「なぁー、提督」
それは懐かしい記憶。
「なんじゃ?」
白髪の初代提督は首をかしげる。
「いんや、やっぱりなんでもねぇ」
「ふっ、おかしなやつだ」
そのやり取りがとても嬉しかった。彼についていけばもっと自分は強くなれる。
そう思わされた。
類いまれた采配、人を超越した頭脳、人格。
何をとっても彼はこの世においてずば抜けている。
時には悩み。
時には怒り。
時には喜ぶ。
そんな彼は仕事中飾っている写真盾をよく見て懐かしむ顔をした。
「誰だ、そのガキ」
見た感じまだ幼さはある。
けれど、秘めたる可能性に天龍はすぐに気がついた。
「こいつはわしの孫じゃ。まぁ、わしに全然にておらんが……」
「なんだよそれ」
天龍は困りながらも笑う。
しかし、孫か。確かに提督はそういう御年頃なのだろう。
不意に、『別れ』という言葉が頭をよぎった。
提督とて人間だ。死ぬはずだ。だからこそ目尻に涙が溜まっていることに気が付いたのは指摘されたときだった。
「どうした、天龍」
「いや、なんでもねぇよ……。提督はずっと一緒にいてくれるか?」
答えづらい質問。
しかし、提督はその質問を即座に切り捨てた。
「つまらないことをいう。ーーーーすぐに別れは来る。これは予感ではなく確信だ。だから、お前ら。この鎮守府を頼むぞ」
彼の頼みに4隻の艦娘は静かに頷いた。
「任せろ!この天龍様が守ってやるよ!!!!」
数日後行われた大規模作戦。
そのとき一つだけ大きな被害があった鎮守府があった。しかし、艦娘は全員避難をしなんとか無事にすんだが。
提督だけはずっと鎮守府から出ようとしなかった。
真意は不明。襲撃を受けたラバウル鎮守府には遺体の欠片すらも残っていなかった。
あとを任された4隻がその状況を目にし叫んだ。
もうあの笑顔。
あの怒り顔。
少し困った顔。
それらをもう目にすることができないことに。
時は流れた。
そこから技術の進歩、艦娘の地位。などなど様々な変化があった。
また、新しい提督か……。
幾度となく繰り返されてきた提督の着任。
荒んでしまった天龍の心はその姿を見たとき、
彼と重なって見えた。
違うとわかっていても心が平穏を取り戻してくれない。
わかっていると割りきって、『彼女』を見る。
すると、一人の艦娘が危機に瀕している。
気付けば天龍は殴りかかっていた。頼まれた。だから。
彼女たちを、この鎮守府を守らなければいけないと。
結局は不発に終わった。が、しかし収穫はあった。
やっぱりだ。彼女は見たことがある。そうか、これも運命か。
写真に写っていた