですが、そういうことでしたらアレを握らせるとしましょう。

 私は、執務室の机の中からある紙切れを今いる旗艦の方々と同じ枚数分手に握り歩を進める。

 「ひっ!」

 「ちょ!そんなに驚かないでくださいって!別に何もしませんから!!」

 近づくだけで朝潮が怯え、それを守るかのようにほかの3人が前に立つ。んー、暴力を振るわれると思ったんですね。

 「えー、皆さん。提督として私から重大なお知らせがあります。この券を皆さんに差し上げます。」

 「こっ、これは!間宮のアイス券でちか!?」

 物品的感情操作。

 「はい、皆様は旗艦という重大な役目を負っていたのですからそれ相応の報酬を受けるのは当たり前のことです。」

 「提督…」

 印象操作。

 「しかし!これをほかの方々に知られてしまうとその券は足りなくなってしまいます!そうなってしまいますと皆様に不本意ながらも罰を与えてしまわなければいけません。なので、誰にも言わずにそれを食べて休息してください。」

 「てっ、提督!―――その、ありがとう、ございます…!」

 脅迫的情報操作。我ながら完璧なものですね、これで信頼を得ることが

 「…一体、あなたは何を考えているんですかッ!」

 ―――出来そうにありません。

 叫んだ加賀の目に何が映っているのか私にはわからない。

 *

 憂鬱だ。

 なぜ生きているのか…。いや生かされているといっていい。私は、ただ提督の性欲をぶちまけるただの兵器だ。しかし、突如としてソレは起こった。前提督の肥えた体は重度の糖尿病を患わせるものとして十分なもので合ったのだ。

 糖尿病とは、体内の血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)値が通常の値よりも高いと起こる病気だ。前提督は2型糖尿病というものを患っていた。それは、すい臓のランゲルハンス島B細胞から分泌されるホルモンであるインスリン濃度に対し影響を与える。軽度であればすぐに治療に取り掛かればなんとかなったがもう取り返しのつかないところまで来ていたのだ。重度の糖尿病の場合、糖尿病的昏睡に陥ることがある。それは、意識障害や四肢の痺れを起こし命にかかわるものであった。勿論、前提督はそれに掛かり命を落としました。

 誰も悲しまなかった。当たり前だ。むしろ、喜んでいる者たちが多くいた。私もその一人だ。しかし、一か月立つとある情報が耳に入ってきた。新しい提督が着任するというものだ。最初は皆悪夢の再来だと絶望した。

 そして、その提督の着任日。

 「皆、辛かったね…。けど、大丈夫!僕が来たからには安心して!」

 なんと爽やかな笑顔で皆に挨拶してきた提督は一人一人にカウンセリングを自ら行い士気の向上に努めたのだ。それに加え、有能な戦術指揮も持ち合わせていた。そこからは早かった。数か月で皆の信頼を勝ち取り慕われるようになった。

 私もその時充実した時を過ごしていたと思う。けれど、提督はそこから堕ちた。何があったのか私にはわからないが日々堕落した生活を送り始めたのだ。艦娘に対しても暴力を振るい始め、様付の強要など。手に上げれば両手の指じゃ足りないほどの横暴を繰り返した。

 そこで、私たちは現実を再確認したのだ。

 ―――あぁ、提督というのは私たちをただのモノでしか見ていないものだったんだな、と。

 

 その提督が今の地位を追われてからは鎮守府の仕事は大淀がやってくれたが日に日にやつれていくばかりであった。どうにかしてあげたい、けれどどうにもならない。その形容しがたい痒さは全員の艦娘へと伝染していった。

 

 そして、3人目の提督の着任を聞いたとき私は抗おうと思った。

 

 どんなことがあろうとも私だけを差し出して皆を守ろうと思っていたのに…。

 

 「…、貴方は?」

 

 なぜか帰投するとそこにはピンク色の長い髪を携えた女性がいたので声を掛けてみた。そうしたらその人は自分が提督だといった。ドックは直しておいたと言ったのだ。そこで、抗おうと思っていた自分は砕け散った。自分が思うよりも提督に対しての恐れが上回ったのだ。なんと、情けない。

 

 瑞鶴は、提督に反抗した。私と違ってあの子は改めて強いと感じた。しかし、抗ったのだからそれ相応の罰が下るかと思ったが特に何も御咎めは無しと来た。

 

 私たちは、ドックが修復されたのを確認するためやってきた。嘘だと思いつつもやはりお風呂に入れる可能性が少しでもあるとなればそれなりに気分が高揚します。

 

 しかし、そこで私たちの目は疑いという疑惑から困惑に変化した。

 

 見た目以上に広い空間。お湯は高速修復材。アトラクションもたくさんありお風呂に入るだけなのに楽しめる一種の遊園地みたいなものとなっていた。駆逐艦の子たちは一瞬驚いただけでそのあとは燥ぎ回った。

 

 そして、傷を癒した旗艦の私たちは提督室へと向かった。その間会話は一切なし。

 

 提督室へと入ると戦果報告などをした後、提督が立ち上がった。

 

 くッ!せめて朝潮だけでも守らないと!!

 

 私の考えはほかの子たちと同じだったらしく朝潮の前に立ちはだかると提督は慌てた。

 

 何もしない?嘘ほど醜いものはない。どうせこの後豹変して私たちをモノとして扱うに決まっている。

 

 そう思っていたが私たちに何故かあの有名な間宮のアイス券を渡してきた。それ相応の報酬が必要だと言っていたが…。本当に何を考えているかわからない。わからない。苦しい。辛い。消えたい。消したい。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い――――――――

 

 

 

 

 

 気づいたら私は叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 


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